始まりは突然に①
そこは地図のどこにも載っていない幻の都市である。小さすぎて地図に載らないわけではない。都市伝説のようなおとぎ話ではない。その都市は確かに存在する。
なぜその都市は地図に載らないのか?それは何千年、何万年と天空を漂い続ける天空都市であるからだ。その名を天空都市『レヴァリィ』という。
この都市は、巨大な世界樹を中心に発展してきた。その樹は天をも貫き、都市を象徴する存在として、レヴァリィを支えている。樹の枝葉は輝く緑に覆われ、その葉が夜空に反射することで、夜でも都市は明るく照らされている。
この都市は地上とは異なり、進化を遂げた生物や植物たちが独自の生態系を築き暮らしている。この生態系は都市全体に恵みや災厄をもたらしており、住民たちは独自の技術や知識を発展させてきた。
幻想的な都市は、地図には乗らないが、その美しさと進化した文明は確かに存在している。
天空都市『レヴァリィ』の中で異彩を放つ巨大な建物。そこは冒険者を統括する『ギルド』が管理運営を行っている。そこは天空都市の中で最も高い建物の一つであり、その高さから他の建物と一線を画している。この高さから、都市全体を見渡すことができ、周囲の景色を楽しむことができる。
そんな権力を象徴するような巨大な建物の最上階に俺は呼び出されている。
「はぁ、だめといったらだめだ。一人で世界樹の中にもぐりたい?シユウ、君は死にたいのか」
ギルド長ヴァイオレットは大きなため息をつくとこちらを鋭い眼で睨みつける。
「せ、世界樹の中で死ぬのか飢えて野垂れ死ぬかの違いです。だ、だったら世界樹の中で死ぬ方が良いでしょう」
ギルド長の威圧によって俺は声が震え嚙みまくる。恥ずかしすぎる。今すぐにでもここから逃げ出したい。
ギルド長は内面はともかく見た目は美しい女性である。そんな女性に睨まれたら緊張の一つや二つはするものだ。
「君って奴はまったく」
先ほどよりも大きいため息をつく。
「どうして死ぬことが前提で話をするのだ。もっとこう、小さな幸せを見つけそれを糧にして生きようとは思わないのか」
「たとえばどんなことです?」
「そうだな、おいしいご飯を食べるとか誰かに恋をするみたいなことだ」
「じゃ、ギルド長はまだ小さな幸せを求めている最中ってことですね」
「どういうことだ」
ギルド長の顔が少し歪む。
「それはギルド長がいまだに独身で...」
---ビュン
風を切り裂く音が聞こえる。
俺の目の前には拳をだしたギルド長が物凄い殺気を放ち微笑んでいる。
この人、マジで俺のことを殺せるようなグーパンチをしたよな。これは確実に今日の夢に出てトラウマになるやつだ。
「何か言いたいことはあるか」
「ありません。すみませんでした」
俺は最上位の冒険者でも驚くような反射速度で土下座をした。一切無駄のない完璧な土下座であった。ここで変なことを言えば今度は確実に俺の頭は吹っ飛ぶだろう。
「もういい、この話はやめだ」
俺の土下座の甲斐あってどうやら許されたらしい。
「話を戻すが、私は君が世界樹へ行くことに反対ではない。ただな、ギルド長として冒険者の命を守る責務が私にはある。一人で世界樹に挑むのは自殺することに等しい。そんなことを許可できるわけがない。最低でも4人パーティーでなければ世界樹の中へ入る許可は出せない。それは君もわかっていることだろう」
「ええ、分かっています」
「ところで君にパーティーを組めるような友人はいるか?」
俺にパーティーを組めるような友人なんているわけがない。ギルド長はそれを分かって言っている。さっきの報復でのしたいのか?
「人類は祖先を同じとする遠い親戚の集まりみたいなものです。そこに上も下もありません。なので俺は特定の親しい人を作らないんです」
我ながらいいことを言ったと自画自賛する。この主張のミソは友人をつくれないのではなくつくらないとしたところだ。それにより友人がいない可哀そうな奴ではなくなる。
「要するにボッチってわけか」
「いや、そうじゃなくて...」
核心を突くギルド長の言葉に俺は動揺する。こういうのってわかってても言わないのが普通だろう。さすがの俺での泣いちゃうぞ。
「まぁ、そんなところじゃないかと思ってはいたがな」
ギルド長はさらに追撃をしてくる。先程の恨みを晴らすように俺にクスッと笑って見せた。
確信犯だ。俺はいつか仕返ししてやろうと心に誓う。
「そんなボッチな君に今回提案したいことがある。この提案を受けてくれれば世界樹の中に入る許可をあげよう」
こういう時はろくでもないことを言ってくるに違いない。この提案は断ろう。
「そんな嫌な顔をするな。別に難しい事ではない。ついてきたまえ」
ギルド長は返事も聞かずに俺の首根っこを持ってどこかへと歩き出す。どうやら俺には拒否する権利がないらしい。いったいどんな提案なのか。俺は一抹の不安を覚えとある部屋へと連れていかれた。