第57話 文化祭に向けて
期末テストも終わり、夏休みまであとわずか。それはすなわち、ギルド対抗戦の日も着実に近づいているということだ。プレイヤーたちが他のプレイヤーと差をつけようとログインをしている中、三雲たちはオカルト同好会に出ていた。
「皆様、集まりましたわね」
「なあ、今度集まる時って月末じゃなかったのか?」
「そのつもりでしたが、先月、生徒会長様とこの同好会の存続の条件を話し合っていましたの」
「えっ、私、知らない」
「もう、麗華ちゃんが部長で良いんじゃいっすかね~」
「私、いらない子……これが下剋上……」
「部長のことは放っておいて、条件ってのは?」
「放っておかないで~」
「数字を出すというのがだれの目にも納得できる指標。そこで、妥協点として挙げられたのが、文化祭で行われる各出し物に対する人気投票でBEST20をとるということ」
「えっ~と1学年9クラスあるから、3学年で27個。そこに各部活の出し物も含めると……50以上はあるだろ」
「要は中の上の人気をとらないといけないってことだよね」
「そうですわよ」
「無理無理無理。去年の人気投票なんて空き部屋(休憩室)に負けているのよ!」
「それはひどい」
「同じ0票ってことだろ。さすがに」
「疲れた時に助かりましたと書かれて1票だけ入ったとか」
「ということは去年はドベ」
「ひでえな。何を展示したらそうなるんだ?」
「自作した呪いの藁人形とか髪が伸びる日本人形とか。これは去年の写真」
綾香が自分のタブレットを見せると、そこにはうす暗い部屋に呪われそうな日本人形や今にも動き出しそうな洋風の人形が置かれており、別の写真ではお化けのコスプレをした先輩方が映っていた。翌年には廃部の危機になるとは思えないほどに楽しそうにしている様子だ。
「へえ~、お化け屋敷か。面白そうじゃん」
「うん。雰囲気出ているし、ドベなのが不思議なくらい」
「だけど……受けなかったの」
「なんでだよ。こういうのって、カップルと入ってキャーって……あっ」
「そうか。女子校だから、男女のカップルなんて存在しないし、そもそもオカルトは女子受けしない」
「マーケティング不足というわけですわね」
「ずびずば言わないで~」
「でも、SORAさんの実体験やホムンクルスを展示しても去年とぱっと見は変わり映えはしないから廃部は確実……部長、いっそのこと、メイド喫茶店でもやってオカルト要素捨てます?」
「それはダメ~」
「部長様がおっしゃるように特色を捨てるのもどうかと。それにメイド喫茶も男子受けを狙ったもの。上位に食い込むのは難しいかと」
「それなら、メイド喫茶ならぬ執事喫茶でもやるってのは? 俺、男だからよくわかんねえけど、そういうのがあるってのは聞いたことはあるぜ」
「みっちゃん、それいいね。私たちが男装して喫茶店するの」
「どうせならコスプレするのはどうです? 吸血鬼伯爵とかの」
「その方向性ならば、内装にオカルト要素を取り入れることができますわね。部長様、この案でよろしいでしょうか」
「……他に方法が無いなら」
「決まりですわね。では、模擬店をするのであればメニューを夏休み前に提出しないといけないので、そちらも考えないといけませんわ。これが模擬店をやる際の注意点ですが……」
麗華が文化祭をやるうえでの注意点をまとめたプリントを部活メンバーに渡していく。特に重要な個所についてはラインマーカーが引かれているあたり、彼女の生真面目さが映し出されている。
「室内でやる場合は火事防止のため、ガスコンロ等の火の取り扱いは不可か。こうなると、炒め物とか蒸し料理とかはできないし、出せる料理って限られてきそうだな」
「うん。ジュース、かき氷は良いとしても、後はオーブンレンジで出来るクッキーとかのお菓子くらいかな」
「投票してもらうにはインパクトが欠けますわ」
「部長、何か無いっすか?」
「えっ~と、例えばだけど、ケチャップとかで血文字を書いてみたりとか、クッキーなら蝙蝠の形にするとか……」
「良いんじゃね。雰囲気にあってそうだし」
「文字はなんて書く? よくあるハートとかだとつまらないよ。あと書くならできるだけ簡単なのがいいとは思うけど……」
「呪なんてどう? 口の部分が多少丸まったとしてもわかると思う」
