第79話 傲慢
意識が完全に奪われているイザベラが突っ込んでくるが、意識が無いからこそ単調な攻撃は強いゾンビ程度の脅威でしかない。まずは頭数を減らそうとしているミクの攻撃を一方的に受け続けるイザベラ。1on1では話にならない。
「これ以上、依り代にダメージを受けてもらうのはまずいな。仕方ない。俺のコレクション、大出血サービスだ」
4つの黒い靄が現れ、その中から竜人、エルフ、魔導士、僧侶の4人が現れる。その誰しもが正気を失っているのかのような目をしており、生きているのかさえ分からない。
「さてと、俺のコレクション達、やっちまいな!」
「ちっ、数が増えるのか!ウラガル!」
ウラガルが巨大化し、広範囲を魔導波を放つも僧侶のプロテクションで守られてしまう。そこに竜人が巨大化したウラガルでさえも無視できぬほどのパワーで殴り始める。さらにエルフの放つ矢がウラガルに突き刺さり、魔導士の攻撃がさく裂する。
「主よ、このままではもって数分しか時間を稼げぬぞ」
「いや、下級の悪魔の癖に数分も持つのは褒めてやるよ。こいつらは私に挑んだ勇敢な者たち。そこに俺の力を加えている。生前より強いぜ」
「生前ってことはイザベラも!?」
「それはちがう。依り代は生きてもらわないと困る。死んだらコレクション行きだがな」
「なら、お前を倒せばイザベラは元に戻るってわけだな」
「だが、できるかな」
飛来してきた矢をとっさに躱すミク。優勢に進めているせいなのか竜人、魔導士にウラガルへの戦線を任せたエルフが攻撃目標を変えたようだ。さらに矢に込められた魔法の影響で躱したはずの矢が追尾してくる。
「ホーミング付きかよ!」
「ほ~、曲がる矢をよく叩き落とせるね。お兄さん、じゃなかったお姉さん感激。パチパチ」
「これくらいの変化球、変化矢? 目つぶってでも、当てられるぜ」
「わお~、君を依り代にするのもアリだね」
「格上げありがとよ!」
「祝いついでに私も参戦しよう」
「あれはイザベラの――」
「ようやくなじんだからねぇ。これで奮戦している悪魔も終わりだ。封印術式アイスコ――」
「我はあらゆる魔法を修めし者。人間が操れる程度の魔法への対抗策は持っているぞ!ディスペル」
イザベラの魔法陣が砕け散り、ウラガルは封印を免れる。だが、封印のキャンセルに使用した魔力は大きく、巨大化も解除され拮抗していた竜人のパワーに耐え切れず、吹き飛ばされてしまう。
「ウラガル!」
「もう……1分も持つか分からんぞ。グフッ」
「封印のキャンセルには驚いたが、これでチェックメイトだな」
(ウラガル……ホルスの封印解除はできるか?)
(できるが、解除と同時に我は消滅し、再度の召喚には時間を要するぞ)
ミクは賛同するかのようにコクリとうなづき、ウラガルはホルスに向けて手をかざし、魔力を込めていく。
「何をしでかすつもりか分からんが、その悪魔からやれ!」
「そうはさせねえ、【挑発】」
ウラガルに向かっていたヘイトを全て自分に向けさせる。飛んでいる自分に竜人は炎を吐くが、【灼熱の血】のおかげでノーダメージ。それどころか魔法や矢が炎から逃げるミクを想定して放っているため、安全地帯と化している始末だ。
そして、ウラガルの姿が消えると同時にホルスを凍らせていた氷が解けていき、復活していく。そして、太陽のように輝き始めたホルスは自身の命を代償に氷漬けになっていたハクエンたちを溶かしていく。
「自身を引き換えにパーティメンバーを復活させるホルスの特殊能力が発動したようだな」
「ふう、全体即死なんて聞いてねえぞ」
「結界まで突き破るのはやめてほしいですわ」
「まずは回復するね」
ミクが敵の攻撃に引き付けている間にカエデとハクエンがパーティー全員のHPを回復する。夜なため、ホルスを召喚することはできないが、イザベラの能力をコピーしたプライドがいる限り、召喚することはないだろう。となれば、あとは己の実力勝負だ。
「ミク、めくらましいけるか!」
「ああ!ブラッディシールド!」
ホルスのおかげで溶解した血を存分に使い巨大な盾を作り、攻撃を防ぎながら身を隠す。それを見たプライドが竜人をドラゴンに変化させ、巨大な拳でガンガンと叩きつけて割っていく。盾が割られたのと同時に分身と一緒に残像をまき散らすミクが飛び出し、ドラゴンとなった竜人に切りかかっていく。
