第91話 雪野弓VS春海鈴菜
「あびゃ!? あばばば……な、ななななな、何を根拠に!? ぴーひゃらら~」
目が泳ぎまくっていて、頬汗ダラダラ流しながら外方を向いて口笛を吹く鈴菜さん。
「ここまでわかりやすい人、小説でも中々いないよ!?」
どうやら図星を付けたようだ。
「ちっ。そうよ。私よ。私がハンドルネーム制裁者よ。本当にどうしてわかったのよ?」
「いや、単純に僕の中で第一容疑者だっただけだよ」
グループの中で鈴菜さんの本性を知っているのは僕だけだ。
だから雫達は鈴菜さん犯人説にたどり着けず、淀川さんを疑っていたりしていたけど……
こういう嫌がらせを一番やりそうなのはこの人であると僕だけが真っ先に思い浮かべることができた。
「こんなことして狙いはなんなのさ?」
「もちろんナズナちゃんに近寄らせない為よ」
鈴菜さんの目的は出会った頃から一貫していた。
ナズナさんに近づく男に制裁を。
だからってここまでやるかって思うけど。
「私の思惑通り、ナズナちゃんの中でアンタの印象は最悪よ。アプリのブロックまでされたんですって。いい気味だわ」
確かに僕は復縁不可能レベルにまでナズナさんに嫌われている様子だった。
完全に鈴菜さんの計画通りというわけか。
「目的は達成したよね。じゃあもうこんなこと止めてくれる? 普通に迷惑だ。それに——」
やって良いことと悪いことがある。
僕だって聖人じゃない。
「今回の件、さすがに腹が立った」
こんな風に陥れられて、尊厳を踏みにじられて、怒りを覚えないわけがない。
「謝れ」
怒気を滲ませた低い声を聴いて、鈴菜さんの肩がビクッと震える。
普段、鈴菜さんにはどんなに煽られても、呆れはするけど怒ることはなかった。
でも今の僕は心の底から怒りが湧いている。
「……ぅ……」
少しだけバツが悪そうに尻込みをする鈴菜さん。
しかし、彼女は対抗的な視線を返してきた。
「ふ、ふん。そもそも盗作なんてやっていたアンタが悪いんじゃないの。知らないのかしら? 著作権侵害で訴えられたらアンタ刑務所に放り込まれるのよ」
「謝れよ」
「……っ」
脅しのつもりで掛けてきた言葉になんか耳を貸さず、僕は執拗に鈴菜さんへ謝罪を要求する。
「し、仕方ないわね。少しだけ可哀想だからこれ以上悪評を広めないであげるわ。感謝なさい」
「謝ってないよね?」
今まで無表情のまま迫っていた僕だったが、いつまでも謝ろうとしてこない鈴菜さんに苛立ちを覚え、つい眼光が鋭くなってしまった。
そんな僕の表情を見てか、彼女の目に薄っすら涙が浮かんでいる。
彼女はこれまでにナズナさんに近づいてきた男子へ対して数多の嫌がらせを行ってきたのだろう。
彼女のやり方は結構心に来るものがある。
心を折られてしまうとこれ以上歯向かおうという気力すら失われてしまう。
でも心が折れず、怒りだけが男側に残ってしまったら?
その時はきっと今の状況のように怖い思いをする。
きっと今までそんな経験はなかったのだろう。
それは彼女の怯え切った目を見てはっきりわかった。
「鈴菜さん。今までキミとの軽口のたたき合いは結構頭に来ていたけど、それでも僕は楽しかった。悪友が出来たみたいで新鮮だったんだ。この関係を大切にしていけたらって思っていた」
「ゆ、弓さん……」
「でもそれも今日までだ。もしこのまま謝らないで通すのならこっちも容赦しない。キミはさっき著作権侵害の話をしていたけど、そっちこそ名誉棄損だ。だから警察に被害届を出す」
「な——!」
「被害届が受理されればキミは逮捕され拘留される。ネットニュースとかで見たことない? 有名人がネットで誹謗中傷を受けて逮捕者が出ているって話」
覚えがあるようで鈴菜さんの顔が一瞬で真っ青になる。
少しだけ可哀想に思えるが、未だ謝ってきていない彼女へ容赦する気はなかった。
「刑務所がどういう所なのかイマイチ知らないから出てきたら話を聞かせてね。小説の参考にするから」
それだけ言い残し僕は踵を返してこの場から去ろうとする。
「……ま、まって……!」
掠れた声で僕の右手に触れてくる。
仕方ないから足を止めて振り返ってあげることにした。
完全に怯え切った目。
恐怖で震えている右手。
『逮捕』という現実が身近に感じられてしまったようで顔色が青色から真っ白に変容していた。
そして彼女は両手を重ね、かなり深い角度で頭を下げてきた。
「も、申し訳ありませんでした! わ、私が、個人的な感情で、取り返しのつかないことをしてしまいました! 本当に……本当にごめんなさい!!」
許しを請う彼女の声色はかなり上ずっていた。
