第5話 ソロプレイ
夕食を終え、お風呂から出た三雲は紅葉の部屋で精魂尽きたかのように倒れる。
「ひどいめにあった~」
「ちょっとスキンシップとっただけじゃない」
「あれのどこがだ!もうお婿さんにいけねえ~」
「だったら、私が貰おうかな。二人でおそろいのウェディングドレス着て。あっ、でも教会で挙式するとダメージ受けてそう。でも、結婚式無しなのはなぁ~」
「いや、お嫁に行く時点でダメージだから。それまでには戻るぞ」
「そうと決まれば、ゲーム再開だね。私はメインアカで遊ぶから、みっちゃんは装備整えたら好きにしていいよ。今度のレベル上げからは私も戦闘に参加するから早く上がると思う」
「そういえば最高レベルはいくつなんだ?」
「レベルキャップ制で最初はレベル50だったけど、アプデや周年ごとに引き上げられて今は110。ちなみに素のステータスの上限は1100。だから、ステにあまりSPを振りすぎると、レベルアップでステ上がるのに上限に引っかかって無駄になりかねないよ」
「わかった。気を付けるよ」
紅葉の忠告を受けた三雲はゲーム世界へとログインする。ひとまず、トリスの武器屋で装備の新調をすることにした。
「いらっしゃい、武器屋に入るのは初めてかい?」
「そうだけど」
「武器を買う際は違う種類のを買ったほうが良い。例えば、剣2つ買っても特殊なスキルがないと片方しか装備できないからな。アクセサリーも同じだ」
「へえ~、そうなのか。わかったよ、おっちゃん」
ミクは店の陳列棚を見て、売られている武器の特徴を確かめていく。この店に置かれている武器や防具は名前からしてどれも鉄製のようだ。
「斧は敏捷下がるデメリットがある代わりに攻撃が一番高い、ナイフが敏捷も上がるけど攻撃が低い、剣は攻撃が上がるだけか。槍もあるな。剣より攻撃は少し低いけど。知力が上がるのは杖だけか。弓は扱いにくそうだからパス。おっ、銃!ガンマンスタイルもよさそう」
「嬢ちゃん、どの武器にするか決めたかい?」
「う~ん、迷うけどナイフが届く範囲なら噛みついた方が早いし、槍は折れそうだからメインは剣で良いかな。知力を上げたいから杖も。防具は重いと動きづらいからなるべく軽い奴」
「あいよ。アイアンソード、アイアンロッドと鎖かたびら、アイアンヘルムね」
「そういえば、アクセサリーと靴はどこで買えるんだ?」
「それは向かいのアクセサリーショップとその横にある服屋に行ってくれ。ここでは取り扱っていないからな」
武器屋の店長から装備品を受け取り、さっそく装備する。そして、紹介された店に行ったあと、今度はレベル20になったことで覚えられる魔法とスキルを習うため、冒険者ギルドへと向かう。始まりの街と教官は違うが、覚えられる魔法は一緒のようだ。
汎用スキル:【加速】を覚えた 60SP消費
魔法:ダークボールを覚えた 30SP
魔法:ダークスラッシュを覚えた 30SP
ミクLv30
SP:110
種族:吸血姫
職業:なし
武器1:アイアンソード(攻撃+30)
武器2:アイアンロッド(知力+30)
頭:アイアンヘルム(防御+27)
服:鎖帷子(防御+25)
靴:スピードシューズ(敏捷+30)
アクセサリー1:日傘
アクセサリー2:魔法の腕輪(MP+20)
アクセサリー3:
HP120/120
MP140/120+20
攻撃170/140+30
防御112/60+52
知力170/140+30
敏捷210/180+30
器用さ90
運30
技・魔法
ブラッディネイル、ファング、シャドーボール、ブラッディファング、ブラッディアロー、
ブラッディボール、隷属:サイクロプス、ダークボール、ダークスラッシュ
固有スキル
【吸血】、【吸血鬼Lv2】、【吸血姫Lv2】、【魅惑】、【闇の力Lv2】、
【動物会話】、【真祖Lv1】、【隷属】、【怪力Lv1】
汎用スキル
【投擲Lv3】【遠投Lv3】【見切りLv2】【採取Lv2】【ジャイアントキリング】
【加速】
「さてと、良いクエストって言ってもわかんねえし……とりあえず、これとこれを選ぶか」
ミクはモンスター討伐と採取クエストを受けることにした。Dランクに昇格しておけば、もう少し報酬の良いクエストを受けられるのだが、そんなことは頭から抜けているようだ。
「サイクロプスのこん棒は必要分を集めれば良いな。高原草はどこにいるんだ?」
こういう時はと他のプレイヤーに聞こうとして、背の高い大学生くらいのお兄さんに話しかけた。
「ん? なんだい?」
「高原草ってどこにあるか、わかりますか?」
「ああ、向こうの出口からでて道なりを歩けば分帰路がある。それを右に曲がれば見晴らしのいい高原に着くから、そこで採れるよ」
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて、お兄さんの案内に従ってミクは高原へと向かっていくと同時に、彼女と入れ違うように大男がお兄さんと話をし始める。
「わりぃ、待たせた」
「まったく。低級の素材が足りないからって、俺まで呼ぶ必要ないだろ」
「ダイチ、マジすまん。俺、採取系のスキルまったく育成してなくて」
「アルゴ、お前は戦闘ばかり考えるから素材も金も足りなくなるんだ。さっさと狩りに行くぞ」
「わかっている。ところで、さっき話していた可愛い子は?」
「ああ、初心者の子が採取場所を聞いてきたから、効率のいい場所教えておいた」
