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第125話 正当にぶっつぶす

 【main view 和泉鶴彦】



 藍里、春海姉妹、瑠璃川さんと共に俺は音楽スタンドに足を運んでいた。

 その途中、バッタリと氷上くんに会い、事情を説明する。


「俺が不在の間にそんなことがあったのか」


 池くんの蛮行。

 そして泣きながら出ていった水河さんに、それを追いかけていった雪野くん。

 全てを聞いた氷上君は怒りに満ちた表情をしていた。

 怒っているのは氷上くんだけじゃない。

 この場にいる全員が彼と同じ表情をしていたはずだ。

 俺も含めてな。


「前々から思っていたがヤツは調子に乗りすぎだ。俺自ら鉄拳制裁したい気持ちもあるが……ここは素直に講師に事実を伝えるべきだろうな」


 確かにノベル科講師の月見里先生には伝えておくべきかもしれない。

 だけど——


「池くん——池は暴言や蛮行が酷いが罰を受けるほどの罪を犯しているわけじゃない。厳重注意程度で終わると思う。そしてあの池が厳重注意程度で改心するわけがない」


「私もそう思うわ。口が上手いタイプだから自分の良いように事実を改変するかもしれない」


 春海さんの言う通り、講師に伝えても何も変わることはないような気がする。

 それにそんなやり方では俺達全員の怒りが収まらない。

 特に——


「私は……私の手であのクソ野郎に一泡ふかせてやりたい。吹かせてやらないと気が済まない。私の友人を泣かせたアイツには私自身が罰を与えてやらないと怒りが収まりそうにないわ!」


 瑠璃川さんの怒りはこの中で最も大きいだろう。

 友人の為に自分が何とかしてあげたい。

 水河さんとの絆を大切にしていた彼女なら必ずそう言うと思っていた。


「瑠璃川さん、今から奴をぶっ叩きにいきましょ。やり返されても構うものか。あんな奴リンチにしてやっても罪にはならないわ」


 鈴菜が物騒なことを言い放つ。

 でも気持ちは分かる。

 そうしてやったらどんなにスッキリするか。

 少なくとも今抱えているストレスは解消されるに違いない。


「駄目よ鈴菜さん。暴力だけは駄目。相手がどんなにクズだろうと……暴力が肯定されることは一切ないですわ」


 藍里が鈴菜の腕を掴んで止めていた。

 過去に藍里が行った暴力(ビンタ)

 その時の後悔は今も藍里の中で渦巻いている。

 そう。どんな不条理があろうと暴力だけは選択肢に入れてはいけないのだ。


「ねぇ、和泉くん。何とかできないの? マスターくんの為に、ドールちゃんの為に、水河さんの為に、私ができること……何もないの?」


 悔しそうに唇を噛む春海さん。


 池を制裁する方向——

 真っ当な手段で池を黙らせる方法——


 俺は周りを見渡した。

 藍里、氷上君、春海姉、瑠璃川さん。

 それにこの場には居ない雪野くん、水河さん、雨宮さん、それに黒滝


 ……そうか。このメンバーなら出来るかもしれない。

 正当な手段で池を制裁することを。


「みんな、聞いてくれ。『池がランキング入りしている』という事実があるからアイツは調子に乗る。その実績がアイツを天狗にしている」


「確かに……自分で何度も言っていましたわね。『ランキング入りしている俺は皆と違う』って」


「よく言えたものよね。自分よりもずっと凄い成績を出している弓さんの前で。ギリギリトップ10入りしているくらいで何を偉そうにしているのかしら。消えてほしいわ」


「——そう。それだ。消えてもらうんだ」


「「「えっ?」」」


 皆が驚いた顔で一斉に俺を見る。

 俺は口元で不敵に笑いながら、考え付いた最も正攻法な制裁法を言い渡す。


「俺達がランキングを独占して、池の野郎をランキングトップ10から消してやるのさ」


「「「!!」」」


 俺の提案に皆が驚きを示した。


「ランキングから追い出して池に屈辱を与える。もしかしたらそんなことくらいじゃ根本の解決には至らないかもしれないが、ヤツにデカい顔をさせない一つの理由にもなる」


「やるわ!!」


 誰よりも先に勢い良く賛同してくれたのは瑠璃川さんだった。

 俺の手を握りながらやる気に満ちた視線を向けてきてくれる。

 春海姉と藍里も頷き合っている。


「私もその案に乗る。池をランキングから追い出すことで黙らせることができる可能性があるのならやってやるわ!」


「今こそ借りを返すときですわ。雪野様と水河様の為に私のクリエイトであの蛮族をぶっ倒してやりますわ」


 二人も俺達に手を重ねてきてくれた。


「……ふっ」


 口元で小さく笑いながら氷上君も無言で手を重ねてきてくれた。

 かつて雪野君の敵だった彼が今は雪野君の為に立ち上がってくれている。

 なんて心強いんだ。


「藍里さん。ぶっ倒すくらいじゃ駄目。ぶっ殺すのよ。二度とイキれないように地の底にまで叩き落してやるわ!」


 最後に鈴菜の手が重なった。

 賛同してくれるのは嬉しいが、鈴菜にはこれと言ったクリエイトの実績がない。

 スターノヴァにも2カ月連続で応募すらしていないが……


「大丈夫よ和泉君」


「えっ?」


「私の妹はやる時はやる娘なの。本気になった鈴菜はすごいのよ? この子は私なんかよりもずっと凄いクリエイターになんだから」


 あの春海姉がここまで言うなんて。

 頼もしいという感情と同時に隠れていたライバルの出現に若干震えが奔ってしまう。


「よし! やるぞ! ここにいるみんなで池をランキングから追い出すんだ!!」


「「「おおおおっ!!」」」


 皆の決意が雄叫びとなって木霊する。

 こうしちゃいられない。

 今から6月度のスターノヴァに提出する最高の音楽を——


 ピロン

 ピロン

 ピロン


「「「……??」」」


 俺、氷上君、瑠璃川さんのスマホが同時に通知音を鳴らす。

 何かと思いスマホのバナーを覗き見る。


「「「「——えっ?」」」」


 3人全員の驚きの声が重なった。

 俺達3人のスマホには同じメッセージがポップアップされていた。



『小説家だろぉ ユキ先生が ウラオモテメッセージ 最新103話 を投稿しました』


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