ドラゴンを援護しようとエルフがホーミングアローを放つも、ハクエンが割って入り光の盾で防ぐ。
「エルフと魔導士は私に任せろ」
「頼んだぜ、ハクエン」
ハクエンが攻撃を避けてもミクたちに当たらないような場所に誘導するため、雷を放ってエルフたちに牽制を仕掛ける。魔導士が防御呪文でそれらを防ぐも、毎度使うわけにもいかず、攻撃対象をハクエンに移していく。十分に気を引き付けたところでランスを取り出す。
「私を後方支援だけの女だと思うなよ、スピアチャージ!」
高速で突撃してくるハクエンにエルフたちが攻撃を仕掛けるも、身に纏った光のオーラに弾かれる。そして、魔導士の腹部を突き刺したハクエンはランスを手放し、すぐさまサブ武器である剣に切り替え、【加速】しながらエルフに急接近する。
「ライトニングブレード」
あまりの速さに棒立ちとなったエルフはまともに斬撃を喰らったエルフ。運が悪いことに麻痺効果がついたことで、動けなくなり、ハクエンの攻撃を立て続けに食らい続ける。そして、視界の端で魔導士が起き上がろうとしたところで、光の鎖で締め付ける。
「ホーリーバインド。お前は何もするな」
「くっ、なんだこいつら……操作が追い付かねえ!」
プライドは焦っていた。ミクたちが知る由もないが、プライドは死体を操れる数に上限はないが、精密な操作ができるのは4~5体が限度。依り代であるイザベラは度重なるダメージですでに意識を失っているため、現状操作している数が彼の限界と言えよう。ゆえに、彼は気づかない。背後から忍び寄ってくるものの存在に。
「隙あり!」
プライドへのバックアタックに成功したジークが背中を突き刺す。ジークの存在に気づいた振り向きざまに剣を振るうも、かわされ、剣を持っていた右腕ごと切り落とされる。だが、プライドは瞬時に腕を再生し、ジークに襲い掛かる。
「ちっ、自己再生もちか。それにしても――」
「コレクションをすり抜けたところで、私は無敵のプライドだ!」
「やっぱ、ダメージねえな!」
プライドの剣をタイミングよくはじき返し、わずかに発生した硬直で無防備になったところに短剣を突き刺すもノーダメージ。チラリと後方の他のメンバーをみるが、善戦はしているが、こちらに力を貸せるほどの余裕はない。つまり、プライドの無敵状態をジークがどうにか突破しないと勝ち目はない。
(ミクの【灼熱の血】は俺たちを復活させる前に使っている。残り時間はもうない。ハクエンも接近戦で踏ん張っているが、適正レンジじゃない。この均衡状態を保ってるのは長くて1、2分……それまでに弱点を見つけろとかただのリーマンにやらせるなって話だ)
文句を言いながらも、心のどこかではこのひりついた緊張感を楽しんでいる自分がいるのも確かだ。死んでいる間の状況は分からないが、操っている敵モンスターの夜でも見えるほどの黒い影らしきものとプライドはつながっている。ならば、それを断ち切ればよいのではと考え始める。
(って言っても、光魔法なんざ覚えてねえし、どうしたものかねえ)
普段ならばハクエンの出番だが、あいにくあちらは2体の相手で精一杯。それともマッチアップを変えるかと考える。
(いやいや、コクエン時代ならいざ知らず、ハクエンにプライドと1on1は無理だ)
他に打つ手はないかと考えている時、後方から何か弾かれたような音が聞こえたので、とっさにその場から離れると、鉄球が降ってくる。光り輝いているあたり、ミクが光属性を付与したものだろう。
「すまねえ!」
「当たってないから大丈夫だ」
ジークが改めて向き合った時、プライドのHPがわずかに減っているのが見える。こちらの攻撃が一切通用しなかったにも関わらずだ。
「これはいったい……」
「アイシクルスピア」
多数の氷柱がジークに向かって襲い掛かる中、この不可解な現象を考える。今、やったことといえば、光属性の鉄球が地面におちただけ。正しく言えば、プライドとコレクションの影の間に落ちただ。
「スローダガー」
ジークが確認のために地面に延びている影に向かって短剣を投擲するもノーダメージ。
