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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第59話 常識人イラストレーターは変態小説家に毒されていく

 

 色々あったけど、とりあえずPCは寝室に片づけてダイニングに戻る。

 雫と花恋さんが向かい合って椅子に腰を掛けている。

 先ほどのエロ画像公開事件の余韻が未だ残っている様子だ。

 花恋さんは勝手に画像をみてしまった罪悪感があるのか申し訳なさそうに俯いていた。

 逆に雫は僕を睨みつけるように目を尖らせている。


「弓くん。私部屋からお菓子取ってきますね」


「うん。ありがとう」


 立ち上がり、いつものようにベランダへ向かう花恋さん。

 その様子をみて雫は首を傾げていた。


「……? どうして玄関じゃなくてベランダにいくの?」


「「あっ……」」


 すっかり忘れていた。ここと隣の部屋の特殊構造。

 今やベランダからの出入りが基本になっていたからついスルーしてしまっていた。

 こうなってしまっては隠し切れない。雫にも真実を伝えなきゃな。


「雫、ちょっと来て」


 花恋さんの後に続くように僕と雫もベランダに出た。


「うぇぇ!? ベランダ繋がってる!?」


「そう……繋がってるんだ」


 欠陥住宅故にこの2部屋だけ家賃が安いこと。

 それを承知で僕達二人はこの部屋に住んでいること。

 この部屋を借りたときの経緯を細かに雫に伝えたのだが、彼女はなぜかそわそわした面持ちで落ち着かない様子を見せていた。


「こ、事の顛末はわかったよ。ま、まぁ、言いたいことは色々あるけどさ……」


「うん」


「そ、その、それよりもキュウちゃんのお洗濯物に目が行ってしまって……」


「あっ……」


 そうだった。

 午前中に洗濯したものを普通にベランダ干しにしていたのを忘れてた。

 更に僕の下着が一番手前に干してあり、それが雫の瞳がバッチリと映してしまう。。

 僕は慌てて洗濯物の前に立って視界を遮った。


「ご、ごめん。お目汚しを」


「う、ううん。んと、ボクサーパンツ派なんだね」


「うっ、ま、まぁ……」


 なんだこの照れくささ。

 いや、これこそが普通の女の子の反応なんだ。

 『私の下着と一緒に干しますね』とか言ってくる花恋さんが異常なんだ。


「——弓くんはボクサーパンツの方が多いですが、周期的に今日はトランクスのはずですよ」


「「なんで知っているんだ!?」」


 隣の部屋のベランダから姿を現した花恋さんに対し、僕ら二人はツッコミをハモらせる。


「えへへ。ちょっと前まで私が弓くんの服もお洗濯していましたから。履いているパンツの周期もバッチリ把握していますよ」


「笑顔で変なこと言わないでよ!?」


 パンツの比率を知られていることは知っていたけど、履いているパンツの周期まで知られているとは思わなかった。

 無駄な抵抗かもしれないけど、今後は完全ランダムで下着を選ぼう。そうしよう。


「……キュウちゃん?」


「いや、誤解だから! 洗濯は僕から頼んだわけじゃなく——!」


「——あっ、ちょっと天気崩れてきましたね。洗濯物も取りこんでおきましょう。弓くん。そっちに干してある私の下着類を持ってきてもらえますか?」


「雨宮さんの洗濯物も干してあるっ!? 普通に下着も干してある!?」


「さっさ取り込んでしまおう。ちょっと雨降りそうだし」


「はーい。じゃ、お願いしますね」


 いつものように僕ら二人は並んで洗濯物の取り込みを行う。


「キュウちゃん! ごく自然に女の子の服に触らないの! ていうか雨宮さん! 雨宮さんも自分の下着を男に触らせようとしないの!」


 花恋さんのインナーやブラを畳んでいると雫が慌てて僕らを止めに入った。


「ハッ! そ、そうだよね!? 慣れ過ぎていたから忘れていたけど、この状況は異常だった!」


