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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第99話 転生未遂未遂

 【main view 春海鈴菜】



 弓さんのことが嫌いだった。

 この男もナズナちゃんに色目を使う猿男の一人としか見ていなかった。

 だからいつものように私が陰ながら制裁を加えてナズナちゃんから遠ざける。

 大抵の男は私の存在に嫌気をさして私達姉妹から離れていってくれるのだけど……


 弓さんだけは違った。


 いくら突き放しても、いくら罵倒してもこの人は私から離れていこうとしない。

 そう——『私から』離れようとしないのだ。

 ナズナちゃんにはコンタクトを取ろうともしてしないみたい。

 ナズナちゃんに興味がないのであれば私もこの男に構う必要なんてない。

 ……ないのだけど、気が付くと私はいつも弓さんに罵倒メッセージを送っていた。


 どんなに罵っても弓さんは基本なんでも許してくれる。

 どんなに罵倒しても次の日には普通にメッセージを返してくれる。

 優しい弓さん。

 その優しさは私に向けられたもの。

 この関係であり続ける限り、私だけがそんな弓さんの優しさを感じ得ることができるのだ。


 ——そんな風に勘違いしていた自分が今はただ腹立たしい。







「(弓さん! 弓さん! お願い! はやまらないで……!)」


 今朝、ナズナちゃん充てに弓さんからメッセージが届いたらしい。

 私はそのことに心底驚いていた。


 ナズナちゃんのことは興味なかったんじゃないの?

 メッセージを送り合うのは私だけの特権じゃなかったの?

 醜い嫉妬の感情。

 ……いや、今の私には嫉妬なんてする資格ないんだ。

 私はやり過ぎてしまったのだから。


「(謝るから……土下座するから……! 私に謝らせてよ……弓さん!)」


 ナズナちゃんに届いた弓さんのメッセージを見て驚いた。


 ——『もし僕が追い詰められて死んでしまっても気にしないくらいで居てほしいな』


 やっぱり弓さんは追い詰められていた。

 私が行ってしまった最大の愚行のせいだ。

 ネットに悪評を広める、という許されざる行為。


 昨日、私は初めて弓さんに怒りをぶつけられた。

 何をやっても怒らない人だと勘違いしていた私は初めて自分のやったことに後悔した。

 最終的には許してくれはしたけど、きっと弓さんは心の奥底では傷ついたままだったんだ。

 全部……弓さんの優しさに甘えて愚行を行った最低女(わたし)のせい!


「——居た! 弓くんが居ました! あそこです!」


 私の後ろ付いてきていた雨宮さんがそう言っていた。

 弓さん!

 弓さんは橋の中央辺りで手すりに両肘を乗せながら川の水をジッと眺めていた。


「キュウちゃん!」


「弓くん!」


 彼の友達が必死に声を上げて弓さんを呼びかけている。

 その声に気づいた弓さんは目を見開きながら驚いた様子を見せていた。


「み、みんな!? ど、どうしたの? 揃ってこんなところに」


「それはこちらのセリフです! 待っていてください! 今そちらに——」


「こ、こないで!」


「「「…………!!」」」


 両手を前に出しながら私達が近づくことを拒絶する弓さん。

 全員の足が止まった。


 ——私を除いて。


「弓さああああああああああああん!!!」


 私は加速度を上げて弓さん目掛けて真っすぐ突き進んだ。

 手を広げて弓さんの腰に手を回す。

 勢い余って川に落ちてしまわないように、私は地面に彼の身体を押し付けて、私は彼の身体に覆いかぶさった。


「うわあああああああん! 弓さん! ごめんなさい弓さん! わあああああああん!!」


「す、鈴菜さん!? ま、まって、あまり身体をくっつけないで!? 今、僕——」


 弓さんが私と重なった身体を剝がそうとしてくるが、両足を絡めて彼を動けなくさせる。

 そのまま弓さんの胸の中で私は大泣きをした。


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさぁぁぁい!」


「え、えーっと……」


 困惑した弓さんは仰向けの状態のまま私に胸を貸し続けてくれる。

 私が泣き止むまで弓さんはずっと胸を貸し続けてくれていた。








「キュウちゃん!!」


 ショートヘアの女の子が弓さんの左手にしがみついてきた。私も絶賛抱き着き中だからちょっと狭い。


「自殺なんて何考えてるの!? そんなに傷ついていたんなら……親友の私には全部打ち明けてよ!」


「じ、自殺!? なんのこと!?」


 ……へっ?


「ゆ、弓くんが、自殺をするんじゃないかと、思って、みんな、心配で……グスッ!」


 弓さんの顔を覆い尽くすように雨宮さんも抱き着いてきた。

 3人に抱き着かれ弓さんはちょっと苦しそうにしている。


「な、なんでそんなことになっているのか全然わからないんだけど……僕は自殺なんて考えていないよ?」


「「「「「…………えっ?」」」」」


「今も日課のランニングをしていただけだし」


「「「「「…………あれ?」」」」」


 僕の一言に全員の目が丸くなった。


「……そういえば弓さん……ちょっと汗臭いかも」


 泣き止んだ後、ちょっと冷静になった私は率直に今感じたことを申し上げた。


「そりゃあランニングの途中だったからね!? 汗くさいから『来ないで』って言ったんだよ!」


 そういえば弓さん、Tシャツにジャージ姿というランニングスタイルの格好をしている。

 ……自殺志願者としてはやけにスポーティな恰好だった。


「と、とりあえず皆離れてくれないかな? 3人の女の子に抱き着かれているこの状況こそ昇天されそうな感じなんだけど」


「「「…………」」」


 私、雨宮さん、ショートヘアの女の子は顔を見合わせる。

 無言に見つめ合った末、全員の意が伝わり合う。

 そして——


 ぎゅむ~!


 全員で弓さんを再び押しつぶした。


「なんで余計に引っ付いてくるの!? 僕汗臭いんだから離れてってば~!」


 ひとまず弓さんが無事で安心した。

 安心したら余計彼の体温を感じ続けていたくなり、弓さんはしばらく3人の女の子にもみくちゃにされるのであった。


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