「無駄です。私は無敵だ!」
「だったら、こっちはどうだ!」
ジークが落ちている光り輝く鉄球を拾い、プライドとつながっている黒い影に向けて投擲する。すると、先ほどと同じくわずかなダメージが入る。どうやら、光っていないとダメージはお断りのようだ。
「弱い光でダメージを喰らうならこれならどうだ。みんな、目をつぶれ!」
ジークが投げつけた球が地面に当たり、まばゆいほどの光を出して炸裂する。いわゆる閃光玉だ。そして、プライドは影の存在、すなわち依り代が目を瞑ったとしても影に反映されないように、自身で目を閉じることはできない。よって、閃光玉の影響をもろに受ける。
「なんだ、こいつ、急に動かなくなったぞ」
「今だ、叩け!」
ハクエンの号令に従い、ミク、カエデ、さらに後方でアリスを守っていたレイカも加わり、攻撃も防御もできないコレクションたちに攻撃を加える。さらに、プライドをみるとHPゲージが微量とはいえ減っている。
「この減り方だと、俺の閃光玉は物足りない。ミクはあるか」
「もちのロンだ!なんたって投擲は俺のメインだからな。いくらでも用意してあるぜ」
「よし、こいつを閃光玉でハメていくぞ」
もはや攻略方法がわかったボスは楽勝と言わんばかりに、硬直から解けた直後にコレクションに延ばそうとしてくる影に向かって閃光玉を投げつける作業が始まる。じわりじわりと削られていくHPにプライドは焦りを感じ、後方で控えさせていた依り代であるイザベラを緊急投入する。どうやらこちらは、乗っ取っているため、閃光玉の影響を受けないようだ。
「閃光玉はミク、お前に任せた!」
「了解!」
「さてと、やられた借りは返さねえとな!」
激しい斬撃の応酬。イザベラはミクとの戦いでの疲労は先ほどまでの休憩で回復している。そして、ジークもやられる直前休ませてもらったこともあり、少しばかり体力に余裕はある。つまり、肉体的には五分五分の条件下だ。だが、相手はプライドも攻撃に加わっているため、数は2vs1と不利。それでも、ジークは致命傷になる攻撃を確実に躱しながら、イザベラに着実にダメージを与えている。
「なぜ、こうも押されている!?」
「そりゃあ、戦闘を他人任せにしたら強くならないだろ」
実際、同じ姿、同じ攻撃とはいえ、イザベラと比べるとプライドの攻撃はやや遅く、回避もカウンターも取りやすい。本物の彼女であれば避けていたであろう攻撃もかすりダメージ程度は入る。プライドは所詮、イザベラの劣化コピーにすぎないのだ。
「おのれ、おのれ、おのれえええ!」
「おっと、そんな大振り当たらないぜ。もうお前の名前ラースとかスロウスとかに変えたほうが良いんじゃねえの。お前にプライドなんかねえだろ」
「あんなデブと一緒にするな!」
「ひょいっと。攻撃は完全に見切った。さてと、今度はこっちから行くぜ!来い、ヤタガラス!」
ジークが三本足のカラスを召喚するのを見て、頭に血が上っているプライドはイザベラではなく自分の手で召喚獣の封印をしようとする。展開される魔法陣、そして勝利を確信するプライドが顔を醜くゆがませる。
「あの下級悪魔亡き今、貴様らにこの魔法を止める手段はない!お前に逆転のすべなど与えてたまるか!封印術式アイス――」
「いや、その瞬間を待っていたぜ。スキルハンター!」
イザベラの前にあった魔法陣がジークの前に移る。盗賊専用スキルであるスキルハンターは相手のスキルや魔法発動時に使うことでその魔法を奪い、自分が使用できるようにするスキル。だが、戦闘中で1度しか使えず、スキルの有効射程・有効時間も短いため、相手と接近してカウンターを決めなければならないというリスクもある。そして、ジークは奪ったアイスコフィンをプライドに向けて放とうとする。
「自分とは別に本体があって、寄生して成り立っているならお前は召喚獣に近い存在だろ。なら、これは効くんじゃないか?」
「待て、やめろ!そうだ、私と契約しないか。そうすれば私のスキルを十全に――」
「あいにく死体を操る趣味はねえよ、消えな。アイスコフィン!」
「この虫けらごときがああああああ!」
