第32話 女性の服装描写はいつも苦戦気味となる
何度も言ってきたが、雨宮花恋は外見の素材も超一級品だ。
試しにメンズ服も着せてみたが普通に似合っていた。
メンズ服とレディース服のキメラも似合っていた。
白Tシャツ、白ズボンというクソコーデも試してみたがそれすらも似合っていた。
どうやら素材が整いすぎていると似合わない服を探す方が難しいらしい。
やべぇ。このドールちゃん理想のドールすぎる。何着ても似合う着せ替え人形とか最強過ぎない?
ていうか女の子の着せ替えって超おもしれぇ!
小説の黒井くんがドールちゃんの着せ替えを楽しんでいた理由が今ならすごくわかる。
半日くらいならずっとこれで遊んでいられる自信がある。
さすがにお店の人に悪いからやらないけど。
ていうかさすがに店員さんの視線が気になってきたな。そろそろ本気で決めないと。
今までドールちゃんに着せてきた中である程度完成系は見えていた。
まず、最初に選んだ栗色のロングスカート、これは決定。
だけどスカートに合わせるトップス候補が多すぎて困っていた。
横シマのボーダー服、黒の薄いニットセーター、スカートと同じ色の栗色トップス。
この3択に絞るにしてもどれも甲乙つけがたい。
僕が優柔不断を発揮して頭を悩ませていると、ふとあることに気が付いた。
表情には出していないがドールちゃんが若干寒そうに腕を押さえていたのだ。
って、そうか。明日からもう12月。薄手のセーターだけだと寒いに決まっている。
「ドールちゃん。これ」
僕は自分が着ていたカーディガンを彼女に掛けてあげる。
「正解です。マスター」
「えっ?」
「マスターの作品の女の子達はカーディガンをアウターとして着用していたんですよ」
「なんと!」
言われてみれば、という感じである。
ロングスカート、セーター、カーディガン。確かにこの辺のワードには覚えがある。
なんて無難なチョイスなんだ。もっとキャラを飾ってあげようよ弓野ゆき先生。
「えへへ。暖かーい。マスターの温もりでポカポカします」
満足げに温んでいるドールちゃんを見て、一つの結論を見出す。
「ドールちゃん。そのカーディガンあげる」
「えっ?」
「偶然かもしれないけど今の格好が一番眩しい感じある。僕のコーデはこれが完成だと思う」
ドールちゃんが鏡に向き合い、じーっと自分の姿を眺める。
「確かに可愛い。マスターが選んでくれたセーターもスカートも気に入りましたし、カーディガンとの色合いも素敵です。で、でも、カーディガンを頂くわけにはいきませんよ。マスターが寒いです」
「大丈夫だよ。寒さには強い自信あるし、モール内は暖かいからね。でもやっぱり僕が着ていた物の中古なんてもらっても微妙だよね」
「そんなことありません! これ暖かいし、デザイン好きだし、マスターの所持品だったものを譲ってもらえるのであれば光栄の極みです。ほ、本当に良いのですか?」
「うん。喜んでもらえて何よりだよ」
「はい! 大切にしますね。今着ている服も買ってきます」
「一応サイズそれで大丈夫か確認した方が良いかもね。なんかセーターがダボっとしている感じあるよ。それはそれで可愛いけど」
「うーん。そうですね。もう一つ小さいサイズを試着してみます」
「いってらー」
ドールちゃんが試着室に戻る。
同時に僕は大急ぎでカウンターに走る。
「店員さん。うちの着せ替え人形が着ている服、着させたまま帰っても大丈夫ですか?」
「うちの着せ替え人形とかいうパワーワードよ。もちろん大丈夫よ。こっちに走って来たってことは会計済ませたい感じ?」
「よくわかりましたね。あそことあそこにあったスカートとセーターです。いくらかわかりますか?」
「今調べるわね。ちょっと待ってて」
「早めにお願いします。あのドール、早着替えなもんだから急がないと――」
ポンっ。
不意に背後から近寄って来た何かに肩を叩かれる。
恐る恐る振り返る。
予想通り、すでに着替えを済ませたマイドールが笑顔でこちらを睨んでいた。
「な~~~んで、マスターがお会計を払おうとしているのですかぁぁ~?」
駄目だ目が笑っていない。声も笑っていない。
「ほ、ほら、よく言われているじゃない? 女がトイレに行っている間に男は会計を済ませておくのがイケメンの行動だって」
「私、男女のお会計はピッタシ割り勘じゃないと納得しない派です! それに今日は服のお金は私が出すって言ったじゃないですか! カーディガンまでいただいたのにお洋服代も払う気ですか! マスターは私を『会計は男性が全額払うべき』とか主張する女と一緒にする気ですか!」
「い、いや、一緒にするつもりなんて毛頭ないけど、ほら、ここは男が全額払って僕に格好つけさせてよ。今日はドールちゃんの誕生日なんだから」
「いいえ! こればっかしは譲れません。今日、マスターには財布の中身を出させないというのが私の中での決まり事でしたから。あっ、店員さん。お金これで足りますか?」
「あー! 抜け駆けずるいよ!」
「どっちが抜け駆けですか! 私が着替え中に支払いしようとしていたくせに」
「店員さん。こちらのお金でお願いします」
「何お金出しているんですか! 店員さん、こちらで! 私のお洋服なので私のお金を受け取ってください」
「店員さん。僕の諭吉ピン札ですよ。そんなふにゃふにゃな諭吉よりも僕の凛とした諭吉の方が格好いいです」
「ピン札なんてご祝儀の時くらいにしか活躍しない役立たずじゃないですか。ザラザラして数えづらいですし。店員さんそんな乾燥肌の諭吉さんより、私の艶やかな諭吉さんを受け取ってください」
「だぁぁぁぁぁぁっ! そんな重要なことを私の判断に委ねるなぁぁぁっ!」
まずい店員さんがキレた。店先で騒ぎすぎてしまったか。
制止され、シュンっ俯いてしまった僕らを尻目に店員さんはため息を漏らし、僕と雨宮さんの諭吉を一枚ずつ回収する。
会計を終えると二つのキャッシュトレーに2等分されたお釣りがそれぞれに返却される
「レシートあげるからどっちがお金を出すとかいう話は後でやりなさい」
「「はーい……」」
結局このまま割り勘みたいになり、どちらがお金を出すか騒動は終着した。




