13話 救出へ
13話 救出へ
陽一の体の光が消えた後に残された洋子たちが目を開けると、そこに思いもよらない光景があった。一人だけこの空間から脱出出来たと思われた陽一の体が白い壁に貼り付けになっている。それを見た洋子たちは何が起こったのか理解できず狼狽していたが、ようやく事態が飲み込め理解する。
「一番最初に壁を抜けた者が出られるわけじゃないんだ 」
「一番可愛い人間が出られるんだわ そうに決まってる 」
洋子が、二人の冷たい視線に気付かずに壁に触れようとした時に、ぬぅっと”瀬戸大将”が現れ刀を抜く。
「ひぃぃっ 」
洋子たちは悲鳴を上げ枯れ草の中に飛び込んだ。”瀬戸大将”は壁に貼り付けにされた陽一目掛けて刀を振る。陽一の手足が次々に切断され、地面に無惨に転がる。
「あがぁぁ!! 助けてくれ 」
陽一が涙を流して助けを乞うが、”瀬戸大将”は刀を一閃し陽一の首をはねた。そして、枯れ草に隠れた洋子たちに向かって歩いてくると、次々に刀を振り下ろされ、洋子たちがバラバラに切断され殺されるのに、それほどの時間はかからなかった。
「気配が無くなったけど、もう大丈夫かな 」
「念のため後、1分くらいこのままでいよう 」
時間を見計らい子供たちは、そろそろと枯れ草の中から姿を出し、周囲を見回すと大人の男女が倒れていた。怪我はないように見えるが呼吸が止まっている。
「何があったんだろう? 俺たち本当に見なくて良かったのか? 」
「うん、見たら多分僕たちも殺されてた 」
「どういう事、トシユキ 」
「この青姫さんのサイトに掲載されているんだよね 絶対に防げない妖怪の攻撃に精神攻撃ってのがあるらしくて多分見てしまったらダメなんだ 」
「えっじゃあこの人たち、それで殺られたの 」
「うん、怪我してるみたいに見えないから多分ね 後、他に考えられるのは毒の霧みたいな攻撃かな でも、毒の霧だったら僕たちも死んでるだろうから 」
「この人たち、ここから出ようとして殺されたんだよね じゃあこれは罠なのかな? 」
「ここで出られるのはって書いてあるけど、この壁からとは書いてないからね よし、ここでまた真言を流してみよう 」
トシユキはスマートフォンを操作して保存してある真言を再生する。すると、発光する白い壁から煙がたち始め、バリバリとひびが入った。
「おおーん 」
そして、何やら呻き声が聞こえたかと思うと壁が崩れていき、子供たちが見ているうちに砂となり吹き飛んでいった。
「おい、トシユキ トシユキの体、変だぞ 」
トミジが叫んだ。トシユキの体が透明になり足元から消え始めていた。
「そうか、壁を壊した一人が帰れるんだ トシユキ、頼むぞ 」
「分かった すぐに青姫さんに連絡して助けに来るから…… 」
トシユキが答えてる途中で、トシユキの体は完全に消えてしまっていた。
* * *
八千穂と柚月が家屋内を探索していると、突然目の前の空間が歪み一人の男の子が現れた。八千穂たちは咄嗟に戦闘態勢をとるが男の子は、よろよろと歩くとバタッと倒れてしまった。
「大丈夫か? 」
柚月が駆け寄って男の子を助け起こすと、男の子の握っているスマートフォンの画面が目に入った。
「これは…… 八千穂、急いで弥生さんを呼んできてくれ 」
うんと頷いた八千穂は風のように飛び出し、すぐに弥生たちを連れて戻ってくる。
「これは、先輩…… 」
男の子のスマートフォンを見た弥生は、画面に釘付けになっていた。スマートフォンの画面には、卯月の写真が映っている。弥生は男の子に気付け薬を飲ませると、男の子はうーんと気が付いた。
「大丈夫ですか? 」
男の子は弥生たちの姿を確認し、自分が異界から抜け出せた事を認識する。
「僕はトシユキ 信じられないかも知れないけど、友達が変な世界にいるんです、この青姫という人に連絡してくれませんか、この人ならきっと友達を助けられるんです お願いします 信じて下さい 」
トシユキは早口で弥生に言い頭を下げる。
「大丈夫、信じますよ 私が青姫です 」
「えっ、でも顔が…… 」
「この写真の青姫は私の師匠にあたる方です 私も同じ青姫です それにここにいるみんなは、私と同じ力を持つ仲間ですから安心してくださいね 」
トシユキが良かったと胸を撫で下ろした時、柚希がOKという顔をする。柚希と八千穂は男の子が現れた時、咄嗟に呪符を使い空間が閉じないように確保していた。
「この裂け目を使えば異界に行けるよ 帰ってくるときはまた出口を見つけないとダメだけどね 」
「それでは、すぐ行きましょう 子供たちが心配です 」
「澪さんたちはどうします? 」
「澪さんたちはもう四季の力がありませんから私たちだけで行きましょう トシユキくん、2階に私たちの仲間がいますから、そこで待っていて下さいね お友達は必ず連れて戻りますから 」
「少年、もうこの家屋には変なモノはいない筈だ すまないが一人で2階まで行けるな 一応この呪符を1枚渡しておく もし何かあったらそれを投げつけろ 何もなかったらそれを2階の仲間に渡してくれ 」
刹那はトシユキに呪符を渡し空間の裂け目に歩いていった。それに、八千穂と柚希も続く。弥生が最後にトシユキに手を振り空間の裂け目に入っていった。
「お姉さんたちも気を付けて…… 」
トシユキは弥生たちが空間の裂け目に消えると、急いで2階に向かって駆け出した。
* * *
異界に残されたトミジたちは枯れ草の中に身を潜め息を潜めて隠れていたが、遠くに何やら灯りが見え、それがユラユラと近付いてくる。
「ひ、人魂? 」
ヒロシが悲鳴を上げるが、シゲルが落ちていた木の棒を持ち迫ってくる人魂を迎え撃つ。
「トシユキが助けを呼んでくれるまで俺が二人を守るんだ 」
シゲルは木の棒を振り回し、人魂を近付けさせないよう奮闘するが、人魂の数はどんどん増えていく。そして、ガシャガシャと何かが歩いてくる音が聞こえた。それは、刀を持った”瀬戸大将”だった。