第62話 ギルド攻略戦
【宇宙船】の本拠地から少し離れた地点、ハクエンたちは暗闇に乗じて息をひそめ、攻撃のチャンスをうかがっていた。ゲーム内での夕暮れが近づき、作戦実行の合図と共に駆け出していく。設置されているトラップは全てナイトに引き受けてもらい、自分らはその後ろを追う。【モノクロ】戦と同じ戦術だ。
だが、そこに待ち構えているのはインターネットでレイカの幻術を知っている可能性がある80人近くのプレイヤー。しかも、リンのスーサイドを警戒して部隊を小分けにしており、一網打尽にならないようにしている徹底ぶり。このことからも、ネットに書かれた戦法は通用しないことが分かる。
「ロボットには防御貫通攻撃だ!」
スパイラル系の遠距離攻撃が飛び交い、ナイトの装甲を打ち抜き、倒れていく。だが、地雷原を突破したことで、彼らの役目はお役目ごめんだ。
「魅惑の魔眼」
「オールキュアーで解除します」
ラストと融合したレイカの魅了も女性のヒーラーによる状態異常回復魔法で消されてしまい、立つ瀬が無くなる。機械兵も対策され、確実に数を減らしていく中、ハクエンの準備が終わる。
「行くぞ、【堕落】!」
ハクエンの白い翼が黒く染まり、頭部からは二本の角が生え、体中には刺青のような模様が彫られていく。その姿はかつてハクエンが使っていた堕天使に酷似するものだ。
「なんだあれは!」
「大天使にあんなスキルがあったなんて聞いてないぞ」
ハクエンが言うには入手条件がSSRである【堕天使】で特定のクエストをクリアした上で、SR以上のキャラしかいない天使系種族に手に入れたアイテムを送ったことで発生する特別なクエストをクリアしないと得られないスキルだ。他のプレイヤーが知らなくてもおかしい話ではない。しかも、そのスキルを使うには詠唱時間が長い=無防備になる時間が長く、しかも夜限定でしか発動することができない条件付きだ。
「さあ!行くぞ、皆の者!天獄の調べ!!」
【堕落】を習得することで覚えることができる魔法を使う。味方の闇属性のキャラの全能力を大幅に引き上げ、さらにクールタイムも短くなるというトンデモ技。しかも、元・漆黒の翼のメンバーは闇属性主体の種族で固めていたため、このバフの対象だ。
「なんだ、こいつら急に強く!?」
「ええい、こうなったらハクエンを狙え!姿かたちが変わっても、後方支援職には変わらないはずだ」
「果たしてそれはどうかな。獄炎の裁き」
ランダムに選ばれたプレイヤーの足元から黒い炎が噴出し、一瞬にしてプレイヤーを焼き尽くす。焼かれたプレイヤーが主力メンバーだったのか、一撃KOしたことに驚き恐れているようだ。
「なんだ、このダメージ……【大天使】とは思えない火力だぞ」
「なにをした!」
「それを教える義理はない」
【堕落】を手にしたことで、支援魔法だけでなく高火力技も習得することができたハクエンに死角はない。これにより、押され気味だった【星の守護者】は攻撃力も防御力もさらに回復力も増加したことで、数の差を埋め始める。
後方の警戒をしていた【宇宙船】メンバーも応戦せざる得なくなり、前方へと出ていく。
「よし、やっこさんも前しか見てねえ。行くぞ、野郎ども!」
ステルス系スキルや【霧化】を利用してジークの部隊が奇襲を仕掛ける。バックアタックが決まり、後方にいた女性ヒーラーを落としていく。
「どうして私に!」
「悪いな、嬢ちゃん。今の俺は女の敵だ!」
【宇宙船】の女性プレイヤーを優先して落としていくジークたち。どのプレイヤーが強いかが分かっているのであれば、その人物を優先するのだが、いくらトッププレイヤーとはいえ、全てのプレイヤー情報を網羅しているわけではない。となれば、見た目で判断できる要素で優先度をつけるしかない。そして、敵の女性プレイヤーが減れば、当然――
