表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/132

第53話 強欲

「手始めに城の中を探すか。人手が足りねえから、サイクロプス頼んだぜ」


「うが」


 一つ目の巨人ががれきをどかして、廃墟と化した金ぴか城の中を探していくミク。がれきでふさがっていた通路を歩き、無事な部屋の中をくまなく探すもそれらしいものは何も落ちていない。ここには何もないのかと思いながら、ほかの部屋の扉を開けてみる。


「ここは書庫か。本はあるけど、やっぱりどれも金塊になっているな」


 ここには何もなさそうだと思って引き返そうとしたとき、地面が大きく揺れる。ミクが窓から外を見ると、そこにはミダス王が尻餅をついていた。


「それだけの巨体で、しかも重量バランスが悪そうな体。足元をひっかければ容易に転ばせられる!」


「カエデも頑張っているな。俺も頑張らねえと……」


 気合を入れ直してほかの場所を探そうと思った時、本棚や金塊となった本が雪崩のように落ちており、扉を防いでいる。


「……まずはこれをどかすか。サイクロプス、手伝ってくれ」


「うがあ」


 サイクロプスと一緒に金塊をどかしていくと、ひとつだけ金塊になっていない薄汚れた本を見つける。中を見ても白紙のページが連なっており、落丁本のようにも見える。だが、問題はなぜ、これだけ金になっていないのかだ。


「……こういうのでよくあるのって本をずらしたり、傾けたりしたら隠し扉が現れるのって定番だよな。よし、本棚を調べてみるぞ」


「うがが」


 サイクロプスが倒れた本棚を起こして、その中を一つ一つ丁寧に調べていく。すると、本棚の中に小さなスイッチを見つけ、それを押してみる。


「何も起きないな。じゃあ、この本を置いて……」


 ゴゴゴと何かが動く音が聞こえ、その音がした方へと向かおうと本を手放した瞬間、本が倒れて再びゴゴゴと音がし始める。おそらくは本が倒れると扉が閉まる仕組みなのだろう。


「ああ、この金塊をストッパー代わりにしろってわけね。よいしょっと」


 今度は本が倒れないようにした後、音がした方へと向かっていく。そこはミダス王と初めて会った玉座の間。ミダス王が巨大化した影響で天井や壁が崩れた影響で、その面影は転がっている玉座しかないが、その近くにぽかりと地下に続く階段がある。

 その階段をゆっくりと歩いていき、地下通路を渡っていく。その壁には金銀、ダイヤなどの鉱物がそこら中に生えている。そして、地下通路の終わりにある扉を開けると、そこには長身の男性がいた。ただ頭部に生えている角と背中の羽をもち、その姿はウラガルのような悪魔に近い。


「悪魔なのか?」


「おうよ。俺は7つの大罪の名を冠する悪魔、グリード様だ」


「グリード、お前の目的はなんだ? なぜ、ここに居る」


「冥土の土産に教えてやるぜ。その昔、俺はこの地の人間に召喚された。召喚された理由はいたってシンプル。不老不死の技術提供だ」


「不老不死……確か、この日記に書かれていたな。失敗したって……」


「ああ、悪魔が扱う魔術が人間に扱えるわけねえだろ。だがまあ、腐っても人間。手法は若干異なるが、7、8割くらいの再現率をたたき出したことには舌を巻いたぜ。犠牲になった連中は多かったが」


「だけど、完全な不老不死じゃない」


「知っているか、人ってのは老化すると子供を産めなくなる。つまり、見た目がいくら若くても中身は老人。気づいたころには生殖機能を失った人間しかいなくなっていたわけさ」


