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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第77話 一つの恋が終わる時

 

【main view 和泉鶴彦】



「さて、藍里さんや」


「……何よ、じいさん」


 入学初日。

 すべてのプログラムを終えた俺は藍里を食堂テーブルに呼び出し、昼に起きたことの事情を聞いてやることにした。


「お前、高校時代、『自分は問題を起こす気しかしないから守ってくれ』と俺に言ったよな?」


「言ったわね」


「一応、俺もそれに承認はしたさ。だけどな」


 はぁぁぁ~~~~と大きくため息を漏らし、俺は藍里を睨みつけるように眼光を咎めた。


「入学初日に問題起こすとは思わなかったよ! 問題起こすにしても俺の目に届く中でやってくれよ! 守りようがないから!! ていうか何知らない人に暴力奮ってんだよ!? 暴力系ヒロインは不人気だってお前だって知っているだろうが!」


「最近は暴力系ヒロインが再評価され始めているのよ? そんなことも知らずにオタクを気取っているの? はっ! これだからファッションオタクは嫌なのよね」


「その件で話を広げるつもりはねーよ! 今取り上げなければいけない話題はお前が暴力系ヒロインとして振舞った件だよ!」


 藍里との会話はいつもこうだ。

 基本話の主導権を持たれてしまい、俺はいつも振り回されてしまう。


「ま、まぁまぁ。和泉くん。ちょっと落ちきましょう。ね?」


 なぜか同席をしている春海姉が俺をなだめる様に間に入ってきた。

 妹も同席しているが、俺たちの会話には興味なさそうにスマホを弄っていた。


「ね、藍里さん。マスターくん——あの男の子が貴方達の作品を盗作したって話は本当なの?」


 春海さんは藍里に殴られた男のことを知っているようだ。

 知り合いなら殴られた男の方が気にかかるはずなのに、彼女は藍里の方に同席してくれている。

 いい友達を持ったな藍里。


「本当よ。被害者の私が言うんだもの。間違いないわ」


「本当だとしても暴力だけは奮っちゃだめだ。わかるよな?」


 諭すように促す。


「わからないわ。相手は殴られて当然のことを行った。だから私は引っ叩いた。別に自然の流れじゃない」


 なんだこいつ。

 こいつってこんなに物分かりの悪い奴だったか?

 まさか突っ放られるとは思わなかったので唖然としてしまった。


「藍里さんの言い分は……ちょっと……わかるかもしれない……」


「春海さん!?」


 まさか藍里の暴言に賛同するとは思わなかった。


「私もショックなのよ。友達と思っていた人が盗作なんて最低の行為をしていただなんて……裏切られた気持ちを……このモヤモヤをどこにぶつければいいのかわからないのは……私も同じ」


 『友達』というのは先ほど藍里に殴られた男のことを指しているのだろう。

 信じていた人に裏切られたのは気の毒だとは思うけどさぁ。


「藍里。それに春海さんも。悪いが俺は二人の味方にはなれない。例え、相手の男がどんなに最低の行為をやったとしても……だ。こっちも最低の手段をとってどうする? 藍里。俺は暴力女を擁護することは絶対にしない。もっと相手の立場に立って行動しろ」


 相手の男からすれば急にやってきた女に意味も分からず殴られた被害者なのだ。

 それに相手の男が殴り返してくる可能性だってあったはずだ。

 そのことを考え無しに特攻していった幼馴染に俺は心底怒りを覚えていた。


「それに今日の出来事はお前の立場も危うくするものなんだぞ。もしかしたらすでに講師達の耳に入ってお前の処分を検討しているかもしれない」


 俺の言葉に藍里はビクッと大きく肩を濡らす。

 脅すような言い方になってしまったが事実だ。

 今日の藍里の行動は誰の目から見てもコイツが加害者なのだ。


「しっかり謝って学生内の内輪喧嘩と認めてもらうか、このまま謝らずに学校側から処分を言い渡されるか、どっちがいいんだ? お前は何のためにノヴァアカデミーに通おうと思ったんだ?」


 コイツにはすでに出版という経験もある。

 大人気と称されるノベル作家の担当イラストレーターなら食いっぱぐれはないのかもしれない。

 だけど実績があるにも関わらず、それでもコイツは自分の意思で自らのスキルを上げる為にここへの入学を決めた。

 その時の意思を貫くか、それともプライドを貫いてこのままでいくのか、後の判断は藍里次第だ。


「……そう……ね。話し合いもせずに……いきなり殴ったのは……反省する」


 俺の怒りをぶつけられ、藍里がようやく自分の非を認め始めた。


「お前のやることは反省だけじゃないだろ?」


「……そうね。明日……謝ってくるわ……」


 よし!

