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VRMMOで吸血姫になった俺は幼馴染と一緒に女学園に入学する!?  作者: ゼクスユイ


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第46話 林間学校

 5月末。ゴールデンウィークの翌週に行われた中間テストも無事終わり、三雲たちは林間学校で恐山に登っていた。三雲がいる班には紅葉、麗華、恵のほかに図書委員で眼鏡をかけた大人しそうな子と一緒だ。


「林さん、大丈夫?」


「ぜえ、ぜえ……大丈夫です」


「少し休憩しようか」


「では、わたくし、先生に遅れると伝えておきますわ」


「そんなことしなくても、大丈夫です。ただでさえ最後尾なのに……」


「気にしない。気にしない。みっちゃんを見てよ。林さんと同じくらい汗だくだよ」


「見るん……見ないでください」


 うっかり素が出てしまうところをぐっとこらえて三雲は猫を被り始める。男の頃なら息切れもしない程度の山登りも、今のひ弱な体では過酷なものとなっている。そういうわけもあって、先生の許可を貰った三雲たちの班は木陰で一息入れることとなった。


「くぅ~体にしみる」


「長谷川さんってときどき男の人みたいな反応しますよね」


(ギクッ)


「でも、運動した後に飲むドリンクって格別じゃない?」


「……うん」


「そうですわね」


 数分ほど休憩したところで、三雲たちはキャンプ場に向かって歩いていく。ハイキングに訪れる人たちが多いらしく、全く整備されていないわけではないが、例年よりもはやい夏の日差しがじわじわと彼女たちの体力を削っていく。


「キャンプ場まで一本道だから、道に迷わなくて済む」


「うん」


「今はキャンプ場ですが、昔は集落があったそうですよ。でも、今はダム建設で立ち退きされて、ダムの底。私たちが行くキャンプ場はそのダムが近くで見れる場所ですね」


「へえ、そうなんだ」


「……物知り」


「事前に調べておきましたから。恐山と呼ばれるのは、悪いことをすると狐に化かされて二度と家に帰れなくなる言い伝えられているようです」


「狐ね……」


 さらに歩いていくと、吊り橋が見えてくる。今日はやや風があって多少揺れ動いている。ふと、橋の下を流れる川をみると、流れは速く落ちたらひとたまりもないだろう。

 そして、渡り切ってしばらく歩いていると麗華が困った様子で再度地図を見始める。


「おかしいですわね」


「麗華、どうしたんだ?」


「そろそろ、先生方の姿が見えてもおかしくはないのですが……」


「大分離されちゃったのかな。少しペースを上げてみる?」


「そうですわね。林さんは大丈夫でして?」


「は、はい!さっき休んだので大丈夫です」


「……苦しくなったら話すこと」


 さらに歩いていくも後ろのグループどころか人っ子一人見当たらない。あたりはまだ昼間にも関わらず暗く、足元も補導されたものから次第に荒れたものへと変わっていく。さらにキャンプ場についてもおかしくはない時間になっている。心の中でたまっていく疑念に耐えきれなくなったのか、恵の口が開く。


「……委員長、道間違えた?」


「道を間違えるようなところはなかったのですが……」


「スマホは……圏外だね」


「一度、橋のところまで戻るか」


「そうですわね。休憩した場所は電波繋がっていましたし、最悪そこまで戻ればいいでしょう」


 電波さえつながれば、大人と連絡を取り合うことができる。合流がかなり遅れてしまうが、遭難するよりかはマシという判断だ。日が暮れないうちに元の場所へと戻ろうと橋を急いで渡っていると、突如吹いた横風で橋が大きく揺れ動いてしまう。


「手すりに摑まれ!」


「急に言われても、うわっ!?」


「林さん、危ない!」


 疲れてフラフラな林がバランスを崩して手すりから投げ出された時、近くにいた紅葉がとっさに手をつかむが、普通の女の子である紅葉一人では同年代の女子を持ち上げることができず、逆に自分の体ごと落ちてしまいそうになる。


「紅葉!!」


 しかし、紅葉が稼いだ数秒で三雲たちが落ちそうになる紅葉の服をつかむ。必死になって彼女たちを持ち上げようとするも、男のときならともかく今の三雲にそれだけの力は持ち合わせていない。人数はこちらが上と言っても、小柄な恵と力仕事が得意そうには見えない麗華の三人では大きく揺れる橋の上でバランスをとりながら紅葉たちを引っ張り上げることは難しい。


(せめて揺れが収まってくれたら……)


 そんな三雲の願いをあざ笑ううかのように風が強くなって、三雲たちも橋から放り出されてしまう。


「「「「「うわああああああ!」」」」」


 ドボンドボンと大きな水しぶきをあげて、三雲たちは意識を手放すのであった。




「うう~ん、ここは……」


 三雲が目を覚ますとそこは知らない天井だった。部屋は畳づくりの純和風。少なくともキャンプ場ではないし、学生寮とも違う。川に投げ出された自分たちを誰かが拾ってくれたのだろうかと思いながら、横で寝ていた紅葉の体を揺らす。


