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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第100話 転生未遂から始まる友情開花

 ランニングの休憩中に皆が切羽詰まった表情で迫って来たものだから驚いた。

 鈴菜さんに関しては勢いそのままに抱き着かれ、かなり対応に困った。

 話をよると、なぜか僕が朝から自殺を試みているのではないかということになっており、皆必死に僕のことを探してくれていたという。

 一体どうしてそんな話になってしまっていたのか……?


「これ……」


 ナズナさんがスマホの画面を見せてくる。

 そこには見覚えのある文章が羅列されていた。



『気にしないでいいって

 どんなに酷いこと言われても気にし過ぎないようにしているからさ

それにちょっとキミらしくないよ?

もし僕が追い詰められて死んでしまっても気にしないくらいで居てほしいな』



「あ、あれ? どうしてナズナさんにその文章が?」


 たしかその文章は落ち込んでいる鈴菜さんの為に送ったものだ。

 送った……ものだよな?

 一応自分のスマホを確認してみる。


 ……あー、うん。普通に送る相手間違えてるわ。


「これを見てみんな心配になったんだよ? キミが『追い詰められて死んでしまっても』なんて文章で送るから」


「ご、ごめん! その、普通に送る相手間違えてた!」


 アプリでの名前が『なずな』、『すずな』と似すぎなんだよキミら。


「送る相手間違えていたって……じゃあ、キミはこの文章を誰に送るつもりだったの?」


 首を傾げながら不思議そうに尋ねてくるナズナさん。


「えっと……それは……」


 チラッと鈴菜さんの顔を見る。

 バッチリ目が合ってしまった。


「弓さん。それ、私に送ろうとしたんだよね? 私がちょっと病んだメッセージを送っちゃったものだから、元気づけようとして少し茶化したんでしょ?」


「病んだメッセージ?」


 和泉君達が不思議そうに聞き返す。

 鈴菜さんもカバンからスマホを取り出して、昨日僕に送ってきたメッセージを皆に見せていた。

 即ち、それは鈴菜さんが僕をネットに悪評を広めた黒幕であることを打ち明けるのと同義。

 恐らく、かなりの覚悟の上で鈴菜さんはスマホを取り出したことだろう。


「これ……」


 鈴菜さんは震える手でスマホを和泉君に手渡した。

 全員がその文章を覗き見る。

 みんな、みるみる顔色が青くなっていく。

 特にナズナさんはかなりショックが大きかったようだった。


「ネットの件って……鈴菜が……っ!?」


 正直に頷く鈴菜さん。


「そんな……なんてことを……!」


 瞳から涙をこぼしながら両膝を折るナズナさん。

 隣にいた和泉君が慌てて彼女を支えている。

 ナズナさんはショックすぎて立っていられることもできなくなってしまったようだ。


「あー、大丈夫だよナズナさん。その件に関しては昨日決着がついている。僕は鈴菜さんを許したから。だからそんな気を病まないで」


「「「「はぁ!?」」」」


 鈴菜さんを除く全員が信じられないものを見るような視線をこちらに向けてきた。


「氷上君の盗作、藍里の暴力、そして鈴菜の件。雪野君、キミはそれを全て……許すっていうのか?」


 和泉君が震えた声で質問を投げてくる。

 まぁ、そうだよな。本来なら1個1個が大きな問題であり、全てを許容することなどできないのが普通だ。


 『許せない』


 そういう気持ちを持つのが普通なんだ。

 でも、僕は——


「氷上与一の件だけはちょっと根が深いから全てを許したわけじゃないけれど……でも淀川さんと鈴菜さんの件は許したよ。謝罪してもらったからね」


「謝罪してもらったからって……」


「いいんだ。和泉君。心配してくれるのは嬉しいけど、もう蒸し返さないでほしいかな。大丈夫。心配しなくても自殺なんかしたりしないからさ」


「——そういう問題じゃない!!」


 僕と和泉君の会話に割り込んできたのはナズナさんだった。

 立つのがやっとの状況の彼女が大声を張り上げてきたのは正直かなり驚いた。

 ナズナさんはふらふらっと千鳥足のような状態で僕の前までくると、僕に視線合わせるように膝を折り、泣きそうな顔をこちらに向けてきた。

 そしてそのまま両手を地面に置き、頭を大きく下げた。


「ごめん……なさい! 私が今までとってしまった酷い態度でキミを傷つけてしまったこと、そして妹が行ってしまったこと。謝って許してもらえる問題ではないのは全てわかっています。でも……本当にすみませんでした!」


「な、ナズナさん!?」


 心の底からの謝罪。

 言葉の節々から感じる後悔。

 そして身内が行ってしまったことに対する責任。


 全てを背負ってナズナさんは僕に土下座をしていた。。

 どう言葉を返せばいいかわからずオロオロしていると、ナズナさんの両脇にもう二人膝を地面に付けてきた人がいる。

 鈴菜さんと淀川さんだった。

 二人はナズナさんと同じように指を合わせ、顔を地面に当てるような勢いで頭を下げた。


「雪野さん。改めて謝罪させてください。私の行った暴言と暴力行為。真実を知らずに暴走してしまった自分。全てが恥ずかしい。そして深く反省しております。誠に申し訳ございませんでした。後日改めてお詫びの品を献上させてください」