「だけど死なないなら、人口は減らない……」


「老化はするが老衰では死なない。それが奴らの強欲さが招いた結末さ」


「それって肉体が腐っても生き続ける……まさか、外にいたゾンビたちは!」


「そうさ、この国の住人の成れの果てだ。脳も腐って自分たちが何者かもわからないだろうがな。一部は王様に彫像にされたようだが、そっちの方が幸せだったかもしれないな」


「この日記には永遠の富と書いてあった。その技術もーー」


「おうよ。俺の魔術の仕組みを教えたら、王様にその技術を提供して不老不死の研究を続けたんだぜ。といっても、脳が腐りきるまでの100年間だけどな」


「だから失敗した……か」


「さてと、おしゃべりはここまでだ。王様にはもっと暴れてこの土地を壊してもらわないといけないんでね」


「どうしてだ?」


「言っただろう、俺は召喚された悪魔だ。その際、俺はこの土地に縛られている。俺が自由になるには、この土地をすべて破壊してもらわないといけないのさ」


「ろくでもない奴らに召喚されたお前に同情する部分はあるが、そうはさせない!」


「そう言うと思ったぜ。だがな、俺には七つの大罪が持つ特殊スキルの一つ【GREED】がある。強欲な連中、要は相手が多いほど、俺は際限なくパワーアップする。 いくぜ、【GREED】!」



【GREED】の判定結果:

 MISS、MISS、MISS、MISS、MISS、MISS、MISS、MISS、MISS、MISS、MISS、MISS、MISS、MISS、MISS……



「…………」


「…………」


「……………………」


「……………………なんかすまん」


「謝られると余計につらい。お前たち、何人で来たんだ?」


「2人」


「もっと大勢で来いよ。まあいい、行くぜ!」


「ああ。ブラッディウェポン、ソード!」


 ミクが血で形作られた剣を握りしめ、拳一つで身構えているグリードに襲い掛かる。武器も持たず、魔法を唱える様子もない。どこか不気味さを感じながらも、ミクはグリードに剣をふるう。待っていましたと言わんばかりにグリードが彼女の剣をつかむと、ボロボロとなって崩れていく。


「ゾンビと同じ能力か!」


「逆だ。あいつらに俺の能力を教えてやったんだ!」


「たいそうな肩書の割には結構親切だな」


「悪魔なんだね。人間と違って契約は守るさ。だが、縛られすぎるのもいやなんでね、こうして王様を唆してこの国ごとぶっ壊してもらって自由になる寸法よ」


「さっさと契約切れよ!」


「こっちから切れるなら苦労はしねえ!」


 距離を取ったミクが投げつけた閃光の剣を分解しながら、迫ってくるグリード。そんな彼に捕まるわけにはいかないと足の速さを生かして逃げていく。


「逃げ回るだけじゃあ、勝てないぜ」


「捕まったら、装備品を分解するつもりだろ!」


「おうよ。素っ裸にして彫像にしてやるよ」


「冗談じゃねえ!」


 走る。走る。だが、彼が言うように走り回ってるだけでは勝てないし、外のミダス王のことも考えれば時間制限が最初からついているも同然である。


(いくら紅葉が戦いなれているとはいえ、一人で戦うには限度があるだろうし、どうする?)


「どうした? 諦めて王様のところに行くのも一手だぜ。契約の関係で俺はここから出られねえからな」


(【飛行】で空から戦いけど、ここは使用不可になっているし、最悪だ)


 逃げ回りながら、後ろから追いかけてくるグリードを見る。スキルが不発になっているせいか、それともHPがほとんど減っていないせいか、追いかけるしか無いようだ。


「要は手で触れられなかったらいいんだろ。人食い植物、そいつを縛り上げろ!」


 地面から生えてきた植物のつたでグリードの両腕を縛ろうとするも、その程度の力で拘束できるかと言わんばかりに引き千切って格の差を見せつける。


「で、どうやって縛り上げるつもりだ?」


「くっ……」


「鬼ごっこも飽きたし、少し本気を出すかね」


「自分の体に触れて何をするつもりだ?」


「こうするのさ。ハアアアアアア!」


 グリードが自身の身体を改造してにょきにょきと腕をはやしていく。それは外にいるミダス王の触手と同じものだ。伸縮自在なそれらの無数の手は逃げ場を防ぐかのようにミクの周りを取り囲みながら迫ってくる。


「この数、逃げていてもいずれ捕まる!なら切り落とす、ブラッディネイル!」


「おう、威勢いいね。だが、俺のことを忘れたら困るぜ」


「まずっ、【霧化】」


 霧状態になって鳥かごのように取り囲んでいる触手の外に出る。そこは、もう数歩下がれば部屋の外。クリアできないと思って退散しても、ミクを悪く言う人はいないだろう。むしろ、相手の切り札を見た以上、称賛されるかもしれない。