「慣れすぎる前に気づけ!?」


「私が弓くんの服を畳んで取り込むのは別にいいですよね?」


「良くないよ!? その真っ黒なボクサーパンツを広げている自分に違和感持って!?」


 雫のツッコミが冴えわたる。

 その度にこの生活の異常性を改めて思い知らされる気分になった。







「わわっ。ブラ大きいな。くそぉ」


 結局雫も洗濯物の取り込みを手伝ってくれることになった。


「ねえ。雨宮さん。この男に下着を見られること恥ずかしくないの?」


「いえ。全く。むしろ見てほしいまであります」


「なんで!?」


「弓くんの照れる反応がくっそ可愛いからですね」


「なるほど!」


「なるほどじゃないからね!?」


 何を納得しているんだ我が親友は。

 雫なら花恋さんの暴走状態を止められると思っていたけどちょっと無理そうだな。


「水河さん、今度一緒に下着買いにいきませんか? 一緒に弓くんに下着の寸評をしてもらいましょう」


「買ったばかりの下着を男に見せないで!? ていうかその流れだと私もキュウちゃんに下着姿を見せることになるじゃん!」


「弓くんは見たいですよね? 水河さんの下着姿」


「…………」


「見たいそうです」


「何も言ってないからね!?」


「見たくないのですか?」


「見たいよ!!」


 見たくないわけがなかろう。

 想像するだけでちょっと興奮する。親友のそんな姿を想像してしまった僕を許してください。


「そ、そっか。キュウちゃん私の下着姿みたいのかぁ。えっち」


「うわああああああああっ!!」


 本日何度目の魂の叫びだろう。

 主に全部花恋さんのせいだった。







「こほん。雨宮さんが頻繁にキュウちゃんの部屋に出入りしている理由はわかったよ。あのベランダの作りならたぶん私でも同じことしていたと思うので」


 それはなんでなの?

 そこから前提おかしくない?


「でもね。やっぱり節度は持つべきだと思うんだ。お互い超かわいい男女である自覚を持つべきだよ」


 今、超かわいいの部類に僕も含めなかった? 気のせいかな?


「弓くんにも同じことを言われました。それで互いにルールを設けることにしたんですよ」


「なーんだ。自分達でわかっていたんだね。よかった。ちゃんと節度を持つなら私も別に——」


「『洗濯は自分で行うこと』『互いの寝室に入らないこと』『脱衣所に侵入しないこと』の3つのルールを設定しました。心苦しいですが私たちはお互いに納得の上そのルールをしっかり守っています」


「全部当たり前のことだよ!?」


 前のめりになりながら雫はテーブルをバンッと強くたたく。


「洗濯を自分でやっても干す場所同じなら意味なくないかな!?」


「大丈夫です。同じ洗濯ばさみの箇所に互いの下着重ねて一緒に干すようなことはもうやってませんので」


「前はやってたんかい!」


 一度見慣れてしまうと花恋さんの下着をみても特に何も思わなくなった。慣れって怖い。


「あ、あと、寝室! 男の子の寝室の侵入は駄目だよ! 普通に危ないからね」


「大丈夫です。弓くんすごく寝付きの良い方ですので。こっそり添い寝していても危険性は全く感じませんでした」


「「そんなことやっていたんかい!!」」


 今度は僕と雫のツッコミが重なった。

 えっ? 添い寝ってマジ? 確かに寝ている時に柔らかい感触に当たったことが何度もあったけど。ていうかなんで起きないの僕。


「洗濯物の件は私も悪いことがあったのは認めます。でも寝室の出入りの件くらいは認めてもいいと思いませんか?」


「添い寝の件を白状しておいてよくそれが言えるね!?」


「そ、添い寝も悪かったと思っています。じゃ、じゃあせめて私の寝室くらいは出入りオーケーにしませんか? 一緒に遊ぶときもダイニングじゃちょっと窮屈ですし」


 いや、花恋さんの部屋こそ駄目でしょう。

 この子も警戒心をどこに置いてきちゃったの?