 前に謝ってくれた時に許したというのに、淀川さんは再び僕に頭を下げてくれた。

 深い後悔。暴走してしまったことの羞恥。

 そして心の底から謝罪したいという気持ちがダイレクトに伝わって来た。


「弓さん。すみませんでした。弓さんは許すって言ってくれたけど、私が私を許せない。弓さんも私のこと心の底では許してないんでしょ? それで構わないから。罵倒してもいい。叩いてもいい。私に対してどんなことをしても構いません。私はそれを受け入れますから。だから今はただ謝らせてください。ネットでの火消しは私が必ず行いますので!」


 鈴菜さんの後悔は恐らく3人の中で最も大きいのだろう。

 鈴菜さんは心の中で許していないのではないかと問いてきている。

 もしかしたら心の奥底ではそう考えている自分もいるのかもしれない。

 だけど、それを前提にしたとしても……僕はやっぱりこう考えてしまう。


「わかった。3人の謝罪の気持ち、心底伝わって来たよ。だからこそもう一度いう」


 僕がやってほしいことは謝罪じゃない。

 やってほしいことは——


「みんなのこと、許します。だから、お願いだから、これ以上自分を責めないでほしい。後悔に呑み込まれないでほしい。そして、僕の願いとしては……もう一度、皆とちゃんと友達になりたいんだ」


 ナズナさんと鈴菜さん——とくに鈴菜さんとはかなり心の内を明かせる仲になっていた。

 罵倒し合うような仲でも良い。

 以前のようにまた仲良くして欲しい。それに淀川さんともクリエイト談義をしてみたい。

 それは僕の中にある確かな感情だった。


「マス——雪野君、ありがとう。許してくれてありがとう。それと、こちらこそ、お友達としてよろしくお願いします」


「ナズナさん。どうか遠慮しないでほしい。実は僕ナズナさんから『マスターくん』って呼ばれるの好きだったんだ。『黒マスターと白ドールちゃん』は僕の大好きな作品だからね」


「弓くん……」


「わ、わかったよ。またよろしくね。マスターくん!」


 ナズナさんが僕の手を握ってくる。

 わわ。汗とか大丈夫かな。ランニング中だったから手汗が気になって仕方がない。


「雪野さん……いえ、雪野様」


「雪野様!?」


「雪野様、今後私は貴方に味方することを誓います。貴方と氷上さん、どちらに付くか正直迷っていましたが、私は貴方を付きます。何でしたらイラストの提供も行っても良いと考えています」


「だ、ダメー! キュウちゃんのイラストレーターは間に合っているから余計なことしなくていい!!」


「そうでしたわね。雪野様には水河さんという素晴らしい絵師がおられましたよね。他に私が出来ること、なんでも仰ってください。そうでもしないと……私は罪悪感で押しつぶされてしまう」


 氷上与一の担当絵師である淀川さんに関しては事情が複雑な所があるはずだ。

 もしかしたら盗作作品のイラストを描いていた、という事実が今も彼女を苦しめているのかもしれない。

 なんとかしてあげたいけど、僕にはどうすることもできない。


「わ、わかった。えと、じゃあ何かあったら淀川さんを頼ることにするよ」


「はい! いつでもなんなりと仰ってくださいね!」


 この人、どんどん僕の中のキャライメージが変わっていくな。

 初対面の時は高飛車なイメージがあったけど、今や一切そんな印象はなくなっていた。


「弓さん。私はもう絶対に貴方に酷いこと言ったりしないから。説得力ないかもだけど、どんなことがあっても私だけは味方になります。弓さんを虐める人が居たら私が全力で追い払うからね」


「あ、ありがとう。その、鈴菜さんもそんな無理しなくていいからね? ナズナさんにも似たようなこと言ったけど、鈴菜さんと悪友みたいなやり取り結構好きだったからさ。今まで通りで——」


「ううん。無理。言ったでしょ? 弓さんを虐める人は全力で追い払うって。それは自分自身でも同じだから。今まで弓さんのこと全否定していたかもだけど、これからは全肯定するつもりだからよろしく」


 どうやら鈴菜さんとの関係だけは大きく変わってしまいそうだ。

 もうあの罵りが聞けないと思うと少し残念だった。


「とにかくこれで一件落着だね。んじゃ、僕は一度帰るよ。シャワー浴びてから学校いくね」


 そう言い残し、帰路に付こうとする僕だったが……


    ギュム。


 右手を誰かに握られる感触があった。

 花恋さんだった。


「あ、あの? 花恋さん?」


「弓くんを一人にするの心配なので私も同行します」


「心配しなくても自殺とか考えたりしてないから大丈夫——」


「水河さん、電車で向かってきている瑠璃川さんに事情を説明お願いしても良いですか?」


「あっ、うん。そうだったね。瑠璃川さんもキュウちゃんのこと探し回ってるかもしれないし……オーケーだよ」


「ありがとうございます。さっ、弓くん行きましょう」


「あっ、う、うん。本当に一人でいいのになぁ」


 花恋さんはこうなってしまうと強情なので素直に連行されることにする。

 ただのランニングがなんだかとんでもない事態になってしまったなぁ。

 とりあえず、今度からメッセージの内容と送り先には気を付けるように心がけなきゃな。

―――――――――――――――

ついに100話……!

思った以上長編になってしまい作者自身も驚いています。

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