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第120話 突き刺さるしずく色の想い

 

 【main view 水河雫】



「~~~~っっ」


 私の独白を聞いたキュウちゃんは顔を真っ赤にさせながら驚いていた。

 もう半分告白のようなものだもんね。


 私が皆に過去を打ち明けた理由は大きく二つある。


「元同級生の金子さんには口喧嘩で勝つことができたと思ってる。だから池さんにも毅然とした態度で立ち向かえると思っていたの……でも全然だめだった。あの人を前にした瞬間、足が震えて声が出せなくなっていた」


 強くなったと思っていた私は弱いままだった。

 立ち向かってくれたのは私以外の3人。

 そのことが申し訳なくて、情けなくて、私は言い訳するように過去の出来事を打ち明けたんだ。


「それは仕方ないわ雫ちゃん。相手は男3人も居たんだもの。震えるのは仕方ないことよ」


 瑠璃川さんが抱きしめてくれる。

 なんて優しい人なのだろう。

 ずっとその優しさに包まれていたくなる。

 でもそれじゃ駄目なんだ。


「もし……池さんがちょっかいを掛けてきたら、今度こそ皆には迷惑をかけないから。ちゃんと自分の言葉で彼を否定して私一人で立ち向かうからね!」


 それは決意。

 自分が弱いままであることを受け止めて、次は強くあろうとする表明。


 だけど——


「だめだ」


 あろうことかこの男は一蹴してきた。

 雨宮さんも瑠璃川さんもキュウちゃんに同意するように頷いていた。


「ど、どうして?」


「ここで突き放されるなんて僕には耐えられない」


「つ、突き放すとかじゃなくて……」


「雫が戦うというのなら、僕だって戦う」


「で、でも、迷惑——」


 きっと池さんは今後もちょっかいを掛けてくる。

 その度にみんなに迷惑を掛けてしまう。

 そう——思っていたのだけど……


「「「何もさせてもらえない方が迷惑!」」」


 3人は強い言葉で否定してくれた。

 心から力になりたいと願う強い気持ちが伝わって来た。


「水河さんは以前に私のことを助けてくれました。文化祭の日、弓くんと一緒に黒滝さんに立ち向かってくれていました。あの時、貴方は私のことを弱くて迷惑な存在だって思っていたのですか?」


「そんなことない!」


「なら、私だってそういうことです」


 雨宮さんが目元を緩めて微笑んでくれる。

 綺麗で優しくて、私に大事なことを気づかせてくれる。

 心から憧れる大事で大切なお友達。


 ああ——私はなんてすばらしい仲間を持ったのだろう。


「誰だって大切な人を傷つけられたら怒り狂うものよ。そしてあのゴミ()は私の大切なものを傷つけた。この怒りを発散させてもらえないのなら私はおかしくなってしまうかもしれない」


 瑠璃川さんは私を抱きしめながら小さく震えている。

 私が過去に傷つけられたことを怒ってくれている。

 本当に心が温かい人。大好きだ。


「雫、キミは弱くなんてない。自分が大変だった時でも落ち込んでいた僕に寄り添ってくれたじゃないか。あの時、僕が放った暴言はキミを傷つけたはずなんだ。それでも……それでもキミは僕を否定せず、立ち上がらせてくれた。なんて強い人なんだと思ったよ。心から尊敬する」


「キュウ……ちゃん……」


 盗作冤罪の時、私は無我夢中だった。

 キミに小説を止めてほしくなくて、でも私に出来ることは絵を描くことしかなくて。

 キミにもらったもの全部掛けて恩返しするつもりだったから、私は最高のイラストを作り上げることができたんだ。


「あの時僕は誓ったんだ。雫が僕にしてくれたように、もしキミに何かあった時、僕の全てを掛けて絶対に力になろうって。どんなことがあっても僕はキミの味方をする。どんなことがあっても僕はキミと一緒に戦う」


 キュウちゃんの言葉に雨宮さんと瑠璃川さんも大きく頷いていた。


「雫の価値を全く分かってない池にわからせてやろうよ!」


「私の……価値?」


「5月のスターノヴァ。そのランキングで池を超えてやろう。水河雫というクリエイターはとっくに池照男を超えていることを分からせる」


「いいですねそれ!」


 キュウちゃんの案に雨宮さんが同意する。


「私なんかが……ランキングに載れるかな?」


 もう自分の絵が下手だとは思っていないが、ライバルを舐めているわけではない。

 周りのクリエイター達が偉大過ぎて、私なんかがトップ10入りできるとは思えなかった。

 だけど、私の考えを否定するかのようにキュウちゃん達はポカーンと呆けた顔をしている。

 『何言ってんだコイツ』と言わんばかりの呆け具合だった。


「4月の弓くんに対しても同じことを思いましたが、どうして貴方達は自身を過小評価するのですか……」


 思いっきりため息を吐く雨宮さん。


「雫、未だに自分の価値を分かっていないんだね。呆れたよ。もうアレだ。久しぶりに開くか『雫さんイラスト賞賛講座 ~上級編~』。言っておくけど3時間は拘束するつもりだから」


「くっそ懐かしい響きの講座だ!? こ、拘束されちゃうんだ、雫ちゃん」


「雪野君。雫ちゃん嬉しそうにしているわよ。本当に手錠かなんかで拘束してあげたら?」


「講座が終わっても、もし雫が自分の価値を見誤っているようなら考えるよ」


「目が本気だ!?」


 こうして、実に1年以上ぶりの『雫さんイラスト賞賛講座』が始まった。

 途中でスタッフさんが様子を見に来たことで一時中断となったけど、キュウちゃんは帰ってからも通話で講座の続きを行ってくれた。



 

 私が自分の過去を白状した二つ目の理由はね。

 私を守ってくれたキミが格好良すぎて、気持ちが止まらなくなったからなんだよ。

 鈍感なキミでもさすがに分かったよね?

 私がどれだけキミを愛しているかということを。


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