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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第75話 スターノヴァ

 午後の講義は1年生全員が講堂に集められた。

 どうやら入学説明が行われるらしい。

 広い講堂にパイプ椅子がいくつも並べられている。

 席は自由みたいなので僕、雫、瑠璃川さん、花恋さんの四人は並んで着席することにした。

 前の方の席ではナズナさんと鈴菜さんの姿が見える。

 その隣には淀川藍里さんの姿もあった。


「(あれ? 氷上与一と一緒じゃないのか)」


 講堂内をグルリと見渡してみると、氷上与一は最後列の一角に着席している。

 その隣には池君の姿もあったが、特別仲良さそうにも見えず、たまたま隣同士になった、という雰囲気だった。

 僕は隣に座っている雫に何気なく言葉を掛けてみた。


「もしかしてさ。作家とイラストレーターが仲良いのってレアケースだったりするのかな?」


「をぉ? どした? 急に」


「いや、淀川さんと氷上与一が別々に座っていてさ」


「そうなんだ。どこにいるのが氷上与一?」


「一番後ろの角」


 僕の言葉に促され、雫と瑠璃川さんが背部に視線を動かす。

 雫の目尻が細く穿つ。

 刺すような視線。

 先ほど淀川さんと対峙していた時と同じ表情をしていた。


「中々強面の男ね」


 瑠璃川さんが正直に感想を言う。


「淀川さんと仲良くはないのでしょうか?」


 花恋さんが首を傾げながらポツリと言葉を漏らす。


「というより、作家とイラストレーターなんて基本仕事上だけの関係なんじゃないかしら? この二人の仲の良さが異様なのよ」


「えへへ。褒められちゃった」


「これからも仲良し担当クリエイターでいようね」


 雫と向き合いながら小さくハイタッチを交わす。

 なぜか瑠璃川さんは小さくため息を吐いていた。


「……皮肉のつもりだったんだけど。まぁ、いいわ。二人仲良しで羨ましいわね。ね? 花恋ちゃん」


「むむむむむむぅ。そこで私に話を振ります? 胸中複雑なの分かりきっているのにそれ私に聞きますぅ?」


 花恋さんはなぜか頬を含まらせながらジト目を僕らに向けていた。

 そのタイミングで月見里先生が講堂に入室し、壇上へと上がっていく。


「さっ、午後の講義が始まりますよ! 弓くんとママはイチャイチャするの止めてくださーい」


「「いちゃついているわけじゃないよ!?」」


「そう思っているのはご自身だけじゃないでしょうかっ」


 拗ねる様に外方を向く花恋さん。


「何このラブコメ空間。超面白いんだけど」


「「「そこ! 面白がらない!」」」


 3人のツッコミが集中した所でこの話は閉廷となった。

 もしかして僕ってラブコメ主人公ムーブしていたりするのかな。

 ヒロイン二人が超美少女だけに主人公がこんな微妙な奴でいいのだろうかと密かに思うのであった。







「まず一同。入学本当におめでとう。ノヴァアカデミーは諸君を心より歓迎する」


 ノベル科以外の生徒が軽く騒めきを放つ。

 月見里先生目立つもんなぁ。

 凛として格好良いし、仕事のできる女オーラが半端ない。

 普通に美人だし、周囲が色めき出す気持ちもわかる。


「音楽科36名。声優科40名。イラスト科40名。ノベル科30名。計146名。それがノヴァアカデミー第5期生だ。卒業までの2年間。ぜひ同期と切磋琢磨し、各々のスキルを研鑽してほしい」


 第5期生。

 つまり学校時代が新設されて当期が5年目ということ。

 本当に新設校なんだなぁという実感がこの言葉を受けて広がった。


「さて、前置きはこの辺りにしておいて、早速本題に移らせていただこう」


 月見里先生の合図で講堂は一瞬で暗くなり、大型スクリーンにプレゼン資料がようなものが映し出される。

 おぉ。スクリーンを使うのって専門学校ぽいなぁ。あまり高校ではみない光景だ。


「諸君はクリエイターだ。我々は知識や技術を教え、全力で諸君の手助けをさせてもらうつもりだ」


 月見里先生の声のトーンが一つ上がる。

 とても楽しそうな声色だった。


「だが、我々講師が教えられるのは土台を作るためだけのものだ。いくら知識を身に着けようと、いくら技術を製錬させようと、それを発揮するのは各々のクリエイト力に掛かってくる」