「雰囲気にはあっているし、書くのは楽そうだけど、それで良いのか?」
「インパクト重視ですわ。投票する際に忘れ去られているよりかは、なんか呪われそうなところとかで頭の片隅にでも残っていれば投票してくれる可能性はまだありますわ」
「そういう見方もあるか。呪だけだと寂しいよな……殺は難しいから、たまに祝うにするのはどうだ?」」
「レア感増して良いね。右側は共通だから、忙しくないときにあらかじめ右側だけ書いておくこともできる」
その後もワイワイと話をしていき、文化祭に向けても三雲たちは進めていく。話し合いが終わるころには日が暮れ、夜のとばりが降りていた。
「で、なんで俺はゲーム内で着せ替えさせられているんだ」
「コスプレ衣装どうするか考えるためでしょ」
「ゲーム内ならお金持ちだから、いくらでも使い放題」
今、ミクが着ているのは吸血鬼らしい黒いスーツとマント姿。女になったことで縮んだ背丈を厚底ブーツでカバーし、男の子らしさをアピール。長い髪もまとめたり、散髪屋による髪型変更を利用したりしてどういった格好が男の子っぽいかを追求している。
「髪を切るのがらしくはなるけど、現実だとこんな簡単に変更できないからね~」
「それは仕方ありませんわね。束ねるのはどうでしょう?」
「いいね。試そう」
「でも、この季節、髪を短くしても不自然には思われないし、思い切って現実でも髪切らない?」
「ワタクシの髪は高いですわよ」
「私は短めだからあまり……」
「私はパス☆」
「部長は駄目です。ちゃんと磨けば可愛いんですから」
「や め て~」
「部長は顔をいじってますから、現実でメイクです」
あーだこーだと髪型やメイクが決まっていったところで二人がログアウトして、残された三人はせっかくだからと着せ替えしていた衣服を数点を購入し、服屋から出ていく。
「今日は遅いし、俺たちも――」
「ミクミク、珍しく買い物?」
「服を買うなんて隕石が落ちそうだにゃん」
「ゆっちーと猫にゃんか。買ったのは文化祭の参考資料だぞ」
「文化祭? 部活も良いけど、クラスの出し物も忘れないでよ~」
「同じ班だにゃ」
「って言っても、町の歴史を調べてポスターにするだけじゃねえか。そんなの図書館にでも行ってちょちょいのちょいだ」
「言えてる~」
「ネットでタァンとしないだけ、ポイント高いにゃ」
「駄目だよ。ちゃんとその場所に行って取材しないと」
「ワタクシたちとは違う班だから、あれこれは言いませんがやるからには全力で取り込んでください」
「わかったよ、レイカ」
「それはそうとして、せっかくパーティーそろったし、あの女神像のクエストの続きやらない?」
「あれは相当な額の資金が必要だったはずでは?」
「レイカがいない間にあたしらのギルドだけ行ける場所が増えたから、そこで稼いだんだよ」
「それは興味深いですわね。そこには後で行くとして、金銭面の問題が解決したのであれば行くのはやぶさかではありませんわ」
ミクたちはゆっちーのパーティーに入って、フォーゼの地下オークション会場へと向かう。そこには依然と同じくマスクをかけたおじさんが高額商品を競り落としていた。
「おじさん!」
「おや、君たちは……ここで話すのもアレだ。私の家に案内しよう」
女神像を競り落としたおじさんの後を追って、魔法陣の中へと入っていく。転送先は彼の屋敷の中。本来ならば高級品の家財や美術品が置かれており、来客たちの目を奪わせるはずだった。だが、それらは無残にもガラクタとなって転がっており、中には盗まれたのか日焼けの後だけが残っているところも多々ある。
「なんだね、これは!?」
「だ、旦那様……」
「クレセリア、何があった!」
「盗賊に襲われてしまい、旦那様のコレクションが……」
「私の不在の合間に……済まんが、君たちとの商談はあとに――」
「待ってくれ。その盗賊、俺たちに任せてくれないか」
「君たちがか? ふむ、いいだろう。君たちが盗賊を捕まえてきたのであれば、私が以前落札した女神像を君たちに返却しようではないか」
「良いのか?」
「紳士の言葉に二言はない。私は被害を確かめるから席を外すよ」
おじさんがメイドのクレセリアと一緒に部屋から出て、残ったミクたちは盗賊のヒントを探すべくまずはこの部屋の探索をし始めるのであった。