「アソコって女の子のトラウマポイントだろ。それに2周年の節目のせいか初狩りPKが増えているけど、一人で行かせて大丈夫か?」
「……素材揃ったら、俺たちも高原にちょっと様子見に行くか。何もなければUターンすればいいだろう」
「やれやれ仕方ないな」
彼らはミクとは反対の分帰路を歩き、素材を集めていくのであった。そのころ、道を教えてもらったミクは出てくる植物系のモンスターを刈り取っていた。
「見た目が普通の植物だからどれがモンスターか分かんねえな。おかげで【投擲】のレベルアップもできねえ」
ヒーラーのカエデが不在ということもあって、初心者支援でもらったポーションでこまめに回復しながら進んでいる。これは夜まで待った方が良いかと思ったが、夜になれば草の判断なんて出来もしないと考えた。高原に着くまでは急に襲い掛かる触手のようにツタを伸ばしてくるモンスターに対処することに専念する。
「腕をつかまれた!だが、こっちには牙があるぜ。ブラッディファング!」
植物のツタから水分を吸い取り、人食い植物が枯れていく。噛みつければ勝てる。レベルの割にはそれほど強くないモンスターを倒していくと、一面花が広がっている高原にたどり着く。
「高原草……高原草……あった、これか」
キラキラと光るクエストアイテムを見つけ、こんな簡単に見つかるなら夜に来たらよかったと思うほどだ。あっちこっちに生えている高原草を集めていくと、急に巨大な植物が口を開けて遅いかかる。
「ジャイアントプラントLv35!ちょっときつくねえか!」
ムチのようにしなるツタを叩きつけて、地面に咲いて居る草花を吹き飛ばす。あれを食らえばむち打ちで済まないであろう威力だ。
「距離をとるにしても、トロールと違って向こうの方がリーチが長い!だったら、全部刈り取るまでだ!ダークスラッシュ!」
自分の剣から放たれた闇の斬撃はツタをやすやすと切り落とす。さらに襲い掛かるツタもブラッディネイルで刈り取る。だが、まだ何本もウネウネと揺れ動くツタは、男の感性を持つミクでさえも嫌悪感を与えるものだ。
「気持ち悪いんだよ、【加速】!」
四方から襲い掛かるツタを置き去りに本体の花弁へと突撃していく。だが、今度は地面から生えてくる根っこで壁を作られ、近づくことができない。
「こちとら、時間をかけられないんだよ。一か八か、やってやるぜ、隷属:サイクロプス!」
サイクロプスを召喚して、根っこの壁をへし折っていく。これはまずいと思ったのか、ジャイアントプラントがサイクロプスを雁字搦めにするも、その動きに大量のツタを消費してしまう。相手からの攻撃を躱しやすくなったことで、本体に取り付き噛みつく。日光によるダメージと相殺していくも、そこは植物のモンスター、ツタでミクを引きはがして放り投げる。
「ちっ、さすがにそう簡単にはいかねえか。だが、やることはだいたいわかった!」
次の【加速】が使えるようになるまで距離をとりつつ、ポーションで回復。サイクロプスには犠牲になってもらう。そして、再び近づき、噛んだり、ダークボールなどを投げつけたりする。これを繰り返す。
「問題はポーションが切れるのが早いか、相手が倒れるのが早いかだ。HPの減り方的に微妙だな。SP溜めないで攻撃に振っとけばよかったか」
少し後悔しながらも、自分の立てた作戦を実行していく。そして、最後のポーションを使い切り、ラストチャンスと今度は必死にしがみついてジャイアントプラントを吸血していく。そして、根競べの結果、ボスが倒れるのであった。
Lv32にアップしました
【見切りLv3】にアップしました
「つかれた~もう夕方か。少し休んで、日が暮れてから街に戻るか」
「ぐへへ、ちょうど良いカモがいるじゃねえか」
「ん? 誰だ、おっさん?」
見るからにアウトローな服装をし、眼帯をした禿面のおっさんが3人やってくる。ゲームなんだから、もう少しマシな恰好すればいいのにと思ったが、もしかすると悪役を演じているだけの人かもしれないのでそこは指摘しないようにした。
「痛い目に合いたくなかったら、お前の持っているアイテム、全部よこしな」
「無償で渡せるのはUCまでって聞いたけど」
「低レアは個数がいる。だが、イチイチ採取するのは面倒だ。だが、初心者は支援ボーナスで最初からC、UCの素材を各種持っている。取らねえ理由にはならねえよな」
「……ああ、他のゲームだけど聞いたことがある。初心者狩りってやつか」
「そうだ。このゲドー様がありがたく使ってやるから寄越せ」
「俺たちのレベルは60を超えている。お前じゃあ、勝ち目はねえよ」
(60ねえ……紅葉が言うには大手ギルドは80が足切りライン。多分だけど、多くのプレイヤーがこの付近のレベル。つまり、こいつらは自分がまともに強くなるより、理由をつけていたぶるのが悪趣味な連中ってところか?)
ミクはアイテム欄を見るふりをして、残っているSPを攻撃に全振りする。これならダメージくらいは与えられるだろうと考え、ブラッディボールを唱える。今は夕方、日光による影響は昼間よりも小さく、日傘の効果もあって継続ダメージは受けない。
「やるのか、てめえ!」
「夜が近いからって舐めるなよ!」
「吸血鬼といえどもそのレベルだとアップするのは1.22倍。大したことねえぜ!」
「9回裏3アウトまで、やってみないとわからねえぜ!」
ミクはこのゲーム初めてのプレイヤーキラー戦へと立ち向かうのであった。