第43話 消えた部隊を探し出せ
無事に大神殿へとたどり着いたミクたちは、手分けしてオアシス内に居るターバンを巻いた街の人たちに聞き込みを開始する。まずは、情報をよく知っていそうな行商人に話しかけることにした。
「ん? 治療物資が届かないって? そんなことはないよ。ウチのフォーゼ向けの物資はちゃんと輸送部隊に卸したよ。契約書だってある」
「貴方が嘘をついていないか確認します。『はい』か『いいえ』で答えてください。その答えに間違いないですか」
「はい」
「【読心】を使いましたが、嘘はついていません」
「ってことは、輸送部隊ってのが町から離れて港に着くまで何かあったってわけだよな」
「ああ、一応、港でも聞き込みしていたから間違いはない」
「砂漠か大樹海でトラブルに巻き込まれた。そう考えるのが自然だろう」
「あの広大な砂漠をたった6人で探すのは無理があると思うぞ」
「そうだな……行商人のおじさん、その輸送部隊って目印とか無いの?」
「目印といえば、どこの国の所属か分かるように旗を掲げているよ。それがないと隠密行動、つまり侵略の意図ありってなって下手すれば戦争だからね」
「物騒……それにしても旗か」
「それだけでは決め手にかけそうだ」
「【動物会話】で旗を見かけた動物がいないか探してみるか」
「私の【導きの天使】も使えるか試してみよう」
ミクとハクエンの二人がスキルを使ってさらに調査していく。街の中にいる鳥に話しかけるも、知らない、気になる女の子がいる、きらきらしたものを探しているなどこのクエストに関係ない情報ばかりだ。
「えっ~と、神殿の裏の鳥はこれで話し終えたと。残る鳥は……」
「みっちゃん、あそこの木にいるあの青い鳥って話したっけ?」
「いや、まだ話していないな。おーい、フォーゼの旗を掲げた人たちを見かけなかったか?」
「フォーゼの旗? ああ、この前、俺っちが空を飛んでいたらそんな連中がいたな」
「どこでみかけたんだ?」
「教えて欲しいならドクロ水晶を持ってくるんだな」
「ドクロ水晶?」
「赤いきらきらしたものだ。俺はあれが好きなんでな」
「きらきらしたものか……そういや別の鳥も同じようなことを言っていた気がするな」
青い鳥から聞いた話を伝えると、ジークがアイテム欄から手のりサイズのドクロ型の水晶を取り出す。
「ジークのおっちゃん、持っていたのかよ」
「ああ。こいつはミイラからのレアドロップでな。俺みたいに盗賊専用スキル、レアハンターを使わないと中々手に入らないぜ」
「あぶねえ。ジークのおっちゃんがいてよかったぜ」
「わははは、もっと褒めろ。あと、おっちゃんじゃない」
「いよ、ジークの旦那」
「良いねえ、さっそくコイツを使うか」
ジークがドクロ水晶を青い鳥に差し出すと、青い鳥がパタパタと羽ばたいてこちらについてくるように誘導してくれる。その進先は導きの天使が指さす方向と同じだ。
「ふむ。どうやら道案内系スキルを使えばドクロ水晶を集めなくても良いみたいだ」
「盗賊の人と仲が良いとは限らないから、その救済措置って感じかな」
「そう考えて間違いないだろう」
鳥の道案内に従い歩いていくと、そこは先ほどスフィンクスと戦った場所だ。日が沈んだ今となっては、日中の戦いの跡は見受けられないが、おおよその距離と方角からこの場所だと確信できる。
「ここであっているのか?」
「ああ、間違いない。俺っちが見かけたのはこのあたりだ。じゃあな」
ドクロ水晶をつかみ取って、青い鳥が大空へと羽ばたいていく。道しるべはここまで。あとは自分たちで探せといったところか。さて、どこから手を付けたらいいのやらと考えながらミクがハクエンの導きの天使を見ると、下を指し示していた。
「地面の下……地下空間でもあるのか?」
「かもしれないが、入り口はどこに?」
「ジーク、何か気づいたことは?」
「敵の反応はいくつかあるな。動かないのはアリジゴクだろうよ」
「……アリジゴクか。たとえば、アリジゴクの中に飛び込むとか?」
「あー、他のゲームだとそういうギミックあるな。アリジゴクらしき反応は北と南で2か所。どっちから回る? ここからだと距離はそこそこあるぜ」
「それなら二手で回るべきだろう」
「だとしたらタンクの俺とミク、ヒーラーのハクエンとカエデは別れた方が良いな」
「それなら私、みっちゃんと一緒に行くよ」
「そうなると、俺がミク側に行くと火力不足になりそうだ。アルゴ、向こうを任せられるか?」
「おう、任せておけ!」
