第57話 あってよかったオートモード
花恋さんに捕まった状態のままエッチシーンに入ってしまった。
腕を拘束された状態で昼間から二人きりでエロゲをする男女。なんだこの状況。
エロシーン中はこの場から撤退したかった。せめて腕の拘束を解放してほしい。女の子に触れた状態で18禁シーン鑑賞はさすがにやばすぎる。
拷問に近い一時が始まった。
「ん……カ、カケルくん……カケル君のカケルくん……こ、ここに……っ!」
「う、うん……みーやちゃんの……そこに……おじゃまします……」
良い雰囲気になった主人公とヒロインの濡れ場が始まった。
うわ……うわぁ……久しぶりに見たけど、やっぱりみーやルートのエロシーンは一番やばい。
キャラビジュアルは微妙なくせにエロ絵だけはなぜかクオリティが3段階くらい上がる。
エロ全振りのグラフィックってずるい。
ディスプレイには裸の男女の営みのCGがフル画面で映し出されている。
勿論秘部にはモザイク掛かっているが、下だけだ。
それ以外はモザイク処理などない。
つまり絵とはいえ可愛い女の子のお胸が晒されているのだ。
花恋さんはジッと男女の行為を夢中で閲覧している。
頬が上気し、息も少し荒くなっている。
稀に『うわぁ』とか『すご……』とかポツリポツリと言葉を漏らしている。
絡められた指に力が入っていく。
一方僕は画面と花恋さんの表情を交互に見比べている。
正直エロシーンより花恋さんの反応の方がエロく感じるのが不思議だった。
「モザイク掛かっていてもアレの大きさ分かりますね」
「あ、アレって……?」
「…………」
「無言で僕の股間を見ないで!」
思わず手で隠そうとしようとするが花恋さんに拘束されているせいでそれもできない。
大丈夫だよね? 膨らんでたりしてないよね。
「ゲームと思って甘くみてました。これは……その……ばっちり本番なのですね」
「そ、そうだね」
ちなみにキュアピュアはエロゲの中ではソフトな方だ。
仮にもっとハード系の物をプレイした場合、彼女はどうなってしまうのだろう。
「な、なんというか、すごくて、手に力が入りません」
「いや、入ってるよ!? 僕の手を掴んでいる左手はかなりの握力だよ!?」
「これは照れ隠しです。マウスを持つ手は震えっぱなしです」
見ると、確かに花恋さんの右手は震えていた。
「あっ、じゃあさ、オートモードにしてみたら? クリックしなくてもテキスト進めることができるから」
「なるほど。動画を見るような感覚でみーやちゃんとのエッチシーンを見るのですね」
「言い方……」
「弓くん、両手空いたので反対側の手も握らせてください」
「手を握りながらエロシーン見たがるのなんなの!? 僕の羞恥心を限界突破させてどうしたいわけ!?」
両手を握り合いながらエロゲの18禁シーンを見る男女。
いや、本当になんの拷問なの。
右手が繋がれた状態でもギブアップ寸前なので、とりあえず花恋さんのお誘いは断固として断った。
最初は冷たかった花恋さんの左手は今やかなりの熱を持っていた。
エロシーンは佳境を迎えようとしている。
初体験なのに中々濃厚な絡みを二人が見せている。
「弓くんはこれやったことありますか?」
画面から視線を逸らさないまま、花恋さんが不意にそんなことを聞いてきた。
「こ、これって……んと……ゲームのこと?」
「いえSE〇のことですが」
「急になんっつーこと聞いてくるんだキミは!」
どこいったの? あの清純でお淑やかな雨宮花恋さんを神様はどこに隠しちゃったの?
「私はありませんよ。えへへ」
はにかむような照れ笑いを浮かべてくる花恋さん。
「えへへ、じゃないよ!? どうして暴露してきたの!?」
「私が処女だと弓くん嬉しいかなと思いまして」
「コメントに困ることしか言えんのかキミは!」
文化祭の日に雫とも似たような会話したことが脳裏に過る。
最近の女の子ってどうしてこんなに積極的なの?
性事情って今やオープンにすべき風習なの?