「先ほどのヒーラーは落ちましたわね。今度こそ、ワタクシの魅了におぼれてもらいますわ。ヒプノシスフラッシュ!」
「アリスは?」
「さっきやられた!」
敵味方が入り乱れる中、全ての風景が敵の姿になれば、【宇宙船】の攻撃もゆるくなってしまう。もはやだれが敵なのか分からなくなっていた一人のプレイヤーの前に何かを投げて、敵だと思われる少女を遠ざけた少女が近寄ってくる。
「すまん、たすか――」
「ってねえけどな。さっき投げたの小石だし、こっちのフレンドリーファイアは無効だから」
助けるふりをしたミクが油断した【宇宙船】メンバーを倒し、別の【宇宙船】メンバーに同じようなことをしようとする。こうすれば、助けた少女=味方という図式も成立しなくなり、【宇宙船】は誰が本当の敵なのか分からなくなっていく。
「その人はて――」
「はいはい、女の子はお眠の時間だ」
女性プレイヤーが惑わされている男性メンバーに話しかけようとしても、ジーク率いる暗殺部隊がその結束を乱していく。結果、人狼ゲームによって前線がガタガタになって空中分解した【宇宙船】は、組織戦をすることすら叶わず、各個撃破されてしまい、遠征組が戻ってくるころには廃墟と化すのであった。
その日の夜、【星の守護者】にぼろぼろにされた【モノクロ】と【宇宙船】はSNSのDM機能を使い、彼らに復讐しようと一時的に結託することにした。そして、この意見に賛同する他のギルドにも呼びかけての全出撃。守るモノがないからこそできる総勢160名超の大部隊である。それだけの動きを見せれば、当然のことながら【星の守護者】にも伝わっている。
「東西南北からそれぞれ約40名ずつがこちらに向かってきている」
「一直線上に置かないことでスーサイドへの対策、結託相手へのフレンドリーファイア対策になるというわけか」
「それだけじゃない。今までなら、敵を一か所におびき寄せることでレイカの幻術範囲に収めることができたが、四方から襲ってきたらカバーしきれない」
「完全に私たちをつぶす気か。ここは本拠地に立てこもり、余計な戦力の損耗を避けて、コアを破壊させてやるというのも選択肢ではあるが……」
「それだとコアを破壊せずに出待ちし続ける嫌がらせ行動だってありうる。下手すれば、コアを破壊しても出待ちする可能性だってある。」
「そうなればどのみち戦わねばならん。ならば、ここが正念場か。今持てるカードを全て使って、勝利するぞ!」
「今回はこちらに地の利がある。勝てない相手じゃない。それに勝てば、大量得点だ!」
おそらく森林エリアのめぼしいギルドが勢ぞろいしているであろう連合軍。ここで勝つことができれば、当面の敵はいなくなり、2日目からの他エリアへの侵攻もしやすくなる。ここが天下分かれ目の天王山だ。
ゲーム内では夕暮れに近づくころ、【宇宙船】は南から進軍してきた。この時間帯に仕掛けてきたのは現実世界では11時を超え、就寝時間になっているプレイヤーも出始めるころで防衛力が下がっていること、そして、闇系キャラの一部は夜に有利なスキルを持っていることだ。つまり、昼間に仕掛ければ、その真価を発揮できない。そう思いながら進軍し、敵に見つからないあるいは見つけても攻撃の射程外ぎりぎりになるところで待機する。
「よし、全員所定位置に着いた。一斉射撃」
「食らえ、メテオ!」
その一歩を踏み入れ、互いのギルドが持つ攻撃魔法、範囲魔法を本拠地で待ち構えている【星の守護者】に向けて放った!