「外でカエデが必死に戦っているのに、しっぽ巻いて逃げたら男じゃねえよな」


 覚悟を決めたミクが触手がうごめく中へと飛び込み、グリードと相対する。


「そのまま逃げるかと思ったぜ」


「安心しな。この戦い、俺とお前、どっちかが倒れるまで続くぜ」


「俺に勝てる算段があると?」


「どんな強豪相手でも試合前から諦めなければ勝てる可能性はある」


「俺好みの回答だ」


「いくぜ、悪魔には悪魔だ。ウラガル!」


「大罪の名を冠する悪魔か。相手に不足なし」


「力量差もわからぬ雑魚悪魔が俺に勝てると思うな」


 触手がウラガルに襲い掛かろうとした時、天から降り注ぐ黒い稲妻がそれらを迎撃し、壊滅状態に追い込んでいく。そして、触手を失ったところに背後に回ったミクが鉄球を投げつけ、グリードの後頭部にクリーンヒットさせる。


「腕はいくらでも生やせ――」


「インフェルノ」


 再生しかかっている腕の断面を焼き、その再生を封じようとするウラガル。それに応え、速球でグリードに少しずつダメージを与えるミク。二人のコンビネーションを打ち崩すことができず、グリードは着実にダメージを負っていく。


「ちっ、【GREED】がまともに機能すれば……」


「いいわけか。小物臭く見えるぞ」


「……ああ、そうだな。少しばかり、過信していたようだ。礼を言うぜ。追い詰められた時の奥の手だが、今、使わせてもらう」


 グリードの体が刺々しい金色の鎧に包まれ、無数にあった腕が普通の2本の腕に戻る。


「腕が減った?」


「いや、ちがう。あの金ぴか姿。研究所で戦ったLEVEL3に似ている!擬態能力があるかも」


「擬態だぁ。それは違うな!」


 トゲの戦端からホーミングレーザーが放たれ、ミクたちに襲い掛かる。避けられないのは明白。ならば、相殺しようとウラガルが魔導波を放つも、いくつかはすり抜けてしまう。


「ブラッディウェポン、シールド!」


 血の盾で減衰したホーミングレーザーを受け止めるも、すぐに破壊されてしまい、大ダメージを負ってしまう。


「意外としぶといねえ」


「ったりめえだ。今度はこっちから行くぜ!【灼熱の血】」


 自身の速度を上げて残像を出しながら、グリードへと差し迫る。今までは距離をとれば、触手にさえ気を付けばよかったが自動追尾を仕掛けてくる遠距離攻撃を仕掛けてくる今、遠距離の優位性は失ったも同然。ならば、装備を失うリスクを背負っても自身が得意とする近距離で戦った方がマシだと判断したからだ。


「ダークスラッシュ!」


 闇を纏った一閃がグリードに襲い掛かるも、手に触れたことで剣が折れてしまい、与えたダメージは小さい。そして、グリードがつかみかかろうとしたとき、それを躱して、己の爪で切り付ける。今度は手を引っ込めて、鎧での防御だ。鎧に傷つく程度ではあるが、ダメージ自体はきっちりと入っている。


「ちっ、やるじゃねえか」


「お前もな、グリード」


 つかめば勝ちを確信できるグリード。捕まれば一巻の終わりだと認識しているミク。激しい攻防をしている中、ミクが突如として距離をとる。そして、放たれるはウラガルの最大火力の魔導波。ウラガルの攻撃を食らったグリードの鎧にひびが入るも、その高い防御力は健在である。


「ふう、効いたぜ」


「とっさに放ったレーザーで幾分か相殺したようだな」


「まあな。まずはお前からやっつけてやるよ、ウラガル!」


 名を呼び、雑魚悪魔という認識を改めるグリード。先よりも多くのレーザーが宙を縦横無尽に飛び回り、ミクを狙ったものか、ウラガルを狙ったものか分からないようにする。そして、レーザーの爆撃が二人に襲い掛かる。


