第6話 プレイヤーキラー
最初に仕掛けてきたのはプレイヤーキラー側だ。ナイフをもったひょろがりと大剣を持った親分が駆け出し、デブが魔法を唱え始める。それを見たミクはいつものように球を放り投げる。球が向かう先は足の速いひょろがりだ。
「野球じゃないんだぜ!」
「知っているよ。野球ならデッドボールだ」
ひょろがりが避けるのを見越した球が曲がり、男の急所に直撃する。あまりの痛さに悶絶し、手に持っていたナイフを落とすほどだ。だが、そんな仲間を心配せずに親分が剣を振りかざす。その無駄とも思えるほどの大きな動きを見切り、ブラッディネイルで反撃する。
「ぐああああ!」
「僕に任せて。フレイムトルネード!」
「壁になれ、隷属:サイクロプス!」
炎の竜巻がミクに向かって放つも、サイクロプスが代わりにそれを受ける。さすがにレベル60の魔導士。サイクロプスでは耐えきれず、一撃で倒されるが、主人は無事だ。
「なにぃ!【隷属】はレベル70のスキルのはず!なぜ、使える!」
「教えるわけねえだろうが!ダークスラッシュ!」
闇の斬撃で親分を吹き飛ばす。そして、金的したひょろがりをみると痛みをこらえながらナイフを拾うとしたところをシャドーボールでナイフをさらに遠くまで吹き飛ばす。
「てめえ!」
「さてと、次はデブだな!」
「来るな、プロテクション!」
「今だ!」
親分がデブに攻撃しようとしているミクを横から攻撃しようとしたとき、すぐさま親分に攻撃対象を切り替える。それはまるで盗塁しようとした走者を刺すほどの速さだ。それに反応しきれない親分は眼帯を吹き飛ばすほどの威力で石つぶてを食らう。
「あれ? 攻撃してこない……」
「そのバリアの強さは俺もよく知っているんだよ。誰が攻撃するか、バーカ」
「バカっていうな、ファイアーボール!」
「そんな攻撃、さっきの植物のほうが強いぜ!」
多数の火球を出すあたり、それなりには強いのかもしれない。だが、早く動き回るミクをとらえきれていない。ダークスラッシュで転がるデブを見て、レベルと強さがあまりにも見合っていないプレイヤーキラーへの違和感にミクは思い当たる節があった。
(こいつら、レベルだけが高くてプレイヤーのスキルが追い付いていないのか!)
紅葉がなぜ自分をゆっくりと育てようとしたのかこのプレイヤーキラーとの戦いで分かった気がした。だとすれば、この戦いは今まで一緒に戦ってくれた紅葉のためにも負けることができないものとなった。
「へへ、ようやくナイフを拾えたぜ。今度は容赦はしねえ、【超加速】!」
【加速】の上位互換のスキルを使い、猛スピードで突っ込んでくるひょろがり。それを見たミクは剣をバットのように振い、ひょろがりのどでっぱらにぶち当てる。
「コースバレバレだぜ、おっさん!」
「調子に乗るんじゃねえぞ、ガキ!」
おっさんたちが吠えていると、日が沈み、夜のとばりが下りる。ミクに吸血鬼をはじめとしたバフがかかる中、プレイヤーキラーたちはその姿を二足歩行の狼へと変貌させていく。
「何も夜でパワーアップするのはお前だけじゃないんだぜ」
「これが俺たち狼男の力よ!」
「速度が上がった俺の爪を食らいな!」
元ひょろがりがミクを襲うとしたとき、その切っ先は彼女をとらえることなく宙を裂く。後ろに回り込まれたひょろがりに闇の刃が襲い掛かる。
「ぐおおお!!なんだこのダメージは!?何をしやがった!」
「まずは一匹!」
剣でひょろがりを倒すと、その背後から親分が頭を勝ち割ろうと大剣を振りかざす。
「【加速】」
「ちっ、そのスキルを持っていやがったか!」
「えっ、ええ、えっ、っと早すぎてどこに攻撃したらいいかわからないんだな」
デブは放置。今は親分を倒そうと思い、ミクは背後から噛みつく。急速にHPが減っていく中、足を止めた今がチャンスだと思ったのか、デブがファイアーボールを放つも、ミクはその場からすぐさま離れるとデブの火球によって親分が焼かれる。
「どこを狙ってやがる」
「ごめんなさい!」
「それにしても何がどうなって……こっちは高いステなら補正無しで400近くあるんだぞ」
「倍くらいはあるはずだ!」
「知るかよ、そんなもん!ブラッディネイル!」
血を吸われた挙句、フレンドリーファイアを食らった親分が【ジャイアントキリング】込みの攻撃を耐えきれるはずもなく、倒れる。残ったデブもさくっと倒し、初のプレイヤーキラー戦は勝利を収めるのであった。
プレイヤーキラー:ゲドーを倒したことでSR暗黒の剣(攻撃+50、闇属性の攻撃アップ)を手に入れました
プレイヤーキラー:ゲスーを倒したことでSR忍びの服(防御+30、敏捷+20、敵に気づかれにくくなる)を手に入れました
プレイヤーキラー:ゲホーを倒したことでSR黒魔術師の帽子(MP+20、知力+30、闇属性の攻撃アップ)を手に入れました
悪質なプレイヤーキラーを討伐したため、賞金と経験値が入ります
ミクはLv42にアップしました
