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第60話 ギルド対抗戦、開始!

 3連休の初日。ミクたちは早朝からゲームにログインすると、ナビゲートによってイベント会場に案内される。【星の守護者】が本拠地になったのは森林エリア。周りには背の高い樹木に覆われ、木漏れ日すら差し込まないうす暗いジャングルを彷彿させる。


「これならトラップを設置してもバレにくそうだな」


「そんなことできるのか、ジークの旦那」


「おう。そういうスキルはいくらでもあるぞ。本拠地回りに地雷トラップ仕掛けておくか。爆発音で敵の接近にも気づけて一石二鳥だ」


「味方に分かるようにマーキングしたMAPは作れよ」


「それは大丈夫だ。去年と違って味方識別できるところまでレベリングしておいたからな」


「それは助かる。で、あれがコアか」


 本拠地となっている砲塔のついた巨大な樹木、その裏手に設置されている赤い宝石。これがダンジョンコアで破壊されれば本拠地の機能が大幅に低下する厄介な代物だ。


「むき出しになっているのは想定していなかったな」


「大丈夫なのか、ダイチさん」


「遠距離狙撃には気を付けないといけないから、当初の予定通り、最初は俺も防衛側に回った方がよさそうだ」


 そして、ミクが樹木の中に入ってみると、外から見るよりもはるかに広い空間が広がっており、複数の階には団員の休憩スペースやトレーニングルーム、食堂が設置されている。食堂にある冷蔵庫にはイベント期間中はこれを食べてくださいと言わんばかりの食料がずっしりと入っており、森で果実やキノコ採取などはしなくてよさそうだ。


「料理バフはできるから、あたいが作っておくよ」


「おばちゃん、ありがとう」


「育ち盛りなんだからどんどん食いな!息子が一人暮らししてからは暇で仕方がないんだ」


「その話何回目だよ」


「はっはっ、あんたを見ていると息子を見ているようでね。つい、話したくなるのよ。女の子なのにごめんなさいね」


「(本当は男だし)別に良いよ、おばちゃん」


 メニューにもよるが、料理バフの効果時間は長くても30分。今、食べても効果が切れてしまうが、おばちゃんの好意を受け取ってサンドイッチをつまんでから、今度はギルド団員用の部屋へと向かう。机とイスが1セットと2段ベッドが置かれており、ベッドで横になると5分かけてHPとMPを全回復させてくれる。


「俺が持つ生産系のスキルって採取しかねえけど、今は役に立たないし、時間までゆっくりと待つか」


 刻々とイベント開始の時間が迫り、そして、イベントマップ中にブザーの音が鳴り響いてギルド対抗戦の幕が上がった!



 ダクロ、ミク、猫にゃん、ゆっちー、レイカ、他団員数名からなる混成パーティーは森の中を歩いていた。序盤は少しでもポイントを稼ぐために防衛チームを手薄にしており、猫にゃんも探索チームに参加している。


「我は探知能力に秀でているわけでない故、猫にゃん、ゆっちー、其方の活躍に期待する」


「任せるしー」


「任せるにゃん。と言っている傍から何か見つけたにゃん」


「木の上か。【飛行】」


 猫にゃんが飛びしていた鳥型のホムンクルスがつついていたものを見ると、3と書かれた宝玉を見つける。ミクがそれを手にすると宝玉が消えて、【星の守護者】に3ポイント入ったことを先導しているダクロに伝える。


「1つで3ポイント。これがたまたま高ポイントなのかはまだ分からないが、逆転要素として高めにポイントが設定されているのかもしれんな」


「弱くてもポイントを集め続ければ上位入賞できるにゃん」


「そういうことだ」


 ポイントを集めながら周囲に敵がいないか調べていく。時間が経つにつれてポイント集めで分かってきたことは探知能力が優れている、またはよほど注意深く見ないとわからない箇所にポイントが置かれていることだ。しかも、現状は最低でも3ポイントと高い。つまり、戦闘一辺倒してきたプレイヤーは低ポイントのプレイヤーをより多く狩らないといけなくなっている。


「近くにプレイヤーにゃ。数は6」


 探知能力に優れたプレイヤーがパーティーに必須ということは、こちらに気づく可能性もある。今回は半歩早く気づいたこともあって、自分たちの息を先にひそめる。だが、相手も馬鹿ではなく、立ち止まって警戒しているらしく、先に動けたのは運が良かったにすぎない。


