表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/126

第121話 勝手にざまぁされる池照男

 【main view 池照男】



 あの盗作魔め。

 たかが芋女の腕を掴んだだけでこの俺様を暴漢魔扱いしやがって。

 スタッフまで呼びやがったせいで俺はもうあのアミューズメントには行きづらくなってしまった。

 マグレで一度ランキング一位取ったくらいで調子に乗り過ぎだあの陰キャ。

 桜宮恋もなぜか俺の魅力に靡かないし、最近何もかもうまくいかなくてイライラする。

 アイツに制裁を与えないと怒りでどうにかなってしまいそうだ。


「次のスターノヴァでは俺の作品が上に行くのは間違いないだろう」


 次の投稿は異世界最強転生物語の6話から10話。

 10話の主人公無双回は絶対支持を得られるはずだ。くっくっく。俺様の小説がトップに躍り出る光景がもう目に浮かぶようだ。次のランキング発表が張り出しだけのが惜しいな。


「ただ、小説で盗作魔の上に行くだけでは俺の怒りは収まりそうにない」


 そもそもアイツは陰キャのくせにやたら美少女との交友関係が多いのも気に食わない。

 桜宮恋はもちろん瑠璃川楓も超絶美少女だ。

 二人共俺の物にしたい。

 だが思いっきり敵視されている現状それは難しいということは理解している。


「こうなったら例の計画を実行するしかないか」


 桜宮恋と瑠璃川楓が駄目でもアイツの周りには別の美少女がいる。

 まずはそちらから頂こうとするか。

 俺に女を取られて盗作魔の悔しがる顔が今から楽しみだぜ。くくく。







 【main view 和泉鶴彦】



「キミ達。ちょっといいかな?」


 平日の昼休憩中。

 俺、藍里、春海姉、鈴菜のいつもメンバーで昼食を取っていると、いきなり知らない男が俺達に声を掛けてきた。


「えっ? 誰だ? キミ」


「ああ。キミには用はないよ。黙っていてくれたまえ」


 なんだこいつ。

 俺以外の誰かに用があるみたいだけど、黙らされる必要ある? メンタルクソ雑魚だから泣くよ? 俺。

 金髪イケメン野郎は藍里の前に来るとなぜかそのまま片膝を付いていた。


「——へっ?」


 キョトンとしている藍里を尻目に金髪野郎は急に手を取って軽くキスをしていた。

 椅子を激しく倒す勢いで後退する藍里。


「な、なななな、なんですの!? 貴方!?」


「おっと失礼。俺はランキングトップ10入りをしているノベル科の池照男という。ノベル科のイケメン枠とかも言われているね。キミの噂は聞いているよ? あのエイスインバースのイラストレーターなんだってな。数々の名画を生み出したその魔性の右手につい引き寄せられちゃったみたいだよ」


 なんだこいつ。なんだこいつ。

 面白すぎるんですけど。


「(ふっ、決まった。決まり過ぎた。イケメン王子様の不意打ちキスアタック。過去これを受けてオチなかった女は居ない)」


 なんで自信に満ちた表情をしているんだ、このイケメン王子様。

 高身長、王子系男子、溢れるユーモアセンス、そしてこの容姿。

 なんか男としていくつも負けた感はあるけど不思議と全然悔しくない。


「き、ききき、気持ち悪い!!!」


 まぁ、そうだわな。

 必勝のナンパ術だったのだろうけど藍里の趣味とは違うだろうなとは思った。

 むしろよく暴力に訴えなかったな藍里。成長だぞ。


「き、気持ち……悪いだって……!?」


 イケメン野郎はそのまま両手を地面に付けてショックを受けているようだった。


「鶴彦! おしぼり! 消毒液!! 早く! 手が腐るわ!!」


「はいはい」


 言われた通り、俺はおしぼりを数枚渡すと、すごい勢いで全部開封し、念入りに手の甲を拭いていた。


「(芸術家特有の感性が強すぎて俺の魅力が伝わらなかったか。まぁいい。このタイプはじっくり時間を掛けていけば必ず堕ちるタイプ。焦ることはない)」


 まさかこいつじっくり時間を掛ければ堕ちるとか思ってないだろうな。

 いや、さすがにそんな見当違いな痛い勘違いなんかするはずないか。さすがにな。

 イケメンくんは突然スッと立ち上がり、今度は春海姉の前に立った。

 何が起こっているのかわからず春海さんはキョトンとしている。


「スターノヴァランキング7位の春海さんだね。俺よりも上を行くなんてきっと天賦の才能があるんだね。これはお近づきの印——」


 バチンっ!


