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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第44話 手紙

 正直冬休み明けは全然登校しなかった。

 花恋さんが1度も登校しなかったからである。


 もし花恋さんが登校するのなら黒龍警戒を理由に学校へは来るつもりだったけど、結局その機会は1度もなかった。

 恐らく花恋さんなりの気遣いだろう。

 自分が登校することで僕や瑠璃川さんに迷惑がかかるので、とか考えてそう。全然迷惑なんてことないのに。


 だけど今日は卒業式。

 今日だけは登校しないわけにはいかず、教室には若干懐かしい顔ぶれがそろっていた。


「おはよう雪野君。久しぶりだけど貴方とは久々感あまりないわね」


「おはよう瑠璃川さん。なんだかんだグループチャット稼働しているからかな」


「そうね。そのうちチャットだけじゃなくてグループ通話も試してみない?」


「みんなが良ければよろこんで」


 グループチャット内では各々の立ち位置が出来上がりつつある。

 基本雫が中心となって話を立ち上げて、花恋さんが話を広げ、僕と瑠璃川さんは皆を見守る保護者みたいな立ち位置でたまに発言を行う。

 通話を行ったとしてもその立ち位置は変わらないんだろうなぁ。


「瑠璃川さん、弓くん、おはようございます。今日も始業までこっちに居させて頂きたいと思いまして来ちゃいました」


「おはよう花恋ちゃん。こっちが貴方のクラスみたいなものなのだから、かしこまらなくてもいいのよ」


「ありがとうございます。瑠璃川さん」


「おはよ。花恋さん、黒龍って登校してた?」


「いえ。まだ登校されてはいないみたいですね。どうやら停学明けの冬休み後は一度も登校されていなかったみたいです。まぁ、それは私もですが」


「そう。このまま姿を現さなければいいのだけど。動向が気になるところね」


 今日さえ乗り切れば僕らが黒龍と出くわすことは二度となくなる。

 緊張感持って細心の注意を払っておこう。


「気になるといえば貴方達めちゃくちゃ仲良くなっているわね。名前で呼ぶようになっちゃって。もしかして付き合いだした?」


「そ、そういうわけではないです! その、お部屋探しの時、訳あって恋人のフリをしなければいけなくなってしまって。名前呼びはその名残です」


 うん。ちょっとだけ嘘あるな花恋さん。

 苗字呼びすると花恋さんがキレ散らかすからというのが一番の理由だ。


「どうして部屋探しで恋人のフリをする流れになったのか物凄く気になる所だけど――」


    キーンコーンカーンコーン


「それはまた後で話を聞くことにするわ」


 始業チャイムが鳴り、HRがもうすぐ始まる。

 花恋さんも自分のクラスに戻らなければいけない。


「花恋さん。黒龍関連で進捗があったらすぐにチャットして。場合によっては電話でもいいから」


「あ、ありがとうございます弓くん。とっても心強いです」


 ペコリと頭を下げて小走りで教室から出ていく花恋さん。

 ほんの少しだけ頬が赤かった気がした。


「(――ちょっと見ないうちに雨×雪が進展してる!?)」


「(キャァァァッ。『弓くん』『花恋さん』だって)」


「(くっ、まだだ。しず×雪 こそが至高であり最高の推しカプ! 雫さんとの関係はどうなのだ雪野弓。聞きたくて仕方がない)」


「(そうよね。卒業したら彼らの恋の行方が追えなくなるのね。いっそ今からでも雪野君と連絡先交換しておこうかな)」


「(それより瑠璃×雪の可能性は消えたのか!? 消えちゃったのか!?)」


 この愉快な面々とも今日でお別れになるのも寂しくなる。

 文化祭前後くらいから話しかけられることも増えていたので若干の寂しさを憶えながら高校生活最後の日を過ごしたのだった。







 つつがなく卒業式を終え、最後のLHRも終えた。

