第45話 再生怪人のお約束
アヌビスとは逆側の通路を探索している途中、ダイチたちから連絡が届く。どうやら、向こうのホルス戦も無事に終わり、赤いスイッチを押したそうだ。その連絡を受けたミクたちが探索を中断して、階段まで戻っていくと、そこには赤と青の床によって向こう岸まで届く橋が架けられていた。
その橋を渡り、階段を下っていくと大広間にたどり着く。その広間の中央には魔法陣が描かれている。そして、ミクとは反対側から階段を下ってくる足音が聞こえるため、身構えているとダイチたちが姿を現す。
「ここでミクたちと合流か」
「ってことは、この魔法陣の先にボスが居るパターンだな」
「入る前に情報交換しておこう」
「と言っても、俺たちは開幕アヌビスの即死技で死んじまったから、ミクしか情報を持っていないけどな」
「即死か。念のため、アクセサリーで即死耐性を上げておいた方がよさそうだな」
「そっちはどうだったんだ? 付け替えできるほどアクセサリーないけど」
「もう、せっかく大金あるんだから店売りされているアクセくらい買い占めたらいいのに」
「いざ大金あるとなると使いづらくてさ……それに新MAPが解放されるなら、そこの店で買いたいからまだ溜めておこうと思って」
「金の使い方は人それぞれだからな。こっちは――」
互いにボスが使ってきた技や特徴、その対処法について話していく。それぞれの戦い方を聞いて、次のボスで同タイプの技を使ってきた場合に備えていく。
「防御貫通か……一応、貫通対策のアクセサリーもつけておくか。即死技への対応も考えると、これはアクセサリー3つだときついな」
自分の持っている装備品を付け替えして、剥がされるかもしれないがバフ事前にかけた後、ミクたちは魔法陣の中へと入っていく。すると、別の場所に飛ばされたミクたちの前には古びた棺が鎮座しており、彼女たちの存在に気づいたのか棺がガタガタと震え始める。
そして、棺の蓋がゆっくりとスライドして中から黄金マスクをかぶった青年が姿を現す。
「余の眠りを妨げる者は誰だ?」
「そういうお前こそは誰だ」
「余はこの地を治めたファラオなり。神聖なるこの地を荒らす者に神罰を下そう」
ファラオが呪文を唱え始めると左右に棺が現れる。そして、その棺の中から先ほど倒したアヌビスと炎の羽をもつ怪鳥、ホルスの2体が現れる。だが、体はすでにぼろぼろで目もうつろな状態。完全な状態での復活ではなさそうだ。
「余の秘術で2柱の神を一つに!」
アヌビスとホルスの体が半透明になって重なり、閃光を発する。光が収まると、そこには黒い炎を身に纏い、犬耳の生えた怪鳥がミクたちを睨め付けていた。
「我が王の代わりに、貴様らに鉄槌を下す!」
ホルスアヌビスが吠えると事前にかけていたバフがはがされた上に部屋全体が一瞬、暗転する。その光景にミクがぎょっとするも、今回はアヌビス戦と違って即死対策もしており、全員無事だ。
「さすがはあの2柱を倒しただけのことはあるな」
「褒めても何も出ないぜ」
「今度はこっちの番。シャイニングレイ」
「エアハンマー!」
「パワーショット」
「【魔力付与(光)】」
各々の遠距離攻撃がホルスアヌビスに突き刺さり、HPを削っていく。だが、それをあざ笑うかのようにホルスアヌビスの傷口が治り、HPも回復していく。
「ちっ、ホルスのリジェネも引き継いでいるのか。面倒なことするんじゃねえよ」
ジークがアイテム欄から毒薬を選び、自身が手にしているボーガンの矢に塗り付ける。それを妨害しようとホルスアヌビスがミイラ、いや蘇ったそれらは生前と同じ姿の青年で蘇った死者の兵士たちが襲い掛かる。
「今度はアヌビスのミイラ攻撃か。ミイラじゃねえけど」
「よし、アンデッドなら私に任せろ。ホーリーブレス」
ハクエンの放つ聖なる息吹が死者たちに襲い掛かり、彼らの魂を浄化させていく。その間に準備を終えたジークがホルスアヌビスにボーガンの矢を放つと、回復量が激減する。
「アンチリカバリーの矢はどうだい? さっきも味わったんだから、感想はいらねえけどな」
「小癪な真似をおおおおお!」