 ノベル作成の知識を身に着けても、小説を書くための技術を身に着けても、『面白い』物を生み出せる保障なんてない。

 それを作り出すのはいつだって自分自身。

 クリエイター職というのはそういう世界なのだ。


「だからドンドン生み出してほしい。諸君の音楽を、声学を、イラストを、そして小説を。この2年間はクリエイトのことだけを考えろ。一瞬たりとも時間を無駄にするな。人生は常に勉強だ」


 ごくりと唾を飲みこむ音がする。

 僕はこの2年間でどれだけの作品を生み出せるのだろう。

 2年後の卒業時点でどのような思いでこの場にいるのだろう。

 不安もある。しかしそれ以上に楽しみでもある。


「第5期生の諸君。周りにいる同期は仲間であると同時に——最大のライバルであると思ってほしい。諸君らは競うのだ。この144名で」


 競う?

 学科も専行も違うメンバーでどうやって……?


「競う為には戦う場が必要だ。そこでノヴァアカデミー特融の戦いの場を諸君に用意させてもらった!」


 スクリーンに映し出されている画面が切り替わる。

 見たことのないロゴだけがデカデカと映し出されていた。

 なんだ? ロゴの下に小さく文字が記されている。

 『スターノヴァ』と書かれているようだ。


「ノヴァアカデミーの学生のみがログインできるクリエイト作品投稿アプリだ」


 画面が再度切り替わる。

 ランキング画面のようなものが映し出されていた。


「在学中、キミ達は自分の作品をこのアプリに投稿して欲しい。イラスト科だったら自慢のイラストを、音楽科だったら自慢の作曲を。声優科だったら歌や声の吹込みを。ノベル科だったら自慢の小説やシナリオを。今映し出されている画面はキミらの1個上の4期生が使っている画面であり、ご覧の通り、投稿された小説は評価をされる」


 作品が評価される?

 いったい誰から……


「評価を行うのは我々講師、学園のOBOG、そして有志の方々だ。評価は星の数で行われる。個人が持つ評価ポイントは星5が最高評価、そしてマイナス5が最低評価だ。星0も合わせて11段階評価で諸君の作品が採点され、合計ポイントがランキング方式で発表される」


 なるほど。星評価を集めて競うアプリだから『スターノヴァ』というわけか。

 画面に映し出されているランキングは1個上の声優科のランキングのようだ。

 1位は星+205、2位は星+199。

 これだけでは何人のレビュアーがいるのかはわからないが、相当数の人から作品を評価頂けるということは分かった。

 これは嬉しい。


 『だろぉ』でも星評価制度はあるが、マイナス評価はない。

 つまり批判ももらうことができるのか。

 しかし、ランキングというのは結構エグイなぁ。

 良作と駄作が一目瞭然となるのだ。

 それが衆目にさらされてしまうという怖さも正直ある。


「我々講師陣以外には作者名が『匿名』として表記される。入学生の中にはすでに有名人が何名かいるからな。名前だけで星のプラス評価が入っては平等性に欠けるからな。ここでは全員が平等に扱われる」


 それはありがたい。

 桜宮恋、氷上与一、淀川藍里……この辺りは名前が強すぎる。

 氷上与一が書いた作品、というだけでポジティブ評価を得られてしまう可能性もあるわけだし、それだけで僕ら無名作家は勝ち目を無くしてしまうかもしれない。

 学園側はその辺を配慮してくれたんだろうな。


「学科別ランキングの他にも総合ランキングもある。144名全員の作品の順位が決められる。まぁ、敢えて作品を投稿せずに過ごすこともできるが、何のためにここに入学したのだ? って話にもなる。挑戦しないものがクリエイターの未来など掴むことはできないさ」


 なるほど。単純に星の数で争うなら学科が違っても順位付けすることはできる。

 つまり、雫や瑠璃川さんとも競うことになるってことか。


「新作でも旧作でも諸君のクリエイトをスターノヴァで見せてほしい。ただし、すでに出版作など持っている場合はそれを投稿することは不可とする。権利の問題が発生してくるからな」


 つまり僕の場合は出版作である『大恋愛は忘れた頃にやってくる』はスターノヴァに投稿することはできない。

 だけど出版経歴のない『ウラオモテメッセージ』や『異世ペン』なら投稿が可能ということか。


「各自に1台ずつアプリインストール済のノートPCが支給される。諸君らのクリエイトに役立ててくれ。それとスターノヴァはスマホからも操作閲覧可能だ。諸君ら学生は星評価を与えることは出来ないが他の学生作品の見ることだけならできるぞ」