「ここはいったい?」


「俺も今、起きたところだ」


「服は乾いているからそれなりに時間が経っているとは思うんだけど……」


「水濡れしたせいでスマホが壊れたみたいだ」


「こっちも。全く電源つかない」


 遅れて麗華たちもむくりと起き上がる。そして、各々が持つスマホを見るもどれもが電源がつかない状況。調べる手段がない彼女たちがここはどこだろうかと思っていると、隣の部屋から良い匂いがしてくる。匂いからしてカレーだろうか。


「誰かいるようですわね」


「助けてくれた人かな?」


「そうに違いませんよ。お礼を言わないと」


 ふすまを開けると、そこには台所で鍋をかき回している女の子がいた。それだけなら、親御さんのお手伝いをしている良く出来た子供程度ではあるが、その子には人間には無いもの、すなわち狐耳と尻尾が生えていた。


「狐娘のコスプレ?」


「なんじゃ、もう起きとったんか。最近の若い者の好みがよくわからんからなぁ。とりまカレーじゃ」


「まあ、カレーは好きだけどねえ……」


「ところで、あなたの親御さんはどこに?」


「親? そんなものはないぞ。いや、いたかもしれんが、何百年も前の話じゃ」


(もしかしてこの子、現実とアニメと混同している痛い系?)


(そうかもしれませんわね。こんな小柄な子がワタクシたちを家まで運べたとは思いませんわ)


(どうしましょう?)


「聞こえておるぞ。ワシの耳は人のひそひそ声なぞ拾える。フォックスイヤーは地獄耳じゃ」


「い、今、狐耳のほうがぴこぴこ動いたぞ!?」


「私の見間違いじゃありませんよね」


「……うん。私も見た」


「まったく。そこの三人はともかく、其方らはあっているじゃろうに」


「みっちゃんと私が?」


「まったく覚えがない」


「薄情な子じゃ。ほれ、ゲームで会ったじゃろ。その時はヨーコと名乗ったがな」


「ヨーコ……んんんんん!?」


「言われてみれば確かに!ヨーコさん自身にそっくり」


「……ということは自キャラのコスプレ?」


「コスプレではない。自前じゃ!」


「……尻尾、触っても?」


「駄目ですよ、斎藤さん」


「構わんぞ。ほれ」


 差し出された3本の尻尾にも降り始める恵。その手触り、モフモフ感、作り物とは思えないほどの精巧さだ。そして、それらの尻尾が本物であるかのようにそれぞれ別の方向に動かし、モフモフを堪能している恵を撫でていく。


「使用者の意識に合わせたかのような精密な動き……すごいですね」


「脳波コントロールもできる!みたいな」


「AI技術とか言う奴か。詳しくないけど」


「これほどの技術をお持ちでしたら、ワタクシのところで働きません?」


「だから、ワシは正真正銘の妖狐と言っておるじゃろうが!狐火」


 青い人魂のような炎がヨーコの指先から出ると、宙にゆらりゆらりと漂う。その手品のネタを探ろうと、人魂の横や頭上を遮ったりしても糸らしきものは何もない。そして、ヨーコが手を閉じたと同時に人魂も消える。


「こういうのは脱脂綿に油をしみこませて吊るしてあるのが鉄板なんだけど……」


「ワイヤーみたいなものはなかったぜ」


「磁石でも埋め込まれているのかと思いましたが、そのような痕跡はありませんわ」


「……そもそも磁石だと跡形もなく消えるのは無理」


「わ、わかっていますわよ!ワタクシは可能性をつぶしただけです」


「それは大事です。ホームズもすべての可能性を消去して、それがいかに不可解なものでもそれが真実と言っています」


「ということは、これは手品じゃなくてマジもの?」


「もしくはものすごいマジシャンだね」


「マジシャンじゃない妖狐じゃ!そんなことをいうなら夕飯ぬきじゃぞ!」


「夕飯? ってことは、橋から落ちてからそんなに時間が経っているのか」


「そういえば、私たち朝から何も食べてないね」


「……うん。おなかすいた」


「ちょっと皆さん!こんな怪しそうな子の作ったものを食べるんですか!?」


「怪しげとはなんじゃ!ワシはな、今は忘れ去られてしまっとるが、元々はこの地域の守り神であるぞ。毒なぞ入っとらんわ」


「そこまでは言っていませんけど……」


「ワタクシたちを殺そうと思うのであればいくらでも機会はあったはず。それに遅効性の毒を警戒して食べないという選択肢もありですわよ。人間、数日くらい食べなくても死にはしませんわ」


