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第56話 ギルド対抗戦に向けて

 6月下旬。7月に行われるギルド対抗戦まで1か月を切ったところで、公式から今回のギルド対抗戦のルールが発表された。そのため、各ギルドではギルド対抗戦の作戦会議が行われており、【星の守護者】も例外ではない。


「みんなも一度はルールを読んだとは思うが、改めて確認させてもらうぞ」


 ダイチが会議の進行をしており、会議室に設置されたホワイトボードに今回の対戦ルールとマップの概略図を書き込んでいく。対戦する場所は五角形のエリアで中央部に建物が立ち並ぶ居住区エリア、各頂点には森林エリア、山岳エリア、砂漠エリア、海岸エリア、草原エリアが広がっている。また、建物や木々を破壊しても一定時間経過すると元に戻る仕様だ。


「午前6時のイベント開始と同時にすべてのギルドはランダムに選ばれた拠点に飛ばされる。それから6時間ごとに昼夜は逆転し、拠点は一部の職業のみ強化が可能」


「おそらく、生産職が可能だと思われる」


「つまり、戦闘職しかいない【修羅】みたいなギルドは不利に働くというわけだ。それで午前9時になると拠点から外に出て対戦が可能になる。それで対戦ルールだが……」


 ①各ギルドはリーダー1名とサブリーダー2名を決める。リーダー、サブリーダーはギルドマスターでなくても良い。

 ②各拠点にはギルドコアが設置されている。破壊されると拠点の一部の機能が失われる。

 ③プレイヤーを倒すと1ポイント、サブリーダーを倒すと3ポイント、リーダーを倒すと7ポイント、ギルドコアを破壊すると10ポイントがギルドに入る。また、ポイントはマップ上にも点在している。

 ④倒されたプレイヤーはイベントマップに入ることはできない(ただし、スキル等で30秒以内に復活した場合を除く)。ログアウトは拠点のみで行うことができる。


「拠点が無いと休んでもHPが回復しなくなる等のデメリットが発生するから、守りをどうするかというのも重要だ」


「防御と攻撃、2手に分かれるのが最善か」


「ポイントの探索も忘れずにな。リーダーはハクエン、サブリーダーは俺とジーク。遊撃部隊の指揮は機動力の高いジークを中心としたパーティー。防衛部隊は俺を中心としたパーティーで組む。ハクエンは休憩でいなくなった方の指揮を頼む。それでパーティーメンバーは……」


 遊撃部隊:ジーク(サブリーダー)、ダクロ、ミク、ゆっちー、カエデ、レイカ……

 防衛部隊:ハクエン(リーダー)、ダイチ(サブリーダー)、アルゴ、リン、猫にゃん……


「とまあ、こんな感じだ。だが、場合によってはもう一方の部隊のフォローに回ってもらうこともあるから、あくまで目安ということは忘れるな」


 この後、ダイチがギルドメンバーに序盤の動きだけを話した後、作戦会議はお開きとなった。


「みっちゃん、これからどうする?」


「そうだな……来週、期末テストがあるし、ロボットを火山にいる錬金術師に見せびらかしたらログアウトするか」


「他のプレイヤーにばれないように気を付けてね」


「わかっているよ」


 カエデがログアウトし、ミクは一人で火山へと向かうのであった。



 道中の敵は鎧袖一触。もはや敵にすらないレベルで山道を駆けていく。ここ最近増えていたPK行為は、ギルド対抗戦のルールが発表されて以来、自分たちのギルドへの勧誘合戦へと切り替わっており、ギルドの統廃合も行われている。今回のルールの都合上、一人でも多いほうがポイントの回収に有利にたてるからだ。その点においては【星の守護者】は【漆黒の翼】に粘着PKされていることもあって、新規メンバーが少なく不利な立場に置かれている。

 そして、火山にある洞窟にたどり着くとそこには机に向かって大きな白い紙に線を引っ張って、何かしらの図面を作成していた。詳しいことは分からないが、形状からして銃のような武器のようだ。


「錬金術師のおっさん、何しているんだ?」


「高魔力収束砲の設計だよ。材料はカーミラ君に禁術で錬成した鉱石があるから大丈夫だが、設計思想に無理があるのか行き詰っているところだ」


「うまく出来ているようにしか見えないんだけどなぁ」


「それはお前がトーシロだからだ。はあ、機械に詳しい人いないかねえ」


「手下の人たちは?」


「ボスが行き詰っているのに俺たちができるとでも?」


「だよな。それだったら……【機械兵召喚】」


 ミクがNMA-01を召喚すると、錬金術師たちがそれを食い入るように見る。腕や脚、バックパックの翼、手持ち武器の数々。魔法や錬金術とは異なる高度に発達した科学という未知の技術に関心を示しているようだ。


「これの開発者に会ってみたいものだ」


「いいぜ。場所は……」


「ふむふむ。なるほど、それならクッション性に優れたホムンクルスを用意しておけば谷底には降りられそうだな」


「ボス、こんなこともあろうかと!」


「スライムゴーレム用意しておきました」


「ふむ、ご苦労。それではその黄金都市とやらに向かおうではないか。チャールズ君、ハイド君、留守は任せた」


「ボス、了解しました」


「お気をつけて」


 ミクや部下たちを置いて狂乱の錬金術師は一人で黄金都市へと向かっていく。性格面で問題はあるが、彼はNPC。さしものPKもNPCに攻撃を仕掛けるようなことはしないだろうと思ったミクは、場所を悟られないように温泉街のギルドから黄金都市へと転移する。


