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第93話 略奪者

 上から見るとドーナツ状になっている島に降り立ったミクたち。島の中央にある巨大な湖の前でクロウが1,2分ほどかかる長い詠唱を終えると、湖の底から小島とそこにかかる石橋が現れる。橋を渡った先にあるのはドクロマークを掲げた洞穴。そこに入ってみると、男性が多かった名残かイカ臭い匂いが漂い、あっちこっちに脱ぎ捨てられた衣服類、使いものにならなくなった剣や空き瓶が転がっている。階段を下っていき、クロウが宝物庫の扉を開けると、そこには宝箱からはみ出ているほどの金貨、豪華な装飾品や宝石の類がゴロゴロと転がっていた。


「すげー!」


「いくら貸しがあるとはいえ見るだけにしろよ。もし、触ったら撃ち抜くぞ」


「わかっているって」


「……俺様の【鑑定】スキルによると、ここには誰も来ていない。お前たちのお仲間は途中で全滅したようだな」


「そんなことわかるの~?」


「おう、俺様みたいな高レベルなスキル能力者なら見ただけでその来歴が分かる。少なくとも、ここから何処かへ移動した経歴はない」


「骨董品店でも開いたほうが良いにゃ」


「悪いが、お嬢ちゃん。俺はそういったちまちましたことが大嫌いなんだ。それに集めたコレクションを売るなんざ死んでもゴメンだ」


「死んでるけどな」


「ああ、全くその通りだ。俺様はここを墓場にして眠る。巻き込まれたくないならさっさと帰りな」


「ええ~、ケチ~」


「手土産欲しいにゃん」


「少しくらいね~」


「これでもあんたらには感謝しているんだぜ。この大海賊クロウ様が宝を見せた上に金も命もとらない。大リップサービスだ。それとも、ここで俺様と殺るか?」


(クエストクリアするのにはここでクロウを倒さないといけないんだけど……これ以上悪さする気がないみたいだし、気が引けるなぁ)


 さてどう返答しようかとミクが考えているとき、上の階からドタバタと足音が聞こえる。その数は1人2人ではない。数十人はくだらないであろう軍勢と呼ぶべきものだ。そして、その者たちが姿を現す。その名前はNPCではなくプレイヤーを現す色で表示されていた。


「配信を見ながら、後を付いて来て正解だったぜ」


「見ろよ、こりゃあスゲーぜ。文字通り宝の山だ」


「本当に持ち前は山分けで良いんですか、RISAさん」


「アタイは嘘はつかないよ(後でお前たちをPKして奪うんだけどね)」


「うひょー、NPC1人とプレイヤー3人ぶっ殺せば高額アイテム山盛りだ!」


『【漆黒の翼】か……』


『いや、待て。それ以外の奴もいるぞ』


『ウチのギルドがすみません by【宇宙船】ギルマス』


『後でしめときますby【モノクロ】サブマス』


 どうやらPK禁止にしているギルドからも数名ほど流入しており、余計なトラブルを引き起こさないようにお気づいたギルマスたちが謝罪し始めている。こういった裏切り・背信行為はネットゲームあるあるではあるが、良い気にはさせないプレイでもあり、当然コメント欄からは非難の対象になる。だが、ミクの関心は今、そこにはなくRISAにあった。


「RISAって火山であった奴だろ。でも、今の姿は……」


『知らないの? 彼女、転生ガチャを引き直しまくって――』


『総額20万の姿』


「今のアタイは竜人だよ!」


「シルちゃん!」


 みゅ~が誇る鉄壁の守護龍シルバードラゴンがRISAのドラゴンブレスを防ぐ盾となる。防御性能が随一の能力を持つ彼女でさえ、たった1撃で8割近くのHPを削られてしまう。


「シルちゃん!」


「おいおい、嘘だろ!?」


「アタイは【ドラゴンキラー】のスキル、つまり竜特攻を持っている。そして、お前たちは所詮、雑魚プレイヤー。基本性能だけで勝てるほど対人戦は甘くないんだよ!スケイルショット!」


 RISAが腕のうろこを飛ばし、4人を守っているシルバードラゴンに着弾させる。あっという間に消滅していくシルバードラゴンであったが、彼女が作ってくれたほんのわずかな隙、RISAたちの視界から姿を覆いつくしたその時間でミクは天井まで高く飛び、RISAたちに鉄球を投げつけていた。


「アタイが黒魔導士だからといって不用意に近づいてこなかったのは褒めてやる。だけどね」


「俺の球を軌道を見切ったうえで片手で……」


「遠距離から攻撃するのに必要な視力強化系のスキルは網羅しているアタイにはスローボールにも等しい。投擲系の武器なんて対人戦では役に立たない子供のお遊戯なのさ」


「くっ……」


 ミクが今まで戦ってきたプレイヤーとここまで差があるのかと思いながらも、ミクは防御を殴り捨て【灼熱の血】【幻影の血】【鮮血の世界】【ENVY】【血限突破】を発動させる。


「これなら!」


「素早さは悪くない。だが甘い!【遅延詠唱】ドラゴンテイル」


「その程度の攻撃なら!」


 RISAが尻尾を伸ばしてミクを捕まえようとするも、難なくそれを躱す。だが、その逃げた先にはおかれていた巨大な水の弾にぶつかり、直撃を喰らう。


「耐えたってことは相性反転スキルだ!」


「闇か火で倒せ!」


「イモータルブレード!」


「前のお返しだ!」


 剣を振るって魔法をはじき返しているミクに襲い掛かる数十機の機械兵軍団。かつてギルド対抗戦で自分たちがやっていたことがそのまま跳ね返ってきた形だ。銃弾の雨嵐にミクは躱すので精一杯、とてもじゃないが反撃に出る余裕はない。そして、ミクを足止めしている間に残りのプレイヤーがゆっちーたちを狙う。