「それはそうですけど……わかりました。私も御合席させていただきます」


「うむ。そうじゃろ。人と食べるのは久しぶりだからな」


「久しぶり?」


「そうじゃ。確か最後にこうして誰かと食べるのは百年以上も前じゃ」


「はいはい、そういう設定ね」


「設定じゃないと言っとるじゃろうが!」


「容赦ねえな、紅葉。俺、じゃなかった私も手伝うよ」


「なんじゃい、そのキモイ言い方は」


「うるせえ」


「長谷川さんって、粗野のところが多いですよね。別にヤンキーというわけではないのですが」


「……うん」


「お上品ではありませんわね」


「麗華に色々と教えてもらう?」


「おいおい、そんなことしたら『ご機嫌麗しゅう、紅葉お嬢様』とかになっちまう」


「えっ、なにそのぞっとする感じ。嫌なんだけど」


「ドン引いてるんじゃねえよ!!」


「おーい、そこの色ボケ夫婦漫才コンビ。カレーが冷めてしまうじゃろうが」


「「夫婦じゃない幼馴染だ(よ)」」


「お、おう……そうか」


 口は否定しているものの顔は真っ赤であり、お互い意識していることは普段の彼女たちを知らないヨーコでも丸わかりである。だが、それを指摘するような野暮なことはせずに、ヨーコたちはカレーを食べ始める。


「どうじゃ、ワシのお手製カレーは?」


「普通」


「普通」


「……普通」


「可もなく不可もなくですわね」


「すみません。特にこれと言って特徴が……」


「なんじゃい!ここは嘘でも美味しいという場面じゃろうが!」


「でも、普通にカレーだしな」


「うん。これで生煮えとかならネタにできるんだけど」


「……うん。カレールウを間違えてシチュールウ入れたとか」


「斎藤さん、それはただのシチューでは?」


「失敗している要素もなく、余計な隠し味もなくレシピ通りの味。これにどう点数をつけろと」


「ぐぬぬ……良いではないか。ダムができてからはずっと一人だったんじゃぞ」


「両親は共働きですの? 留守番できて偉いですわね」


「これ、撫でるではない。子ども扱いするな!」


「カレー食べ終わったら下山しましょう」


「夜の山は危険ですわよ」


「そうじゃ。下山はしない方が良いじゃろう。それにお主らは狭間の世界に踏み入れた迷い人。ワシから離れたら亡者に取り付かれて元の世界には戻れんぞ」


「ヨーコちゃん、狭間の世界ってどういう設定?」


「設定ではないわい。簡単にいうと、この世にはお主らが住む人間界と尋常ならざる者が住む世界がある。じゃが、数百年前、いやここ百年でその境が崩れようとしておる。もし、崩れればそこにあるのは異種間戦争で互いが不幸になる未来しかない」


「じゃあ、原因は?」


「ワシらがプレイしているWorld Creation Online。あれからわずかではあるが妖力を感じる。ミク、お主もそう思ってプレイしておるんじゃろ」


「そんなわけない」


「隠さなくても良いぞ。ワシにはお主の持つ強い妖力が見える。ワシらと同じくこちらの世界に来た調査員じゃろ」


(おーい、紅葉。俺、どう答えればいいんだ?)


(親がいないから、自分の妄想の世界が現実だと思っている痛い子なんだろうね。とりあえず、こういうときは流れに身を任せたら良いんじゃない)


 紅葉とのひそひそ話を終えたところで、ヨーコの教育は帰ってくるであろう親に任せて、三雲は妖狐ごっこに付き合うことにした。となれば、自分の吸血鬼っぽい体質も彼女の妄言に合わせて調整すれば、それなりにはつじつまがあうだろうと思いながら、即興で設定を組み立てていく。


「そうだ。よく見破ったな。私は偉大なる吸血鬼一族の姫である。普段は人間の子として暮らしておる」


「じゃろう。で、どこまでわかったのじゃ」


「かく言う私も、あのゲームが怪しいとは思うが、証拠をつかめてはいない。其方の方は?」


「ワシらも似たようなものじゃ」


「めぼしい情報はないのか?」


「あればとっくにワシがみつけておるわい。普段、入れぬところに重大な手掛かりがあるかもしれんがな」


「例えば?」


「NPCから聞いた話じゃが、王家のみが立ち入りができる書庫室とかな。なんでも、そこには代々伝わる禁書があるとか」


「禁書……私なら入れる可能性がある」


「国王と面識あるもんね」


「なんじゃと!? こうしてはおけん。さっそくゲーム世界に出発じゃ」


「だが、ゲーム機がないぞ」


「トランプくらいは持ってきても、ヘッドギアはさすがにね」


「大丈夫じゃ。貴様らが寝ている最中に妖術で意識だけをゲームの世界に送り込んでやる」


「あの……私、そのゲームしてないんですけど」


「それなら適当な夢でも見せておく。ケーキを腹いっぱい食べさせたら良いじゃろ」


「雑!?」


「というわけで寝る支度を済ませたら、すぐ寝るんじゃぞ!」


 スマホが壊れている以上、連絡の取りようもない三雲たちはヨーコの言葉に甘えることにし、今日はここで一晩過ごす羽目となるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミクのこの不信を非常に強制しました、そして私が覚えているなら、仕事の初めに彼の冷蔵庫に血の袋がありました
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