何かあったらチャットで話し合うことを決めて、ダイチ・ハクエン・ジークは北に、ミク・カエデ・アルゴは南へと向かっていく。ミクらの目に映るのは夜空できらめく星々によって照らされる黒い砂丘。ジークからおおよその位置を教えてもらっているミクは石を投げつけ、アリジゴクトラップの有無を確かめながら歩いていく。
何度目かの投擲をしていると、足元の砂がサラサラと動き出し、アリジゴクが形成されていく。
「来たな。よし、俺が飛び込んで――」
「いや、ここは俺に任せてくれ。女の子を先に行かせたら、男の名折れだ」
「お言葉に甘えて。アルゴさん、お願いします」
アルゴが慎重に滑り落ちながら、凶暴な牙を持つアリジゴクへ向かっていく。そして、鈍足重装甲のアタッカーらしくガシガシと噛みつかれても気にせず、地面をつつくも何かが起きる気配はない。
「はずれか? アリジゴク、倒しても良いか」
「ああ、構わないぜ」
「よし、アックスインパクト!」
大斧を大きく振りかざして固いはずのアリジゴクに傷をつける。その傷口に狙いすましたかのようにミクの鉄球がめり込み、続いて放たれたカエデの電撃が鉄球を通じてアリジゴクの内部を焼いていく。あっけなくアリジゴクを倒すと、栓になっていたアリジゴクが消滅したことで、アルゴが落下。それを心配したミクがカエデを連れて飛び降りると、そこは岩石で作られた遺跡風のダンジョン。
「もしかして、輸送部隊の人ってここに迷い込んだのかな?」
「そうかもしれないな。ダイチさんと連絡を取って……」
『おっ、良いところに連絡が来たな。俺たちも話すことがあるんだ。そっちも何かあったか?』
『ああ、アリジゴクを倒したら地下ダンジョンに着いたぜ』
『こっちもだ。パーティーの分断も考慮されているせいか、敵のレベルは地上よりも10くらい低いが中は大分と広い。合流できればいいんだが……何かあったら連絡しよう』
ダイチたちの無事を確認したところで入り組んだ迷路になっているダンジョンを歩いていく。出てくる敵は数の暴力に気を付ければ大したことのないミイラ系のモンスターばかり。雑魚をなぎ倒しながら、進んでいくと赤い壁で行き止まりになっている場所を見つける。
「いかにも怪しいわね」
「……鉄球を投げても壊れる気配はなしか。でも、反響音からすると、向こうになりかありそうなんだけどなぁ」
「なら、俺に任せろ!ブレイクハンマー!」
大槌に装備を変更したアルゴが赤い壁を殴るもビクともしない。怪しい場所があったとダイチに伝えるとことにした。
『そっちは赤い壁か。こっちは青い壁だ。もしかすると、俺たちは違うダンジョンにいるのかもしれない』
『だとしたら、合流は難しそうだな』
『ああ、お互い気を付けてこのダンジョンを攻略しよう』
ダイチたちとのやりとりを終えて、曲がりくねった迷路に目印となるアイテムを置きながら探索していくと宝箱が見つかる。
「おっと、ミミックだ」
「どうしてわかるんだ?」
「ミミックの宝箱はプレイヤーに背を向けるように配置されている」
「正面だと顔があるから、すぐバレるからね~」
目の前にある宝箱をじっくりと見ると、鍵穴がついている側は壁側を向いており、ミクたちから見れば確かに背を向けている。
「うかつに近づいたらダメってわけか。でも、ネタがバレたら問題ねえよな!」
「うん。遠くから攻撃しよう」
「おうよ。アースクエイク!」
「シャイニングレイ!」
「ブラッディアロー!」
三人の攻撃が擬態していたミミックに突き刺さり、消滅していく。すると、ミミックがいた場所に青いボタンのスイッチが落ちていた。
「なんだこれ?」
「とりあえず押してみようよ」
「敵からのドロップなら罠の可能性は低いだろう」
「それなら押すぜ」
ミクがボタンを押した瞬間、ゴゴゴと地響きが鳴り響く。地響きが収まり、あたりを見渡しても、何かが起こった様子はない。
「何のボタンだったんだ?」
「もしかして、さっきの赤い壁が無くなったりして」
「ありうるな」
ミクたちは先ほどの道を戻って、赤い壁のあった通路まで戻っていく。だが、彼女たちの予想に反して、赤い壁は健在だ。とりあえず、ボタンのことをダイチに伝えると、そちらでも地響きが起こったため、先ほどの青い壁のところまで戻っていったようだ。
『こっちにあった青い壁が無くなって、先へと進めるようになっているぞ』
『ってことは、俺たちが青いボタンを押せば青い壁が無くなるってことか』
