深い謎
「あれは偶然だ。誓って言うが、俺は何も見ていないし、見るつもりもなかった。そもそも俺はお前のような貧相な胸には……」
あ、これはやばいやつだ。ふと横を見ると、アイリスは俺を、いや、まるで異形を狩る時のように、いや、それ以上の鋭い目で睨んでいた。こ、これは本当にまずい。
「いや、その…これは、あれだ。単なる誤解だ! 比喩的な表現というか、決してお前を侮辱するつもりはなかったんだ。むしろ、逆にその…こう…胸の大きさとか、そんなのは全然関係なくて、要するに人間の本質は内面であって……」
どんどん自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた。これは、泥沼の言い訳というやつだろう。
「はぁ、もうこのことはいいわ。私も不注意だったわ。ただ目隠しと手足を縛るだけだったもの。あなたがここまでの変態だと見抜けなかった私の落ち度よ。次は確実に息の根を止めてから水浴びをするから安心しなさい」
「いやいやいや、待て待て! まず冷静になろう。話し合いが大事だって、どっかの偉い人が言ってた気がする!」
これがいわゆる宣戦布告というやつだろうか。いや、違う。宣戦布告ならまだ余地がある。アイリスのその声には、もはや戦いの意志すらない。全ては決まっている、というような確信に満ちている。
「はぁ、そんなことよりもこの子のことどう思う?」
アイリスはため息をつき、少女を見て言う。少女は透き通るような長い蒼白の髪を広げ、いまだに目を閉じ伏している。
そんなこと……。俺への扱い、ひどすぎじゃないか?と思いながらも、少女の存在に気を戻す。
「まぁ、ただの迷子ってわけでもないよな。どうやって世界樹の中に入ったのか」
世界樹の中へ入ることはそう簡単ではない。この少女がどうやって世界樹へたどり着いたのか。考えられる方法は二つだ。一つ目は中央広場にある転送石からはいる方法だ。通常、冒険者は世界樹へ入るために通行許可証を携帯しなければならない。俺やアイリスの腕輪は通行許可証の役割を果たしている。しかし、この少女にはそれがない。腕輪を無くした可能性もあるが腕には外した痕跡はない。
もう一つの方法はまだ発見されていない世界樹への隠しルートから世界樹へ入る方法だ。しかし、この可能性も低いと考える。世界樹には穴一つなく、無理やり開けようとすることもできない。
「あなたはこの子が世界樹の外から入ってきたと思っているの?」
「……ん?それはどういうことだ」
「この子がどうやって川に落ちたと思う?」
アイリスは真剣な表情でこちらを見る。
衝撃の大きさを考えると木から落ちたとかのレベルではない。
「空から降ってきたのよ。私たち人類がいまだに到達していない世界樹の頂上から」
アイリスの目から冗談を言っているわけでは無さそうだ。そもそもアイリスは冗談をいうような性格ではない。一体、この少女は何者なのか。
「……おは……よう?」
蒼白の少女は目を覚ます。