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VRMMOで吸血姫になった俺は幼馴染と一緒に女学園に入学する!?  作者: ゼクスユイ


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第89話 憤怒

 8月31日20時。夏休み最終日となるこの日、3日間に渡ったレイドイベントも終わり、一息入れたところでミクはカエデ、ダイチ、アルゴ、ジーク、ハクエンの現状考えうる最強のパーティーを結成し、万全の構えで魔王城の中へと入っていく。ミクが6人を倒したことは魔王もわかっているのか、最初に来た時と同様、魔王城の中には人っ子一人いない。


「来たか」


「おう。約束通り、大罪の悪魔6人全員倒したぜ」


「1年も経たずに全滅とはな。どうやら貴様を侮っていたようだ。認めよう。貴様たちは我と戦うのにふさわしい存在であると!」


 魔王がマントを脱ぎ捨て鋼のように鍛えられた肉体をさらけ出す。その姿に一切の慢心なしということが伺える。


「我が真名、憤怒のラース。分相応ではないが、魔王を務めている者だ」


「憤怒って言う割には理性的だし、分相応じゃないって割には治められている気もするけどな」


「我が得意とする戦闘から遠ざかっていたせいでフラストレーションはたまっていたぞ。では行くぞ!」


 戦闘が始まり、ラースの頭上にHPゲージが表示されると同時に【GREED】と【SLOTH】の判定が行われる。パーティメンバーは気合を入れたフルメンバーであるがゆえに、【GREED】の判定は成功。物理攻撃力と魔法攻撃力が上昇し、【SLOTH】のデメリットでその上昇分が打ち消される。


「他の大罪の悪魔の効果を使用だと!?」


「これは魔王の権能の一つ。同胞の能力を使用できる能力だ。多少は劣化するがな。今回は汝らに倒された我が同胞、大罪の悪魔の能力を使わせてもらおう」


「おいおいスキルコピーは盗賊だけの特権にしてほしいぜ」


「むしろ不自然だと思わないか? それとも人間にできて魔王である我にできないとでも?」


「言われてみればそうかもしれないが……いやいや駄目だろ」


「ラストの状態異常はサンクチュアリで対策できるが、話している暇はないぞ。時間が経てば、【SLOTH】の効果で向こうが有利になる」


 ハクエンの言葉に気を引き締めたミクたちはラースに向かっていくと、ラースの足元から足元から黒い手と金色の触手が延びてくる。


「あれはグリードの触手とラストの手!」


「ミク、あっちの手は任せられるか?」


「おう、タネは分かっているんだ。アクアクラブ、お前に決めた!」


 黒い手の前に召喚されたアクアクラブが魔法陣の中へと引きずり込まれ、ラスト戦のようにカンストとまではいかないが特大のダメージが与えられる。その隙に、触手の先端に当たらないようにダイチのチェーンバインドが触手を縛り付ける。


「装備破壊の効力があるのは、触手の先端部だけってのは分かっているんだ。しかも、グリードのときより触手の数自体は少ない」


「しかも、ラストの手はもう一度使うのに一呼吸置く必要がある」


「アルゴ、今がチャンスだ!」


「おう!ラストの効果で異性特攻があっても、同性の俺なら問題はねえ!オラァ」


「その怪力は我から見ても脅威だな。【ENVY】」


「まずい、アルゴのおっさん!」


 アルゴの自慢の怪力が【ENVY】によって弱体化し、振り下ろした斧がはじき返される。それによって生じた隙。それをラースが見逃す理由もなく、手のひらから魔法が放たれようとしている。


「させるか、【ポジションチェンジ】」


 アルゴとの位置を入れ替えたダイチに向けてラースが黒い魔導波を放つ。だが、【ENVY】によって自身にかけたバフはデバフとなり、大ダメージは必至だ。


「エンヴィーの話はミクから聞いているんでね、リフレクトシールド」


 致命的な一撃となる攻撃を耐えるのではなくはじき返すことで、ラースにダメージを負わせつつ窮地から脱することに成功するダイチ。この一瞬の判断にラースは感心したかのようにほうと息を漏らす。だが、そんな悠長なことをさせまいと息をひそめていたジークが背後から切り付けようとする。


「背中ががら空きだぜ、喰らいやがれ!」


「我に油断はない。【PRIDE】」


 足元から伸びた影がジークの衣服を引っ張り、壁にたたきつける。それを見たカエデが急いでジークにヒールをかける。


「大丈夫か、ジークの旦那」


「大丈夫だ。それにしても、今までのボスの能力を使えるとかインチキすぎるのもほどがあるだろ」


「しかも、ラース自身の特殊能力自体は不明ときた」


「なーに、弱気になっているんだよ、ハクエンさん。相手が強豪校であってもゲームセットまで勝負は分からないんだ。3回表で3点差つけられたくらいであーだこーだ言うにはまだ早いぜ」