 この言葉を聞けてよかった。

 もし謝罪の意思を示す様子が無ければ絶交するつもりだった。

 暴力行為だけは何があっても肯定してはいけないのだ。


「俺も明日同席する。お前一人だと何をしでかすかわからんしな」


「……ありがと。鶴彦」


 泣きそうな顔でしっかり感謝を伝えてくる藍里。

 こういう素直な所がまだコイツに残っていてくれて安心した。


「そういや相手の男の詳細を聞いてなかったな。お前の口から話してもらっていいか?」


「ええ」


 藍里は少し沈んだ表情を浮かべながらポツリと言葉をもらすように語ってくれる。

 そしてその内容は俺にとって少し衝撃的なものだった。


「2年くらい前。彼は『小説家だろぉ』で氷上与一さんの原作をパクった小説を投稿していたの。序盤の内容なんてほとんど同じ。地の文は若干差異あるけれど会話文なんて一言一句全く同じ。彼がパクリを行っていることは誰の目から見ても明らかだったわ」


 氷上与一。

 藍里から出てきたその名前は高校時代少し聞かされたことがあったな。

 確か藍里が絵を付けている大人気ラノベ作家の名前だったか。

 藍里の話だとその氷上与一もノベル科に入学しているらしい。


「『小説家だろぉ』での著名は『ユキ』。本名は知らないわ。彼は『ウラオモテメッセージ』という題名で『エイスインバース』のパクリ小説を——」


「——ちょっと待て、藍里」


 藍里の説明を遮らせる。

 今……とてつもなく聞き覚えのある名前が会話の中にあった。


「『だろぉ』で執筆している『ユキ』……だって? それって『平凡小説家~異世界に渡りペンで無双~』の『ユキ』か?」


「ああ。確か最近そんなの書いていたわね。私は見ていないけど。よくもまぁ懲りずに新作書けたものねと思ったものだわ」


 間違いない……らしい。




 俺が高校時代心から尊敬していた作者は——



 俺の心の支えとなっていた『異世ペン』を投稿していた作者は——



 俺が密かに憧れを抱き、恋心寸前まで気持ちを高ぶらせてくれた作者は——




「男じゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」




 俺の悲痛の絶叫を聞き、同席していた3人は仰天した面持ちで俺を見つめていた。







 【main view 雪野弓】



「もう一周読む」


 画面共有しながら『クリエイト彼女は僕の小説に恋をする』を一緒に読んでいた僕らだったが、完成された1~5話まで全て読み終えると雫はアンコールを要求してきた。

 ……ちなみにアンコールはもう4回目である。


 雫が無表情なので新作が面白かったのかそうじゃないのかわからない。

 繰り返し読みたがっているということは悪い反応ではないと信じたいんだけどな。


「雫。普通に小説のデータ送るよ。そろそろ通話もお開きにしよう。お風呂入りたくなってきた。」


 通話を始めてから2時間半も経っている。

 外を見ると完全に日が落ちてしまっていた。


「お風呂で見る」


「そ、そう。お風呂でも見てもらえるくらい気に入ってもらえて嬉しいよ。じゃあすぐに小説データ送っておくね。スマホの防水には気を付けて。それじゃ」


 それだけ言い残し、僕は通話を切った。


 ~~♪ ~~~~♪


 そのあとすぐにスマホが鳴った。

 雫からだ。

 何か言い残したことでもあるのかなぁ?

 でもなんでビデオ通話?


「もしもし? どうしたの?」


「ん? どしたって? お風呂でキュウちゃんの小説見るんだよ?」


「????」


 ならどうしてスマホの方に電話してきたんだ?

 雫の言っていることがイマイチよくわからない。


「私も家のお風呂入る」


「うん」


「キュウちゃんもお風呂でしょ?」


「うん」


「じゃ一緒にお風呂だね。ビデオ通話繋ぎながら一緒にお風呂入ろ」


「…………はい?」


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