第72話 初心者プレイヤー
カーミラがゲームをしたいと言うが、あいにく三雲のデータは元々紅葉の弟のアカウントを利用しているため、2アカウント目を作成することができない。そのため、麗華が自分の部屋に戻ってゲーム機を貸すこととなった。
「これがそのゲーム機ね。知識は貰っているけど、錬金世界にこういったゲームは無かったから、使い方を教えてもらっても良いかしら」
「まずは、このヘッドギアのボタンを押して……」
麗華がアカウント設定をして、サブ垢としてカーミラのデータを保存できるように設定をし、カーミラにヘッドギアを被らせてゲームの世界へとダイブさせる。そして、三雲たちも、カーミラが待っているであろうはじまりの街へと向かい、彼女がやってくるのを待つことにした。
「しかしまあ、こうやって新人を待っていると俺も大分と長くゲームやっていたんだなって思うよな」
「そうだね。もう半年だもん。これからは先輩プレイヤーとして、初心者を沼に引きずり……じゃなくて導いてあげないと」
(なんか、不吉な言葉が聞こえたけど、気のせいか?)
「待たせたわね」
装甲しているうちにキャラクリを終えたカーミラがミクたちのもとにやってくる。表示されている名前を見ると、カーミラはCarmillaと名乗っているようだ。初心者用装備を身に着けているとはいえ、NPCであるカーミラと寸分たがわない少女が街中で歩いているとなると、否応なくとも人々の目線がCarmillaに降り注ぐ。
「あれ、さっきすれ違ったのカーミラじゃね?」
「ばーか、ボスキャラが街中をうろつくわけねえだろ」
「文字色を見れば一発で分かるんだが、人込みに紛れたみたいだ」
「NPCじゃなかったら、すげー似ている人?」
「もしくはキャラクリをすごく頑張ったやつだな。たまにいるだろ、ゲームやアニメに出てくるキャラのそっくりさん」
「あー、虎のところにそれっぽいのがいたな」
「……そういや、隣にミクちゃんもいたぜ。あの子なら、ものほんカーミラを連れてもおかしくねえだろ。賞金首イベントのとき、仲間にしていたし」
「ってことなると、イベント?」
「さすがに他人の空似だと思うが……」
「「「……どっちだ?」」」
そんな感じの会話があちらこちらから聞こえながらも、ミクたちはCarmillaをチュートリアル戦闘が行われるギルドへと向かっていく。
「そういや、種族は何になったんだ?」
「当然、吸血鬼よ」
「そこはゲームカーミラと同じなんだ……」
「良く引けたよね☆」
「ふふーん、今の私は錬金世界から全力で支援してもらっているから、運は世界最高ランクよ」
「うわ、せっこ」
「せこくない!肉体能力は科学世界依存だから、吸血鬼の力は使えないし、錬金世界からの肉体強化もできないの。せめて、運ぐらいはね」
「それなら、Carmillaさんにガチャを回してもらえれば……ごくり」
「ごくっ……」
「AYKAKAもカエデもガチャのし過ぎは良くないと思うぞ☆」
「正論言われた!? 部長のくせに!」
「そうよ、部長は正論言ってはいけないの」
騒がしくやりとりをしている最中、何かを思い出したかのようにミクがアイテム欄を確認し始める。
「どうしたの?」
「忘れるとこだった。Carmilla、チュートリアルする前にこの日傘を渡しておくぜ」
「別にいらないわよ、そんなもの。可愛くないし」
「いやいや、日中だと吸血鬼はダメージを受けてしまうんだ。だから、日傘を装備してダメージ軽減をするんだよ」
「そういうことね。ありがたく使わせてもらうわ」
かつてカエデから受け取った日傘がゲームを進めていくことで、アイテム欄の肥やしとなり、そして、今度はCarmillaの手に渡っていく。人とのつながりを感じながらも、Carmillaが無事にチュートリアルを終えるのを待つことにした。
それからしばらくして、やや不満げな様子でCarmillaがギルドの外に出てくる。
「あれくらい余裕ね。で、このゲームって何をすればいいの?」
「一応、ストーリーはあるけど、特にそういうのは決まってないよ。仲間を作って、和気あいあいとクエストをこなす。それがMMOの醍醐味だから」
「ふ~ん、つまらなさそうね」
「まあ、サービス開始当初と比べるとどうしてもアクティブの数は減ってきてはいるけど……あまりそういうのは言わない方が良いよ」
「はいはい、そういうことね。まあ、商売続いているなら問題はないってことよね。いえ、問題あるからこっちに来ているようなものなんだけど。とりあえず、人が多いところとかにはいきたいわね」
「じゃあ、今日はフォーゼまで連れていくか」
「その前にスキルと魔法、職業の習得だよ」
「スキルとかはよくわからないけど、錬金術師ってのはあるのよね。それにするわ」