「……そうかもしれんな」


「ああ、行くぜ!サイクロプス」


「その程度の雑魚、能力を使うまでもない」


 手のひらから魔導弾を1発放つだけでサイクロプスが倒れて消滅する。そして、ラースが再度黒い手を召喚すると同時に飛び込んできたオオクワガタを引きずり込んでしまい、消滅する。


「ちっ、無駄打ちをしてしまったか」


「これでしばらく使えないから、【機械兵召喚】」


「俺たちも使うぞ!」


「【PRIDE】だけでは捌けんか。面白い」


 召喚される機甲軍団を見て、ラースはようやく剣を抜く。ギザギザの鋸のような刃で堅牢なはずの機械兵の装甲をバターのように切り裂いていく。この調子で機械兵を倒されれば数分もしないうちに全滅だろう。


「このままむざむざやられさせるわけにはいかん。カエデ!」


「わかっています。2人なら!ホーリーバインド」


 2人のバインドでラースの動きを封じ込めようとする。腕に身きつけられた二重の光の鎖。それだけのバインドを喰らっても、剣を振るうほどの腕力はある。


「だが、動きが鈍くなれば!どぉりゃあ!」


「先とおなじことだ。【ENVY】」


「それを待っていたぜ、火炎トカゲ!」


「まだ雑魚モンスターを隠し持っていたか!」


 機械兵に紛れていたミクが火炎トカゲに炎を吐かせる。本来ならば、無傷に等しいダメージを喰らうはず【ENVY】の反転能力により、大ダメージを受けてしまう。ラースから見ればミクが弱小モンスターをどれだけ使役しているか分からない以上、下手に【ENVY】を使用することができない。完全に封じ込めたわけではないが、心理面に置いて優勢をとった今、使用頻度は大きく下げることはできるだろう。


「【ENVY】を使った今なら、スロウス!」


 カエデがスロウスを召喚し、召喚直後という一番弱い状態でラースに突っ込ませる。のしのしと歩くスロウスではあるが、反転能力下で機械兵やアルゴたちの対処に追われているラースにとって彼の接近を拒むだけの余裕はない。


「ちぃ、めんどうなことを!」


 スロウスの拳がラースにぶち当たり、吹き飛ばす。それと同時にエンヴィーよりも効果時間が短い反転能力が消え去り、鎖を断ち切った後、不用心に近づいてきたスロウスに八つ当たりするかのように一刀両断する。


「今だ【PRIDE】、その剣を奪い取れ!」


「ええい、鬱陶しい!」


 剣に延びかかる影を振り払うも、目の前にいるのは百戦錬磨のプレイヤーの二人。アルゴとジークが最大威力の攻撃を叩きこめるチャンスを見逃すわけがない。手に持っていたダガーとアックスにオーラが纏わり、目一杯の力でラースに叩き込む。


「「喰らいやがれ!」」


「ぐおおおおおお!」


 ラースの胸にX字の傷が切り刻まれ、手で押さえるほどのだダメージを受ける。残るHPゲージもようやく折り返し。とはいえ、時間も経っており【SLOTH】のデバフも消え去っている。これは長期戦になりそうだと思った時、ラースが怪しげなポーションを2つ取り出す。


「おっと、アイテムは使わせないぜ。スティール」


 ジークが手に持っていたポーションを奪い取る。奪い取ったアイテムを確認すると、HP&MP回復に状態異常回復に能力値アップと至りつくせりの内容。その反面、回復量や上昇値は低いが【GLUTTONY】の効果で効果量が上昇していたら、とんでもないことになるのは目に見えていた。


「やはり複製能力では倒せんか」


「コピーした能力じゃなくて自分の能力で戦えよ」


「それは無理な相談だ」


「どうしてだよ」


「知りたいのであれば我に勝つことだ」


 剣を振り回し、ダイチというパーティの盾を破ろうとする。【SLOTH】の効果もあり、ダイチが受けるダメージは増大しているが、こちらはヒーラー2枚看板。回復が追い付かないほどのダメージレースにはなっていない。対して、こちらはダメージこそ低いもののじわりじわりとHPを削ることには成功しており、ときたまポーションを取り出そうとするモーションを見逃さずにジークが妨害している。

 攻撃パターンが変わらぬまま残り30%を切ったところで、ラースが後方に下がる。


「よもやここまでとは。ならば魔王の2つ目の権能を使うしかあるまい」


 ラースが剣を天に掲げると、頭上から黒い光が降り注がれる。その光の中で、ラースの肉体がメキメキと音を立てながら巨大化し、天井を壊しながら変容していく。その姿は禍々しいまでの真っ黒なドラゴン。


「古典RPGでありがちな魔王の第2形態だね」


「人型から異形になるのって鉄板だよなぁ」


「でかくなった分、攻撃当てやすくなったのは良いことだ」


「アルゴ、その攻撃を受けるのは俺ということを忘れるなよ」


「お前なら大丈夫だろ」


「案ずるな。私たちで回復する」


「ここまで来たんだ。勝とうぜ!」


 気合を入れなおし、天井が壊れたことで空を自在に飛べるようになったミクは飛翔する。ミクが急行から一太刀を入れても、固いうろこに覆われたラースにダメージをまともな与えることができない。それは地上に居るジークも同じようだ。


