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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第53話 そういえば出会った頃からちょっとエッチな人だった


 4月1日。

 後5日後には専門学校の入学式の日を迎えることになる。

 だけどその前に僕にはやらないといけないことが二つあった。


 一つは小説執筆。

 小説家だろぉに投稿予定の『クリエイト彼女は僕の小説に恋をする』と『絶望Re:Creation』。

 3月中は新生活の準備に忙しかったのであまり執筆作業に取り掛かることができなかった。

 でもそろそろ本腰上げて本編を書き始めたいなと思っている。


 そしてもう一つ。

 こっちの方が切実だ。

 即ち——


「ねえ。花恋さん。この状況のまま放置するのは非常にまずいと思うんだ」


「この状況ってなんですか?」


「例えば——今みたいに花恋さんが僕の部屋に掃除機を掛けている状況とか」


「えっ……いけませんでしたか!?」


「いけなくはないよ。むしろ嬉しいよ、日に日に花恋さんの嫁スキルが見れて僕の中で花恋さんの好感度はガンガン上がっていっている」


 そういうと花恋さんの動きがピタって止まる。手に持っている掃除機を落としそうになっていたがギリギリの所で持ち直していた。

 少し顔を上気させながらこちらに詰め寄ってきた。


「いいことまみれじゃないですか! 弓くん! 私これからも頑張ります」


 花恋さんの左手が僕の右手を包み込む。


「いや、頑張らなくていいんだよ。ここは僕の部屋なんだし掃除は僕がやらないといけないと思うんだ」


「なぜです?」


「心底不思議そうな顔しないで!? 花恋さんが僕の部屋を掃除している状況が『なぜです!?』って感じだよ」


「んー、一緒に暮らしているからですかね?」


「暮らしていないからね!? キミの家はこの壁の向こうだからね!?」


「あっ、そうでしたね。忘れていました」


「忘れないで!?」


 とまぁ、自称同居人の花恋さんについて考えないといけなかった。

 いや、花恋さんが家事をしてくれることはめちゃくちゃ嬉しいよ?

 それに一緒にいてとても心地良いよ?

 ついつい今の状況に甘んじてしまって『もうこのままでもいいか』と思ってしまうことがあるけど……やっぱり駄目だよね。それじゃ。


「花恋さん。ちょっとそこに座って」


「んー、キリの良いところまで掃除終わってからでもいいですか?」


「座って!」


「は、はい……っ」


 強めな口調になってしまった。

 いや、ここは威厳を見せるべき場面だ。舐められたままだとたぶんはぐらかされて終わってしまう。

 委縮しながら着席する花恋さんの姿を見るのは大変心苦しいが。


「花恋さん。言うまいと思っていたけど、この状況一言で申すと『同棲』だ」


「は、はい。その、わかって、やっていました」


 めっちゃビクビクしながらボソボソと喋る花恋さん。

 本当の本当に心苦しい。僕風情が女の子を怖がらせてしまうなんて本来は許されない行為だ。


「まぁ、その、婚約しているとか、お付き合いしているとかならまだ良いと思う。でも僕達はそうじゃないよね?」


「…………はい」


「だったらこんなことやっちゃいけないと思う」


「…………」


「あ、そ、その、責めているとかじゃないんだ。僕からしたら家事もやってもらえるし、可愛い女の子と同棲未遂できるなんてとても喜ばしいことなんだから。でも、ほら、僕だって男のわけだからさ。こんな風に花恋さんを怖がらせてしまうかもしれない。最悪、理性を抑えられずキミを襲ってしまう可能性だってあるんだ。そう。これはキミの為に言っているんだ。男をもっと警戒した方がいい」


「えっ? 弓くんは私のことが嫌いになったわけじゃ……ない?」


「それはそうだよ。ていうかさっきも言ったけど好感度は爆上がり中さ。だからこそ——」


「なーんだ! 弓くんびっくりさせないでくださいよ! つまり私の存在が邪魔ってわけじゃなかったんですね」


 空気が一転する。

 あ、あれ? さっきまで俯き加減だったのにどうしてそんな艶々とした顔になるの?

 あれ? 僕の中の威厳さんどこいっちゃうの? もうお帰りなの?

 ええい。頼りにならない威厳先輩になんか頼らず自分の言葉で花恋さんに伝えるんだ。


「はっきりいう! 襲われたくなかったらこんなことはもう止めるんだ!」


「私、襲いたくなるほど魅力的ですか?」


「魅力的だ!」


「~~~~っ!」


「掃除、洗濯、炊事、ゴミ捨て。こんな家庭的な面を見せつけれて正直ドキドキが止まらないんだよ! 本っ当! 襲いかねないから自重してほしい! これが本音だ!」


 はぁはぁ。言ってやった。超恥ずかしいことを大声で言ってやった。

 これだけ言えば花恋さんもさすがに僕を警戒して自重してくれるだろう。


「——弓くん。引っ越し初日にお伝えしたと思いますが……私は今恋愛物の小説を執筆中です」


 初日の夜、ベランダで進捗を聞いたときに教えてもらった『転生未遂から始まる恋色開花』。花恋さんが執筆中のノンフィクション恋愛小説。

 どうして今その話が?


