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移ろう季節に想いを馳せる君 (BI Second)  作者: とらすけ
第三部 冷たい風が吹く黎明に
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54話 神に弓引く者

菅原道真と対面する弥生と橋姫。

四鬼と鬼の軍団と戦う刹那たち。

終わりに向かって進んでいく二人の運命は……。



54話 神に弓引く者



 弥生と橋姫は、菅原道真と対峙していた。菅原道真は二人から人間界への進軍を遅らせてくれと迫られ顔をしかめていた。


「確かに私は、あるお方の指示で人間を滅ぼそうとしている そのお方の言う事は絶対だ 私には逆らう事が出来なかった 」


「ええ、わかっております道真公 神の言う事に逆らう事は出来ないでしょう ですが、私たちは本当に滅ぼされるべきなのでしょうか 確かに眉をひそめるような方もいます しかし、大多数の人たちは他人を思いやり、弱いものを助け、力を合わせる事で平和に生きています もちろん、人間同士の戦争や異界の妖怪たちとの争いもあります ですが、それをなくしていくことは出来ると思います この世界毎滅ぼされる事に私は納得出来ません 」


「私も納得しているわけではない しかし、神が決めた事である それは絶対の決定事項であるのではないか 私たちが異を唱えて良いものではない 」


「神は絶対…… 私はそうは思いません 私は人間です ですから人間の幸せを考えます たとえ神とはいえ人間を害そうとするならば、力の限り抗っていきます 」


 弥生の言葉に菅原道真は言葉を失っていた。菅原道真自身も弥生と同じ思いであるのは間違いない。しかし、神に逆らう事は出来ない。


「道真、別に神に逆らえと言っているのではない ほんの少し、人間界への進軍を遅らせてくれれば良いのだ 妖怪のほぼ大多数は弥生の考えに従うだろう 鬼には私が号令する 残った妖怪に道真の言葉を伝えれば良いのだ 造作もないだろう 」


 橋姫の言葉に菅原道真も渋々頷いた。


「……分かった 神には少し進軍が遅れる旨伝えよう しかし、どの程度遅らせれば良いのだ 期限が分からなければな それに期限を過ぎれば結局人間は滅ぼされる事になるぞ 」


 菅原道真の言う事ももっともだった。しかし、弥生は迷いなく真っ直ぐに菅原道真を見つめて答えた。


「私が、神を倒すまで 」


「神を倒す…… そんな事は不可能だ その十鬼神が力を貸したとしても無理だ もちろん、私の力をあてにしても無駄だ 神の力は絶大なのだから 」


「道真公、あなたや、この橋姫さんには迷惑をかけませんよ 私が一人で戦います 」


「馬鹿な、人間などいくら攻撃しても、米粒が一つ当たったくらいにしか神は感じないわ 」


 菅原道真は弥生の顔を呆れて見ていたが、弥生の顔は慌てることなく落ち着いている。


「なあ、道真 今のこの状態をよく考えてみよ 十鬼神である私と、三大怨霊といわれる道真、それを前にして一人の人間が臆することなく対峙している それだけでも有り得ない事だとは思わないか 」


 弥生は微笑みながら菅原道真に頭を下げる。


「私を信じてくれとは言えませんが、進軍を遅らせる件、よろしくお願いいたします 」


 菅原道真は、目の前の日本人形のような髪に着物を着た小柄な人間の女性の姿に目を奪われていた。気のせいか、この目の前の人間も神のように見えてきたのだ。


・・・何が起ころうとしている この先はいったいどうなっていくのだ ・・・


 菅原道真でさえも、この先の未来がどうなっていくのか想像出来なかった。ただ、滅びしか見えなかった未来に、それ以外の可能性も浮かんできた事は彼にとっても吉兆であった。



 * * *



 怨形鬼は、玄姫・柚希とクロの助力によって倒されていた。


「自分の気配、存在を隠す鬼ね 確かに類い稀な能力だけど、存在を悟られたら終わりだよね クロを甘くみたのが敗因だね 同じ相手に二度使える能力ではない事に気付かないとは私よりお馬鹿だったのかな 」


柚希は、クロの頭を撫でながら刹那と雛子に目を向ける。金鬼と対峙している刹那、水鬼と対峙している雛子、どちらも問題無さそうに見えた。


「クロ、山仲さんたちを鬼から守るよ 」


 柚希とクロは鬼の大群に包囲されている瑞穂たちに向かって走り出す。


「お帰り、柚希 この大群、さすがに厄介です 柚希とクロが来てくれて助かります 」


 八千穂がビー玉を射ち出しながら礼を言う。


「私とクロがくればもう大丈夫だよ 」


 柚希は自信たっぷりに言うが、それでもやはり数の多さというのは脅威である。柚希の手足が白く輝き八面六臂の活躍をするが、それでも柚希が倒す数よりも、増援で増えてくる鬼の数の方が多い。クロも八千穂も明日菜も、そして、坂本と良美も電磁銃で応戦しているが、鬼の包囲はどんどん狭まってくる。


