第51話 黄金世界
完全に未知の世界に迷い込んだミクは黄金の城を目指しつつ廃墟の中を突き進む。崩れた廃墟は鉄筋コンクリづくりで、現実世界の建物とそう大差はなく、ゲームの地上にある町よりも高い科学技術を持っているようにも見える。そして、ミクが歩いているとき、がれきがガタガタと震え始める。
「第一村人発見か?」
「キシャアアアア!」
「ゾンビ? にしては……」
やせこけた腐敗した死体のモンスター。地上でも見かけるアンデッド系モンスターの代表格ともいえるが、胸に金色の宝石が埋め込まれているのが最大の違いだ。
「よくわかんねえけど、あれが弱点だろ。アンデッドには光だ。鉄球に【魔力付与(光)】」
よくわかっていないモンスターに近づくのは危険と判断し、距離をとって光り輝く鉄球を投げつけてゾンビの胸元に鉄球を投げつける。すると、金色の宝石が光を吸収し、鉄球を土くれに変える。
「なっ!?」
「ギジャアアアアアアア!」
「コイツ、見た目と違って力も強いぞ!どうなってやがる」
ミクがとっさに剣を抜いて、ゾンビと力比べをする。その腕力は気を抜けば押されてしまうのではないかと思うほどだ。
「オオクワガタ、こいつを挟み込め!」
隷属されたばかりのオオクワガタを召喚し、背後からゾンビの身体を両断する。念のため、倒したゾンビから距離を取って警戒するが、自己再生する様子もなく消滅してアイテムを落とすのであった。
「あぶねえ。あの宝石があると光属性吸収みたいなのがあるのか? だとしたら、ここで光属性の攻撃は避けた方がいいかもな」
廃墟のがれきからガサコソと現れるてくるゾンビたち。どのゾンビにも金色の宝石がついており、厄介さを際立てていく。
「まずは光以外でも反応するか確認する。確かアンデは光だけじゃなくて火も通りはよかったはず。【魔力付与(火)】!」
「ギシャアアアア!」
「ちょっ、こいつもダメなのかよ。もしかして魔法系一切アウトか!? しかもほかのやつより追っかけてくる速さ違うし。攻撃吸収してパワーアップとかそんな感じかよ」
後続のゾンビと引き離したところで、上空で待機させていたオオクワガタに奇襲させてゾンビの身体を両断させる。
「一応、弱点属性だけ吸収するか確認するぞ。【魔力付与(闇)】」
闇の力を蓄えた鉄球を金色の宝石にぶつけると、今度は奪われなかったものの先ほどと同様に鉄球が石くれのように砕け散る。
「攻撃は通ったみたいだけど、思ったほどダメージは出ない……さっきから鉄球が破壊されるのは魔法を吸収したからだけじゃなくて、ほかに要因があるのか?」
その要因はよくわかっていないが、剣をふるってゾンビたちを倒していく。魔法攻撃は効きにくく、物理攻撃なら通る。それならば対処の使用はいくらでもあると思っていると、ふるっていた剣が突如として折れる。
「まだ5、6体倒したくらいで折れる代物じゃねえのに!?」
「キシャアア!」
「ブラッディネイル!」
鮮血の一陣によって、最後のゾンビが倒される。戦闘が終わったミクは物陰に隠れて、一息を入れることにした。
「装備品が壊れたのは初めてだ。ってことは、こいつらは武器の耐久値を削っていく能力もあるのか? だとしたらやべえな」
武器や装備品、一部のアイテムには耐久値が隠しパラメーターで存在している。攻撃を受け続けることで耐久値が減って、一定のラインを超えると破壊される。壊れた武器や減った耐久値は戦闘終了と共に元に戻るが、戦闘中は特定のスキルを使わない限り元に戻らず、装備の補正値も半減する。
とはいえ、耐久値は高めに設定されており、装備品が破損するのはレアケースである。だが、耐久値を意図的に削っていくような敵であるなら、話は別である。何しろ、パーティー次第では解除できないデバフをかけるのと同義であるのだから。
「物理メインで殴ると武器が破損、飛び道具はダメージが低い、おまけに弱点つけない。これは戦闘をできるだけ避けた方が楽か? 確か、忍びの服に見つかりにくくなる効果があったはずだから……」
装備を切り替えて、敵に見つからないように注意しながら廃墟の中を歩いていく。廃墟の中にも、破損が少ない建物もあり、焼け焦げた看板にはかろうじて【市役所】の文字が読み取れる。市役所の中に入ってみると、やはり誰もおらず、受付にあるパソコンを起動させると『ワープ装置の起動』や『クエストの受注』と書かれたアイコン等が出てくる。
「ワープ装置を使うと地上の冒険者ギルドに戻れるみたいだな。クエストの受注もここでできるとなると、ここが冒険者ギルドの代わりになりそうだ。セルフサービスだけど」
採取系のクエストだけを受注したミクは市役所を出て、再び街の中を探索していく。壊れた建物によって道がふさがれている場所も多く、目的地まではだいぶと迂回しないといけないようだ。そして、今度は焼け焦げた研究所の中へと入っていく。
「見た目の割には中は無事……ってあれはなんだ? ASIM〇?」
「ピーピー、シンニュウシャハッケン!」
「迎撃モードニイコウシマス」