「ドローンが近づいてきているな。我のスキルは隠密行動には向かん。こちらの手の内を見せずに撤退するのも一つの手ではあるが……」


「でも、ダクロ。時間が経てば狩りやすい雑魚プレイヤーがいなくなるのもまずいだろ」


「マッキーの言うことも一理あるな。よし、機械兵を陽動にしつつ――」


 ミクをはじめとする団員たちが機械兵を召喚し、敵のパーティーに向けて突撃させていく。


「なんだありゃあ!?」


「なんでロボットが森の中にいるんだよ!」


「とにかく撃て、撃て!」


 初めてみる敵に言って遅れながらも反撃してくるプレイヤーだっが、その初動の遅さが致命傷となってガンナーの絨毯爆撃を防ぎきれずにダメージを負う。そして迫りくるナイトに攻撃を浴びさせても、その堅牢な盾に防がれてしまい、後続のフライヤーやガンナーまで攻撃が届かない。


「全然効いてないぞ」


「地形ギミックか!?」


 もし、彼らに冷静な判断能力が残されていれば、その高い防御能力から貫通効果もちの魔法を使うことができたかもしれない。だが、未知との遭遇はその能力を奪い、通用しにくい魔法を連打するだけとなっていた。


(陽動は十分。これなら!)


 爆音に紛れてミクが後ろに回り込んだにもかかわらず、目の前にいる機械兵の対処で気づいていないプレイヤー。


(【GREED】の底上げがあってもタンクは1撃で落とせねえだろうから、狙うは……)


【幻影の血】を使って2人に分裂したミクはヒールを唱えているハイエルフの少女の背後に忍び寄り、そのか弱い体を剣で切り裂く。少女の悲鳴を聞いたパーティーメンバーがこちらを振り向く。


「今だ、【魅惑の魔眼】!」


 敵パーティーの一人が魅了状態になり、体が動かなくなる。ヒーラーは倒され、一人は動けず、防御の要のタンクは機械兵からの攻撃を防ぐので必死だ。残る3人の敵プレイヤーが一人で突撃してきたミクを手早く倒そうとしてミクと対峙したとき、黒い巨体が猛チャージしてくる。


「宵闇の太刀!」


「ぐあああああ!」


 黒いオーラを発している剣を振るい、一撃でプレイヤーの一人を葬る。その間、動けなかったプレイヤーが動けるようになり、火力プレイヤーの数の総数は変わらない。


「あいつは†闇の支配者†!」


「に、逃げろ!」


「逃がさん!獄炎!」


 プレイヤーの行く手を阻むように黒い炎が噴出し、逃げる手段を失ったプレイヤーに向けて黒剣を大きく振りかぶると、炎の衝撃波が出てプレイヤーを吹き飛ばし、獄炎の中へと飛ばしていく。


「ノックバックと獄炎のコンボの味はどうだ。感想は業火の中で述べるがよい!」


「ぐぎゃああああ!」


「良い答えだ」


 ただ一人残されたタンクも倒し、最初の戦闘は誰一人脱落することなく終わる。


「さて、こちらも手の内の一つを切った以上、この者たちの本拠地に攻め込みたいところではある。ゆっちー、追えるか?」


「任せて。ラッキー、GO」


「本拠地の近くにはトラップがあると考え、機械兵を先導させておこう。最悪、捨て駒にすれば逃走する時間は稼げるはずだ」


 地雷やトラップが仕掛けられていないか確認しつつ、狼系モンスターに備わっている追跡能力を使って、先のプレイヤーがいたであろう本拠地へと向かっていく。


「あっ、ドローンが撃ち落とされたにゃん」


 猫にゃんの言葉を聞いたダクロたちが、近くの茂みに隠れるも、数分経っても敵プレイヤーが近づいてくる気配はない。ステルス戦術は猫にゃんやゆっちーがカバーしていることからも、どうやら敵は穴熊を決めたようだ。