「アルゴ、お前だけが頼りだ」


「いくら俺が攻撃特化にしているとはいえ、いくらなんでも無茶ぶりだろうが!DPSは低いんだぞ」


 アルゴも防御貫通効果のある大槌に変えて、ラースを叩いているが、先ほどまでのようにHPは減らない。せめてもう一人いれば話は変わっていたかもしれないが、高火力持ちが一人しかいないことが裏目となった。


「こうなったら逆鱗を探すしかねえ!カエデ!」


「みっちゃんと初めてやった時、以来だね。ハクエンさん、回復任せます」


「承知した。ダイチ、聞こえているな」


「ああ!ちょいときついが……なんとかしてみせるさ」


「俺も探しに行きますか」


 ジークがボウガンに切り替えて地上から乱れ撃ち、カエデが頭上からの雷で捜索していく。その隙間を埋めるかのようにミクが爆発玉を投げつけて、漏れを防ぐ。

 しばらくして、ラースが一瞬ひるむ。1秒にも満たないその様子は彼の攻撃を防いでいたダイチが真っ先に気づいた。


「今のところが逆鱗だ!ジーク、同じところを狙ってくれ」


「OK……今、同じところを狙ったがどうだ」


「ひるんでない。ジークのところは違う。次!」


「詠唱には時間かかるから、みっちゃん!」


「わかった!」


 ミクの投げた球が首筋に当たると、ラースの動きがわずかに硬直し、他の部位よりも大きなダメージを与えることに成功する。


「地上からは狙いづらいな。馬乗りすれば行けるか? ミク、ペイント玉で逆鱗を狙えるか」


「あたりまえだ!」


 先ほどと全く同じところに塗料が付着する。それを見たジークが八咫烏の足につかまり、背中まで飛んでいく。片手が塞がってしまうため、無防備になってしまうが、そこはダイチがヘイトを奪っているため、問題はない。背中に着地したジークが付着した塗料に向けてボウガンの矢を放ち、クリティカルヒットする。その巨体を揺らして、ジークを振り落とそうとするもしがみつきながらも、隙を見てボウガンを放っていく。


「せっかくのチャンスだ、振り落とされるかよ」


 再びラースのHPがじわじわと削られていく。6人の悪魔の能力は完全に攻略され、切り札である形態変化まで使ったラースに逆転の目はなく、力尽きて人型へと戻るのであった。



【Wrath】(味方が倒されるたびに与ダメージアップ&防御力ダウン。ON・OFF可能)を習得しました



「ラースの能力が味方がいないと発動しない能力……」


「今回は良かったが、他に敵が居たらどこかで落ちていたぞ」


「それだけじゃねえ。プライドは死体を操る能力もあったはず。倒されたモンスターをゾンビみたいに操られた日にはどうしようもねえ」


「手加減していたのか?」


「いいや、それは違う。約束したのは我一人。なれば、一人で戦うのは当然だ」


「武人気質なんだな、お前」


「最初に言ったであろう。我に魔王は分不相応ではあるとな。そして、敗者は勝者に従うのみ。我に言うことがあるのだろ。話すがよい」


「だったら、フォーゼの国王と和平を結んでほしいんだ」


「……できぬ」


「なんでだよ。さっき従うって言ったじゃん」


「まあ、待て。此度の戦争、どこかで手打ちにしようというのは分かる。そこに使者を送れと言うのであれば送ろう。だが、急な方針の変換は配下の魔族たちに不信感を植え付けてしまう。最悪、幹部たちが独自行動をとり、ゲリラ戦を仕掛ける可能性もある。そうなれば和平交渉と言っている場合ではなくなるだろう」


「じゃあ、どうすればいいんだ?」


「近々、地上の主要都市に全面攻撃を仕掛ける手筈になっている。そこで貴様ら、冒険者が我らに手痛い敗退をさせることができれば、民は厭戦気分になり、和平という道も切り開かれるかもしれぬ」


(それが年末のレイド戦ってわけね。つーか、魔王直々にその作戦漏らして良いのかよ)


「案ずるな。大規模な軍事行動をすれば、情報などいずれ漏れる。早かれ遅かれな」


「このこと、国王に伝えても良いってことだよな」


「構わん。その程度の情報で不利になるのであれば、我が軍はそれまでであったということだ。そろそろ、人払いの結界も切れる頃合いか。魔王城は我が権能で直すゆえ、早々に立ち去るがよい」


 ラースに急かされたミクたちは追い出され、一人だけ残されたラースが誰も座っていない玉座を寂しそうにみつめる。


「我が主よ、今は何処に……」


 本来座るべき主を思い出しながら、ラースは自分の力となってしまった権能を使うのであった。

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