固有スキル【魅力強化】(魅了の成功率を上昇させる)を覚えました
固有スキル【自己再生】(死んでも1度だけ蘇る)を覚えました
【吸血鬼Lv3】にアップしました
【吸血姫Lv3】にアップしました
【真祖Lv2】にアップしました
「おっ、レベルアップに成功。しかも強そうな武器まで。これでカエデと同じくらいか……」
「か、返せ!」
「返せって言われてもSRだから渡せねえし。それに襲い掛かってきたのそっちじゃん。これは俺がありがたく使わせてもらうぜ」
「男みてえな口調しやがってこの糞女!」
「よく見たら良いからだしてるじゃねえか、こうなったら力づくでとらえて犯してやるぞ!」
「はいはい、この会話、録音しておいたから。PK行為自体は見逃してやってもいいけど、これはね」
「ダイチ、カスタマーセンターの通報はこれだったな」
「そうそう。録音データ、そっちにも送っておくよ」
「昼間のお兄さん!」
「やあ。一人で向かったから、ちょっと心配になって来たんだ。君が最後の一人を吹っ飛ばしたところしか見てないけど、ナイスファイト!」
「横から口を出すんじゃねえ、優男!」
「てめえもぶっ倒してやろうか!」
「俺たち【漆黒の翼】がレベル60ごときにぶっ倒されるとか天地ひっくり返ってもあり得ないね」
「【漆黒の翼】だと!?」
「トップギルドがこんなところに来るわけねえだろ。ハッタリだ」
「言われているぞ」
「お前のせいなんだけどな。俺、人にステータスあまりみせたくないんだが、この場を収めるにはこれが手っ取り早いか」
ダイチLv100
種族:魔人
職業:戦士
所属ギルド:漆黒の翼
HP720
MP420
攻撃850
防御1000
知力650
敏捷500
器用さ200
運150
「すげ……」
今の自分では明らかに太刀打ちできないステータス。いくらかはSPをステに振っているのだろうが、自分のステータスもここまで伸びるのかと思うとワクワクしてくるミク。それに対し、本物だと知ってガタガタ震えているプレイヤーキラーたち。すると、彼らの足元に穴が開いてどこかへと飛ばされる。
「牢獄に行ったね。証拠付きだから手が早い」
「女の子相手にあの暴言ならアカウントは確実に削除だろうな。もう一度やってくると思うか?」
「そのころには彼女は脱初心者だろうね。なんたって俺のステータスを見てやる気のある目つきをしていたんだ。あれは間違いなく伸びる。ギルド加入条件にレベル制限がなかったらスカウトしてたよ」
「なら、フレンド交換すればいいだろ」
「アルゴ、たまにはいいこと言うじゃないか。嬢ちゃん、こんな時もなんだけど、これも何かの縁。フレンド登録しないか?」
「良いぜ。俺も一人しか登録してねえから、空きがいっぱいだ」
カエデの下にダイチとアルゴの名前が登録される。確か、メインが【漆黒の翼】のはずだから、現実世界でどんな人か聞いてみようと思いながら、三人は町まで戻るのであった。
【漆黒の翼】ギルドホームにて
魔王城のような見た目のギルドホームで紅葉のメインアカウントのキャラクターは、ダンジョン周回の疲れもあり、自室のベッドで横になっていた。すると、ノックしたのち、ダイチとアルゴが入ってくる。
「ダクロ、お疲れさん」
「二人がいなかったからきつかったぞ」
紅葉のメインキャラから発せられるのは男性の声。彼女がガチャで手に入れたのはフルフェイス、フルアーマーのデュラハン。中身がだれであろうと、わかるはずのないこの体ならば、中身がか弱い女の子であることがバレないのではないかと考え、課金アイテムのボイスチェンジャーを手に入れて男性としてふるまっている。
そう、紅葉が三雲に一向にメインキャラを見せたくない理由。それは彼女がネナベプレイをして2年間もそれを貫き通していることがバレたくないからである。
「わりぃ、明日、闇属性の素材集めて格安で渡すよ」
「すまん。悪いのは俺だ。だが、良い土産話をもってきたぞ」
「ほう、どんなのだ」
「吸血鬼の女の子が自分より格上のプレイヤーキラー3人をぶっ倒していた」
(トリス付近で吸血鬼の女の子? ん? んんんんん!???)
「最後の瞬間しか見れていないから、どういった戦いをしたかはわからないが、きっとPSが高いタイプなのだろう」
「それは期待の新人だな。いつかはこのギルドに入ってもらいたいものだ」
「ああ、そういうと思ってフレンド交換しておいたぜ。このミクって子だ」
(知ってるよ~、何しているの、みっちゃん!?)
思わず叫びたくなる口をしっかりと閉じて、いつもの口調に戻していく。
「そうか。なら、このギルドの危機をなんとかしないとな」
「サブマス派に流れる人物のほうが多いみたいな。その大半はやられるのが怖いって感じだが」
「下手すれば、俺たちギルマス派が追い出される形になるか」
「トップギルドがPKをやれば、先細るのが分からんのか!」
【漆黒の翼】内で起こっている論争。それはPKを積極的にやるかやらないかの方針による違いであった――