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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第55話 キュアキュアアイドルみーやちゃん ピュアな想いが溢れて止まらずついつい魔砲発射しちゃった♡ えっ、俺のスキルは魔力無効だから全然効かないんだけど面白そうだから黙っていよう

 

「さて、問題はどのタイトルをやるかだけど……」


 いや、問題はそこじゃないな?

 この状況が一番問題だな?


「弓くんのおススメからやりたいです」


 おススメ『から』やりたいです、か。

 つまりこの拷問は1作で終わらないというわけだね。先が見えない長い道のりになるんだね。

 しかし、お勧めか。

 まずはエロシーンがソフトなやつから選びたい。


「そうだなぁ。『ノスタルふぁんたじー』か『キュアキュアアイドルみーやちゃん ピュアな想いが溢れて止まらずついつい魔砲発射しちゃった♡ えっ、俺のスキルは魔力無効だから全然効かないんだけど面白そうだから黙っていよう』のどちらかかな」


「なんて!?」


 クソ長タイトルに仰天する花恋さん。

 ラノベだけじゃなくてエロゲにも増えたよなぁクソ長タイトル。そういうのに限って良作だったりするし。


「『ノスふぁん』はタイトル通りファンタジー世界感のゲーム。悪魔とか魔王とかも出てくるよ。ヒロインでね」


「まさかの攻略対象!?」


 ただ、ファンタジーと名の付く割にはあまり冒険せず、むしろ魔王側が主人公に接触してくるタイプの話だ。

 攻略ヒロインは人間、悪魔、魔王、天使と幅広い。

 どちらかというとシナリオは薄く、キャラ人気で売れたゲームだ。


「『キュアピュア』は意外と濃厚なシナリオゲーなんだ。いわゆる泣きゲーって言われているんだよ」


「そのタイトルでですか!?」


 グランドエンディングは未だ語り継がれているくらい伝説の泣きゲー。もちろん僕も泣いた。

 クリア後3日くらいは余韻が残り、学校でも放心状態だったのを覚えている。


「どっちがいい?」


「キュアピュアが気になって仕方ありません」


「わかった。このアイコンを開いて」


 僕の指示の下、花恋さんはみーやちゃんアイコンをダブルクリックする。

 フル画面でゲームが立ち上がり、スタートメニュー画面まで到達した。

 半年前に攻略したヒロイン達の一枚絵が僕らを出迎える。


「可愛い……」


 キャラクター達が勢ぞろいのタイトル絵を見て、花恋さんは呆けたように呟いていた。

 キュアピュアはメインヒロインのみーやちゃん以外は結構地味なデザインでありファンの間でもキャラデザ評価はそれほど高くない。

 だけど、エロゲどころか美少女ゲームすらビギナーの花恋さんにはこのコテコテなデザインでも感動で瞳を輝かせていた。


「こんなあどけない女の子達とエッチできるんですね」


「~~~~っ」


 コメントに困る。

 清楚な女の子が『エッチできるんですね』と言葉漏らしただけでこんなにも心にムズムズが昂るものなのか。

 持つのか? 心臓。さっきから跳ねまくっているけど。

 『花恋さんがエロゲをプレイする』というシチュエーションだけで妙な紅潮が押し上げてくる。

 すでに顔が真っ赤なのがバレないか不安だった。


「ではゲームスタートです!」


 嗚呼、スタートしてしまった。







 ゲームスタートから結構経過した。

 いつの間にか日が暮れている。

 花恋さんは物凄い集中力でゲームに熱中している。

 ちなみに今のところエロシーンは出てきていない。

 花恋さんが無言でいるおかげで僕は徐々に落ち着きを取り戻していくことができた。


 どうしようかな。そろそろ夕食時だ。

 『一緒に料理を始める』という約束は明日からになりそうだな。

 今日は冷凍食品をレンチンするか出前か何かで済ませようかな。


 おっ、そういえばそろそろオープニングムービーが流れる場面だな。

 ちょうどいい。

 ムービーが流れ終わったら一旦夕食休憩を提案しよう。


『~~♪ ~~~♪ ~~~~♪』


 うん、やっぱり神曲だなキュアピュアのOPテーマ『キミが見つけた純真魔法』。

 キュアピュアはキャラデザこそ残念だが、それ以外は超高評価だ。