「なあ、カエデ。錬金術師のことわかるか?」
「う~ん、多少は知っているけど、それはあくまでも対戦用の知識。私もメインもサブも錬金術師じゃないから、どのスキルが良いかまでは把握してないかな」
「そういや、お前のメインって――」
「ふっふっふ、どうやら私の本当の実力を見せる時が来たようだね」
演技臭いせりふを吐いた後、カエデはログアウトし、すぐさまメインアカに切り替えてログインする。その姿は可憐なエルフから重装備を着込んだデュラハンと何も知らなければ、大変驚くものだったに違いない。そう知らなければ。
「わっははは、我こそが……ってあれえ?」
意気揚々と自分の正体を明かそうとしたダクロであったが、それを見るミクの目は冷ややかなものであった。
「やっぱな」
「ちょっ、そこは普通驚くところではないか」
「そもそも引っ張りすぎなんだよ。俺たちのところにいるギルドの人物なんて限られているし、第一、対抗戦の時に俺のことを貴殿って男扱いしていたじゃねえか」
「あ……あああああああ!!」
「ミクの正体を知っているのは私たちくらいですわね」
「あの場に居なかったのってカエデだけだもんね☆」
「バレバレですね」
「ぎゃふん」
精神的ダメージを受けたのか、ダクロはログアウトしてしまう。悪いことをしたなと思いながら、少し待つことにしたが、戻ってくる気配はない。
「貴方、レディの扱い悪いわよ」
「わ、わかったよ。あとで謝りに行くからさ」
「必ず謝りに行きなさい」
「これからどうしますか?」
「ああ、とりあえず、猫にゃんを呼んでみるよ」
猫にゃんにコンタクトをとってみると、配信中ということもあってすぐさま返事が来た。念のため、Carmillaに配信しても良いかと聞いてみると、「隠す必要もないでしょう」と言われ、猫にゃんたちの配信に出演することとなった。
「今日は食い倒れ企画からミクミクが期待の新人をフォーゼまで連れていくぶっ通し企画に変更」
「というわけで、さっそくミクミクと合流にゃん」
『新人さん、誰だろう?』
『有名人?』
「ミクミクから聞いたところによると吸血鬼プレイヤーらしいにゃん」
『同輩か~』
『厳密には違うけどな』
『運用方法はほぼ同じだろうし、同輩でいいんじゃね』
「あっ、ミクミク発見……って、隣にいるのは?」
『おいおい、マジかよ』
『双子Σ(・□・;)』
『NPCと双子とか意味わかんねえよ』
『でも、装備品は違うけど瓜二つだぜ』
初期装備のCarmillaの姿がばっちりとカメラに映し出されるやいなや、みゅ~の再生数は伸び始める。
『質問。その子は誰ですか?』
「あら、私はCarmillaよ。始めたての初心者だから優しくしてね♡」
『はい、喜んで。手取り足取り教えます。まずは二人きりでそこのカフェにでも』
『↑の奴を吊るせ』
『おかのした』
『ひえっ』
「あらあら、愉快な人たちね」
『カーミラそっくりにするの、キャラクリ大変だったでしょう』
「顔も体も自前よ」
『嘘だっ!』
『異議あり!』
「世の中、同じ顔の人が3人いるとかいうじゃない。そういうものよ」
『う~む、そういわれると反論の仕様がない』
『でも、よく似ているよなぁ』
『駄目だ。サ〇ゼの間違い探し並に違いが見つからん』
『(ただし、装備品を除くものとする)』
「猫にゃんに聞きたいんだけど、錬金術師のCarmillaが覚えるべきスキルとか魔法って何があるんだ?」
「まずは武器生成系のスキル。錬金術師なら重火器の弾も自前で用意できるほか、素材次第で属性も付与出来るにゃ。後は適当でおけ」
『こっちでも補足するか。スキルなら長距離系を伸ばして後方火力に徹するのが板。磨き上げれば、魔導士や弓使いほどではないにしろ、火力要因にはなれる』
『最初から錬成側に伸ばすと戦闘面で足手まといになる上に序盤で作れるアイテムは今となっては時代遅れだ。ただ、パワーレベリングですぐにレベルを上げるなら、その限りではないって感じだ』
「長いコメントだな」
『俺、本職錬金術師なんで。これを機に盛り上がってほしいです』
『いや、長すぎると冷めるぞ』
『そんなぁ(´・ω・`)』
「要は基本的に戦闘面に伸ばしたほうが良いけど、早くレベル上げ出来るなら生産面の強化もありってところだな」
「それなら私、現実だと作る側の人間だから、そっち方面に伸ばすわ」
『メーカー勤務?』
『JKだと思ったけど、見た目より年取っている?』
「女のプライベートを聞くなんて失礼ね」
『ごめんなさい』
「謝ればよし。それじゃあ、それっぽいスキルってのを覚えてくるわね」
とたとたとギルドの中へと入っていくカーミラをミクたちは見送るのであった。




