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第4話 吸血鬼の真価

「さてと、夜ご飯までゲームしようか」


「おう!今度はどこに行くんだ?」


「レベル30前後だとゼガンの村を超えてトリスの街かフォーゼ城下町まで行くことになるね。そこまで道案内したら、一度ログアウトして寝支度した後、再度ログイン。その後はソロになっちゃうけど、大丈夫?」


「別に構わないぜ。紅葉はどうするんだ?」


「私はメインに切り替わってギルドメンバーと話した後、日課のダンジョン潜りしないといけないから。月末にあるレイドに向けて準備しておかないと」


「レイド?」


「うん。学生の長期休みに合わせてレイドイベントがあるんだ。そこまでにはみっちゃんのレベルも80くらいまでは上げておきたいね」


「80って……それは無理じゃねえかな」


「あと1週間あるからいけるよ。そこまで上げたら、いろんな上位ギルドの加入条件も満たせるし」


「ギルドに入ったら何か得あるのか?」


「例えば、ギルド同士で勝負する大型PVPイベントが夏休みを利用して行われるんだけど、優勝したギルドはもちろん、上位入賞したギルドにも豪華景品がもらえる。だから、みんな大手ギルドに入りたがるわけ。あとは時間のあるプレイヤーを集めやすくなるから、一緒に冒険しやすいってのもあるかな」


「へえ~、だったら今の時点でも入ってもよくねえ?」


「人数少ないところはリア友でもないとすぐ解散したり、いろんな情報やアイテムを共有していると盗まれてドロンされたり、ひどいところはパコ目的のギルドも混ざっているから、結局、信用できる大手ギルドに人が流れちゃうんだよね」


「それなら、よほどのことがない限りはギルドに入らないでおくよ。ところで、お前がメインで入っているギルドってなんていうギルドなんだ?」


「【漆黒の翼】って言うんだけど、こっちはこっちでちょっと問題抱えているから、それ解決してから呼ぶね」


「ああ、わかった。それまではのんびりと冒険するよ」


「のんびりとはさせないよ。サブのレベルはまだ低いけど、パラメーターに振ったおかげでそこそこの格上なら倒せると思う」


「メインで手伝ってもいいんだぜ」


「それは楽し過ぎ。プレイヤー自身のスキルも上げないと」


「それもそうか。俺も1試合だけ大谷選手と一緒に野球できますと言われたらすげーうれしいけど、全試合の味方に大谷選手がいますってなるとちょっとなあってなる」


「そういうこと。さっきのグリーンドラゴン戦はイレギュラーとして、ある程度苦戦しつつレベリングしていくよ」


「よし、そうと決まったらゲームスタートだ!」



 三雲がログインすると、今度はノイズが走ることなくゲームの世界に飛び込んでいく。スタート地点は始まりの街からゼガンの村に行くのに通る山岳地帯に出てくるモンスターは平均レベルが10台。二人のレベルなら難なく倒せる相手だ。


「みっちゃんには【投擲】とかのスキルを上げるために飛行系のモンスターを見かけ次第、そこらの石でモンスターを倒してもらおうかな。固有スキルと違って汎用スキルは使っていかないとレベルアップしないから」


「良いぜ。こんなの屁でもない!」


「頼もしい。じゃあ、まずはゼガンの村へ」


 二人が山道を歩いていると、空から大きな鳥がこちらに向かって飛んでくる。ミクが拾った石を投げつけると、レベル差があるおかげで一撃でノックアウト。肉や素材が手に入る。空を見上げると、先ほどの鳥がくるくると旋回しているが、こちらには向かってこない。


「この距離当てられるか?」


「【遠投】があるからできるかも。まずはやってみるのが肝心だよ」


「それもそうだ。行くぜ!」


 渾身のストレートが怪鳥の1匹にあたると堕ちていき、それを見た他の怪鳥が逃げるようにミクたちから離れていった。調子に乗って地上に出てくるゴーレムも倒そうとしたが、一撃では倒せず、2回3回と当てて倒すこととなった。


「ゴーレムは物理防御が高いから、魔法で倒したほうが良いよ。せっかく両刀にしているんだから、使いこなさないと」


「そういうことは先に言えよ。それならシャドーボールで倒していた」


「こういうの場慣れが重要。見た目固そうなら、物理攻撃じゃなくて魔法で攻める。魔法が効きにくいなら物理で攻める、それでも倒せないならギミック無いか考えるってね」


「いろいろと考えなちゃいけないんだな」


「心技体、全てないといけないから面白いんだよ」


 モンスターを倒しながら進んでいくと、ゼガンの村にたどり着く頃には【投擲Lv3】、【遠投Lv3】、【採取Lv2】と順調にパワーアップしていった。村といっても冒険者ギルドの支部はあるため、いつでもここに来れるように手続きをした後はクエストを受けることもなく、山を下ってトリスの街へと向かっていく。


「この辺りはレベル20台になるから、気を付けないとね。初期装備で来ることはまずないから」


「だったらクエストを受けて、強化してからでも良かったんじゃねえか?」


「それならトリスの街で購入したほうが良いよ。それにあっちに近いほうがレベルが高いモンスターが出るからレベル上げの効率も良い」


「なるほどな。おっと敵発見!」


 ミクの前に現れたのは一つ目巨人のサイクロプス。筋肉隆々な体を見たミクは物理が高いタイプと考えてシャドーボールを弱点部位である目玉に直撃させる。


「よし、ストライク!」


「でも、倒し切れてないから注意して。日光のスリップダメージは私が回復してあげるから、気にせず戦って」


「おう!」


 ドスドスと走ってくるサイクロプスにこちらも走って、接近戦に持ち込んでいく。サイクロプスが手に持った棍棒をぶんと振りかざすと、ミクが避けた地面に跡が残る。


「ブラッディネイル!」


 カウンター気味に放った鮮血の刃が、サイクロプスの足の健を切る。立てなくなったサイクロプスはもはやいいカモ。安全に背後から噛みつき、HPを吸収して日光によるスリップダメージを相殺していく。しばらく飲み続けていると、サイクロプスのHPがようやく0となる。