 特に音楽はエロゲ通を大きく唸らせるほどである。


 今流れているオープニングテーマはエロゲユーザーが選ぶベストソングでトップ10に入るほど名曲であった。

 オープニングテーマが流れ終え、僕が休憩を促そうとすると花恋さんの様子が画面前で呆けていることに気が付いた。

 マウスクリックも止まっている。

 よく見るとその手は小さく震えていた。


「弓……くん!」


「な、何かな?」


 数時間ぶりに聞いた花恋さんの声は若干掠れていた。


「なんですか!? 今の曲! すっごい、すっごい良かったんですけど!?」


 その瞳は驚愕と感動に満ちているようだった。

 よかった。エロゲビギナーの花恋さんの心にも響いたようだ。

 神曲の与える影響力は万物共通なのだ。


「良い曲だよね」


「はい! 私が今まで聞いた歌の中でも一番良かったです!」


 そんなにか。

 気持ちはわからないこともないけど若干大げさな気が。


「弓くん! 今のムービーもう一度見ることできますか!?」


「う、うん」


 興奮気味に僕に詰め寄ってくる花恋さん。

 前々から思っていたけど、この人は気持ちが昂ると物理的に距離が近くなるからとても心臓に悪い。

 僕は身体を後ろにそらしながらマウスを操作してムービー鑑賞モードに移行。

 オープニングムービーをもう一度流した。

 オタク音楽と言えば代名詞としてアニソンが真っ先にあがるが、エロゲ曲も負けていないと思う。

 むしろ最近のアニソンは一般邦楽寄りに向かっているのに対し、エロゲはオタク文化ど真ん中の照準から一切ブレずに突き進んでいる印象がある。

 オタクを置いてけぼりにしないエロゲ音楽を僕は大好きだった。


 2週目のムービー鑑賞を終えた。

 花恋さんはまたも震えている。


「ゆ、弓くん、もう一度……」


「あ、うん、さっきと同じところを押せば何回でも見られるから」


 花恋さんドハマりしているな。

 エロシーン目当てのはずだったのに音楽に感動してくれるのは先人者として嬉しい誤算だ。

 僕も初めて『キミが見つけた純真魔法』を聞いたときは4回ほどループ再生したっけなぁ。

 さてさて花恋さんは僕の記録を超えてくれるかな? ちょっと楽しみだ。







 16回目の『キミが見つけた純真魔法』がダイニングで流れた。

 いや、神曲だけどさぁ……そんなハマる?

 実はこの作品、OP曲以上にグランドエンディング曲の方が泣き曲として評価高いんだけど、花恋さんがそれを聞いたら涙でPCが水没するんじゃないだろうか?

 花恋さんが17回目のループ再生ボタンを押す前に僕は声を掛けることにした。


「花恋さん。もう20時過ぎてるよ。夕食にしよ?」


「……ハッ! は、はい!」


 OP曲に魅了され続けられていた花恋さんが僕の一声で現実に戻されたようだ。

 僕が声を掛けなければ20回は再生していたな。


「わわっ! いつの間にかお夕食がテーブルに広がっています!?」


「全部レンチン料理だけどね。明日は一緒に料理しようね」


「ハッ!? お料理! そうでした。すっかり忘れてました。ごめんなさい弓くん」


 申し訳なさそうに花恋さんが頭を下げる。

 僕は手を振って気にしないよう促す。


「いいんだ。『キミが見つけた純真魔法』が神曲過ぎるのがいけないんだから」


「良い曲過ぎて5回くらい聞いてしまいました」


「16回流れていたけどね」


「あれ!? 私そんなに夢中になってましたか!?」


 無自覚ループ再生だったか。

 そんなに気に入ったならこの情報も渡しておかないとな。


「あの曲、実は音楽販売サイトに取り扱いがあってね。フルバージョンがなんと200円!」


「激安すぎます! か、買わなきゃ!!」


「Cメロが本当に良い歌詞なんだよなぁ」


「き、聞きたい……今すぐ!」


「——さっ、花恋さん冷めないうちに召し上がれ♪ まさか食事中にスマホを取りに行くなんて行儀の悪いことしないよね?」


「ゆ、弓くんが鬼畜眼鏡モードになってます!!」


「だから眼鏡じゃないって」


 若干頬を膨らませながらいそいそと食べ始める花恋さん。

 いつも弄られっぱなしだからたまにはこういうのもいいだろう。


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