 1人1台PC支給はありがたい。

 僕の自前のPCってスペック微妙なんだよな。エロゲやっててもたまに止まるし。

 これはますます執筆が捗りそうだ。


 それにスターノヴァ。

 単純に周りの学生の作品を閲覧できるだけでも相当楽しみだ。


「あとは学科ごとに色々と制限を設けさせてもらっているのでその辺は明日のHRで詳しいことを聞いてくれ。私からの説明は以上だ。どうかこの学園生活を実りのあるものにしてほしい」


 月見里先生が壇上から降りていく。

 周囲はひたすら騒然としていた。

 無理もない。騒ぎたくなる気持ちが分かるくらい濃い一時だった。


「まさか学園でもベータポリスみたいなランキング戦争が始まるとは思わなかったわ」


 瑠璃川さんが大きくため息を吐きながらポツリと言葉を漏らす。


「べーたぽりす??」


 花恋さんが不思議そうに首を傾げている。

 たぶん僕も同じような表情をしていた。


「あー! そうだった! 瑠璃川さんベータポリスに挿絵付き小説を執筆しているんだって! なんで言ってくれないんだよー!」


「うっそ!? それ僕も聞いてない!?」


「むぅ~! 瑠璃川さん、なんで隠していたのですか?」


 一斉に責め立てられ、瑠璃川さんは珍しく怖気づいたような顔になっている。

 その表情から『余計なこと言った』と考えているのがわかった。


「ごめんごめん。わかったわ。じゃあ『スターノヴァ』の方にその作品載せてあげるから。それでいいでしょ?」


「「「だめ」」」


「どうしてよ!?」


「「「すぐ読みたいから」」」


「…………」


「瑠璃川さんベータポリスでの著者名教えて」


「瑠璃川さん作品名も教えてください」


「瑠璃川さん他に隠していることないでしょうねぇ?」


 僕ら3人に詰め寄られ、瑠璃川さんは薄っすら額汗を浮かべていた。

 だろぉは否定派だったのにベータポリスはありなのか。瑠璃川さんの琴線基準がよくわからないなぁ。

 まぁいいや。とにかく帰ったら速攻でベータポリス起動だ。ログインパスワード覚えているかな。

 どうやら結局僕らクリエイターという生き物は仲間の作品に異様なまでに喰いついてしまう習性があるようだ。


 瑠璃川さんの小説閲覧、雫との3時間通話、スマホにスターノヴァアプリの登録。

 帰ってからやることが多いな。







 この日の午後のプログラムは全て終了し、僕ら4人は並んで帰宅する。

 本~当に色々あった!

 なんというか、事件起こり過ぎでしょ。

 初日からこの濃さで明日から本当にやっていけるの?

 4人で歩く帰り道。僕は内心疲れ切っていたのだった。


「あっ、弓くん。私買いたいものありますので先に帰っていてください。ついでに晩御飯の材料も買ってきますね」


「ん、わかった。また後でね」


 手を振って花恋さんと分かれる。

 雫と瑠璃川さんがその様子をポカンと見守っていた。


「なんか今のやり取り恋人感を通り越して夫婦感あった」


「夫婦!?」


「ていうか本当に隣に住んでいるのね。最初は何の冗談かと思ったけど」


「大丈夫。僕は今でも何の冗談かな思っているから」


 茶髪ロングヘアーの天才美少女作家が隣に住んでいる。

 それだけでも奇跡みたいな状況なのに、その天才作家が僕の部屋に居座るわ、エロゲしたいと言い出すわ、一緒にお風呂に入ろうと誘ってくるわ、本当の本当に何の冗談だろう。


「本当に私もキュウちゃんと同じアパートに引っ越そうかなぁ」


「なんで!? あんな良いマンションに住んでいるのに!?」


「だって……私のキュウちゃんが雨宮さんに取られそうなんだもん……」


「っ!?!?」


 ど、どういうこと!?

 今の発言の真意はどういうことなの!?


「…………」


「な、なんか言えっ!」


「な、何かって言われても……んと……大事に思ってくれて、あ、ありがとう?」


「~~~っ!」


 顔を真っ赤にして俯くなら変なこと言い出さないでほしい。

 気まずい空気が二人の間に漂う。


「夫婦感は花恋ちゃんの方が上だけど、バカップル感は圧倒的に雫ちゃんが上ね」


「「バカップルいうな!」」


 二人のツッコミが重なるが、桃色空気感を霧散させてくれる瑠璃川さんの存在が今はちょっとだけありがたかった。


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