「すごい火力だ。レイカ、やれるか!」
「言われえなくてもやりますわよ。対魔の結界陣!」
本拠地回りを包み込むように設置された星形の魔法陣が光り輝き、四角錘状のバリアを形成して彼らの先制攻撃をはじく。使用中は移動できず、事前に設置するというひと手間が必要な分、プロテクション系列よりも強固なバリアは破壊されながらも、連合軍の飽和攻撃を受けきった。
「一番やばいのはメテオが飛んできた方向だ。リン!」
「おう!スーサイド、マキシマムキャノン、シュート!」
リンのスーサイドが【宇宙船】の部隊を焼き払っていく中、北から攻める【モノクロ】。彼らの犠牲に報いるためにも、【星の守護者】を倒さねばと意気込む。そに立ちはだかるは機械兵を率いるミクと数名のプレイヤー。
「吸血姫か。だが、今なら!」
「悪いが、少しばかり夜を早めさせてもらうぜ。【鮮血の世界】」
辺り一面が暗闇に覆われ、足元から血が噴出してくる光景に【モノクロ】メンバーはぎょっとし、足を止めてしまう。その隙を逃さんとするジークや暗殺プレイヤー。
そして、鮮血の世界の効果範囲ぎりぎりに後方で待機していたハクエンが【堕落】を使い、味方の能力を上昇させていく。
「ミクのおかげで俺も発動条件がそろった。アヌビス!」
「よかろう、この地に眠り者たちを目覚めさせよう」
アヌビスが呪文を唱え始めると、ミイラたちがぞろぞろと歩き始め、暗い森の中をさまよい始める。ミイラ自体は弱いとはいえ、北側の数の差は埋めることができる。さらに上空にはツタンカーメンのマスクが1つ浮いており、こちらはダイチの意識で動かせる盾にも砲台にもなれる。
「操作は大変だが、四の五言っている場合じゃないな。フライヤー!」
機動力に難点のあるダイチが足回りの強化のために選んだフライヤーに飛び乗り、西側の支援へと向かう。そこではアルゴを中心にしたパーティーが戦闘しているが、数の差による暴力で被弾も増えていた。そんなところに敵と味方の間に光線を放って割り込んでくるダイチ。
「間に合ったみたいだな」
「遅いぞ」
「わりい。だが、遅れた分は取り戻させてもらう」
ダイチが宙に浮いている仮面からビームを吐き出して足止め、アルゴに攻撃するチャンスを与える。アルゴが狙われたのであれば、ダイイが素早くカバー。最強の盾と矛がそろった今、西側の陣営を崩すのは容易ではない。
残る東側ではダクロを中心に猫にゃんたちが戦っていた。敵プレイヤーは初見では無敵のオブジェクトだと見破ることが困難な悪魔姿のダミーバルーンに攻撃を無駄打ちしてしまい、その虚を突いたダクロが前線に飛び出て暴れ散らかしている。
「強いのはダクロだけだ!奴さえ倒せば!」
「そうよ、さぼっている奴に負けるわけにはいかない」
(攻守を上げる【幽魂強化】を使ってもダメージそこそこあるのはキツイなぁ……)
ここ最近はカエデでログインしていたこともあって、他の上位プレイヤーに一歩遅れており、やられてしまうかもしれない。そう思いながら眼前の敵を倒していると、死角からの攻撃に反応が遅れてしまう。それが意図されたものなのか、他のメンバーを狙ったものが抜けただけなのかはわからないが、その衝撃でダクロの体勢が大きく崩れてしまい、反撃も防御もできない状態になる。
「くっ……」
「今だ!」
(やられる!)
