第54話 黄金都市、その後
レイドイベントが終わり、ギルドメンバーに黄金都市のことを話した二人はさっそく彼らを黄金都市へと招き入れる。とはいえ、大勢で移動すれば他のギルドに感づかれてしまう。よって、ミクたちの素材集めをしている体を装い、周りに誰もいないことを確認してから少人数ずつ谷底へと飛び込んでいった。
「こんなところに街があったんだな」
「装備破壊を仕掛けてくるらしいぞ、大丈夫か?」
「それは受け止めたらの話だな。こうやってカウンターを決めれば――」
ダイチがゾンビの攻撃に合わせて盾で殴り倒して、装備の損傷を抑えていく。1回の戦闘なら偶然かもしれないが、多くの戦闘を終えても装備が一度も破壊されずに市役所までたどり着いたトッププレイヤーに感心したミクは彼らと別れて他の場所の探索をしようとする。
「すげえな、ダイチさんたちは」
「うん。私でもあそこまできれいにカウンターを続けるのは難しいよ。メインアカの話ね」
「ん? カエデの方だとダメなのか?」
「魔法職はどうしてもワンテンポ攻撃が遅れるからカウンターするのはほぼ無理」
「あ~、確かに切り付けるほうがタイミング合わせやすいよな」
「そういうこと。探索していないところもあるし、じっくり探そう」
「だな」
今回は未探索地域である金ぴか城の裏手側を調べることにした二人。レイドイベントで壊れていた・壊した建物が元通りに直っており、探索スポットに影響はないようになっていた。
「さっきと違ってロボット系の敵が多いね」
「ああ。落ちたアイテムも壊れたパーツαとか使い道がよくわからない」
「後で鍛冶師のリンさんや錬金術師の猫にゃんに見せよう。もしかすると、合成素材だとか修理して使うようなアイテムかもしれないし」
「そうと決まればアイテム集めだ」
といったものの裏通りは表通りと比べて破損がマシな建物が多く、家屋を一軒一軒調べるのは骨が折れそうな作業だ。無論、宝箱が置かれていることもあるが、クエストを発生させるようなキーアイテムは宝箱に入っているとは限らない。そのため、がれきを撤去して重要そうなアイテムが落ちていないか入念に調べ、マップにマーキングを施していく。
「こんなことしていたら、日がいくらあっても足りねえぞ」
「でもこうやって地道にやってきた先達がいたから、みっちゃんみたいな後発プレイヤーでも追いつくことができるんだよ」
「それは分かるよ。スポーツの世界でも同じだからな。でもな……ゲームなんだから少しでも楽にできる方法とかないの?」
「それじゃあ、ゆっちーたちを呼ぼう。確か、もう少しで来るはずだから」
「確かに人手は多いほうが良いな」
廃屋を探索しながら持つこと数十分。猫にゃんと一緒にやってきたゆっちーをパーティーに入れて、事情を話す。
「そういうことならあたしの出番じゃん」
「何か秘策があるのか?」
「ふっふ~ん、いでよ、ラッキーちゃん」
ゆっちーが呼び出したのはハートのまだら模様がついているかわいらしい狼のモンスター。ピンク色の毛を揺らしながら、地面を嗅いでプレイヤーをどこかへ案内させていく。
「この狼はなんていう奴なんだ?」
「ラッキーウルフ。戦闘能力が低い代わりにアイテム探査能力に優れているにゃ」
「すぐ逃げちゃうから仲間にしづらいけど、未知のエリア探索には重宝されるモンスターだよ」
「耐久配信もやったくらいだしね~」
ラッキーウルフがここを掘り出せと言わんばかりに前足で瓦礫をつんつんと触り始める。そこにあるがれきをサイクロプスにどかしてもらうと、大きな電池が転がっていた。
「なんだこのデカい単三電池」
「昔の携帯ゲーム機くらいにはあるね。アイテム名は……スーパー電池」
「まんまじゃん」
「……偵察ドローンに感知。何か来るにゃ」
猫にゃんの警告に何が来たのかと思いながら、ミクたちが身構えていると目の前から「タスケテー!」と助けを求める声が聞こえる。
「まだ生きている人がいたの!?」
「そんなわけがない。グリードの話が本当なら、人がゾンビになるくらいには時間が経っているはずだ!」
「だったら誰が来たっていうの?」
「……見えてきたにゃ」
「タスケテーー!!」
銃を持った警備ロボット軍団に追いかけられているのはバケツをひっくり返したような形のロボット。上部にあるディスプレイには顔文字が映し出されており、彼(?)が困って泣いているのがはっきりと分かる。