「で? どうなんですか?」
「ど、どうって……そりゃあ未経験の方が僕的にも喜ばしいことは事実というか……もし経験者だったら脳が破壊されるというか……」
「あ、そっちじゃなくて、弓くんがS〇Xの経験があるか否かの方です」
「そっちか! ……花恋さんの想像にお任せするよ」
「…………」
「痛い痛い! 言うから! 言うから握力強めないで! 否だよ! 経験なんてあるわけないよ! キスすらしたことないよ!」
「どうして最初から素直に言えないのですか。一瞬不安にさせた罰です」
握力抜けたって言ってたの絶対嘘だ。
なんでこの人こんな力強いの。
僕の手も花恋さんの手もすでに真っ赤になっている。
「でもとてもいいことを聞きました。お互い未経験だということが判明しただけでもエロゲをやっている目的の半分が達成された気持ちです」
「僕に性行為の経験があるかを聞くためにエロゲをやってたの!?」
「私も未経験なことを白状したのでお互い様ということで」
「僕は別に邪な気持ちをもってエロゲプレイしていたわけじゃないからね!?」
自分で言っていて矛盾していると思う。
でも明らかに花恋さんよりは純な気持ちでゲームに臨んではいたはずだ。
ギリギリ僕の息子は起ちあがっていないし、何とか理性は保てそうだった。
普段なら絶対こんなこと思わないんだけど、はやくエロシーン終わらないかな。
——そんな風に思っている最中、事件は突然やって来た。
~~~~~~♪
「うぉう!?」
「わわぁっ!?」
エロシーン真っ只中にPCから聞きなれたメロディが奏でられた。
画面の右下の方にポップアップが浮き上がる。
「雫からの着信だ」
なんっっつータイミングで通話掛けてくるんだ、我が親友よ。
最近バタバタしているから中々通話できないと言っていたけど、こんなタイミングで通話解禁されるとは。
さすがにこの状況で通話に出るわけには——
「出ますね」
「……へっ? いや、ちょっと待って!!」
僕の制止の声も届かず、花恋さんは通話開始ボタンを押してしまった。
いつものようにビデオ通話が始まり、雫の顔がウインドウ画面に映る。
「もしもし、キュウちゃ——」
「水河さん。ご無沙汰してます」
「うわぁぁ!? 雨宮さんが居る!!? なんで!?」
なんでって……本当なんでなんだろう。
「おいこら親友! 一人暮らし始めたからって早速女の子を連れ込むとは何事だ―!」
そういえば最近連絡取れていなかった故に隣の部屋に花恋さんが住んでいることや、なぜか僕の部屋に上がりまくっている事実をまだ伝えていなかった。
「ご、誤解なんだ雫。ていうか僕自身もこの状況に理解がおいついていないというか——」
『あっ、ああん! ん、動いて……っ! そう……気持ち良いぃぃぃ!!』
「謎の喘ぎ声を漏らす女の子も連れ込んでるぅぅぅぅぅぅぅ!!?」
「それに関しては本当に誤解!! 事実無根!! 色々違うんだ!!」
「何が誤解なんだ!? いつからキュウちゃんはそんなプレイボーイになっちゃったのかな!? 欲求不満だったのかな!? そうだよね雫ちゃんとの通話だけじゃ欲求解放とはならなかったよね! 私がキュウちゃんの性欲を刺激する話題を出さなかったのがいけなかったのかな!?」
「み、水河さん。それに関しては私が悪いので私からご説明させてください」
収集が付きそうになかった状況を見兼ねてか、花恋さんが僕たちの間にずぃっと身体を割り込ませてきた。
「あ、雨宮さん。う、うん。ごめん。ちょっと頭が混乱しちゃってたみたい。私も大声出しちゃってごめんね。まずは話を聞くところからだよね。冷静になる。二人とも話を聞くよ」
『ああああん! イグ! いくぅぅぅぅぅっ!』
「こんなシリアスな空気でもう一人の女は何をやっとるんじゃああああああ!!」
ああ。もう。どう収集付けるのこれ。
とりあえずキュアピュアのオートモードは解除してゲーム音声をミュートにする所から始めることにした。
「まず、質問1! 雨宮さんがキュウちゃんの部屋にいる理由はなんだ!?」
お互いに少し落ち着きを取り戻したところで雫の方から議題を振ってきてくれた。
「実は私、弓くんのお隣の部屋に住んでいるんです。私、一人暮らしって初めてで、不安で、つい弓くんの部屋に上がり込んで不安を紛らわすような真似を……その……ごめんなさい」
「な、なるほど。ま、まぁ、お友達同士で隣に住むって、うん。まぁ、普通? だし。事情は分かったよ。一人暮らしの寂しさは私も今痛感しているところだから気持ちはわかる。謝らなくていいよ雨宮さん」
「ありがとうございます」
いや、謝るべきだと思うけど。主に僕に。
でもとりあえず話が落ち着いたみたいだし一旦その辺は保留だ。
「……うーん。男女の友達が隣同士に住む……ねぇ……ふーむ」
いや、全然納得いってないなこの親友。
「まっ! その辺は後々キュウちゃんを責めるとして! 質問2いくよ!」
どうして僕が責められるのか。
責められるべきは絶対花恋さんの方だと思うのだけど。
「急に声が聞こえなくなってけど、さっきまで喘ぎまくっていたのは誰!? この件は場合によっては許さないよ!」
まぁ、雫的にはそっちの方が気になるよね。
僕ももし通話中に男の喘ぎ声が聞こえたら気が動転しておかしくなってしまうと思う。
これについては本当に誤解だから安心させてあげないと。
「さっきの喘ぎ声はゲーム音声だよ。実在の人物の声じゃないから安心してね」
「なーんだ。ゲームの声だったのか。それなら問題…………あるよねぇ!?」
「えっ? どうして?」
「喘ぎ声が聞こえてくるゲームってエロゲしかないでしょ!? 私の通話に最初に出たの雨宮さんだし、二人でエロゲやってたってことでしょうが!?」
「うん。そうだね? んと、それが何か?」
「キュウちゃんどうしちゃったの!? 異常だよ!? 女の子と二人でエロゲをやるって異常事態だよ!?」
「……はっ! そ、そうか! そうだよね! なんか頭がおかしくなってたよ! 雫のおかげで戻ってこれた気がする」
幻惑の魔法が解除されたような気分だ。
そうだよね。異常だよね? 花恋さんのせいで僕の中の常識が色々崩れかけていたけど、雫の反応が普通なんだよね?
「水河さん、私初めてエッチなゲームをやらさせてもらっているのですが、本当にすごいんですよ。シナリオ良いし、音楽も良いですし、えっちシーンは正直ムラムラしました」
「ねえ!? キュウちゃん! 隣にいる女の子誰なの!? 雨宮さんの皮を被った他の誰かだよね!? ねえ!?」
「雫、残念ながらコレが本当の雨宮花恋らしいんだ。僕たちの知っている純真無垢な花恋さんは死んだんだよ」
「うわあああああああん! 私の大好きな雨宮さんを返せえええええええ!」
「大好きだなんてそんな……水河さんみたいな可愛い女の子に告白されるとムラムラしますね」
「「返せええええええええええええ!!」」
シャトー月光201号室とマンションアルカディア205号室は涙で溢れた。
2度と戻らない純真さを慈しむように僕と雫はひたすら泣き続けたのであった。