「【加速】」


「我が雷撃でも相殺しきれぬとは……ぐっ」


「ウラガル、大丈夫か?」


「あと数発は耐えきれる」


「だったら、俺は即死だな。なら、こいつを使う。【鮮血の世界】」


 闇に覆われ、足元には血だまりが噴出していく。そして、さらに速度を上げたミクはレーザーを見切り、血の剣でグリード切り付けるも破壊される。


「ブラッディウェポン、アックス」


 斧をすぐさま生成し、再び襲い掛かる。一撃与えて粉砕された斧をすぐさま投げつけ、新しい武器を再度作り出す。


「ブラッディウェポン、ウィップ」


「こいつ、同じ魔法を即座に……!?」


「ご明察。ブラッディと名の付く魔法だけクールタイムを大幅に減少させる効果があるのさ」



【鮮血の世界】:【吸血姫】専用魔法。発動時に最大HP・防御を半分にする。フィールドを夜状態にするし、【吸血姫】の効果量をアップさせる。さらにブラッディと名のついた魔法およびスキルの効果をアップし、クールタイムを大幅にダウンさせる。1日に1回のみ使用可能



「この結界内だと、魔法使い放題ってわけか」


「そういうことだ。ブラッディウェポン、ダガー!」


 投げつけられた短剣を弾き飛ばし、大技を持つウラガルへのけん制の攻撃は忘れずに行うグリード。両者の攻防は拮抗しているように見えるが、あとわずかでも天秤が傾くだけで勝敗が決まる危ういバランスで成り立っているものだ。


(下手に大技を喰らうわけにはいかねえ……)


(あと一撃を加えたいところではあるが……)


(俺の攻撃はほとんど通っていないも同然。どうしたらウラガルの一撃を与えられるか考えろ……)


 3人の思惑が交差する中、ミクが距離をとってウラガルのそばに行き、小声で話しかける。レーザーの爆撃音と距離があるせいでグリードには聞こえないが、ここが二人を葬るチャンスだと思い、レーザーによる面制圧を行う。


「ブラッディウェポン、シールド」


 足元に広がる血をすべて使い、巨大な壁がミクたちを覆い隠す。だが、グリードのレーザーの束は血の壁ですら数秒も持たずに貫通する。だが、貫通した穴にはウラガルの姿は見えない。


「主をその身で守り、蒸発したか。いや――」


 グリードが振り向き、後ろから襲い掛かるウラガルの手をつかむ。


「あの壁で目くらましをし、背後に回って攻撃を仕掛ける算段だったんだろうが、残念だったな。これで俺の勝ちだ」


「……ああ、そうだな。これで()の勝ちだ」


 目の前にいるウラガルの言葉、そして触れているにも関わらず一向に石化しない様子にハッと気づいたグリードではあったが、もう遅い。後ろから襲い掛かる魔導波の直撃によってグリードが纏っていた金色の鎧が砕け散り、つかんでいたウラガルを手放ししてしまう。


「ブラッディファング!」


 変身を解いてウラガルの姿から元に戻ったミクが倒れこんでいるグリードに噛みつく。そして、立ち上がろうとするも、腕を押さえつけられた状態では一向に立ち上がることもできない。


「お前の敗因は鎧のレーザーを除けば、攻撃も防御も手を起点にしないといけない。こうして腕を取り押さえれれば攻撃も防御もできない!」


「こうなったら腕を生やして……」


「サイクロプス、人食い植物、アクアクラブ、腕を取り押さえろ」


 グリードにわらわらとモンスターが群がり、彼の身動きを完全に封じる。腕をさらに増やして伸ばそうとしても、ミクに化けていたウラガルに焼き切られ、群がるモンスターたちを倒すことすらできない。