 朽ちた市役所からDr.サイコの家へと向かうと、そこにはすでに黄金都市にたどり着いた錬金術師とDr.サイコが議論を交わしていた。


「このサイズの砲を撃てば放熱中の隙が大きすぎて、ただの的になるだけですわ!」


「それ重装甲による防御で耐えるのだよ」


「それをすると機動力が低下しますわ!」


「君だって砲撃タイプの機体を作っているではないか」


「求められているシチュエーションが違いますわ。それにNMA-03は足にキャタピラをつけていますから、悪路でも最低限の機動力は保障しています」


「おーい、どうした」


「ミク君、君からも言ってくれないか。ロマン砲の魅力を」


「タイタンビームには助けてもらったしな。良いんじゃないか?」


「それを扱うのに馬鹿ほどのエネルギーを喰らうせいで、一発放ったら数分は攻撃もできない、動けないただの的。ただの欠陥機です」


「その数分を重装甲で耐えると言っているのだ」


「それだと動きが鈍いただのトーチカですわ!」


「あー、だったら妥協できる威力に下げて放熱時間も妥協できるところを探すしかないんじゃねえの?」


「それではロマンが無いではないか!」


「でもさ、その後攻撃できないほど機体のエネルギー最大限使っての攻撃ってそれもロマンじゃね?」


「むむむ、それは確かに……」


「消費エネルギーを抑えるなら動かすくらいはできるのか?」


「出来はしますが、攻撃できないのは……」


「だったら実弾積むとか、魔力以外の攻撃方法を用意しておくしかないんじゃないか?」


「最低限の武装だけなら機動力の低下も……」


(野球やっていた時もそうだけど、傍から見れば小さなことだとしても言い争いって本人たちに妥協点を見つけだせないと収集がつかないんだよな)


 あーだこーだと言いながらも、妥協案で話し合っていく二人を見てミクはホッと一息を入れる。それからしばらくして、話がまとまったのか二人の議論が終わる。


「というわけでNMA-01をベースに改造機を作ることにしたわ」


「飛行能力をバランサー代わりにするから飛べないが、機動力は従来機と遜色ないはずだ」


「へえ~、俺に手伝えることがあるなら手伝うぜ」


「そうね。アタクシ、魔法のことはさっぱりだからそこは彼に任せるとして」


「一番の問題は人員だな。私と同じ錬金術師はいくら居ても困らんし、鉄鋼に詳しい鍛冶師の人間がいればなお良しだ」


「猫にゃんとリンさんを連れて来たらよさそうだな。連絡入れるから、少し待ってくれ」


 ミクが猫にゃんとリンに連絡を入れて待つこと数十分。初めてここに来たリンは警戒するように入ってくるが、猫にゃんは全くそんな素ぶりを見せない。


「火山のボス……まさか本当に味方になるんだね」


「味方ではない。私の崇高なる目的のために君たちを利用しているだけだ」


「だったらここで――」


「リンさん、タンマ!俺たちの目的は」


「わかっているよ。ここで物を作ればいいんだろ。楽勝さ」


「頑張るにゃん」


 連れてきた二人を工房に招き入れたDr.サイコたち。彼女たちを見送って手持ち無沙汰になったミクは、近くにある本棚から暇つぶしに小説を読み始めることにした。中はミステリーもので、列車の中で殺人事件が起こって名探偵がそれを解くというものだ。



「はあ~、難しかった」


「……うん」


「おっ、結構時間かかったな。本1冊読み終えたぜ」


「生産職は初めて作るモノはミニゲームをクリアしないといけないにゃ」


「ミニゲーム? どんなのだ」


「わかりやすく言えばレトロなリズムゲーだ。音符が流れてきてタイミングよく押すやつ。あれの亜種だ。簡単な奴は目つぶってでもできるくらい簡単だが、今回の手ごわかった」


「何回やり直したか分からないにゃん」


「それで無事にできたのか?」


「もちろんだ。1回クリアしたら、条件を満たした同じギルドメンバーなら使えるようになるみたいだ。本来、アタシは最初の条件を満たしていないが、今回の功績ってことで機械兵を召喚できるようになったけどな。もちろん、使うのはこの強化されたNMA-01、NMA-04スーサイドだ」


 リンが機械兵を召喚する。細身の体は騎士型のNMA-02と同じようにガッシリとしたものに変更されており、それに伴い機体は3m程度まで大型化している。これは砲撃に耐えれられるようにフレームの強化も兼ね備えた結果らしい。そして、緊急時用のナイフが腰に備え付けられているが、一番の特徴といえば胸に取り付けられているジェネレーター直結の高出力砲だ。1度撃てば、ナイフ以外の武装が使用不可になり、スピードもわずかだが低下するというデメリットを抱えているとんでもない代物だ。


「デメリットがある分、こいつの火力はすごく高いらしいから、まともな戦闘能力がないアタシでもギルド対抗戦の戦闘に参加できるってのは良い」


「そうなのか?」


「そりゃあそうさ。生産数増やす系に素材消費減らす系にミニゲームの難易度緩和系のスキル……他に上げたらきりがない。そういう意味では戦闘メインのこのゲームにおける生産職ってのは不遇だよ」


「だったら転職すれば……」


「アタシ、戦闘の読みあいだとか頭使うの苦手だからね~こうやってミニゲームやっている方が性に合う。それに……」


「それに?」


「アタシの匙加減で戦闘が強いからって理由で威張っている連中が困るってのはゾクっとこねえ。裏で支配しているって感じで」


「リンの姉御って良い性格しているよな」


「誉め言葉だと思って受け止めておくぞ!」


 上機嫌なリンをしり目にDr.サイコからNMA-04について話を聞く。そして、そのメリットとデメリットを天秤にかけた結果、空戦ができないのは痛いと考えて機種変はしないのであった。

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