『となると、俺たちは赤いボタンを探せばいいってわけだな。ジークにミミックの居場所を探し出させてそちらの壁を開けるようにする』
連絡を終えたミクたちはダイチからの返事を待つまでの間、他の場所にミミックがいないか確かめるため、迷路の中を引き続き探索していく。しばらくして、地響きが鳴り響いた三人は赤い壁の場所へと戻ると、先へと進めるようになっていた。
「なるほど。2つのパーティーで攻略しないといけないダンジョンか」
「2ヒラ、2タンク、2火力の6人で挑まないときつそうなクエストだね。今回はたまたまそろっていたけど」
「だけど、その分報酬もよさそうだ」
クエストの報酬に期待しながら階段を下りていくと、目の前には大穴が広がっており、奥の方には階段がうっすらと見える。ミクが飛行スキルで渡れないかと思い、スキル欄を確認すると文字が灰色、使用不可状態になっている。
「飛行スキルだけが使用不可ってことはギミックか」
「またどこかにボタンがあるのかも」
「だとすると左右の道、どっちに行く?」
「右手法で右って人が多そうだから、私は左を選んだほうが良いと思う」
カエデの提案に乗り、左の道を歩いていく。出現する雑魚自体はややレベルが上がって強くなっている以外は上の階とさほど変わらないが、迷路という地形ゆえに死角からの出現には気を付けないといけず、探索ペースはゆっくりとしたものだった。
「しかし、こうも曲がり角が多いと正しい道かわからんな。何かいい方法は無いか?」
「動物がいれば【動物会話】が使えるんだけどなぁ」
「いるわけないよね、こんなところ」
「向こうならジーク、ハクエンがいるから探索スキルが使えるんだがな」
「他に使えそうなものとなると……ウラガルに頼んでみるか」
『我は悪魔であって犬ではない』
呼び出したウラガルは少し怒り気味のご様子であった。とはいえ、呼び出された以上はと、迷路の壁に潜り込んでダンジョン内を探索し始める。
「便利だな、その悪魔を呼び出すスキル。俺たちも手に入れようとしたが、2回目のウラガル戦で苦戦中。やっぱ別アイテムを使って戦闘回避しないといけねえのかな」
「えっ、あのクエストクリアしていたんじゃないのか?」
「ああ、していたぜ。だけど、ジークが蔵に忍び込んで精霊の鏡を手に入れたからウラガル(土産屋の姿)の正体を暴くことができて、ミクたちと同じウラガル戦ができたんだ」
「でも、【変身】は手に入らないし、土産物屋で買い物ができなくなるけど。ここはクエスト中に見破ったご褒美ってところかな。その後、錬金術師の人と一緒に所有者がいなくなった蔵に向かったんですよね」
「よく知っているな。すると、ウラガルが出てきてアイテムを提示できなかった俺たちは強制戦闘。これが2回目。行動パターンも増えて1回戦目より強化されているから、もう少し強くなってからじゃないと倒せなさそうだ」
「しばらくはみっちゃん専用スキルだね」
自分専用のスキルかと誇らしく思いながら、戻ってきたウラガルと一緒に迷路の中を進んでいく。雑魚を押しのけて進んだ先にはエジプト風の装飾が施された扉。いかにもボスが居ると言わんばかりなので、自分たちの魔法やスキルのクールタイムを十全に回復させたのち、中へと入っていく。そこには、多くの騎士が倒れ、生き残っていた2人の騎士が黒犬の頭をした細マッチョに命乞いをしていた。
「ちょこまかと逃げ回り追って……だが、残るはお前たちだけだ」
「お、俺たちは物を運んでいただけで……ここに来たのは偶然なんだ」
「問答無用。王の眠りを妨げる者には死を!」
「そこまでだ!」
「ん? 墓荒らし紛いの冒険者か。腑抜けたこいつらよりかは気概のある目つきをしている。妹のホルスが相手しているのも貴様らの仲間か? ならば、先に貴様らを始末してくれよう」
「それはこっちの台詞だ。いくぜ、犬っころ!」
「犬っころだと!? アヌビス神である我を犬っころ呼ばわりだと!? 貴様らには冥府に送るだけでは生ぬるい死を与えてやろう!」
アヌビス神が黄金の杖を掲げると、停電でも起こったかのように一瞬、真っ暗になる。
カエデは冥府に飲まれた。
アルゴは冥府に飲まれた。生存を許さず、蘇生を許さない。
闇が明けると、そこにはミクだけが立っており、残る二人は開幕即死攻撃を喰らった。しかも【自己再生】などのスキルによる復活も封じられているようだ。
「我が冥府の誘いを受けないだと!?」
「俺には帰りを待つお姫様がいるんでね。さてと、犬っころ。1打席のタイマン勝負と洒落こもうぜ!」