「ぷは~ようやく死んだか」


「自力で回復してくれたから、こっちもMP温存できたよ」


「こういう戦い方が一番いい……」


 背後からさす黒い影にミクが言いよどむ。後ろを振り返ると倒したはずのサイクロプスが立ち上がり、メッセージウィンドウが表示される。


「このモンスターを隷属しますか? そういや固有スキルにそんなのあったな」


「テイマーみたいにできるスキルだね。【吸血鬼】のテコ入れが入ったのがハーフアニバーサリー以降だから、【隷属】と【真祖】はレベル50以降のスキルなんだよ」


「それが低レベルで覚えられるとか強くね?」


「うん、強い。間違いなく掲示板が荒れる。いくら職業スキルが使えないデメリットがあっても帳消しにできるくらい。だから【吸血姫】のことは話さない方が良いかも。レベル60なら【吸血鬼】としてふるまえるから、すぐそこまで上げてできるだけごまかす。【吸血姫】を話すなら、まずは私に相談してからね」


「ああ、わかった。それだと隷属はしない方が良いのか?」


「う~ん、しても使わなかったら同じだからしても構わないよ。万が一、使う場面があるかもしれないし」


「よし、それなら使う。お前を隷属させる」


 ミクがそういうと、魔法にサイクロプスを召喚する魔法が追加される。一度、仲間にすれば何度でも呼び出せる仕様のようだ。今は人前では使えないが、そのうち使えるだろうと思いながらメニュー画面を閉じる。

 そして、周りにいる巨人系のモンスターを倒しながら、トリスの街が見えたところでカエデが足を止める。


「どうした?」


「まだ時間はあるし、これ以上進むとボス戦だから夜になるまで待つよ。夜間戦闘に慣れておこう。それまでは楽に倒せるサイクロプス倒してスキル上げと経験値稼ぎ」


「ああ、わかったぜ」


 延々と雑魚を狩り続けて数時間、レベル29になったところで日が沈み、ミクが本領発揮できる時間帯に突入する。そして、町へと近づくと人々の叫び声が聞こえ、二人が駆け出していくと、そこにはレベル30のトロールが人を襲っていた。二人に気づいたトロールがこちらを見て、戦闘開始だ!


「なんだか体が軽い!ブラッディネイル!」


 トロールが持っていた棍棒を振りかざす瞬間に鮮血の刃が襲い掛かり、その腕を切り落とす。そのすさまじい威力に昼間戦っていたサイクロプスのほうが強いんじゃないかと錯覚させるほどだ。


(Lv1の【吸血鬼】の補正が1.2倍、やけくそ強化の【真祖】がメリット効果のみ1.2倍、【吸血姫】の倍率は分からないけど仮に同じ数値なら約1.7倍。すべてのステータスが2倍弱になるなら、こうなるのは当然よ)


 カエデが腕を組みながら、ミクの戦闘を見守る。といっても、夜間の吸血鬼としての戦闘に慣れていないミクが時たまトロールの攻撃を食らいそうになるのをプロテクションで守る。装備を更新していない今のミクでは食らえば即死だからだ。


「私に守られないで、全ての攻撃を躱すつもりで」


「無茶言うなよ。HP減ったせいで棍棒をぶんぶん振り回してくるから近寄れないんだよ」


「近寄れないなら?」


「そうか、離れて攻撃か!」


 抜けているところがあるあたり、まだまだゲーム初心者だなと思いながら、ミクが自慢の足を生かして距離をとるのを見る。ミクが手にしているのは血で出来た球だ。


「1打席勝負と行こうぜ、トロール!」


 トロールに向かって放たれる球。それを打ち取ろうと、棍棒を振り回す。それに当たれば、ホームランは間違いないほどの強スイング!

 だが、ミクの球は棍棒にあたる直前に落ちて、トロールのむこうずね、弁慶の泣き所にあたる。あまりの痛みに思わず、棍棒を手放すほどだ。その隙を逃さんとミクが背後に回り込んで噛みつく。全身にある脂肪のせいで噛まれていることに気づかないトロールはカエデをターゲットにする。


「これなら逃げ切ったら勝ちかな」


 カエデと追いかけっこしているうちに血を抜かれたトロールが貧血で倒れ、そのままHPが尽きるのであった。


 ミクはレベル30になった

 固有スキル【怪力Lv1】(物理攻撃がアップ)を覚えた

 次の固有スキルの解放はレベル35です。


【闇の力LV2】にアップしました

【見切りLv2】にアップしました


「よっしゃー、俺の勝ちだ!」


「相変わらずコントロール良いね」


「へへん、肩さえ壊してなかったらこんなもんよ」


「もうそろそろいい時間だし、そろそろログアウトしよう。今日はママ、気合入れて料理作るみたい」


「楽しみだな、お前んちの料理」


 ルンルン気分で街の中に入って、冒険者ギルドでの手続きを終えた二人はログアウトをして現実世界に戻る。三雲が自分の体を確かめても、そこにあるのは女の体。都合よく男には戻れないかと思った時、ちょうど紅葉のママに呼ばれて、夕食をとるのであった。

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