嗚咽も若干混じっている。
心の底からの後悔の言葉を聞くことができ、僕は——
「わかった。許すよ」
「…………えっ?」
「鈴菜さんを許す。被害届も出さないよ」
「……い、いいの? じゃなかった。いいのですか? 私、とんでもないことをしてしまったというのに……」
「いいんだ。元々謝ってくれたら許す予定だったからさ。まぁ、元通りの関係に戻るのは難しいかもだけど、これからもよろしく鈴菜さん」
差し出した右手を鈴菜さんは困惑した様子ながら両手で包んでくれた。
許してくれてありがとう——
そんな心の言葉が僕の胸に伝わってくるようだった。
「もう悪評流したりしないでね」
「勿論です! ほ、本当にすみませんでした。弓さんの名誉回復にだけに今後は勤める」
「別にいいよ。『そんなこと』より鈴菜さんもクリエイト業に集中して欲しいかな。そういえば声優としての鈴菜さんの姿ってまだ見たことなかったな。スターノヴァでの鈴菜さんの投稿楽しみにしているからね」
「『そんなこと』って……」
「それじゃ」
鈴菜さんの柔らかい両手に包まれた右手を解放し、僕は食堂の方へ向けて歩みだす。
鈴菜さんは終始僕の後ろ姿を眺めていた。
もう僕からは声優科の教室に赴くことはないのかもしれないな。
ナズナさんにはブロックされ、鈴菜さんは僕に対して後ろめたい気持ちがあるだろうし。
今後、春海姉妹と鉢合わせしてしまったら僕にはどうして良いのか分からない。
「僕はいつになったら創作に集中できるのかな」
入学して数日なのにこの濃度。
しかもまだまだ問題は山積みとなっており、つい深いため息を漏らしてしまうのであった。
【ノヴァアカデミー学内ネット掲示板】
『雪野弓アンチスレ7』
名無しのクリエイター99
:なんで雪野弓の周りにはいつも桜宮恋がいるん?
名無しのクリエイター100
:>>99 同じ高校だったらしい
名無しのクリエイター101
:>>100 なんでお前が知ってるんだよwww
名無しのクリエイター104
:桜宮恋以外にも常に美少女つれてね?
名無しのクリエイター105
:昨日イラスト科の女の子とも一緒に飯くってるとこみた
名無しのクリエイター106
:ハーレム系主人公かな?
名無しのクリエイター107
:これだからイケメンは
名無しのクリエイター108
:雪野弓イケメンか?w
名無しのクリエイター110
:可愛い系で顔は整ってると思う
ていうか異様に肌綺麗なんよ
女の私が見ても嫉妬するレベル
名無しのクリエイター:111
:>>110 こんなところに書き込んでいるってことはお前もハーレム要因?
名無しのクリエイター112
:>>111 ちゃうわww 告白されたら付き合ってもいいかなってレベル
名無しのクリエイター113
:>>112
名無しのクリエイター114
:>>112
名無しのクリエイター116
:>>112 www
名無しのクリエイター118
:ていうかさ 氷上与一も雪野弓のハーレム要因かもしれん
名無しのクリエイター119
:ファッ!?
名無しのクリエイター120
:>>118 どういうことなんだぜ?w
名無しのクリエイター121
:池照男が雪野弓を罵倒していたんだけど
なぜかそれを氷上与一が庇ってた
名無しのクリエイター122
:あまり過去のことを掘り起こしてほしくなさそうな感じだったな
名無しのクリエイター123
:池照男ってだれだっけ?
名無しのクリエイター124
:しらん
名無しのクリエイター125
:今さらだけどノベル科めっちゃ荒れてんな
明日からスターノヴァで投稿開始になるけど1年連中大丈夫なのか?
名無しのクリエイター126
:桜宮恋と氷上与一は精神ぐらついてそう
もしかしたらランキング入りも苦戦するかもしれん
名無しのクリエイター127
:>>125 どうせ音楽科の和泉鶴彦が無双する
名無しのクリエイター128
:>>127 イラスト科の淀川藍里はどうなんだろ
名無しのクリエイター129
:ていうか話題にすら上がってない声優科は大丈夫なのか
名無しのクリエイター131
:声優科はいつもの通り盤石
すでにデビューしている奴もチラホラいるみたいだし、ランキング独占もあり得る
名無しのクリエイター132
:いつものパターンだとイラスト科VS声優科の構図になるけど
今年はなんか波乱の予感がするんだよな
名無しのクリエイター133
:それでも俺は桜宮恋ちゃんを応援する!
名無しのクリエイター:134
:ていうかスレタイみろよw
アンチ全然いねーじゃんww




