第85話 悪意の加速
ノヴァアカデミーの公式HPには「生徒向け掲示板」というものが存在する。
スレッド式の匿名掲示板であり、講師が生徒に向けたお知らせを発信することがこの掲示板の本来の使用法だった。
ただ、この掲示板は講師のみならず、学園の生徒なら誰でも匿名でスレを立てることができ、今やスターノヴァでランキングインしている作品の感想掲示板化とされている。
しかし、今日ばかりは違う話題で盛り上がりを見せていた
名無しのクリエイター012:
今年の新入生やばくね?
名無しのクリエイター013:
やばい
名無しのクリエイター014:
>>12 >>13
kwsk
名無しのクリエイター015:
>>014
音楽科に和泉鶴彦が入学している件
名無しのクリエイター016:
嘘乙
名無しのクリエイター017:
いや それがまじなんだわ
音楽科スレではもう祭りになってる
名無しのクリエイター018:
あいつピアノでもう天下とってなかった?
名無しのクリエイター019:
ヴァイオリンでも天下取ってる
名無しのクリエイター020:
ギターでも天下取ってる
名無しのクリエイター021:
あいつチェロ以外も弾けるのかよ
名無しのクリエイター022:
弦楽器ほぼ極めてて草
名無しのクリエイター023:
今さら何しにきたの?
学ぶことなんてほぼないだろ
名無しのクリエイター024:
同じことが桜宮恋にも言える
名無しのクリエイター025:
なんで急に純文学の神童の話になるの?
名無しのクリエイター026:
ヒント >>012
名無しのクリエイター027:
え まって 桜宮恋も今年の新入生なん?
本当に何しにノヴァりにきたの?
名無しのクリエイター028:
桜宮恋なんてもう億稼いでるだろ
名無しのクリエイター029:
さすがに桁一つ落ちるだろ
名無しのクリエイター030:
処女作だけでもう一生働かなくてもいいくらい稼いでる化け物
名無しのクリエイター031:
和泉鶴彦 桜宮恋
この二人絶対ランキングに食い込んでくるだろうな
名無しのクリエイター032:
>>31
IN ⇒ 氷上与一
IN ⇒ 淀川藍里
名無しのクリエイター033:
エイスインバースペアじゃん
まさかこいつらも……?
名無しのクリエイター035:
>>31
IN ⇒ 池照男
名無しのクリエイター037:
>>35
誰?
名無しのクリエイター038:
誰?
名無しのクリエイター040:
しらん
名無しのクリエイター041:
草
名無しのクリエイター042:
錚々たるメンバー大集結でもう笑うしかない
名無しのクリエイター047:
メジャーリーグのオールスター並の豪華メンバー集結で大草原
名無しのクリエイター048:
>>47
メジャーなめんな
名無しのクリエイター049:
>>47
は? べいすぼーる馬鹿にしてんの?
名無しのクリエイター050:
>>47
例え下手すぎ 世界スターと学生スター一緒にすんな
名無しのクリエイター051:
>>47への急な総叩きwww
名無しのクリエイター052:
やきうガチファン怖すぎだろ
もはや無法地帯となっている掲示板であるが、学園関係者しか描きこめないのでスレの流れは非常に遅い。
普段は過疎を極めている掲示板故に今日はまだ書き込み者が多い方だった。
そんな過疎掲示板に一閃のメスが差し込まれる。
名無しのクリエイター055:ID:制裁者
盗作魔情報スレ ⇒ 【雪野弓】悪行暴露スレ【ノベル科1年】
(http://nova- thread/01011109)
名無しのクリエイター056:
>>43
晒し乙
名無しのクリエイター057:
>>43
スレ主じゃん
名無しのクリエイター059:
こいつ色々な所にスレ張りまくってるぞ
雪野弓が知らない場所で——
悪意は急速に広がっていく。
「弓くんおはようございます。学校行きましょう」
「う、うん」
花恋さんと顔を合わせた瞬間、少しだけ顔が紅潮してしまう。
僕と氷上与一の過去を全て話し終え、お風呂から上がった瞬間に花恋さんの抱擁が始まった。
僕の過去を悲しんでくれてその傷を少しでも癒そうとしてくれた善意の行動なのはわかるけど、女の子に力強く抱きしめられた経験など皆無だった故にちょっとばかり刺激が強すぎた。