「そして、もう一つ。お前は直接触れて装備を破壊できても体を破壊できない。できるなら、ブラッディネイルをまともに食らうわけがないからな」


「まったく……そんな細かいところまで見ていたとは。抜け目ねえな、お前」


 攻撃手段を失ったグリードは諦めたかのように反抗するそぶりすらもせず、おとなしくミクに血を吸われるのであった。




 ミクが勝利したことでグリードの体が徐々に薄くなっていく。敗者は消え去るのみといったところだろう。


「俺が負けるとはな……」


「後は外のミダス王を止めに――」


「待ちな!」


「なんだよ。俺は急いでいるんだ」


「負けた俺が言う義理じゃないかもしれないが、後始末くらいはさせてくれ」


「何をするつもりだ?」


「王様の力は俺の力を模したもの。つまり、不完全とはいえ俺自身の力ともいえる。ならば、俺自身の意思でその力を取り上げることができるってわけだ」



【ミダス王の力が失われました】



 一方、そのころ。戦力が圧倒的に足りない上に、黄金地域が30%を超えだしたあたりからまともなダメージを与えることができなくなっていたカエデは、本体への攻撃を早々にあきらめ、侵略を抑えるためにビルを倒して侵攻ルートを防いだり、足元を破壊して転ばせたりして時間稼ぎを行っていた。

 そして、残り10%にも満たない非黄金地域を守っていたカエデの前に映し出されたメッセージ。それと同時に黄金に変えられていた地域が少しずつ元の灰色の街へと変わっていき、ミダス王にかかっていた黄金バフも消えていく。それどころか、ミダス王から生えていた触手も消えうせ。黄金の体はまだら模様になりながら消失していく。


「我が力が消えて――!?」


「よくわからないけど、みっちゃんがやってくれたんだよね。だったら一気に行くよ!」


「こんな小娘ごときに!」


 ミダス王が乱暴に巨大な手を振るう。だが、所詮は王様。冒険者と違って戦場で戦う者ではない。子供のような攻撃はそこまで敏捷に振っていないカエデでも避けやすく、当たる様子はない。それどころか、カウンター攻撃できる余裕さえある。次から次へと繰り出されるクリティカル攻撃にたじろいでいるミダス王の前にミクとウラガルも合流する。


「みっちゃん!」


「カエデ、大丈夫か?」


「へーき。残るはサンドバッグだから頑張って削ろう」


「わかったぜ。【飛行】」


 ミダス王よりも空高く飛び上がる二人。魔法も使えないミダス王に上空にいる二人をどうこうする術はなく、ただひたすら殴られて倒されるのであった。



「我が野望が……」


 果てぬ野望を未だに抱き続けた哀れな王が砂となって消え去っていく。そして、レイドイベントをクリアしたことで大量の経験値と資金、アイテムが手に入る。


「おお、レベルが一気に97まで上がったぜ」


「固有スキル何を覚えたの?」


「えっ~と、【死線の魔眼】。クリティカル発生率アップ。クリティカル発生時にごく低確率で即死状態を付与する。一部の敵には無効」


「クリ率アップは強いけど……即死かぁ」


「ボスキャラには通用しないんだろうな、きっと」


「私もそう思うよ。プレイヤーに即死が効くなら対抗戦で猛威を振るいそうだけど、効くのかなぁ。一部の敵がどこまで入っているんだろう」


「そこはプレイヤー表記じゃないから効いてほしいところだ」


「おう、お疲れさん」


「誰?」


「グリード、まだ生きていたのか」


 ミクが声の主に若干驚きながら言うも、その身体はほぼ透けており、そう長くはないことを告げている。


「後始末してくれてありがとうよ。礼とまではいかねえが、俺のスキルを渡してやるよ」



 パーティーメンバーは【GREED】(戦闘開始時に相手が5体以上の場合、全ステータスの内3つの能力と全属性の内2つの攻撃力及び耐性を上昇させる)を覚えた



「これがあのとき、お前が使おうとしたスキルか」


「どこかの誰かさんが与えたダメージのせいで劣化したけどな」


「俺のせいかよ」


「かかか、冗談だ。お前たちにはあの王様みたいな末路をたどってほしくねえから劣化版を送ったまでだ。今度会うときは俺を契約しろよ」


「それはできぬ相談だ。我が契約しているからな」


「ったく。先客に言われたら仕方ねえ……というと思ったか。俺は強欲なんでな。無理ならその道理を蹴り飛ばすまでよ。首を洗って待ってな」


 グリードの姿が消えていき、レイドイベントはこれにて終了となった。ちょうどキリもよく、二人はゲーム疲れをいやすべく、ログアウトして大浴場へと向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