 イケメンくんが春海姉の手を取った瞬間、鈴菜の平手が奴の手を叩き落とした。

 呆然とするイケメンくん。

 鈴菜はニコニコ笑顔で彼の手を取っていた。


「初めまして。ナズナちゃんの妹の春海鈴菜です」


「えっ? あ、ああ。そうか。えと、ちょっと待ってくれないかな? まずはキミのお姉さんと有意義なクリエイター談義をしたくてね」


「私もクリエイターですよ? 談義だったらナズナちゃんとじゃなくてもできますよね?」


「いや、キミの名はランキングトップ10に載っていないだろう? 俺と語り合いたければもっとスキルを磨いてからにしてくれたまえ」


 うーわ。

 死んだなこいつ。

 ていうか春海さんの手を握ろうとした時点でコイツの末路は決まっていたか。

 さてさて春海姉の前だけど鈴菜はどんなふうにコイツを撃退するのだろうか。


「レベルが釣り合ってないというのなら貴方程度がナズナちゃんや藍里さんに話しかけることすら許されないんじゃないですかぁ?」


「な、なんだと!?」


 おお。攻めるな鈴菜のやつ。


「ランキング1位(・・)の和泉さんも言ってやってくださいよぉ」


 あっ、こいつ俺にぶん投げやがった。

 口角上がってるの隠せ鈴菜。面倒事押し付けやがって。

 仕方ないな。


「えっと。池君だったか? そんなふうに順位とかで人を差別するのはよくないと思うぞ? クリエイター色は十人十色だ。全てのクリエイターから学べるものはある」


「うるさい! 1位だからって調子に乗るな! お前も、あの盗作魔も! マグレのトップのくせに俺を見下した物言いしやがって!!」


 急に噛みついてきやがった。なんなんだコイツ。

 もう帰ってくれないかな。


「…………」


「い、いた!? いたたた!!」


 イケメンくんが急に苦しみ出す。

 鈴菜が無言で彼の手を握り潰そうとしていた。


「離せ!! なんのつもりだ!!」


「——あ?」


 鈴菜の表情が一転した。

 見たこともないくらい歪んだ表情。

 間違いない。ブチ切れている。


「アンタ、今、弓さんを侮辱したわね?」


 ゆらっと長い髪を揺らしながらイケメンくんに近寄る鈴菜。

 そのまま彼の胸倉を掴む。


「弓さんの1位がマグレのわけないでしょうが! アンタ1位のあの作品を見てないの!? それともあの作品の面白さも気づけないレベルでバカなの!? あっ、バカだったわね。バカじゃなかったら初対面の藍里さんの手にキスするなんて明らかな愚行するはずないもの。誰も指摘しないから私が言ってあげるけど、アンタの行動全部がキモイわ。ランキング入りを笠に着るのダサいし、自分より上位の人に正論言われたら噛みつくのもくっそダサい! ノベル科のイケメン枠とか自分の言うのマジで終わってる。ていうかアンタなんかより弓さんの方が何百倍も格好いいし」


「な、あんな盗作魔陰キャ野郎の方が格好いいわけあるか!?」


 その言葉に今度は藍里達が反論する。


「私は鈴菜さんの意見に100%賛同したしますわ。雪野様の方が何億倍も素敵な方です。人柄も、心の大きさも、あの愛らしいお顔も、そしてクリエイターとしての実力も! あの方は全てにおいて貴方を上回っていますわ。貴方の魅力が0.1だとしたら彼の魅力は1億と言ったところかしら」


「なっ……!? 俺が盗作魔より1億倍劣っているというのか!? か、顔まで劣っているだと!?」


「10億倍よ。妹も言っていたけど貴方相当バカみたいね。ていうかその『盗作魔』って言うのやめなさい。以前の自分を見ているみたいでイライラするわ」


「と、盗作魔は盗作魔だろうが! 奴には確実に前科がある! そんな奴と付き合っているとキミらの格も地に落ちるぞ? 1位のあの作品も盗作に違いない。俺が必ず証拠を見つけ出してアイツをこの学校から追い出して——」


「——この世に言い残すことはそれだけ?」


 この言葉を皮切りに本気でブチ切れた鈴菜によって池照男は阿鼻叫喚の暴言を浴びせられる。

 常人なら数ヶ月は家に引きこもってしまうレベルの言葉の暴力攻撃だ。

 俺は涙目になりながら身体を震わせている池照男を見て……

 心の中でざまぁみろとつぶやいた。







「……ナズナちゃんの前で本性を見せちゃったよぉ」


 池照男が泣きながら走り去った後、鈴菜は自身の暴走を悔いるように突っ伏していた。

 だけど、春海姉と藍里は彼女の肩に手を置いて笑みを浮かべながらこういった。


「「よくやってくれたわ!」」


 友人を侮辱され、ブチぎれていたのは鈴菜だけではない。

 自分の代わりに過剰なレベルで反論してくれた鈴菜を俺達は心から賞賛を送ったのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