第33話 Experience Point
雨宮さんのデート服選びは予定よりも早く終わってしまい、僕らはフードコートで軽食を取っていた。
改めて思う。目の前の超かわいい子と今デートしているんだよな僕。
しかもデート服は僕が選んだときたもんだ。とてつもない経験を今しているのだとじわじわ実感が湧いてくる
「ねえ雨宮さん。この後映画見るんだよね。何を見る予定なの?」
「……呼び方戻ってる」
頬を膨らませて不満げに睨んでくる雨宮さん。
どうやら服選びを終えても今日1日はドールちゃん呼びをしなければいけないようだ。
「ドールちゃん。映画何見るの?」
「はい! 見たいと思っていたのがありまして! これなんですけど」
対面に座っていた雨宮さんが僕の真横に移動してくる。
意気揚々にスマホの画面を見せてきた。
「……っ!!!」
スマホに表示された映画のタイトルを見た瞬間、僕は固まってしまう。
「ネタバレ嫌なのであらすじは見ていませんが、面白いって話題の恋愛映画のようです。マスターなら恋愛物好きかなって思いまして」
「…………」
「マスター?」
画面を見たまま映画のキャストの数を無言で数える。
1,2,3,4……やっぱりそうだ。キャストの数は一致する。
そうか。映画化までしていたんだ。知らなかった。
「雨宮さん。他の映画にしよう」
「また呼び方……」
「ドールちゃん、お願い。他の作品ならなんでもいいからさ、この【エイスインバース】だけはちょっとごめん」
「わ、わかりました。じゃあ一緒に見るもの決めましょうか。他にも面白そうなものたくさんやっていますよ」
気を使わせてしまったか。ドールちゃんに悪いことをしてしまった。
だけど、エイスインバースという作品だけは今の僕にはどうしても見ることができなかった。
「これなんてどうですか? 【Experience Point】 ~行動力の無いぼっち男女が『経験値稼ぎ』を行った件~」
「いいね!キャッチコピーがそそられる! でもペアが出来ている地点でぼっちじゃないような……」
「アニメも良いですね。【じゃがいもスター ~排水溝の戦い~】やってますよ」
「もっとマシな戦いの舞台なかったの!?」
「あっ、このタイトルみたことありません!? 【転生バトルオンライン】」
「えっ、嘘!? もしかして【小説家だろぉ】ランキングトップ作品の【転バト】!? 書籍化アニメ化ゲーム化は知っていたけど映画にまでなっているなんて知らなかった! 最新話アップすれば即PV5桁。だろぉ界で神とまで崇められた金襴さんの作品がまさかこんなところで拝見できるなんて!」
「マスターのテンションが一気に上がりました!? じゃあこれで決定にしましょうか」
「あっ、待った! たぶんこういうのってアニメ最終話以降の物語が基本になっていると思うんだ。実は僕、2期はまだ全部見られていなくてさ」
たぶん雨宮さんは1期も見ていないだろう。
双方が作品を熟知していないと楽しめないタイプの作品。
残念だけど転バトはDVD待ちかな。早く2期を全部見てしまおう。
デートでアニメ系映画は罠だということが判明したからには、じゃがいもスターの映画もアウトだ。
「やっぱりこれがいいかな。【Experience Point】。僕も知っている俳優出てるし」
謎のイケメン役で。
「いいですね! 私もヒロインのこの人雑誌で――」
雨宮さんが女優を指さした瞬間、スマホのポップアップが画面上部に現れる。
同時に雨宮さんの指がポップアップに触れてしまい、画面に割り込みが入る。
「「おぶっ!!!」」
僕と雨宮さんが同時に噴き出した。
画面いっぱいに画像が表示される。
謎のイケメンキャラと謎の美女の濡れ場シーン――全裸の男女が絡み合う、所謂『行為』中のエロ画像だった。
「あっ、だ、だだだだ、だ、大丈夫だよ。うん。僕はそういうの理解ある方だから、うん」
エロゲやってるし、あの程度なら耐性はあるのだけど。
それを雨宮さんのスマホに表示されるというシチュエーションが僕の声を震わせていた。
「違います! 違うんです! これ瑠璃川さんが送ってきた画像です!」
確かに今開いているのは瑠璃川さんとの個人チャット画面だ。
あー、そういえば言っていたな。誕生日プレゼントにR18絵を送ってくるって。
「本当に送ってくるとは……やっぱり瑠璃川さんは計り知れないなぁ」
「ですね。このタイミングで送られてくるなんて。その、か、過激なイラストでしたね」
「う、うん」
ちらっとしか見えなかったけど、あの過激なイラストをクラスメイトの女子が描いたという事実は非常にクるものがある。
「あっ、どうぞ」
雨宮さんが先ほどのイラストを全画面にしてスマホを向けてくる。
「なんで見せてくるの!?」
「ほら。昨日瑠璃川さんからR18イラストが送られてきたら、こっそり見せてあげますねって言ったじゃないですか。今がその時かなーと」
「い、いや、ほら、僕ら年頃の男女なわけじゃない? 高校生が昼間から男女でこのような過激なイラストを鑑賞するっていうのは如何なものかと思うので」
「見なくて大丈夫です?」
「見るよ!」
「見るんですね……」
くそー。欲望に負けてイラストに目をやってしまう自分が疎ましい。
うわ、うわぁ。これ、ちょっと過激ってレベルじゃないぞ。思いっきり本番じゃん。
隣の雨宮さんの顔を見ると若干頬に赤みを差しながら、ぽーっとイラストを眺めている。
くそ、なんか僕より冷静な様子で悔しい。
「さすが瑠璃川さんです。とても上手いです」
「そ、そうだね」
「参考になりますね」
「なんの!?」
「いつかこういうことする時とか?」
「する時!?」
「しないです?」
「そ、そりゃあ、いつかは誰かと出来たらいいなとは思っておりますが」
なんだこれ。なんだこれ。
からかっているのかマジな会話なのか判断がつかない。
ていうか普通にセクハラされてない? それとも男女の友達って普通にこういう会話するものなのだろうか。
「もしいつか私たち二人がすることになったらこの画像を参考にヤりましょうね」
「~~~~~~~~っ!!!」
その言葉で僕の脳は完全に爆破された。
そのままテーブルに倒れ伏す。
「あらら。刺激が強すぎましたか」
「ど、ドールちゃん。冗談でもそういうこと軽々しく言わないように。大抵の男子は倒れ伏すから」
「ごめんなさい。マスターっていつも全力で照れてくれるから反応が可愛すぎて。つい意地悪しちゃいました」
その屈折のない笑顔にもう一度テーブルに頭をぶつけることになる。
頭の中の桃色が霧散するまで僕はこのまま倒れ伏すことにしよう。
倒れた状態のままドールちゃんが何やら僕に話しかけ続けてきていたが、脳が回復するまでその言葉は全て聞き流されることになるのであった。