プライドが凍り付くと同時にコレクションたちはばたりと倒れ、戦闘が終了する。それと同時にパーティーメンバー全員に【PRIDE】(影で非生物を操ることができる)を手に入れたことがアナウンスされる。ミクが試しに使うと、影が延びていき生えている木を持ち上げたり、投げつけたりすることができる。
「動かせるのは1個までっぽい」
「プライドと契約したら複数操つることができたんだろうが、俺の性に合わねえからな。確か悪魔は1人1体までだろ。慎重に選ばねえとな」
「俺もウラガルにはお世話になっているから」
「今日のMVP、いやモンスターだからMVMか。俺もそれくらいの汎用のあるやつと契約したいぜ」
「ウラガル様様だよね」
「私のホルスも忘れられたら困るんだが……」
「私はなんて真似を……」
ミクたちが勝利の余韻に浸っている中、正気を取り戻したイザベラが自責の念に駆られ、今にも死にそうな顔をしている。体を半ば乗っ取られていたとはいえ、アリスをさらったのは自分の意思。弱い自分を責めている彼女にアリスがゆっくりと歩み寄る。
「ひ、姫様……」
「事情は分かりました。ですが、王族である私に手を出した罪は裁かねばなりません」
「いかような処罰であろうとも甘んじて受けます」
「では、その命を賭して魔界での物資サポートの任を与えます」
「はい、自害いた……えっ? そのような重大な任務を裏切った私に?」
「はい。イザベラ、貴方の強さはよくわかりました。その強さがあれば地上から魔界への兵法の運搬の護衛を務められるでしょう。それにまた裏切ったとしても、ミクモ様が助けてくれますわ」
「もう一度戦うのは勘弁してほしいけどな」
「そのような不届きなこと、もう二度といたしません」
ギルド:【星の守護者】はアーリアの冒険者ギルドが使用可能になりました
「おっ、あの偽ギルドが本物になるみたいだ」
「どうやらギルドメンバーの誰かがこのクエストをクリアすれば良いみたいだな」
「クエストの発生条件が限定的すぎるから、もしかすると、似たようなクエストが他にもあるかもしれないね」
「裏切りルートを進めているメンバーにも伝えておこう」
こうして姫様誘拐事件は解決し、現実世界でも昼時だったこともあってミクたちはゲームからログアウトするのであった。
「さてと、学食も少し飽きてきたし、今日は外で食べるか」
「賛成~、せっかくだからおしゃれなカフェで食べよう」
「別にいいぜ。ってことはえきま――」
そんなとき、外からドタドタと大きな音を立てて恵たちが部屋の中に入ってくる。
「大変。大変!」
「すごいことが起こっているにゃん」
「お、おう。恵が猫にゃん口調になるくらいってのは分かった」
「カーミラちゃんも連れていかないと」
カーミラのヘッドギアにある緊急通話ボタンをおして、ゲーム世界にいるカーミラに話しかける。
「なによ。大変なことって?」
「外!外!」
「窓に!窓に!」
「メグ、ボケている場合じゃないって!」
三人組が急かすように三雲たちを外へと連れ出す。そこにはいつもと変わらない日常風景。なにもおかしいものは無いようにも見える。
「何が大変なんだ?」
「上にゃん」
「空を見て!」
「空ねえ……日差しに弱いからあまり見上げたくないんだが…………なんだありゃあ?」
三雲たちが空を見上げると、そこには赤い亀裂のようなものが数本走っている。それは飛行機雲のようなものではない。空が割れていると表現したほうが適切なものだ。
「ついに始まったわね。世界の崩壊が」
「じゃあ、あれが大きくなったら、エリザベートやカーミラの世界みたいに……」
「でも、SNSで誰も話題にしてないよ」
「おそらくだけど、まだ規模が小さいから一部の人間、平行世界の人間やその知識を得ている人物しか見えていないのかもしれないわ。そして大きさからして私たちの世界のようになるまであと1年。対抗策や遅延策がなければそこから1年も経たずにこの世界は消滅する試算よ」
「タイムリミットは3年の夏……それよりも短いかもしれないってわけか」
そして、この世界滅亡の危機を知っているのはみゅ~とオカルト同好会のメンバーだけ。赤いひび割れは世界の命運を10人にも満たない女子高生の肩にのしかかっていることをまじまじと見せつけているのであった。