ていうか抱擁中はずっと半パニック状態だった。
照れるし、良い匂いするし、柔らかい感触するし、風呂に入っていた時よりも逆上せの症状が出たくらいである。
昨日の感触が呼び起され、朝一に花恋さんの顔を見ただけで赤面してしまった。
「弓くん。もしかして熱あります? ちょっと顔色悪いですよ?」
そんな僕の心情など露知らず、花恋さんは顔だけ近づけてきて僕の顔色を探り始めていた。
当然、僕の赤面の着色も濃くなってしまう。
「そ、そんなことよりもさ。花恋さん、今日は昨日と違うピアスを付けているね。あっ、その髪留めも新しいのだね?」
僕は話題を逸らすように僕は花恋さんの身に着けているものに着目してみせた。
昨日は花恋さんが身に着けている装飾品に全く気づけず、瑠璃川さん達に白い目で見られたからな。そのリベンジだ。
花恋さんははにかむように小さく微笑み返してくれた。
「えへへ。ありがとうございます。高校時代はあまりこういうの付けたことなかったのでこっそり自分を彩ってみました。昨日の誰かさんは全く気付いておりませんでしたけど」
「うぐゅ……! そ、それは本当にごめん。でも最近の花恋さんは大人っぽくなっているなってずっと思っていたよ」
「わわ。あ、ありがとうございます」
今度は花恋さんが赤面しながら俯き加減になる。
照れている姿可愛すぎん? 極上の美少女というのはこういう子のことを指すんだろうな。
「——あ、キュウちゃん~! 雨宮さ~ん! おっはよー!」
アパートの階段を降りたところで雫が元気に手を振っていた。
僕と花恋さんは控えめに手を振り返し、軽い挨拶を交わす。
「……~~っ」
僕と目が合った瞬間、なぜか雫は目をそらしていた。
その顔は朱に染まっている。
「どうしたの? 雫」
怪訝そうに首を傾げる僕。
雫は横目で僕の顔をチラチラ見ながら恥ずかしそうに言った。
「き、昨日は、んと、貴重なものを見せて頂きまして、ありがとうございます」
貴重なもの?
昨日僕が雫に見せたものなんて……
はっ!?
「~~っっ」
雫の視線がチラチラと僕の下半身を捉えている。
僕は慌てて股間を抑えながら一歩後退した。
「こ、こちらこそ! そ、その! お粗末なものを見せてしまい、も、申し訳ございませんでした!」
昨日の風呂場での珍事件。
その記憶もリフレインされ、紅潮する。
今日だけで僕は何回赤面しているんだ。
「いえ……あの……み、見られても減るもんじゃないし……気にし過ぎないようにしてもらえると……ね? こんなことで気まずくなりたくないし、いつも通りで、行こ?」
「そ、そうだね……うん……いつも通り……ね」
こんな様子でいつも通りいけるか!
どうするのこの桃色空間。
事後みたいな雰囲気出ちゃってるけど、どうしたらいいの。
「水河さん、水河さん! その時の画像私に売ってください」
「「何を言ってるんだ、キミは!?」」
「3万……いえ、5万出します!」
「たっけぇ!?」
「どうせスクショしていますよね?」
「そ、そそそ、そんなわけないじゃん!」
視線がぎょろぎょろと右往左往しまくっている雫。
その様子は明らかに狼狽えていた。
えええ、この子動揺しまくっているよ。
と、撮られたの? 僕のアレ。
「いつもいつも水河さんばかりずるいです。私にも供給くださいよ~」
「きょ、供給とか意味わかんない。雫ちゃんピュアだから全然何言っているかわからない」
「昨日はオカズに困らなかったんじゃないですか?」
「おかずとか意味わからないもん! 動画をそんなことに使ったりなんかしてないもん!」
「動画で撮ってたの!?」
「し、しまったっ!」
取られていてもスクショ程度かと思っていたけど、まさか動画とは。
「30万出します!」
「値段が跳ね上がったな!?」
「ネットに流したりとかしませんから! 私個人で楽しみますから~! ママ売ってくださいよ~」
「だ、だ~め。キミにはまだ早い。もっと大きくなったらね」
「うわ~ん。ママ意地悪~!」
雫の背中をポコポコ殴る花恋さん。
この子本気で悔しがってない? 本気で僕のお風呂動画を欲しがってない?
……嗚呼。息子よ。お前には30万も価値があるのか?
僕にはその価値は測ることができなかったが、とりあえず雫には件の動画を消してもらうことにしよう。




