第95話 文化祭
文化祭当日。鳳凰女学園の文化祭は2日間行われ、2日目は生徒たちだけだが、この初日はこの学院に通う保護者や、この学院に進学希望している親子さんらに対してのオープンキャンパスも兼ねている。招待状を受付で渡し、未来の後輩たちが続々と入ってくる中、三雲はドラキュラメイクを施され、執事服に着替えて模擬店の開店時間となる11時を待っていた。
「窓からちらっと見たけど、お客さんは意外と多いね」
「今年は残暑がキツイからな。冷房が効いている室内に居たいってのは分かるぜ」
「あとは人気のある部活は列が長いからあきらめて、空いているこちらに流れてきたという考えもありますわね」
「去年とは大違いです」
「これならいける……かも」
成功を信じて、部室や身なりの最終確認を行う。部室の壁には飾りつけのほかにも、魔法陣が光り輝いている写真(あくまでも化学反応ということになっている)、部長や麗華たちがまとめ上げた(公表できそうな範囲の)錬金術書の解読や心霊現象のポスター報告といった真面目なものも張られている。
「みっちゃん、服大丈夫?」
「さらしを巻いているせいでちょっと胸がきついけど、1日、2日くらいなら我慢できるかな」
「大きくなったもんね~」
くすくすと笑う紅葉を見る。彼女も男装しているが、髪を短く切りそろえていることもあってあどけなさの残る少年のように見えて、少しどきりとする。
(って何考えているんだ、俺。これじゃあ、女の子みたいじゃないか)
いくら女の子の生活んいなれたと言っても自分は男だと言い聞かせて、刻々と刻む時計を見ながら開始時間を待つ。そして、オープンと同時に入り込んでくる客たち。保護者である父兄も少なからずいるが、そのほとんどは女性客である。ピーカンな晴天の中、汗だくとなっている彼女らは冷たいジュースやかき氷を頼み、気合を入れて作ったクッキーの売り上げはあまりよろしくない。
「2番、マンゴーとブルーハワイとイチゴ!3番、コーラ、クッキーとアイスティー。6番、イチゴとソーダ、レモンとコーラ、マンゴーとオレンジジュース」
「分かりましたわ」
紅葉がほぼ同時に注文をしてくる客の注文を聞き取り、麗華がそれらを素早く把握、てきぱきと手を動かし、紙コップにジュースを入れて、部長がせっせと削っているかき氷にシロップをかけていく。それらをお盆の上にのせて何番に運ばせるかをウェイターの三雲と紅葉、カーミラの3人に伝える。
「しかし、よく覚えられるよな」
「将来は会社の看板を背負う者として、これくらいのタスク処理は造作もありませんわ。しゃべっている暇があれば早く」
「あいよ……お嬢様お待ちしました。マンゴーとブルーハワイ、イチゴのかき氷です」
「きゃー、写真撮って良い?」
「構わないぜ」
「長谷川さんの男装、意外と似合っているよね~」
「うん。着慣れているって感じ」
(そりゃあ、去年まで男だったし……)
女の子のフリをするよりかはゲームと同じようにふるまっても演技だと思われる今の立場は心情的には楽である。異世界から来て早々に不慣れそうな客の接待となったカーミラを心配してみると、上級生のお姉さま方の顎を少し持ち上げて妖艶そうな顔でささやいていた。
「キミの血、美味しそうだね。仕事中じゃなかったら、今でも食べたいくらい」
「はい、食べてください♡」
(なに口説いているんだ、あいつ……)
本物の吸血鬼らしく乙女の血を吸い取ろうと毒牙にかけようとする場面なのだが、カーミラの身体が吸血鬼そのものではないことを知っている三雲たちにとっては、ただの軟派にしか見えない。といっても、彼女の風貌は男装してもその美しさを隠せるようなものではなく、むしろ日本にはめったにいないきざな西洋人らし甘い口調は聞くものをお姉さま方を虜にしていた。