「くそっ、浅野くん 絶対に市民を守るぞ それが僕たちの仕事だ 」


「当たり前ですよ、坂本さん でも坂本さんは足が悪いですから無理しないで下さいね 私は以前百地さんに助けられた恩があるので、今度こそ踏ん張ります 」


 坂本と良美は電磁銃を射ち続けながら鬼の大群をなんとか抑えていた。


「これ、私たち 完全に足手まといね 」


 奮闘する八千穂たちを見て瑞穂が自嘲気味に言うと、潤子も観念したように呟く。


「確かにそうね いっそ自決しちゃう そうすれば他の人たちは逃げられると思うよ 」


「いや、待って 自決は早いよ 僕にはあれがある だけど、それが入っているバックは…… 」


 英弥は儀式を行うためスマートフォンをバックに入れて置いていた。


「そうか、西園寺さんの真言か 英弥は西園寺さんの真言をスマホに録音してあるんだ あの雪の中でも妖怪を倒した西園寺さんの真言なら 」


 兼光も、これならいけると小躍りしていたが、その英弥のスマートフォンの入ったバックは迫りくる鬼の足元だ。


「そこの木の枝を使って取れば 」


 瑞穂が落ちている木の枝でバックをこちらに引き摺ってみればと提案するが、英弥が却下する。


「ダメだよ そんな事をすれば何か大事な物が入っていると鬼に気付かれてしまう 」


「よし、任せろ 俺が取ってくる 」


 兼光が両手を地面につき腰を上げ、陸上のクラウチングスタートのような姿勢をとる。


「ちょっと、吉田くん無茶止めなよ 」


 瑞穂と潤子が声を揃えるが、兼光はダッシュで飛び出していた。そして、鬼の腕を掻い潜り英弥のバックを掴み引き返す為地面を蹴った。


「やった、頑張れ兼光っ 」


 英弥が声援を送り、瑞穂と潤子がハラハラして見ていると、兼光はバックを持ったまま上手く駆け戻ってくる。あと半分……。そこまで来れば坂本と良美の防御エリア内だ。三人は祈るような気持ちだったが一体の鬼が持っていた棍棒を投げてきた。それは走っている兼光の足に命中する。


「うわっ 」


 兼光はバックを持ったまま地面に転がっていた。そこへ兼光の持っているバックに何かあると察した鬼の群れが殺到してきた。兼光は足を痛めたのか動けずにいる。


「兼光っ 」


 英弥が飛び出そうとしたが、それより早く坂本と良美が飛び出していた。


「坂本さん、銃をっ 」


 良美は坂本から電磁銃を受けとると両手で銃を構え、迫る鬼に向かって弾幕を張る。足が悪いとはいえ良美よりも力のある坂本が兼光を引き摺って。坂本と良美の抜けた防御の穴はクロがカバーしていた。良美も二丁拳銃で果敢に応戦しているが、増え続ける鬼の群れに飲み込まれそうであった。


「浅野くん、早く戻って来いっ 」


 坂本が怒鳴るが、良美はあまりの敵の多さに動けずにいた。少しでも攻撃の手を緩めれば、忽ち鬼の群れに潰されるだろう。良美の窮地を見て、クロが駆けつけようとするが、クロも敵の数の多さに動けずにいた。


・・・いけないっ、もう飲み込まれるっ ・・・


 必死に電磁銃で応戦する良美だったが、もう鬼は目の前に迫っていた。そして、鬼の腕が良美の頭を狙ってのびてくる。良美には自分に迫ってくる鬼の手がまるでスローモーションのように見えていた。


・・・ごめんなさい、私はここまでのようです ・・・


 もはや逃げる事も叶わず良美は覚悟を決めた。良美は振り返ると坂本に向かって思い切り持っている電磁銃を投げた。銃がなければ坂本も危ういだろう。もう自分が持っていても仕方がない。良美は最後に坂本に向かってにっこりと笑みを贈った。その良美の頭が背後から鬼の大きな手で鷲掴みにされた。そして、そのまま持ち上げられる。


「あぎぃぃぃーーーっ 」


 頭からぶら下げられて絶叫する良美の体が哀れにもぶらぶらと揺れている。


「浅野くーんっ 」


 坂本の悲痛な声が響いていた。



絶体絶命の窮地に陥った良美。

自分の最後を覚悟した良美は坂本に笑いかけた。これから後の事を坂本に託すという意味を込めて……。


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