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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第64話 花の雫

 

 【main view 水河雫】



「お、おじゃましまーす」


 雨宮さんの寝室に恐る恐る入る。

 引っ越ししたばかりだけあって、インテリア等の装飾はあまり施されていないみたいだった。

 キュウちゃんの部屋もシンプルなままだったし、引っ越し早々部屋を飾りまくった私の方が異端なのかなあ?


 ちなみにキュアぴゅあのみーやちゃんルートをクリアした所でエロゲはお開きとなった。

 ていうか、これ以上ゲームは不可と判断したからだ。

 その理由が——


「えぐ……ひぐ……い、いらっじゃあ“あ”い“」


 みーやちゃんルートが終盤になるにつれて雨宮さんの嗚咽が聞こえてきたのだ。

 ルートをクリアした時点で完全決壊した様子で涙をダバダバ流していた。

 気持ちはわかるよ。私も物語には感情移入するタイプだから。

 キュアぴゅあのシナリオもかなり良かった。

 途中参入の私ですらちょっとウルっときたからね。


「よしよし。そろそろ泣き止もうねー」


 子供をあやすように雨宮さんの頭をナデナデする。

 うわ、髪サラッサラッだ。

 いい匂いがする。やばい髪をいじってるだけでドキドキしてきた。


「む“り”で“す”ぅぅぅぅ! あんなに泣かせてくるなんて反則ですぅぅ! うわーん! み“―や”ち“ゃ”あ“あ”あ“あ”ん!!」


 キュウちゃんから受け取ったハンカチで今も涙を拭き続けている。

 ……たまに匂い嗅いでいるのバレているからね? においフェチだな? この子。

 二人でベッドに腰を掛けて雨宮さんが泣き止むまで撫で続けることにした。

 やがて徐々に落ち着きを取り戻していきトロンとした微睡の表情で私に体重を預けてくるようになった。


「ん~~……」


 やっば。可愛い。二つの意味で可愛い。子供ような無邪気さと美少女特有フェロモンの両方が今私の肩にもたれ掛かっている。

 初対面の時からくっそ可愛いと思っていたけど、甘えられるとこんなにも破壊力が増すというのか。恐るべし雨宮さん。


「……ハッ!? ごめんなさい! 私ったら……!」


 微睡から解けると同時に雨宮さんは慌てて私から距離を取る。

 羞恥心で顔を染める様子がまた母性を擽ってくる。

 私は自ら雨宮さんを抱き寄せて再び彼女の頭を撫でてみた。


「よしよし」


「ん~。水河さんが私を甘やかしてきますぅ。癖になっちゃいそうですぅ」


 再びトロンとした表情で甘えてきてくれる雨宮さん。


「さっ、ママの胸の中でお眠り」


「わぁい。ママの胸は私の物ぉ……あれ? おっぱいがない」


 ビシッ!