2体の警備ロボットたちの腕からビームサーベルを出して、ミクに襲い掛かってくる。動き自体はロボットらしく単調。だが、防御力は見た目以上に高く、ダメージが通りづらい。
「どっちかというとゴーレム系の敵って感じだな」
「ブレストバルカン」
「ちょ、銃火器も内蔵しているのかよ」。ブラッディウェポン、シールド」
盾を作り出して警備ロボットのバルカンを防いでいると、もう一体の警備ロボットが飛び掛かって動けないミクを頭上から切りかかる。
「【自己再生】!一撃でHP全損とかどんだけ攻撃力が高いんだよ」
「シンニュウシャノハイジョ、サイカイシマス!」
再びビームサーベルを振り回してくる警備ロボットの斬撃を剣で数回受け止めると、ミクの持っていた剣に亀裂が走る。
「こいつ、ゾンビと同じく装備破壊してくるのかよ。厄介だな!」
壊れた剣を投げつけて気を取られているすきに、火炎トカゲを召喚して炎を吐かせていく。すると、耐熱性はそこまで高くないのか、剣で与えていた時よりも大きなダメージが入っていく。
「こいつら魔法に弱いのか。だったら、アクアクラブ、お前も行け!」
熱された装甲が急冷却されたことで警備ロボットの装甲にヒビが入る。チャンスだと思ったミクはブラッディウェポンで作った剣を握りしめて、脆弱になった装甲に向けて斬撃を放つ。分が悪くなったと思ったのか撤退しようとする警備ロボットの背に向けて、鉄球を投げつけて破壊する。
「ふう。ロボットは魔法、外のゾンビは物理で対処か……これ、一人で行くような場所じゃねえな」
パーティーで来ることが前提のダンジョン。そう思いながら、研究所の中を調べていくと、無数のカプセルが並んでいる部屋が見つかる。その多くは破損しており、中身は存在していない。だが、いくつかのカプセルは無事であり、その中には培養液の中にはLEVEL1と記されたトカゲ人間のようなクリーチャーが鎮座してあった。
「うわ~、マッドサイエンティストの実験部屋みてえだな」
そんな不気味な部屋にある研究者の机を調べると、そこには日記が書かれてあった。その大部分の文字はかすれていて読み取れないが、最後のページだけはなんとか読める。
『失敗した。我々の目的である不老不死の研究は失敗した。王様に副産物の永遠の富を与えるまではよかった。だが、我々は失敗したのだ。この方法では不死になれても不老不死にはなれない。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した』
「精神崩壊しているな、この人。不老不死の研究に永遠の富ねえ……ぜってー厄ネタだろ、これ」
ミクが日記を読み終わると、部屋の中からパリーンとガラスが割れるような音がする。嫌な予感をしながらも、音がした方を見に行くと、そこにはこの部屋では珍しくもない割れたカプセルが並んでいるだけだ。
「気のせいか……いや、違う、これは!?」
ミクが見つけたLEVEL3と書かれているカプセルからは培養液が流れていた。つまり、このカプセルはつい先ほど、割れたものだ。
「確か、カプセル内にあったのは……まずい!」
ミクが駆けだそうとした時、背後から何者かに殴り倒される。殴られた方を見ると、そこには金色に輝くトカゲ人間がいた。
「こいつ、どこから……」
「女ダ!オンナ、オンナ、オンナアアアアアア!」
「まだロボットの方が知性があったぞ!ブラッディネイル」
襲い掛かってくるトカゲ人間に向かって、血の閃光が奔る。容易にダメージを与えたことに拍子抜けしていると、トカゲ人間が周りと同化して姿を消す。
「カメリーオと同じ擬態能力持ちか!だったら、アクアクラブ!この部屋中に泡を出せ!」
アクアクラブがブクブクと泡をまき散らしていくと、泡がパッパッと割れていく箇所がある。そこに狙いをつけてただの鉄球を投げつける。下手に属性を付与すればパワーアップするかもしれないからだ。
「ギャア!?」
「姿を現したな。ブラッディアロー!」
出の速い血の矢がトカゲ人間を射抜く。ダメージを負いながらも、トカゲ人間が再び姿を消そうとした時、ブラッディウェポンで作られた剣を握ったミクが襲い掛かる。鋭い爪でミクの斬撃を受け止めていくトカゲ人間。それにより、トカゲ人間の爪先が割れるのと同時にミクの握っていた剣も折れる。
「ニチャア……」
「装備が折れるのは大前提ってのはわかっているんだよ。もう一度、ブラッディウェポンだ」
今度はダガーを作り出すや否や、トカゲ人間に投げつける。脇腹に突き刺さったダガーに悲鳴を上げながらも、姿を消したトカゲ人間だったが、ぽたぽたと流れる血は彼の居場所を教えてしまっている。
「丸見えだぜ、お前!」
見えない敵が姿を隠せないとなれば、もはや雑魚。姿を隠した気になっているトカゲにミクの投げた鉄球がめり込んで悶絶しているところを切られて、絶命する。
「ふう……得られるお金はおいしいけど、一人で戦いたくねえな。ちょうど昼だし、紅葉を誘ってみるか」
セーフティーエリアである市役所まで戻ったミクは一度、ゲームからログアウトするのであった。