「おお、怖い怖い。スキル【ステルスボディ】」
自身の体を透明にすることで、自身を相手のターゲットから外させる。ヘイトを奪ったジークがいなくなったことで、ヘイトが向けられるのはヒールヘイトを稼いでいたハクエンやカエデたち。だが、視線が彼女たちに向けられた途端、ミクが【挑発】を使い、ヘイトを奪っていく。
「お前たちのこっちだ、鳥公!」
「我は鳥ではない!神だ!」
ホルスアヌビスがツタンカーメンのマスクを召喚し、ミクに向けてビームを放つ。だが、それらはすでに一度受けたことのある技、しかも、アヌビスが本気で制御していた時よりも精度が低いとなれば、彼女にあたる道理はない。
「あれがミクの言っていた貫通持ちの技か。よし、それもこっちで引き受ける」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。事前に対策しておいたからな。【シールド強化】、リフレクトシールド」
ミクの周囲に緑色のバリアが張られるとビームを跳ね返し、ツタンカーメンのマスクが自身の攻撃を受けて砕け散る。あっという間に対処されたせいかホルスアヌビスが目を見開き、一瞬だけ動きを止めた時、アルゴの鎖付き鉄球が首元に巻かれる。
「よし、とらえたぜ!」
「貴様を燃やせば良いだけのこと!」
「【カバー】!」
アルゴのカバーに入ったダイチがホルスアヌビスの炎を受け止め、アルゴが力任せにホルスアヌビスを地面にたたきつける。その隙をみて、背中に乗ったジーグが毒薬を仕込んだナイフを突き立てていく。回復阻害の毒が複数スタックしたことで、ホルスアヌビスのリジェネはほぼ意味をなさなくなる。
「貴様ら、許しはせんぞ!」
「熱波攻撃が来るぞ、俺の周りに集まれ!」
「防御力を上げておく。【守護の聖域】」
ダイチが呼びかけ、仲間たちを自分の周りに呼び戻した後、強固なバリアを展開していく。黒い炎が部屋中を包み込み、そのすべてを焼き尽くさんとしているとき、ホルスアヌビスは突如としてその羽に手傷を負う。
「なに!?」
「【灼熱の血】を発動したぜ。これで攻撃中無防備なお前を切り放題ってわけだ!ダメ押しに【幻影の血】」
「き、きさま!」
ホルスアヌビスの黒い炎による全体攻撃は必殺技なので通常よりも長く続く。その間、夜ならばトップクラスの火力を叩きこめるミクからの攻撃はホルスアヌビスにとって痛いダメージだ。攻撃が終わり、背中に乗っているミクを振り落とそうにも、今度は噛みつかれて中々落ちない。
「このダニが!」
(そう簡単に振り落とされてたまるかよ)
ミクに気を奪われている隙に、ハクエンとカエデは先ほどの全体攻撃で受けたダメージと剥がれたバフをかけなおしていく。
「よし、ミク。よくやった!チェーンバインド」
「その程度の鎖など我が炎で溶かし――」
「ブラッディウェポン、ハンマー!」
鎖に気を捕らわれた一瞬のスキをついて、ミクが脳天を叩きつける。脳が揺れて墜落したホルスアヌビスに向けて、攻撃バフをひたすらかけていたアルゴが大槌を片手に距離を詰めていく。
「デストロイスマッシュ!」
「グハッ!」
ホルスアヌビスのHPを大きく削る渾身の一撃が決まり、残りのHPを2割以下にする。戦況の流れはミクたちにある。そのような状況下に置かれてもホルスアヌビスはまだ立ち上がり、全体即死技を放つ。
「俺たちにその技はもう通用しないぜ」
「所詮、初見殺し。再生怪人ってのはあっさり倒されるのが役目だよ」
「我をなめるなぁああああああ!」
ホルスアヌビスの慟哭と共に全身の炎が一層激しく燃え上がり、羽ばたくと炎の竜巻がミクたちを襲い掛かる。逃げ場のない攻撃に火無効のミクはともかく、ダイチたちはその攻撃をまともに食らう。
「ダイチさん!」
「大丈夫だ。【不屈】で1発は耐えられる」
ハクエンとカエデが再度パーティーメンバー全員にヒールをかけて、すぐさま態勢を立て直す。悔しがるホルスアヌビスがあたり一面に炎の弾を吐いていくも、これらをダイチがさばいていく。
「おっと、その程度じゃあ、俺の盾は貫けないぜ」
「ならば、これでどうだ!」
