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移ろう季節に想いを馳せる君 (BI Second)  作者: とらすけ
第一部 夜の帳が下りる刻
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10話 解明


10話 解明



 暗闇の異界から生還した澪たちは冷たい風が吹く池の(ほとり)に立っていた。


「ここは? 」


 澪が辺りを見回して尋ねる。


「ここは住宅街の外れにある調整池みたいだよ 」


 タダユキが寒そうに肩をすくめながら答えた。静かに波立つ暗い水面の上を渡ってくる冷たい風がタダユキたちの体に突き刺さる。冷たい地面に横たわる弥生と刹那はピクリとも動かなかった。


「弥生ちゃんたち大丈夫なのかな、澪? 」


「大丈夫と言えば大丈夫だけど…… 」


「ふんふん でも、このままでは死んでしまいますね 」


「どういうことなんですか 怪我をしているようにも見えないけど 」


「ふんふん 今、この二人は精神的な死の状態にあるんです この二人は精神に攻撃を受け自分が死んだと思い込んでしまっているのです このまま放置すれば肉体も死んでしまうでしょう 」


「だったら、すぐ起こしてあげないと 」


「そう簡単にはいかないんだよ、タダユキ でも、その為に二人を呼んであるからな 栞、早く二人をここへ 」


「ふんふん それが、どうやらあの二人 あの家の中に入ってしまったようで連絡がつかないんですよ 」


「あの馬鹿ども きっちり説教してやる 」


 澪はダンダンと足踏みし、地面に怒りをぶつけている。


「でも、体が何ともないなら安全な場所に運んでゆっくり起こしてあげれば良いんじゃない 」


「ダメだよ、タダユキ 人間の体は不思議なもので自分が死んだと思ってしまうと本当に死んでしまうんだ テレビの放送で言っていた恐ろしい実験があるんだ 一人の人間を目隠しして拘束する そして、その人間を傷付けて出血させる 自分の血がポタポタと垂れる音を聞いているうちに出血多量で死亡してしまうんだ この実験の恐ろしいところは、この人間に本当は傷をつけていないんだよ 傷をつけたような痛みを与えて、あとは水滴を垂らして自分の血が落ちてるように感じさせるんだ それでも、この人間は自分の血がどんどん抜けていく恐怖で死んでしまったんだよ 」


「そ、そんな事あり得ないでしょ 」


 タダユキは澪の説明に背筋が凍りついた。


「ふんふん 病は気からという言葉もあるでしょう 気の持ちようで病が快復したり悪化したりもしますよね 」


「そういえば卯月さんも、同じような事を言っていた気がします だったら早く二人を起こさないと 」


「二人も普通に精神攻撃をかけられたなら耐える事が出来る精神力を持っているさ 私や卯月の厳しい修行を乗り越えてきたんだからね でも驚愕催眠 脳の隙をつかれてしまったんだと思うよ 」


「脳の隙? 」


「ふんふん 脳は驚いた時にほんの僅かな時間、α(アルファ)波にぶれるんです その瞬間に二人は精神攻撃を仕掛けられてしまったんですよ 」


「だったら、あの家に入ってしまったという二人も助けに行かないと 」


「いや ある意味あいつらは心配いらない まだまだヒヨッ子だけど、あいつらに驚愕催眠なんて効かないわ それが効かなければそれほど強い妖怪とは思えないからね 大丈夫だろう それより、早くしないと刹那と弥生の方が心配だよ 」


 澪は栞と顔を見合わせると苦笑いした。


「ふんふん 帰って来たらお仕置き確定ですね 」


 栞が、グッと右拳を握りしめた時空間が弾け、そこから八千穂と柚希の姿が現れた。八千穂は、拳を握りしめている栞を目を丸くして見つめるとガクガクと震えながら「ごめんなさい」と大きく頭を下げる。柚希も澪にジロッと睨まれ顔面蒼白になっていた。


「まあ、説教は後だ 白姫と玄姫、同じ四季の魂核を持つお前たちならこの二人を目覚めさせられる 早く起こしてやってくれ 」


 八千穂と柚希は、横たわっている弥生と刹那を見つめる。


「こんなの蹴りでも入れれば起きるんじゃないですか? 」


「馬鹿なの、柚希 精神攻撃でやられているんだから、そんな物理的な事では起きませんよ 」


 八千穂に馬鹿呼ばわりされた柚希は弥生と刹那の前に屈みこむと二人の胸ぐらを掴んだ。


「まったく情けないね あんな弱い妖怪にやられるとは青姫と朱姫が聞いて呆れるわ 恥ずかし過ぎるよ やだやだ 」


「ちょ、ちょっと何て事言うんですか、柚希 一番年下のあなたが 」


「はあーん 八千穂 年なんて関係ないよ、弱いコイツらがいけないんだ もう早く次の人選を始めた方が良いんじゃないか 」


 柚希が小馬鹿にした笑いを浮かべた時、胸ぐらを掴んでいる柚希の腕を弥生と刹那の手が掴んでいた。


「まったく、その通りですね 」


「ああ、ほんと耳が痛いわ 」


 弥生と刹那が起き上がり柚希を睨み付ける。柚希は口をパクパク動かしていたが、涙を流すと弥生と刹那に抱きついた。


「なんだよ、気が付いてたなら早く起きてよ 」


 泣きながら二人を固く抱き締める柚希を、八千穂は呆れたように見つめていた。


「まったく、どれだけツンデレなんですか 」


 そう言いながら八千穂の目からも涙が零れていた。


 その時、一陣の冷たい風が池の中心から吹いてきた。全員が思わず池を見ると、池の中心の水の上に立つ人影が見える。そして、その人影がタダユキたちの方へ水の上を歩いて近付いて来た。近付くにつれ、それは着物を着た女性のようだと確認出来、澪、栞、タダユキの顔が強張っていく。


「刹那、弥生、八千穂、柚希 それにタダユキも早く逃げろっ!! 」


 澪が叫び、栞が戦闘態勢をとる。


「ご無沙汰しております 皆さん 」


 女性は、澪の前で口が裂け大きく笑う。


「玉藻の前、貴様 まだ生きていたのか 」


 拳を固めたタダユキが澪の前に飛び出し、玉藻の前に殴りかかろうとするが、澪と栞に押さえ付けられた。


「ふふふ カモノタダユキ もうお前には用はありませんよ 」


 玉藻の前は余裕の表情で澪たちを小馬鹿にしたように鼻で笑った。




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