「悪いけど、僕は美味しい者は最後にとっておく主義だからね。そうだ、僕たちが作ったクッキーを頼んでくれると嬉しいかな」
「はい、喜んで♡」
「4番クッキーとオレンジジュース」
口説いてから、売れ行きの悪いクッキーや飲み物を頼ませて在庫をはけていく。その手腕はホストの如し。一番、真っ当にウェイターをやっている紅葉も可愛がられる始末。何にせよ、お客さんの反応は上々。少なくともドベになることはないだろう。そして、お昼のピークが過ぎ、売り切れの商品も出始めたこともあって客足も遠ざかっていた。
「かき氷、完売したね~」
「暑いもんな~」
「これ以上、忙しくなることはないでしょう。三雲と紅葉は1時間席を外しても構いませんわ。代わりに、手の空いた部長様がやるので」
「が、頑張る……」
「みっちゃん、お言葉に甘えようか」
「おう、腹減っていたんだよなあ。隣の準備室で着替えて……」
「あっ、日傘は構いませんが、衣服はそのままで。2日目の宣伝もかねていますので」
「そういうことね。わかったよ、色々と見て回るよ」
「1時間しかないからあまり混んでないところを選ぼう」
「だな」
紅葉と一緒に室内の展示品を見て回ることにした。ゲーム同好会は数名の部員を残してテーブルゲームの無料貸し出し、華道部や茶道部等は自身の作品展示、自分たちと同じ1年生のポスター作品を見て回っているとパシャリとシャッターの音がする。
「……良い絵GET」
「なんだ、由美たちか。帰宅部なのは聞いたけど、今、何しているんだ?」
「今はねえ、クラスメートの写真を撮っているの」
「……あとイケメン探し」
「そっちが本命だったり~」
「イケメンって……男性客のほとんどは父親なんだから、脂ぎった小太りのおっさんならともかく若い男性なんて早々来てないだろ」
「と思うじゃん。さっき、私たちくらいの男性いたんだよね~」
「やつれていたけどね。ああいうモヤシはアタシの趣味じゃない」
「……ちゃんとご飯食べないと」
「へえ~、そんな奴がいたんだな。どういう奴だ?」
恵のスマホから写真を見せてもらい、写真を確認していく。映っているクラスメートが声を出して客寄せしていたり、楽しく遊んでいたりとその様子は様々だ。そして、写真を送っていると、ストップと声をかけられたので、その写真を見る。
「ん? どこにいるんだ……」
「ここ、小さく映っているでしょう」
「……一緒にとろうとしたら逃げられた」
由美たちが指さしたのは後ろを振り向いて、手を振っている男性。その顔を大きく映してみた瞬間、三雲と紅葉は目を大きく見開き、顔色が変わる。
「お、おい……これって……」
「うん、間違いないよ」
「知っている人?」
「知っているも何も……俺だ」
確かに痩せている印象はあるが、野球をしていなければこんな風に育つかもしれないと思わせるくらいには似通っている。
「どういうこと?アタシにわかりやすく説明プリーズ」
「……もしかして元の世界の?」
「ああ。元の俺だ」
「なんで文化祭に?」
「そんなの分かんねえけど、こいつは黒幕に繋がる大きな手掛かりだ。どこに行ったか分かるか?」
「外に出たとは思うけど……帰ったかもしれないよ」
「そうかもしれないけど、まだいるかもしれない。探そう!」
「そういうことなら、アタシたちも探すね~」
外に出て男性がいないか探そうとするも、今日は一般客の出入りの激しい一日。人の流れがあって見つけにくい上に、背格好が似ている男性がいても別人だったりとこの人混みからたった一人の人間を探すのは至難の業であった。
「もう時間か……」
「うん。これ以上遅れると麗華ちゃんに怒られちゃう」
「だな……」
後は由美たちが見つけてくれるかにかかっていた。そして、麗華に遅刻した事情を簡単に話した後、部長とカーミラと交代した。その後、みゅ~からは見つかったという連絡もなく、波乱の1日目は終わるのであった。