「そうはさせねえ!」
フライヤーの背中に乗ったミクが鉄球を投げて、襲おうとしたプレイヤーの剣を弾き飛ばす。それを拾いに行かせるほど優しくないダクロは素早く体勢を立て直し、博愛上げるよりも先にそのプレイヤーを倒す。
「大丈夫か、ダクロのおっさん」
「貴公の助太刀に感謝する。貴殿は北に向かったのでは?」
「ん? ああ、ハクエンがここは大丈夫だ。お前の足なら手薄な東側の応援に間に合うはずだと言われてカッとんできたんだ」
「了解した。では、敵のかく乱をたのむ」
「行くぜ!【加速】、【幻影の血】」
フライヤーの陰に隠れながらスキルを使い、残像の中に分身を紛らせながら突っ込んでいくミク。そして、分身体の方を不用意に飛び出させる。
「お前の弱点は分かっている、ショットガンアイス」
(あぶねえ……あれ、かわす方法ねえんだよ)
冷や汗を流すも、敵が放ったのは分身体の方。あらぬ方向に撃ったプレイヤーの懐に飛び込んだミクはそのプレイヤーに一撃を与える。
「こいつ、夜じゃねえのに思ったより火力がたけえ!?」
(【GREED】で攻撃と敏捷が上昇しているおかげでガンガン前に飛び込める!)
【鮮血の世界】の効果範囲外に出たことで【吸血鬼】関連の能力は使えずとも、最大効果まで跳ね上がっている【GREED】があるため、昼間でも倒し切れなくとも渡り合うことは可能だ。
「ソニックブーム!」
「飛ぶ斬撃ってやつか!」
その斬撃を上空へと飛んだミクに狙い撃つかのように研ぎ澄まされた光の矢が放たれる。今から回避はできないであろう、その攻撃をぽんと出てきた猫にゃんの藁人形が受ける。それにより、攻撃を放った弓兵が呪いにかかり、そのHPを急激に減らしていく。
「私たちを忘れたらダメにゃん」
「あたしたちを忘れるなし~」
猫にゃんの援護で窮地を脱したミクは一度後方に下がろうとするも、そうは問屋が卸さない。敵プレイヤーもここで不退の覚悟で挑んでおり、一人でも倒そうと躍起だ。ミクに集中砲火したとき、地面から噴出した黒い炎で水や光の魔法を打ち消していく。
「我が身を削りし、黒き炎。その程度の魔法を通すほどぬるくないぞ」
「サンキュー、ダクロ」
「うむ。ここからは我の時間だ。怨念を喰らえ、我が剣!」
魂を吸収したダクロの黒い剣が巨大化し、囲っていた多くのプレイヤーをたった一振りで斬り倒すいかにも使いづらそうな剣を軽々と振り回しながら、時には竜巻さえも発生させるほどの回転を加えて敵プレイヤーを吹き飛ばしていく。倒し切れなかった敵は他のプレイヤーでも削り切れ、もはや、東側の連合軍も壊滅までそう時間はかからなかった。
「というわけで、数名の脱落者は出てしまったが、今回の防衛は大勝利と言っていいだろう。今晩はゆっくりと休んでくれ」
「昼間のうちに防衛機能は最大限まで上げておいたから、敵が射程距離に入ったら現実世界でアラームが鳴る機能もついているよ」
「それは助かる。このアラーム機能をON・OFFにするのは強制はしない」
「勝つのも大切だが、私たちは楽しむのも大切にしたいギルドだ。そこは各人の判断にゆだねる」
「最後になったが、明日戦う予定のギルドは草原エリアで戦果を挙げている【フェンリル】。ギルマスは氷雪系魔法を得意とするロキだ。移動速度や防御力の低下のデバフ、範囲攻撃、召喚魔法……単体火力に少し難はあるが、それ以外は高水準。倒すには私たちの全戦力をぶつける必要があるだろう」
「誰もない時に攻められたらどうするんだよ」
「そのときはそのときだ。人数が少ない以上、どこかでリスクを背負わないといけない」
「作戦は明日の朝に伝える。以上をもって本日は解散とする」
ハクエンの指示に従い、ミクたちはログアウトをし、明日に備えるのであった。
1日目PM12時時点のポイントランキング
1位:ALL FOR ONE
2位:ENJOY!
3位:漆黒の翼
4位:厄災PANDORA
5位:フェンリル
(以下の順位のギルド並びに各ギルドの獲得ポイント数は非公開)