ホルスアヌビスが口から巨大なビームを放っていく。ツタンカーメンのビームよりも極太のそれは、いくらダイチと言えども確実に葬り去る威力だ。だが、それを見てダイチはにやりと笑う。
「そいつを待っていた、ハクエン!」
「【聖域の守護者】」
ダイチに白いオーラが纏わり、ホルスアヌビスのビームを受け止める。【聖域の守護者】は事前に聖域系の魔法を使う必要はあるが、対象となる味方の防御力を大幅に上昇させたうえで、貫通軽減効果も付与させる。防御の高いダイチに付与すれば鉄壁の守り手となる。
「カウンター!」
攻撃を耐えきったダイチが同威力のビームで跳ね返し、ホルスアヌビスに致命的な一撃を与えていく。カウンター攻撃を食らったことで、意識が一瞬跳んで身動きができないところにアルゴとミクが大槌をもって襲い掛かる。
「「これで終いだ!!」」
二人の渾身の一撃がさく裂し、ホルスアヌビスのHPは0となって消滅するのであった。
「まさか余の使役する神を倒すとは……」
「後はお前だけだぜ、王様」
「負けを認めよう。余の財宝、いくらでも持っていくがいい」
「いや、それよりもここに迷い込んだ奴、知らないか?」
「君たちが来る前に2名ほど捕獲しておいた。欲しいならくれてやろう」
ファラオが指パッチンすると、棺が2つ現れて中からフォーゼの騎士が現れる。ずいぶんと傷ついているが、命に別状はないようだ。
「しかし、盗人が欲しいとは……」
「その人たち、盗人じゃなくて迷い込んだだけだ。俺たちはその人たちの救助のためにここに来たんだ」
「なんと、そうであったか。それは済まないことをした。せめての詫びとして、余の秘術と財宝をくれてやろう」
ハクエンは【ホルス召喚術式】を覚えた
カエデは【ホルス召喚術式】を覚えた
ダイチは【アヌビス召喚術式】を覚えた
アルゴは習得に必要なステータスを満たしていません
ジークは習得に必要なステータスを満たしていません
ミクは習得に必要なステータスを満たしていません
「習得に必要なステータスを満たしていませんってどういうことだ?」
「覚えてない組とダイチのステータスを比べると……知力650くらいが足切りラインか」
「俺たちは知力無振りだしな」
「もう少し知力に振っておくべきだった……」
ガックシしたミクたちの目の前には6つの宝箱が置かれている。喧嘩にならないように、それぞれ一つの宝箱を手に取り開けてみる。
ミクはファラオのドレス(女性のみ装備可能。防御+30、敏捷+50、運+20、魅了成功率大幅にアップ、回避率アップ)を手に入れた
「ドレスのほかには……スキルスクロールもか!」
「思わぬ収穫だ。これでギルド対抗戦も少しはやりやすくなるんじゃないか」
「ねえ、みっちゃん。せっかくドレス手に入れたんだから、着て見せてよ」
「わざわざ見せる必要ないだろう」
「いいじゃん。減るものじゃないし~」
「……しゃあねえな。少しだけだぞ」
手に入れたファラオのドレスを装備し、スキン機能をOFFにする。すると、きらびやかな装飾が施されたワンピースへと変わる。だが、上半身は肌色面積が多く、きらびやかな装飾品で大事なところを隠している程度である。衆人の前に立つにはあまりにも破廉恥な恰好に、ミクは胸元を押さえながらしゃがみ込む。
「み、みるな~!」
「お、俺たちも目のやり場に困る」
「そ、そうだ。スキン変更したほうが良いんじゃないか?」
「そうしている……良いぞ」
いつもの服装に戻ったことでダイチとアルゴはほっと一息入れる。そして、ボスであるファラオを倒したことでダンジョンの外へと転移させられ、輸送部隊を救助したことをフォーゼの王様に話していく。
「またミク殿には助けられてしまいましたな」
「俺一人で解決したわけじゃない。ここにいる仲間たちがいなかったら全員を救助することはできなかった」
「ふむ。ではその者たちにも城への出入りの許可を認めよう」
そして、王様から今回の報酬であるお金とSPを受け取り、クエストは達成した。かくして、長かったGWのゲーム三昧は幕を下ろすのであった。




