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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第97話  転生未遂は飛び火する

 なずな:

『突然のチャット失礼致します。

 今までのこと本当にごめんなさい。全部私が悪かったのだと深く反省しています。

 明日、改めて謝罪に伺わせてください。

 願わくば以前のように仲良くしてもらえると嬉しいです』



 寝る前、何となく例のアプリを開いたら3件もメッセージ届いていてビックリした。

 一つはナズナさんから。

 初めて受け取った彼女からのメッセージは普段の明るい印象とは真逆な丁寧でかしこまった謝罪文だった。

 ナズナさんには直接酷いことされたわけじゃないけれど、今までの態度を非礼と感じてくれて謝ってくれた。その心遣いが嬉しく思う。

 ブロックしたって言っていたけど解除してくれたんだな。



 あ☆い☆り:

『夜分遅くに申し訳ございません。

 本日は貴重なお時間いただき、そして真実を話してくれてありがとうございました。

 氷上さんの自白によって雪野様には何も非がなかったことを知り、私は自分の愚かさ

 を再認識致しました。

 私が行ってしまった暴力行為、それに数々の非礼を心の底から申し訳なく感じておりま

 す。


 雪野様はこんな私の愚行を許してくれた心優しい素晴らしいお方です。

 ネット批判の件 それに氷上さんとの対決の件も含めて、何か出来ることがございましたらどうかご遠慮なく私にお申し付けください。



 最後に

 明日、ナズナと共に改めて謝罪に伺わせて頂きたいと思っております。

 またお時間を取らせてしまうことをどうかお許しください


 淀川藍里』



 ビックリし過ぎてむせてしまった。

 淀川さん、めちゃくちゃ僕のこと気にしてくれている。

 こんな長文のメッセージ生まれて初めて受け取ったよ。

 申し訳ないという気持ちがこれでもかというほど伝わってくる。心配になるくらいに伝わってくる。僕を様付けするくらい落ち込んでしまっている様子にこちらまで心が痛くなった。

 関係ないけどメッセージでのハンドルネームがお茶目だなこの人。つ〇だ☆ひろ感がある。




 そして最後にもう1通。

 正直、このメッセージが一番衝撃だった。



 すずな

『弓さん……

 ごめんなさい

 ごめんなさい

 ごめんなさい

 ごめんなさい


 掲示板のスレッド 削除ができない……です

 色々な人が弓さんの悪口をいうスレッドがたくさん……たくさん……


 ごめんなさい

 ごめんなさい


 弓さん

 私どうしたらいい?

 どうしたらいいのか……わからないよ……


 ごめんなさい


 報い方が……わからないです。


 ネットの人達……弓さんに死ねとか平然と言ってきているの

 弓さん絶対死んじゃだめだよ?

 死んだ方が良いのは私の方だから……


 本当にごめんなさい』



 思い詰めすぎだ鈴菜さん。

 僕はもう許したっていったのに……

 いつもと口調が違いすぎて一瞬誰だよと思ってしまった。

 ナズナさんや淀川さんのメッセージは一旦置いといて、まずは鈴菜さんに返信をしなければ。

 鈴菜さんは心配になるくらい精神を病んでしまっている。

 放っておくとこの子転生未遂しかねないぞ。

 うーん……



 弓

『気にしないでいいって

 どんなに酷いこと言われても僕は気にし過ぎないようにしているからさ

 それにちょっとキミらしくないよ?