「うーん。そういうことならいいんじゃない?」


「雫!?」


 まさか親友が花恋さんサイドに着くとは思わなかった。

 急な裏切りに戸惑いを隠せない。


「だ、だって、私もキュウちゃんが遊びに来た時に寝室に入れちゃったし、これに関しては私も強く言えません」


 うっ、確かにそうだった。

 あの日、雫の寝室であった出来事が脳裏にフィードバックされ、頬に赤みを増した。


「なんですかそれ!? 水河さんずるいです! こっちは寝室どころかダイニングにすら来てくれないっていうのに」


「えへへ。雫ちゃん優越感」


「むぅぅ。水河さんのお部屋で何をしていたんですか?」


「え、えと、げ、ゲーム! ゲームだよ。ね? キュウちゃん」


「う、うん。ゲームやった。それ以上は何もなかったかな」


「そ、そう! 何も無かったよね!」


 うん。ゲーム始める前に雫が躓いて僕がベッドに押し倒されたことなんて敢えて言う必要ないかな。


「お二人共、顔が赤いです。何かあったんですね。あったんだ。ふーん。エロいことあったんですね」


「そんなにエロさはなかったよ!?」


「そ、そうそう! エロ未遂だよ!」


「エロ未遂!?」


 僕らが慌てて否定するものだから花恋さんの疑惑の視線がより強いものになってしまった。

 本当に何もなかったといっても信じてくれなさそうだ。


「私の寝室に入るのは駄目なのに水河さんの寝室に入るのはいいんですね。ずるいです。ずるいです。ずるいです」


 ジト目のままずずいと詰め寄ってくる花恋さん。


「い、いや、雫の部屋に行ったのはその取り決めを行う前だったから」


「じゃあもう水河さんの寝室には入らないんですね」


「う、うん」


「やだ! それは駄目だよキュウちゃん! 雫ちゃんルームで一緒にゲームやるの!」


 ゲームなら正直オンラインでも出来るけど、雫的にそれだと駄目らしい。


「じゃあ花恋ちゃんルームでもゲームやることを許してくださいね」


「う、うぐぐ……背に腹は代えられぬか。分かったよ。互いの寝室に入っちゃ駄目っていう縛りはなしということで」


「やったっ」


 なんで雫と花恋さんの間で僕らの取り決めが進められるのだろうか。

 僕は認めるつもりないからね。


「ていうわけで弓くん。明日からは寝室でエロゲやりますよ」


「「どういうわけだ!?」」


 雫とツッコミがハモるの今日何回目だろう。

 花恋さんのボケ体質が強すぎるのがいけない。


「私が一番気になっていたのはそれだよ! どうして雨宮さんとキュウちゃんは一緒にエロゲをやってるのさ!?」


「そ、それには深い事情があるんだよ」


「全部話せ!」


「わ、私から話しますね。全部私が——私の小説が原因ですので」


 花恋さんの口から経緯が離される。

 花恋さんがノンフィクション恋愛小説を書いていること。

 その恋愛小説はR15指定であること。

 R18との境目を知るための参考資料としてエロゲをプレイ始めたこと。

 その辺りの詳細が雫に伝えられる。


「事情は分かったよ。でもどうして『キュウちゃんと一緒にエロゲをやる』必要があったのかな? 普通そういうえっちなゲームって一人でやるものでしょ?」


 どうでもいいけど雫も普通に『エロ』とか『えっち』とか言葉にするようになったな。

 僕と同じように雫も悪い意味で花恋さんに毒されつつあることが伺えた。


「隣で照れる弓くんを見るのがくっそ萌えるからです」


「わかる」


「さっきも同じやり取りあったな!?」


「えへへ。冗談ですよ。私も弓くんと一緒にゲームをやりたかっただけです。理由なんて本当にそれだけですよ?」


 悪戯っぽくはにかむ花恋さん。

 いや、一緒にゲームをやるのは全然いいんだよ。

 でもそれがエロゲなのが問題であって……ってもう今さらか。今さら何を言っても僕の言葉は花恋さんには届かないんだろうな。


「うーん、雫ちゃん的にはやっぱり心配だ。その、エロいシーンで、んと、お互い気持ちが昂ったりしていない? 隣に異性がいて襲いたくなってない?」


「なってますよ?」


「なってるんかい!?」


「弓くんもそうですよね?」


「…………」


「弓くんも同意しています」


「沈黙イコール同意とみなすの止めてくれませんかねぇ!?」


 そろそろ僕に黙秘権を持たせてほしい。

 なんというかこの二人の会話ってちょっと刺激が強すぎて耐えがたいものがあるのだ。


「うわー! 心配だー! 放っておいたらエロゲが原因でこの二人おっぱじめそうだ!」


「大丈夫ですよ。はじめるとしてもちゃんと同意をとってからやりますので」


「大丈夫な要素が全くないのが逆にすごいな!? 雨宮さん本当にどうしちゃったの!? そんな簡単に身体を許す子じゃなかったよね!?」


「見くびらないでください。私は警戒心の強さに定評があるのです。私の処女は簡単に捧げたりしません」


 どの口がいう。警戒心なんて一度も見た記憶ないぞ。


「うわぁ! 心配だ! ちょっと目を離すとキュウちゃんの童貞と雨宮さんの処女を同時に失いそうだ!」


「えへへ。そうなると素敵ですね」


「だめえええ!」


 警戒心―! 一人で飛び去って行かないでー! 花恋さんを見捨てて飛び立たないでー!


「——決めた。私も一緒にエロゲやる!」


「どういう結論なの!?」


「二人は私が見張らないと心配で仕方ないもの! 勿論毎日は一緒出来ないけど可能な限り私もここにきて同席します!」


「で、でも、それはさすがに悪いよ。雫はイラストで忙しいだろうし」


 それに雫は花恋さんと違ってまだエロ系に耐性があるとは思えない。

 そんな彼女をエロゲ空間に一緒に居させるのは少し気が引けた。


「忙しいのはお互い様でしょ!? それとも何? 私が一緒だと嫌なの!?」


「いやってことは全然ないよ。」


 ただ、今まで花恋さん一人だけでも理性飛びそうだったのに、もう一人美少女が参入となるといよいよ僕の方が耐えられなくなく予感がするのだよ。

 そこの所覚悟の上なのかな? 親友よ。


「じゃ、決まりだね」


 決まってしまった。

 えっ、僕これから女の子2人に囲まれながらエロゲしなければいけないの?

 しかも寝室入室禁止令がいつのまにか解かれているので寝室でやるの?

 理性持つわけなくない? 僕だけなんか苦悩増えてない?

 あっれぇー?


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