「これも高校時代お伝えしたと思いますが、お付き合いしている男女が送るとにかく甘い、時に甘酸っぱく、でもやっぱり甘い、見ているこっちが幸せになれる内容を目指しています」


「うん。覚えているよ」


 なるほど。話が見えてきた。

 つまり花恋さんはこの同棲未遂生活の中から小説のアイデアを抽出したいんだ。

 でもだからといって付き合っても居ない男女が同棲未遂みたいな生活を送っていいかと言われれば別の話になってくる。


「確かに私たちはお付き合いしているわけではありません。弓くんは優しいから口には出しませんが、内心は私のことを迷惑に思っているのかもしれません」


「いや、迷惑ってことはないんだ」


 ただ理性が保てそうにないだけで。


「でも私の小説は『ノンフィクション』にこだわりたいんです。だから弓くん、お願いします。どうかこのまま、このままの生活を送らせてもらえませんか? 今、私すごく幸せな生活を送れているんです。この経験は絶対小説に活きるんです!」


うぐっ、小説の為と言われると弱い。

 この生活に終止符を打つか、それとも桜宮恋の完成された恋愛小説を読むためにこのまま理性を抑えながら生活を送るか。

 非常に悩ましい選択だった。


「理性が抑えられなくなったら私は襲われても構いません」


「ちょっ!?」


「襲われるの覚悟で言っています。どうかこのままの生活を送らせてください」


 覚悟が決まっている瞳を真っすぐに僕へ向けている。

 意志の籠った強い瞳。

 こんな表情を向けられてしまっては、もう断ることなんてできないじゃないか。


「弓くんの優しさに甘えること言っているのはわかります。でもお願いします! 弓くんが本当に私のことを嫌いになるまで……私を傍においてもらえませんか?」


 プロポーズみたいなことを言われ、紅潮が収まらない。

 他意はない。他意はない。

 雨宮さんは自身の小説を完成させるために提案しているに過ぎないんだ。


「わ、わかった。わかったよ。僕の負けだ」


「じゃあ——!!」


「——洗濯は別々にやること、寝室に侵入しないこと、脱衣所にも侵入しないこと。その3つを守ってくれれば後は自由にしていいよ」


「ええっ!? 条件厳しすぎません!?」


「なんで不満そうなの!?」


「お洗濯できないと弓くんの洗濯前の服の香りを嗅げないじゃないですか!」


「そんなことやっていたの!?」


「寝室に入れないと寝ている弓くんの寝顔を撫でることができないじゃないですか!」


「そんなこともやっていたの!?」


「脱衣所に侵入できないと弓くんの裸の輪郭を想像して一人エッチできないじゃないですか!」


「ストップ! スト————―プ!!」


 この女の子は僕が思っている以上に過激な人だった。

 ていうか一人エッチって……花恋さん本当に僕が寝室で一人でやっているような行為をやっていたんだ。


「私の自家発電のオカズ提供を止めるなんて弓くんはそんな酷いことをするおつもりですか!」


「ストップ・ザ・花恋さん! 本当に口を開くの止めて! 赤裸々すぎる女の子事情を大声で僕に聞かせるの本当やめて!」


「えっ? 私が弓くんをオカズにしていることなんて弓くんならとっくの昔に知っていると思ってましたが……」


「知っているはずないでしょ!? 嬉しいような恥ずかしいような……って、そんなことはいいから! とにかくこれからの共同生活にはこういったルールを作っていくことにしたから! そのルールを守れないようであれば花恋さんこの部屋を出入り禁止にするからね!」


「えぇぇ!? き、鬼畜! 鬼畜眼鏡!」


「僕がいつ眼鏡を掛けた!? 裸眼1.5だよ! ていうか鬼畜でも何でもないからね!? 結構譲歩したルール提供だからね!」


 本当なら掃除や炊事も禁止にすべきだと思うし、そもそもベランダからの部屋の出入りも止めるべきだと思う。

 でもそこまでルールで縛ってしまうとこの人本当に泣き出しそうだったのである程度ルールは緩くした。

 あとは僕がきちんと理性を保つことだな。

 ……壁の向こうで自分をオカズに一人エッチをしていると考えると早くもギブアップしたい気持ちにもなるが。


「でもせっかく隣に住んでいるんだからこれからも協力しあって住んでいきたいと思っているよ」


「私に全部家事を任せても良いのですよ?」


「きょ・う・りょ・く・し合っていこうね」


「はーい」


「それに実は一人暮らしを始めると同時に色々やってみたいことがあったんだ」


「どんなことです? 私と協力しあえそうなことですか?」


「うん。実は『料理』に挑戦してみたくてさ。今までは花恋さんに作ってもらっていたけど自炊にチャレンジしたいんだ」


 恥ずかしながら今まで料理なんてやったことはなかった。

 米を炊くことすらやったことがない。


「花恋さん。僕に料理を教えてくれないかな?」


「私も料理なんてできませんよ?」


「えっ? でも今まで散々夕食を作ってくれていたじゃない?」


「あれはスーパーの安売りのお惣菜をお皿に並べていただけです。実はお味噌汁すらつくったことありません。ごはんもレトルトです」


 そうだったのか。

 すごいな最近のスーパー総菜。

 皿に盛り付けるだけで家庭的料理を提供されていると勘違いするクオリティなのか。


「でもでも、私も自炊してみたいです! 弓くん、一緒にチャレンジしましょう!」


「うん! 楽しみになってきたな」


 未知へのチャレンジ。なんだか経験値稼ぎみたいだ。


「あっ、弓くん。実は私も一人暮らし始めたらやってみたいことがあったんですよ」


「おっ、言ってみて。協力できそうなことがあるかな?」


「はい! 私、実は執筆以外に趣味がなくて……その……『ゲーム』に触れてみたいんですよ」


「おぉ! いいね! ゲームなら得意分野だ。一緒にやろう!」


 花恋さんがゲームに興味を持っていたなんて意外だ。でも嬉しい。

 ゲームは僕の数少ない趣味だ。雫とも通信対戦で結構遊んでいる。

 最初は『兄弟カート』あたりがいいかな? それとも『桜鉄』? FPSは初心者には厳しいかな?


「ありがとうございます! 弓くん。一緒にやりましょうね! エロゲ!」


「………………ん?」


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