第122話 ダブルヒロインは自ら戦いの舞台へ上がる
【main view 池照男】
6月上旬。
俺様はノベル科教室前に掲出されている大きな紙を見て唖然としていた。
それは5月度のスターノヴァランキングの順位表なのだが……
おかしい。
おかしいおかしい。
おかしいじゃないか!!!
「また……10位だと……」
俺様の自信作がランキングトップ10ギリギリの位置に載っている。
2ヶ月連続総合ランキング10位。
本来なら偉業なのかもしれないが、まったく嬉しくない。
俺の作品は1位こそふさわしいからだ。
「やりましたね弓くん! 2ヶ月連続1位だなんてすごいです!」
「雪野先生なら当然だ」
「あ、ありがとう花恋さん、それに氷上与一も。でもさすがに出来過ぎな結果だよ」
「そんなことありません! 『クリエイト彼女』は益々面白いですし、『絶望リクリエ』も相当順位上がったじゃないですか。いい加減自分で自分の実力を認めてください」
「その通りだ。雪野先生は謙虚になりすぎだ。いや、卑屈というべきか。面白いものを生み出している自覚を持ってほしい」
「あ、ありがとう。そういえば氷上与一は今回未参戦なんだね?」
「ああ。今はエイスインバースに全力を投じたい気分でな。だが次回からは中編をスターノヴァに投稿するつもりだ。悪いが一位は取らせてもらうぞ?」
「氷上与一の中編! 楽しみにしているよ!」
おかしいのはあの盗作陰キャ野郎がまたしても総合ランキング1位を取ったことだ。
いや、それだけじゃない。
何もより不可解なのは——
「キュ~ウちゃ~ん! 1位おめでとっ」
不意に背後から現れた水河雫があの盗作魔に抱き着いていた。
人目があるこんな場所に急にいちゃつき出す二人に周囲の視線も集まっていた。
「し、しし雫!? ちょ、ちょっと、近い……よ」
「何か問題あるのかな?」
「あ、あるに決まってます! 今サラッと頬ずりしてましたよね!?? 何を考えているのですか!!」
「えへへ~。だってもう私の気持ちは伝えたようなものだし? 後はアプローチしまくって堕とすだけかなーと思ってさ」
「~~~~っ!!」
雪野弓の顔がボッと赤くなる。
その変化を見て水河雫はもう一度自身の頬を摺り寄せていた。
「駄目です! 離れてください! も~! 駄目ったら駄目なんです!」
盗作魔に引っ付いている水河雫を引っ張りはがそうとする桜宮恋。
その様子は好きな人を取られたくないラブコメヒロインのような立ち回りに見えた。
そんな瑠璃川楓や淀川藍里達も微笑ましそうに眺めている。
「そ、それより、雫も総合ランキング5位なんてすごいじゃないか。まぁ雫の実力なら当然だとは思うけど」
「無理矢理話をそらしたな? 女の子にぐいぐい来られて嬉しい? ね? 照れてくれてたの?」
「うぐ……っ」
「可愛いなぁもう! 本当そういう所だよ!」
「し、しずくぅ~」
「み、水河さん! いい加減にしてください! 弓くんの照れ顔を見ていいのは私だけって決まっているんですから!」
「決まってないからね!?」
「まぁまぁ。雨宮さん。弓さんの照れ顔はみんなで見ればいいじゃない」
「鈴菜さんはいつの間に現れたのですか! なんで正面から弓くんに抱き着いているんですか!?」
「そうだよ! 離れてよ! しょ、正面から抱き着くのはエッチすぎるからダメだよ!」
「やーだもん。弓さん弓さん。ん~~~」
「「こら~~~~~~!!」」
美少女達に囲まれながら困ったように笑みを浮かべる盗作魔。
その緩んだ顔を見て俺のイライラは最高点に達した。
「おい! 盗作魔! 貴様今度は誰の作品を盗みやがった!? 人の作品で連続1位を取って恥ずかしくないのか!?」
公衆の面前ということも忘れ、俺はつい声を荒げながら盗作魔に近づいた。
本当は胸倉を掴みたかったが、正面からコアラのように抱き着いている暴言女が邪魔でそれができない。
「「「…………」」」
奴らは急に黙り込み、呆れたようにため息を吐いている。
そして雪野弓、桜宮恋、瑠璃川楓はなぜか殺気を滲ませながら思いっきり睨んできていた。
「池。雫から聞いたよ過去の件」
「い、池だと!? 貴様! 俺を呼び捨てにしやがったな!?」
「お前なんかに敬称を付ける必要ないからね」
それは明らかな敵視。
普段のボケボケとした間抜け面からは想像もつかないくらい目の前のコイツは表情を歪ませていた。
「お前だけは絶対に許さない。例え謝ってきても、例え土下座してきても、例え改心したとしても僕はキミの存在を許さない」
その言葉に盗作魔の取り巻きがビックリしていた。
普段怒らないヤツが急にキレたものだから驚いているのだろうな。
しかし、陰キャの悲しい性というべきか、こんな雑魚が怒り散らした所で全然怖くない。
ガンを付けるというのはこうやんだよ!!