「ソニちゃん!」


「お地蔵さんにゃん」


「【ハーフエフェクト】、呪いは俺が引き受ける」


 スキルを発動させた魔導士が広範囲に広がる炎の波でお地蔵さんごと飛翔中のソニックバードを飲み込んでいく。そして、お地蔵さんの天罰がプレイヤーに襲うも、事前に貼った防壁でダメージを半減し、後ろに控えていたヒーラーが即座に回復する。


『これは無理』


『上位プレイヤーが束になっているうえに数でも負けているしな』


『これはしゃーない』


『公開処刑やん』


「てめえら、俺の物は奪わせねえぞ」


「何言っているんだ。盗品だろ、それ」


「だったら俺たちが奪っても良いじゃねえか」


「それにアイテム強奪してこねえなら、てめえは雑魚だよ。ホーリーバインド」


 クロウが光の鎖で身動きが拘束される。アンデッド化している彼にとっては長時間解けない最悪の状態だ。そこに当てられる弱点属性である光属性の呪文。ボスとして高いHPを持つとはいえ、1vs6で戦うことを前提にしたHPであり、その数倍で相手取ることは考えていない。瞬く間にHPが減っていく様子にミクが思わず「クロウのおっさん!」と呼び掛けてしまう。


「今だ!」


 よそ見をしたことで反応が遅れたミクの目の前に迫りくる獄炎の火球。運よく【ENVY】の効果が切れたことで乗り切ったものの、しばらく【ENVY】は使えない。


「ちっ、運が良いね」


(どうする? 【ENVY】が切れたってことは残るスキルの効果時間は残り僅か。効果時間が切れたら他のスキルは使えるけど、ウラガルを出したところで――)


 手札が尽きかけたミクがゆっちーの方を見ると、召喚できるモンスターも尽きて、4、5人のプレイヤーに囲まれている。


『これ通報したほうが良い奴?』


『いや、PK自体はセーフだから』


『でも、悪質だしなぁ……』


『これ認めたら誰も配信しなくなるから通報案件だろ』


 コメント欄ではもはや勝負の行く末より番外戦術をするかどうかで議論がなされており、ミクたちが勝つ可能性など議論すらなされていない。そんなとき、配信画面にノイズが走る。



 ザ、ザザ、ザザザザザ、ザザアアアアア……



『ん? なんだ?』


『また機材トラブルか?』


『今度はノイズキャンセラー使うから大丈夫 byみっちー』


『俺たちのお布施が機材に』


『照れるぜ』


「てめえら、人のものを奪って良いのはこの……俺様…………黒ひげだあああああああああああ!!」



 ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ……



 配信画面ではノイズ交じりにながらも映し出されるバグのような光景。洞窟の地下にいたはずのプレイヤーたちがいつの間にか海の上に浮かぶ船上に投げ出され、空は砂嵐、前方にはこちらに砲を向ける船が50は超えてそうな大船団、その奥には一際巨大な真っ黒な船がドクロマークを掲げている。


「なんだこれは?」


「アタイたちは地下にいたはず?」


「これはエリーのときと同じ!?」


 真っ黒な船の頭上には『Secret OS ver5』の文字が表示されている。エリーのときと同じならば、あそこにクロウがとらわれている可能性が高い。とはいえ、そんなことを知らないPKの面々や視聴者たちは混乱している。


「なんだい、あれは?」


『隠しボス?』


『HPゲージないし、イベント戦?』


「ああ~、そんなところ。似たような相手と戦ったことあるんだけど、その時は周りの付属品を倒して露出した弱点部位に攻撃を当て続けていたら勝てた。今度も同じだとは思う」


『なんだゲージ表示がないだけか』


『そういうタイプのボスね』


『ってことは周りの船を倒した後、黒い船を倒せってことか』


 ミクの視聴者たちが納得したとき、黒い船の頭上に巨大なドクロが浮かび上がり、しゃべりかけてくる。


「お前のものは俺のものだ」


 そのたった一言をしゃべった後、表示されたメッセージウィンドウにはこう書かれていた。



【装備品を除くすべてのアイテムを奪われました。ボスを倒して取り戻そう!】



「はあああああああああああああ!?」


『ボスの戦闘開始時スキル発動するのかよ!』


『メシウマとか言っている場合じゃねえ』


『初見でこれはきついぞ』


「どうするにゃん?」


「倒すに決まっている。RISAさん、今は争っている場合じゃない。ここは共――」


 自分たちではどうこうできない状況。手を組むのが最善だと考えたミクが共闘を持ちかけようとしたとき、ミクの横を素通りさせる魔法弾。それは拒絶を意味していた。


「何言っているんだい? ここでお前たちを倒せば、アタイたちが独り占めできるじゃないか」


「そんなこと言っている場合かよ!」


「ミクミク、先に行って!ここはあたしたちが引き受ける」


「別にアレを倒しても構わないのだろうにゃん」


「はん、アンタらのような雑魚、一瞬で消し飛ばしてやるよ!ドラゴンブレス!」


 ミクが振り返ることなく黒い船に向かって一直線に向かっていく。その背後で業火に焼かれて倒されている二人を見ることもなく、二人の思いを背負いながら全速力で向かっていくのであった。

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