 もし僕が追い詰められて死んでしまっても笑い飛ばすくらいの気持ちで居てほしいな』


 冗談交じりの一文を返信。このくらい軽い文章で納めておくのがいいような気がした。

 長文に対して長文で返してしまうと鈴菜さんはもっと気にしてしまうと思ったからだ。

 それに軽口をたたき合っている方が僕達らしい。


「さっ、寝よ寝よ」


 あー、そういえばナズナさんと淀川さんに返信してないな。

 まぁ、いいか。明日直接謝りにきてくれるみたいだし、無理に返信する必要もないかな。

 そう思い僕は就寝する。


 この時の僕は大きな過ちに気づかなかった。

 鈴菜さんに送ったと思われた文章が違う人に送られてしまっていたということを。







 【main view 春海ナズナ】



 もう深夜1時だ。

 明日も学校があるのだから寝なければいけないのだけど……


「……眠れない」


 脳裏に蘇るのは和泉君のスタジオで赤裸々になった真実の数々。

 どうして私は友達である『彼』を信じていなかったのだろう。

 彼は何も悪いことをしていない。それなのに今も理不尽な罵詈雑言を受けている。

 そしてその罵倒を彼に向けていたのは自分も一緒だった。


 周囲の情報に流されて、それが真実であると疑わなかった愚かな自分。

 なぜ間違った情報を真実だと思い込んでしまっていたのか。

 検討は付いていた。

 彼の『見た目』の印象である。


 見るからになにも出来なさそうな気弱な男子。

 その印象が私の中であったのだろう。

 対して氷上さんは貫禄溢れる出来る男のオーラを漂わせていた。

 その対比が思い込みを生ませていた。


「最低すぎる、私」


 高校時代、私は和泉君にも同じようなことをやってしまった。


 ――『今まで俺のことを見下していたのに、俺が有名動画配信者だと分かった途端態度を変える人なんて信用できない』


 和泉くんにそう言われて私は反省したはずだったのに、またやってしまった。

 今回も無意識の内に『彼』を見下してしまっていた。だから冷たい態度を取ってしまった。

 私、何も変わってないじゃない。

 学習してない愚かな自分。

 まずはその事実を受け入れなければいけない。


「謝らなきゃ」


 私がやるべきことは傷つけてしまった彼に謝罪をすること。

 そして今度こそ彼を尊重し、しっかり味方になって彼のクリエイトを応援する。

 できたら……もう一度友達になりたい。

 入試の日にせっかく例のアプリのIDを教えてもらったのに私達は一切文章のやりとりを行っていなかった。

 彼が送ってくれたら応じてあげても良いかなといった考えだったけど、結局彼からは一度もメッセージを送ってきてくれたことはない。

 そんな考えを持っていた時点で私は彼を下に見ていたのだと気づき、自己嫌悪する。

 夕方彼へ文章を送ったけど、唯一のメッセージが謝罪文だけだなんて悲しすぎる。

 もし明日許してもらえたら……また友達になれたら……今度は私からたくさんメッセージを送ろう。


「あれ……?」


 なんとなく例のアプリを開いてみると、メッセージ未読通知が来ていることに気が付いた。

 彼からだった。

 私は飛び上がるようにベッドの上で腰を上げた。

 彼から返信が来るとは思わなかった。

 あちらからメッセージを送ってきてくれたことがとにかく嬉しかった。

 私は意気揚々にスマホをタップして彼のメッセージを開く。


「——えっ?」


 弓

『気にしないでいいって

 どんなに酷いこと言われても僕は気にし過ぎないようにしているからさ

 それにちょっとキミらしくないよ?

 もし僕が追い詰められて死んでしまっても笑い飛ばすくらいの気持ちで居てほしいな』


「ど、どういうこと……?」


 『気にしないでいい』

 この一言は私の謝罪文に対しての返信だろう。

 私を気遣ってくれている一言は素直に嬉しかった。


 でも――


『どんなに酷いことを言われても――』


 これは私が彼に向けてしまった暴言の数々のことを言っているのだろう。

 そうだよね。私の言葉……酷かったよね。

 ごめん。ごめんなさい……!

 心の中で謝罪する。

 そして衝撃なのがこの一文。


『もし僕が追い詰められて死んでしまっても笑い飛ばすくらいの気持ちで居てほしいな』


 追い詰められて……死んだら……?

 サーと顔が青ざめる。


 気にしないで良いと言っていたがそれは本当だろうか?

 あんなに冷たい態度を取られて気にしない人なんているのだろうか?

 もし彼が心の底で傷ついたまま追い詰めらていたのだとしたら……


「だ、だめ!!」


 私のせいで自殺を考えるほど彼は追い詰められている。

 どうしよう……どうしよう……!!

 今すぐ彼に電話を……で、でも傷つけた本人が電話なんてしていいの? 一つでも言葉を間違えたら傷ついている彼の心を余計に傷つけてしまわない?

 ダメだ。深夜に傷つけられた相手から電話が来るなんて嫌がらせにもほどがある。


 そ、そうだ、ドールちゃん!

 あの子なら思い詰められた彼を癒してくれるのかもしれない。

 深夜ということもあったのであの子にチャットでお願いをすることにした。


 メッセージを送り終わると、その勢いで私は和泉君に電話をする。

 非常識な時間にどうかとも思ったけど、非常事態なので許してほしい。


「……もしもし? 春海さんか? どうした?」


 眠そうな声で和泉君が電話に出てくれる。


「い、和泉君、こんな時間にごめん、そ、相談に乗ってほしくて——」


「なにがあった……?」


 私の声色から深刻さを感じ取ってくれたのか、和泉君も真剣な声色で私の言葉に耳を傾けてくれた。

 ついさっき彼から意味深なチャットが届き、彼が思いつめられていることを知ったこと、それが自殺を匂わせるような内容であったこと。

 どうしたら良いのかわからなくなり、つい電話を掛けてしまったことを改めて謝った。


「雪野くんの境遇を考えれば理不尽によって苦しんでいたのは確かだとは思う。作品が盗作されて、その上冤罪を掛けられて、たくさんの人から心無い言葉を浴びせられて……」


「うん……」


 改めて自分の考えのなさに嫌気がさす。

 友達ならば彼の側に立ってあげなければいけなかったのに……


「だけど、俺の印象では雪野君はとても芯の強い人に思えた。そう簡単に安易な死を選ぶような人とは到底思えない」


「でも、現にメッセージが届いて……」


「そうなんだよな。その件も含めて、さ。明日雪野君と話をしよう。藍里と一緒に謝罪に行くんだろ? その場に俺も着いていく」


「いいの?」


「ああ。正直言うと俺は雪野くんよりもキミと藍里の方が心配だ。消沈している春海さんは春海さんらしくない。明日、全部すっきりさせに行こう」


「……ありがとう」


「ああ。ちょっとは不安が取れたなら良かったよ。今日は寝れそうか?」


「……うん。和泉君に相談して本当に良かった。とっても心強いよ。あっ、遅い時間に本当にごめんなさい。また明日……よろしくね」


「うん。また明日な。おやすみ春海さん」


 彼との通話で私の心は少しだけ軽くなった。

 だけど安心を得られたはずなのに私の胸は激しい鼓動を鳴らしていた。

 ドキドキが自分にも聞こえてくる。


「…………」


 このドキドキの正体を何となく察することはできた。

 でも今の状況にはふさわしくない浮ついた気持ちなので、とりあえず心の奥底へしまっておく。

 今の私に必要なのは誠意をもって彼に謝罪することだけ。

 そのことだけを考えて私は目を瞑り、微睡へと落ちていった。


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