 放課後、僕らは高校生活を惜しむように教室に残っていた。


「卒業式はやっぱりしんみりしてしまうわね」


「そうだね。この空気感、非常に参考になったよ。ちゃんと文章化できるかなぁ」


「貴方にとっては全てのイベントが自作小説の参考資料なのね」


 瑠璃川さんが呆れたようにため息を吐く。また小説バカと思われてしまったかもしれない。


「お二人ともお待たせしました」


 花恋さんが教室に入ってくる。

 目頭が少し赤い気がした。


「えへへ。卒業式って感動しますよね、ついもらい泣きしちゃいました」


「ほら見なさい。これが普通の反応なのよ」


「僕に人間の感情がないみたいに言うのやめて」


 式では何も思わなかったけど最後のLHRの担任の独白は中々くるものはあった。

 あれこそ文章化しないといけない。先生の明言はいつか自分の作品で紹介したい。


「そういえば結局黒龍は姿を現さなかったみたいだね」


「はい。正直ちょっと安心しました。鉢合わせしたら私どうしたら良いのかわからなかったと思いますので」


「平和に終わって良かったよ。僕も高校生活最後の日にアイツと揉めるなんて絶対嫌だったし」


「はいはい。めでたい日にあんな屑の話題なんか出さないでいいでしょ。楽しいこと考えましょ。ねぇ。せっかくだから喫茶店でも行きましょうよ。卒業式の打ち上げしましょ」


「それはもちろん! でもいいの? 瑠璃川さん他の人からもお誘い受けてなかった?」


「ええ。丁重にお断りさせてもらったわ。なんというかこのメンバー落ち着くのよ。高校生活最後の日くらい素の自分を出せる場所で羽を伸ばしたいわ」


 そう言ってもらえるのはありがたい。

 瑠璃川さんって基本的に誰にでも人当たりが良く、それが人気の秘訣でもあるのだろうけど、僕らの前では割とだらしない姿を見せていた。

 だからこそ先ほどの言葉が本心だとわかる。

 そしてそんな風に思ってもらえていることが内心嬉しかった。


「水河さんとも通話繋ぎながら楽しみましょう」


 雫のことも気に留めてくれているのも嬉しかった。


 名残惜しい気もするが僕らは1年間お世話になった教室を後にする。

 二度とこの場に来ることはないんだろうな。しんみりする。

 でも不思議と寂しくはなかった。

 それよりもこのメンバーと一緒に4月から同じ専門学校に通えることが楽しみで仕方なかった。


 下駄箱をあける。

 ついいつもの癖で内履きを入れてしまいそうになったことに苦笑する。


「あら? 雪野君、何か落ちたわよ?」


「えっ?」


 下駄箱を空けたとき、ひらひらと何かが床に落ちてしまっていたみたいだ。

 何かと思い拾い上げる。


「ふえぇ!?」


 それは手紙だった。

 って、手紙って、まさか!?


「あらあらあら。卒業式の日に手紙? むふふ。やるわね雪野君」


「ゆ、ゆゆゆゆゆ弓くん!? そ、そそそそそそれって! それって! それってぇ!」


「お、おちついて花恋さん。ほら見てよ。ラブレター的なものにしては装飾なさすぎるでしょ?」


 そう言うが実は内心心臓バクバクだった。

 ラブレター的なものの可能性は低いとは思っているが、万が一ということもある。

 手紙を持つ手も震えまくっていた。


「雫ちゃんに報告しなきゃ」


「なんで雫に報告するの!?」


「そ、それより! なんて書いてあるんですか!! 場合によっては許しませんからね!」


「なんで!? どうして怒っているの!? 花恋さん!」


「だ、だだだ、だって! だってぇ!」


 こんなにうろたえている花恋さんはレアだ。

 さっきの卒業式以上に涙目になりながら謎の怒りを僕にぶつけていた。


    ~~♪ ~~~♪


 慌ただしい状況の中、更に混沌を極めるが如くスマホがメロディを奏でる。

 ディスプレイには『水河雫』の文字。

 うぉう!? 着信!? っていうか通話!?