「ロボットがロボットに襲われている?」
「とにかく助けるぞ!【挑発】」
警備ロボットのヘイトを奪い、追われているロボットから引き離していく。そして、ロボットを守るようにゆっちーの使役するモンスターが立ちふさがり、安全を確保する。
「空を飛びたいけど、そういうわけにはいかねえよな」
市街地とはいえ、高い建物が少ない黄金都市では上空に飛べば、いくらでも逃げ道はある。だが、空を飛べばヘイトを奪われることはミクもわかっている。そのため、地上でつかず離されずの距離を保ちながら、ヘイトを奪われないようにボール系の魔法で着実に警備ロボットにダメージを与えていく。
「ちっ、昼間だからダメージがあまり出せねえ」
「私に任せるにゃ」
警備ロボットとの間に藁人形とお地蔵さんがぽんっと出てくるのを見て、ミクが慌てて攻撃を中断する。だが、それらの効力を知らない警備ロボットたちは手にしたビームガンを放ち、破壊し、祟り殺されていく。それをみた警備ロボットが祟り殺されたくないのか、引き金を引くのをやめる。
「よし、猫にゃんの藁人形で攻撃が緩くなった今なら!【加速】」
ミクが一気に距離をつめ、警備ロボットに【魔力付与】で火属性を纏わせた剣で切り裂いていく。距離を詰められたことで、手持ちのビームガンではフレンドリーファイアする可能性が高いこともあり、それらを投げ捨てて腕からのビームサーベルに切り替える。
「今だ、【霧化】」
「行くよ、シャイニングスパーク」
ミクの姿が消え、ビームガンを手放したせいでブレストバルカン以外の遠距離からの攻撃がなくなり、安全を確保したところでカエデの雷鳴が警備ロボットにぶち当たる。ぷすぷすと煙を出している警備ロボットを見たゆっちーが自分も負けじとモンスターを召喚する。
「サラりん、レッツゴー!」
ゆっちーが呼び出した火炎トカゲよりも一回り大きく凶暴そうなサラマンダーが火炎をまき散らして、警備ロボットを焼き、熱でオーバーヒートさせていく。
「俺たちも負けねえぜ、火炎トカゲ!」
ミクも負けじと火炎トカゲを召喚し、サラマンダーを討ち漏らした警備ロボットを焼き尽くしていく。数さえ減れば、こちらのもの。それ以降は苦戦することもなく、順調に倒していったミクたちは追われていたロボットを守り切ることができた。
「さてと、色々と聞きたいことはあるが、まず、お前の名前は?」
「ワタシノ名前ハ『ロボッピ』デス」
「ロボッピ、どうして追われていたにゃん?」
「アアアア、ソウデシタ。オ魚ヲ買イニ行カナイト」
「魚? こんな山中の洞窟の中にか?」
「地底湖とかあるのかな?」
「ナニヲ言ッテイルンデスカ。魚ヲ買ウトイエバスーパーデス」
そう言い残して、ロボッピがどこかへと去ってしまう。このまま放っておくわけにもいかず、ミクたちはロボッピを追いかけようとするも、すぐに見失ってしまう。
「足が速いな。【加速】しても追いつけるか分かんねえぞ」
「うん。必ず見失うようになっているイベントなのかも。こういうときは追跡できる召喚獣の出番」
「あたしのハッピー、追跡スキル持ちだよ」
「頼むぜ、ゆっちー」
ゆっちーが再度ハッピーを召喚し、ロボッピを追跡していく。がれきの隙間を潜り抜けるような細い道を通りながら、似たような風景が広がる道を歩いていくと、そこには右半分が砲弾でも潰されたのか、完全に失われているスーパーの跡地が広がっており、その店の前ではロボッピが困り顔の絵文字を映し出していた。
「ロボッピ、どうした?」
「皆サン。スーパーガツブレテイマス」
「だろうな」
「ドウシマショウ?」
「俺に聞かれても……」
「あたしたちが代わりに魚を買えばいいじゃん」
「地上に上がれば、海もあるにゃん」
「タスカリマス。ワタシノ御主人サマハグルメナノデ、デキレバレアリティノタカイ魚ガホシイデス」
「例えば?」
「7色ニカガヤク宝石。キングレインボーサーモン。コノスーパーデモ滅多ニ手ニ入ラナイ一品ナンデス」
「キングレインボーサーモンか……結構粘らないといけないんだよね」
「レインボーサーモンならあるのに!」
「無いニャン」
「じゃあ、そのキングレインボーサーモンを手に入れに行くか」
「「「賛成!」」」
「アリガトウゴザイマス。御主人サマモヨロコビマス」
ロボッピの『御主人サマ』が何者なのかは気になりながらも、ミクたちは港町ファイズへと向かうのであった。