「お前が許さないとどうなるんだ? あ!? なぁ。どうなるっつーてんの?」
「…………」
無表情のまま、俺から視線を逸らさない。
ちっ、意外とビビらないなコイツ。
「池さん。貴方は結局何がしたいのですか? 事あるごとに弓くんに絡んで。そしていつも負けて逃げ帰る。どうあがいたところで貴方は弓くんに敵わないのですからもう絡んでこないでくれません? 私達からも貴方に構ったりしませんので」
桜宮恋も俺を拒絶するようなことを言ってくる。
くそ! どいつもこいつも俺を見下しやがって!
「お前程度が偉そうに語るな! 2カ月連続でランキング選外の雑魚のくせに! お前だって俺に一度も勝ったことないじゃないか!」
「そうですね。今回のランキングでも私は25位でした。貴方の作品に負けた事実は認めますよ?」
「じゃあ俺のことも認めろ! 俺より格下であることを認めて素直に俺の女になれ!!」
俺の言葉に雪野弓達は口をポカンと開けながら唖然としている。
「呆れた。貴方花恋ちゃんの彼氏になりたかったの? 今までの態度から貴方に可能性が0%であることにすら気づいていないの?」
「本当に呆れましたわ。ここまで最低な男は見たことがないですわ」
「さいってぇ。何で生きてるの?」
瑠璃川、淀川、暴言女が俺を責め立てる。
くそっ! 分かってるんだよ! 俺に可能性がないことくらい。
「——じゃあ勝負しましょうか」
えっ?
「6月度のスターノヴァランキング。順位が上だった方が下の者に何でもいうことを聞かせる権利を与える」
「ちょ!? 花恋さん!?」
「何を言っているのよ!? 花恋ちゃん!」
「そうでもしないと貴方は今後も絡んでくるのでしょう? だったらこの際、勝敗で運命を決しましょう」
「お、俺が勝てば、お前は俺の女になるのか?」
「はい」
「「「!?」」」
いよっし!!
僥倖。僥倖だ。
神は俺を見放していなかった!
「わ、私も……」
ん?
「私も貴方に勝負と勝負する!」
「雫!?」
急に割り込んできたのは例の芋女だった。
「雨宮さんにばかり危険な橋を渡らせたりしない。わ、私だって戦う! もう高校時代と違うって所見せてやる!」
「あー、意気込んでいる所悪いが俺はお前みたいなちんちくりん興味ねーんだわ。すっこんでろ」
「そうはいかないよ」
「んじゃ。アレだ。お前は負けたら今度こそ全裸土下座しろ」
「んな!?」
「池……お前……っ!!」
どうせこいつにはそんな覚悟も度胸もない。
今回はたまたまランキングに入っていたようだが、マグレはそうは続かない。
コイツの絵の下手くそさはよーく知っているしな。
負けを怖がって陰キャはこういう時絶対に逃げる。
「わ、わかったよ……!」
「あん?」
「貴方に負けたら全裸土下座するって言ってるの!」
「ほぉ?」
「雫!?」
「その代わり、こっちが勝ったら私の言うこともなんでも聞いてもらうから。覚悟してよね」
正直コイツの全裸なんて興味なかったが、羞恥で泣き叫ぶ様は興味がある。
全裸になったところをその場で犯してしまえば盗作魔にもダメージを与えることができるかもしれないな。くっくっく。
「よし。ならば勝負だ。俺が勝てば桜宮恋は俺の女になり、芋女は全裸で土下座をする」
「貴方だけ負けた時のリスクが少ないじゃないですか」
「ちっ、なら二人に負けたら俺が土下座してやるよ」
「全裸です」
「あー。はいはい。全裸な。全裸土下座上等」
「絶対ですからね!」
「ま、負けないんだから!」
桜宮恋と芋女が奮起している。
俺はニヤケた表情を隠せないでいた。
「だ、だったら僕もこの勝負に参戦する!」
「嫌だね。すっこんでろ盗作魔」
くっくっく。お前には戦いの舞台にすら上がらせてやらねーよ。
指をくわえて自分の女が取られるところを眺めていろ。
「大丈夫ですよ。弓くん。絶対に負けませんから」
「私達を信じて待っていてキュウちゃん」
「花恋さん……雫……」
ギリッと唇を噛みながら大人しく引き下がる盗作魔。
「(この俺様が負けっこない。俺は2ヶ月連続でトップ10入りしているんだから)」
特に桜宮恋。
コイツは噂程の大作家ではないことは結果が表している。
美少女JK作家ということでマスコミが祭り上げただけなのだろう。
そして芋女。
普通に戦っても俺が勝つとは思うが今回のランキングみたいにマグレがあるかもしれない。
念には念を入れておいて確実に勝てる様にしておくか。