「はうぉ!?」


 私の懇親チョップが甘えん坊の脳天に命中した。


「おっぱい無くて悪かったね! 突起感ゼロのAカップで悪かったな!」


「あぅぅ……冗談なのにぃ」


「こっちは冗談で済まないんだよ! おっぱいよこせー!」


「きゃぁぁぁ」


 ベッドの中でじゃれ合う私と雨宮さん。


「えへへ。こういうのいいなぁ」


「こ、こういうのって……まさか雨宮さん、女の子が好——!」


「そうじゃない! そうじゃないです! こういう風に同い年の女の子とお泊りなんて私初めてで。水河さんのおかげで私とっても新鮮な経験させて頂いています」


 雨宮さんの事情はなんとなく察していた。

 前にキュウちゃんから話を聞いたことがあるのだけど、あの高校はクラス替えがなかったらしい。

 つまり雨宮さんはずっとあのドラゴンさんの支配下に居たことになる。

 ずっと怯えて過ごしていたんだろうな……

 きっと友達なんかも作るキッカケすらなかったんだろうな。


 自分がもっと早くこの子と出会えていれば……

 この子がもっと早くキュウちゃんに出会えていれば……


 そんな風に思ってしまう。


「ママ。そんな顔しないでください。私は今本当に幸せなんですから」


 先ほどとは逆に今度は私の方が雨宮さんに抱かれてしまう。

 柔らかい胸が気持ち良くて羨ましかった。


「大好きな小説を書いて、来週から大好きな小説も学べて、今は大好きな友達と寝れて、そして——」


 雨宮さんがチラッと壁の方に目をやった。

 壁の向こうにいるのは、一人の男しかいない。

 その一瞬の視線で私は全てを察することができた。



 ——ああ。やっぱりそうなんだなぁ。



「ね。ママ。私、もっと水河さんと仲良くなりたいです。その、雫さんって呼んでもいいですか?」


 若干潤んだ上目遣いで子供がわがままを唱えるようなボイスで私に唱えかけてくる。

 ほんっと母性を擽るの上手いな。甘え上手か。

 私からの答えは決まりきっていた。


「だーめ♪」







 【main view 雨宮花恋】



「あらら。駄目ですか」


 残念です。絶対いける流れだと思ったのですが。

 ママ——もとい水河さんを抱きかかえる手は緩めずに唇を尖らせながら拗ねる。


「じゃあ、ママって呼ばせてもらいますね」


「それならいいぞ」


 いいんですね。

 名前呼びが駄目でママ呼びがオーケーな理由がわからない。


「ちなみにどうしてお名前で呼んじゃ駄目なんですか?」


 弓くんも瑠璃川さんも名前呼びしてるのに、私だけ駄目なことに納得がいかないです。

 私だって水河さんと友達に——できたら親友にだってなりたいと思っているのに。


「仲良くなりすぎると、私の方が遠慮して引いちゃうからかな」


「……??」


 仰っている意味が全く分かりませんでした。

 仲良くなりすぎると遠慮する? よくわかりませんが、普通逆なのでは?


「ごめんごめん。分かりづらかったよね。んとさ。私と雨宮さんってライバルだと思うんだ」


「ライバル……ですか?」


 共にクリエイト業を生業としている点ではライバルかもしれない。

 でも私と水河さんは『小説』と『イラスト』という大きく異なるジャンルで挑戦をしているから『ライバル』というよりは『仲間』という意識しかない。

 というより、水河さんにライバル視されていたことが私にとって意外でしかなかった。


「……あー、イラストとか小説とかじゃないんだ」


「というと?」


 水河さんは壁に手を当てて、愛おしそうにその先を見つめる。

 その乙女な表情に私はすぐにピンときてしまった。


「この壁の奥に居る男が大いに関係するライバル関係かな」


「…………」


 瞬時に納得に至る。

 なるほど。ライバルってそういうことですか……


 やっぱり——


 思った通り——


 水河さんも弓くんのことが——


「ていうかこの会話、奴に聞こえてないだろうなぁ? 大丈夫かなぁ? 筒抜けじゃないよね?」


 急に落ち着きなくソワソワし出す水河さん。

 確かにこの会話を弓くんが聞こえていたら大惨事ですね。

 私はプっと小さく吹き出して水河さんを落ち着かせる為にナデナデする。

 目を細めて子供みたいに安心した表情に変容する。可愛い。


「このアパートの壁って中々厚いみたいですので大丈夫ですよ。先日壁に耳を当てて弓くんの生活音探ってみたのですが、何も聞き取ることができませんでした」


「キミは色々アウトだな!? 行動が変態すぎるよ!」


「大丈夫です。好きな人にしかしませんので」


「相手が好きな人でもアウトだからね!?」


 うーん。

 聴診器やコップを壁に当てて音を伺うくらい大したことないと思うのですが、駄目のようでした。


「——ていうか、そかそか、好きな人かぁ。やっぱりそうだったんだ」


「……はい」


「物音が気になるくらいキュウちゃんのこと好きなんだ」


「それだけ聞くと相当変態ですね私」


「もっと自覚持て!?」


 なぜかシリアスになりきれない私達。

 茶化しているつもりはないのですが、これではいけませんね。

 真剣に話し合わなければいけない場面でした。


「水河さんも……ですよね?」


「……うん」


 言ってくれて改めて自覚する。

 やっぱりこの方が私の一番のライバルだったのだと。


「私も……雪野弓くんが大好きです。勿論恋愛的な意味で、です」


 だから私も水河さんに宣言する。

 自分が貴方の一番のライバルなのですよと宣言する為に。

 その宣言に応えるように水河さんも力強く言葉を返した。


「私もキュウちゃんを——雪野弓さんを……愛してる」


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