「向こうから出てくれれば、戦いようはまだあるのだが……我らだけで穴熊を決めた本拠地を落とすのは難しいな」


「異性の数にもよりますが、ワタクシにお任せを」


「だが、失敗したと判断したら即撤退をする。皆もそれで良いな」


 ダクロの言葉に頷いたミクたちは機械兵を先行させて、地雷原を突き進んでいく。




 ギルド団員数100名程度の【モノクロ】は30名ほどを防衛に残し、辺りを探索していた。そのとき、たまたまギルド団員の一人が鳥型のホムンクルスを見つけて撃墜。これにより、敵が襲ってくると考え、探索に出ていた団員にコンタクトをとっていた。そのうちの一つが音信不通。そのパーティーの向かった方向に敵がいると考えた彼らはすぐさま防衛ラインを築き、救援が来るまで耐えることを選択した。


「地雷が発動したか」


「これで頭数を減ってくれれば……」


 地雷音がどんどんと近づいてくる。それはつまり、相手は強固な防御力を誇るプレイヤーないし、モンスターを使役している可能性があるということ。こちらの射程距離に入れば防御貫通攻撃ができるよう準備はできている。

 そして、姿を現したのはロボット軍団。その先頭に走る盾を構えたロボットは度重なる地雷によるダメージで黒煙を上げており、もう少し被弾すれば落とせるだろうと思うほどだ。


「あれは!?」


「わからん。だが、奴らは弱っている。撃て!」


「スパイラルアロー!」


「スパイラルシュート!」


 らせん状の尾をもつ矢や魔法弾が盾を構えたロボットに着弾し、消滅させていく。だが、その後ろにはほぼ無傷の重火器を積んだロボットや軽装備のロボットが待ち構えている。


「ロボットの後ろにプレイヤーを確認。数は8」


「たったそれだけの人数で落とせると思うなよ!」


 【モノクロ】もやられているだけではない。後方にいた召喚士や錬金術師がすでにモンスターやホムンクルスを出動させており、数ではこちらが圧倒的に勝る。さらに本拠地に備えたつけられた砲台はロボットに標準を定め、鈍重な重火器タイプを数発で落としていた。


「ロボットなど恐れるに足らず。機体の陰に隠れている卑怯者を倒せ!」


「「「「おー!」」」」


 士気は落ちるどころか盛り上がり、今、本拠地にいるメンバー全員がロボットが来た方を見ている。そんなとき、軽装備なタイプが低空飛行をし始め、手のひらにはエキゾチックな黒いドレスを着た女の子の姿が見える。


「なんだ?」


「ワタクシの魅力におぼれなさい。ヒプノシスフラッシュ」


「目潰しか!?」


 まばゆい光から目を開けると、そこには目の前の少女だけでなく、乗っていたはずのロボットも、隣にいたはずの戦友も、ジャングルの木の葉でさえ、少女の姿へと変貌していく。

 混乱している中、一人のギルドメンバーの後頭部にめがけて少女が猛スピードでぶつかる。幻覚にかかっていないものが見れば、プレイヤーの隙間を縫って飛来した鉄球なのだが、彼らにはそれが分からない。攻撃がされたことが呼び水となって、近くにいる少女に向けて杖を向ける。


「タゲが取れるってことは敵だ!」


「待て、はやるな!」


 静止の声を聴かずに、団員の一人がフレンドリーファイアをし、彼女にポイントを献上してしまう。もはや、彼らの目に映るのは戦友ではなく敵。


「まとめてぶっ飛ばしてやる!エクスプロージョン」


 そう思い込んでしまったら誰も止められない。巨大な爆発が起こって多数の同胞を葬り去っていく【モノクロ】を見て、レイカは色欲の強さを実感していた。


『私の実力わかった?』


「貴女と融合することで能力の強化とスキルの追加が行われる。服が変わるのは欠点ですが、効果は絶大ですわね」


『本来のものと違って異性限定なのよ』


「それでも強いですわ」


 もし、カエデがやったような手法で惑わされなくてもフレンドリーファイア無効機能がある。味方に巻き込みやすくても安心して撃てる強力な技が多数存在している以上、それらが下手に使えないとなれば、相手の不利は免れない。むしろ、そちらが本命ともいえる効果だ。


「想定以上だな。猫にゃん、他のプレイヤーが戻ってくるまでの時間は?」


「撃墜地点からの予想で30分。早くても20分にゃ」


「このパーティーなら15分でいける。他のプレイヤーを叩きつつ、コアを破壊する!」


「「「了解!」」」


 それから数十分が経過し、探索に出ていたモノクロメンバーが戻ってきたときにはすでにコアは破壊され、防衛に残したプレイヤーはだれ一人残されていなかった。

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