「おいこら親友、おいこら親友。ラブィのもらったって聞いたぞ、ラブィのもらったって聞いたぞっ!!」


 壊れたステレオラジオみたいに呪詛みたいな言葉を繰り出す我が親友。

 視線を移すと瑠璃川さんが非常に楽しそうに口元で笑みを浮かべていた。

 本当に雫に連絡しやがったよこの人。どうすればいいのこのカオス。


「弓くんはそんな浮ついたの興味ないですよね。その手紙見なかったことにしましょう。なんでしたら私が回収してもいいですよ」


「おいこら親友、おいこら親友。雨宮さんが名前で呼んでいたけどどういうことなのかな? ラブぃのか!? 二人はすでにラブぃのか!?」


 左手側に雨宮さんが詰め寄り、右手はスマホから雫に詰め寄られる。

 どう収集つければいいのかわからず右往左往していたら、ポロリと手紙が床におちる。

 瑠璃川さんがそれを拾い上げた。


「……あら……これは――」


 不可抗力で手紙の内容が目に入ってしまったようだ。

 瑠璃川さんの表情がみるみる険しくなる。


「ごめんなさい雪野君。先に読んでしまったわ」


「あ、いや、不可抗力なのはわかっているから」


 まぁ、瑠璃川さんが雫に連絡したせいで状況がややこしくなっているのだが。


「やっぱり雪野君充てのラブレターだったわよ」


「「うわあああああああん! やっぱりぃぃぃぃぃ!!」」


 なぜか花恋さんと雫がシンクロしながら涙を浮かべている。


「――男からのね」


「「「え¨っ!?」」」


 今度は僕も混ざって絶句のシンクロをする。

 いや、男って。初めてのラブレターが男からって、さすがにそりゃあないよ神様。


「ま、まぁ、キュウちゃん可愛いから男の子からモテてもおかしくないと思うよ!」


「全然慰めになってないよ! 雫!!」


「どんなふうに押し倒されたのか後で教えてくださいね」


「戦慄するようなこと言わないで!?」


「そうだよ雨宮さん。ちょっと解釈違いだよ。キュウちゃんが攻めに決まっているじゃん」


「決まってないよ!?」


 成人女性2人が揃うと会話がエロ寄りに偏っていけない。

 お願いだから僕が男と絡むことが決定事項みたいに言わないで。


「水河さん。雪野さんは追い詰められている時に本領を発揮すると思いませんか? 強気で押し倒された時の雪野さんの涙目を想像してください。もうたまりませんよね」


「うぐっ! た、確かにその線はアリよりのアリだけど……でも! 雨宮さん考えても見て。赤面しつつ有無も言わせず相手の唇を奪いにいくキュウちゃんを。ハァハァ、な、なんか息上がってきた」


「あ、アリですね。さすが水河さん。やりますね」


「二人とも僕で何想像してるんだよ!?」


 二人のピンク色の想像の中心に自分が居ると考えるだけで気恥ずかしさがバーストする。

 いや恥ずかしいとかそういう問題じゃない。

 男と絡んでいる妄想をされているんだぞ僕、しっかりしろ。


「はい。雪野君。手紙」


「あ、う、うん」


 このタイミングで渡してこないでほしい。

 ほら、花恋さんが期待を膨らませた視線を向けてきているよ。

 僕は恐る恐る手紙の内容に視線を移す。


「――えっ?」


 思わず驚きの声が出てしまった。

 手紙にはこう書いてあった。




『てめぇから受けた屈辱は必ず返す。

 いつか俺の音楽で見返してやる。

 憶えてやがれ。


 黒滝龍一郎』




「黒龍からの――果たし状?」


「「ええっ!?」」


 単調に書かれた手紙の主はまさかの人物だった。

 姿を見せないと思ったらこんな風に絡んでくるとは全くの予想外。

 あいつ――


「なんで僕の下駄箱の場所知ってるの? 怖いんだけど」


「むしろ私は『音楽で見返す』なんて殊勝な心掛けを見せてきたアイツの心境の変化が怖いわ。どんな風の吹き回しかしら」


 たしかに。

 僕の知っている黒龍なら有無も言わず暴力で報復してきそうなものであるが。

 何かアイツの中で心境の変化があったのかもしれない。


「音楽で見返す――か。近いうちにそんな日が本当に来るような気がする」


 文化祭で披露していたアニメ挿入歌のアレンジ。アレには度肝を抜かされた。

 アイツには確かな音楽の才能がある。

 アイツが花恋さんにやったことは絶対に許せないが、真剣に音楽に向き合っていつか有名になる日が来たならば――


「少しは認めてあげてもいいかもしれないな」


 いつか再会したいような、そうでないような。

 複雑の心境の中、僕は黒龍からの手紙をそっとポケットにしまった。


「黒×弓ですね」


「ちがうよ弓×黒だよ」


 謎の掛け算で議論を始めた二人が雰囲気を台無しにしたのはいうまでもなかった。


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