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君と世界を救う日  作者: 充電中
2/6

始まりは突然に② 

 複雑に入り組んでいるギルド内を迷いのない足取りでギルド長が進んでいく。俺はギルド長に遅れないようその後を追う。

 ギルド内には侵入者をはじき出すための工夫が随所に見られる。その一つがこの迷宮のように入り組んだ複雑な廊下だ。一度足を踏み入れれば抜け出すことは容易ではない。そのため普段は行燈(あんどん)を道案内として使っている。火のついた行燈に行きたい場所を書いた紙を燃やすと行燈がその場所へと案内してくれる。

 普通は行燈なしでは迷子になるがギルド長はそんなものを使わずにスタスタと歩いていく。この人はギルド内すべての場所を覚えているのか。だとすれば、この人は化け物か。そんなことを思いながら俺はギルド長と距離が離れていることに気づき歩みを速めた。

 どのくらい歩いたのかと考えているとギルド長がピタッと扉の前で立ち止まった。

 ---コンコンッ

 ギルド長が扉をたたく。

 どうやらここが目的の場所らしい。

 「どうぞ」

 部屋の奥から女性らしき声がする。ギルド長はドアをガチャッと開き中へと入っていく。俺もギルド長につられ不安や緊張といったネガティブな感情を抱き部屋の中へと入る。

 「今日はいったいどんなご用件ですか、ギルド長」

 どこか(わび)しさを感じる少女の姿がそこにあった。端正な顔立ち。真紅に染められた髪と瞳。彼女を『美少女』と表現すること自体、おこがましさを感じる。

 窓から入る心地よい風と共に彼女のいい匂いがこちらに運ばれてくる。

 「君に紹介したい奴がいる」

 俺は一瞬、少女に対してたじろぎそうになるが、ギルド長はそんな様子もなく普段と変わらず彼女と接する。

 「こいつだ。名前はシユウという。君と同じ冒険者だ」

 「しゆうです。よ、よろしく」

 俺はギルド長に押され前に出る。そのままの流れで俺は自己紹介をする。

 テーブルにしおりが挟まれた本が置いてある。本棚には大きさや種類ごとに区別された本がぎっしりと並んでいる。

 「あ、そう」

 彼女から素っ気ない返事が返ってくる。

 俺は内心イラッとしたがここは何も言わずに大人な対応をする。第一印象は重要だ。ここは我慢をしよう。

 「アイリス、もう少し愛想よくできないのか」

 ギルド長が少女に向かって話しかける。

 どうやら彼女はアイリスというらしい。俺はアイリスという言葉に聞き覚えはあったが彼女が何者か思い出せなかった。

 「見るからに社会不適合者丸出しの人に愛想よくする必要がありますか」

 「確かに、一理あるな」

 「一理あるって、そこは否定してくださいよ」

 俺はツッコミを入れる。とても失礼な話である。どこをどう見たら俺が社会不適合者に見えるわけか。コミ障で根暗で一人でいることが好きで人間関係が苦手でってもしかして俺って?いや、断じて違う。

 「実際そのようなものだろう。友人の一人もいないのだから」

 ギルド長が俺に現実を突きつける。この人は本当に容赦がない。

 ---フフッ

 アイリスは今まで無表情だった顔を崩し微笑する。完全に俺を馬鹿にした笑いだ。

 「俺は友人を作らないだけです」

 俺は若干泣き目になりながら言う。苦し紛れの言い訳であることは俺にもわかる。

 「滑稽(こっけい)ね。下手に見栄を張るのはやめた方がいいわよ」

 アイリスが上から目線に言ってくる。

 「お前はどうなんだよ。友人とかいるのか?」

 俺は彼女の態度に腹を立て言い返す。

 「お前って言うな。私にはアイリスという名前がある」

 アイリスは声を荒げる。

 「さっき俺が挨拶したら()()、『あ、そう』って言って何も言わなかったよな。てっきり名前のない哀れな奴だと思ったが違ったのか」

 俺は彼女を(あお)るような口調で言う。

 さっきから失礼な奴だ。名前も名乗らないくせにお前って呼ぶなって。どんだけ自己中な奴なんだ。

 「会話の流れからわからないかしら。それとも言葉もわからないの。だから友達のいない社会不適合者は」

 アイリスもシユウに釣られ煽り口調になる。

 「やめろお前ら。いい年して喧嘩をするんじゃない」

 ギルド長の迫力のある声が響く。俺らはその声に無言になる。

 先程まで騒がしかった部屋が一瞬にして数秒の静寂(せいじゃく)に包まれる。

 「すみません。少し取り乱してしまいました。私のことを『お前』と呼ぶ常識のない人がいたもので」

 「すみません。自分の名前すら名乗ることができない自己中女がいたもので」

 俺らはそれぞれギルド長に謝罪しそれぞれをまた煽りあう。

 それを聞き、ギルド長は俺とアイリスを物凄い形相(ぎょうそう)で睨みつける。

 再び静寂が訪れる。今度は先程よりも長い静寂であった。

 この静寂はギルド長の『はぁ』というため息によって終わりを告げる。

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