第42話 砂漠を超えて
ミクたちが砂漠を歩いていくと、戦闘を歩いていたジークが止まれと静止させる。何が起きたのかと眺めていると、ジークがアイテム欄から石を取り出して放り投げる。すると、石が地面に落ちた瞬間、蟻地獄が発生し砂丘が飲み込まれていく。
「怖っ!?」
「こういうトラップがあるから敵影感知のスキルを持つ俺がいるわけだ」
「ちなみにこうやって顔を出しているときに、シャイニングスパーク!」
天より降り注いだ電撃に焼かれてアリジゴクを発生させていたモンスターが焼かれて消滅していくと、経験値やアイテムがもらえるほか、地形も元の砂丘へと戻る。
「魔法への耐久力自体は低いからワンパンできるの。ただアリジゴク内にはまると魔法とスキル使用不可の状態異常が付与されちゃうから倒せない」
「空飛んで逃げるってのもできないのかよ!だったら殴り倒すとか投げつけるとかで……」
「HP低いくせに物理防御は高いんだよね」
「ちなみに成虫はいないぞ」
「なんでだよ!アリジゴクってウスバカゲロウの幼虫だろ」
「アリジゴクの方が有名だからね~」
「騒ぐのは良いが、ハクエン、バリアを張ってくれ」
「承知した」
わいわい騒いでいるミクたちを守るバリアが張られると、上空を飛んでいるコンドルから爆弾を落とされ、バンバンとあっちこっちで爆発が起こる。
「なんだ!?」
「爆弾コンドル。たまに金やアイテムを落とすが、基本的には爆弾を投げつけてくる厄介な敵だ。スローダガー!」
ジークが投げた短剣が爆弾コンドルに突き刺さり、墜落していく。そして、上空にいた爆弾をつかんだコンドルの群れは仲間が倒されたせいか、さらに多くの爆弾を投下していく。それらの落下地点を予測し、軽い身のこなしで躱しながらも短剣を投げつけるその様は曲芸のよう。ものの数分で片づけたジークにミクは自然と称賛の拍手が出る。
「すげーな、ジークの旦那」
「旦那って……まあ、おっさん呼ばわりよりかはマシか。雑魚も片づけたし、先に行くぞ」
「おう!」
元気よく歩き出すミクたち。だが、歩いても歩いても砂と岩だらけの広大な砂漠地帯は、自分たちがマップのどこを歩いているのか方向感覚を狂わせていく。だが、ハクエンが小さな天使を召喚し、進むべき道を指し示してくれる。
「へえ~、道案内してくれるのは便利だな」
「【導きの天使】というスキルだが、普段は使わない。しかし、君からの話で【動物会話】がスキルの獲得に役立ったのであれば、似たスキルでも同様のことが起こりうるかもしれないと思って使っている」
ありうる話だと思ったミクはハクエンの天使の導きに従って砂漠を歩いていく。そして、雑魚を蹴散らしながら進みながら歩いていくと、地中から額に青い宝石が埋め込まれたミイラのモンスターが襲い掛かってくる。ミイラの中にはぼろぼろの剣だけでなく杖を持っているタイプもいる。
「おいおい、セイントミイラかよ」
「ってことは近くにいるな」
「何が?」
「さっき話したスフィンクスだ。奴は光属性のミイラを使役してくるからな」
「みっちゃん、運悪すぎ!」
「俺のせいかよ!挑発するから、ダイチさん、フォロー頼むぜ」
「おう、任せておけ」
「【加速】!」
「ズアアアア……」
「おせえよ。ブラッディネイル!」
ミイラのとろい剣を躱しながら、ミクが鋭い爪でミイラを切り裂いていく。すると、杖を持ったミイラがミクに向けて杖を振りかざし、光の弾が生じ始める。
「ズアンン……」
「おっと、ホーリーボールか。マジックガード、カバー!」
ダイチが魔法ダメージを軽減させる魔法を使ってから、ミクの防御に回ってダメージを受ける。弱点属性の攻撃とはいえ、元々の防御力の高さもあり、それほど大きなダメージは受けていない。とはいえ、出てきたミイラの数は多い。いくらハクエンの回復があるといっても、長期戦は不利といえよう。
「数が多いな。一気に片付けるぜ、ブラッディレイン!」
弱点攻撃である血の雨が降り注いでミイラを打ち抜いていく。まだ太陽が昇っている時間帯とはいえ、倍のダメージはミイラたちにとっても痛く、HPを大きく削り取る。
「ひゅ~、良い技持っているじゃねえか」
「まあな。そういうジークの旦那はどうなんだ?」
「あいにく盗賊にまともな範囲攻撃はないんだ、これが」
「なんでもかんでもできたらみんな盗賊になっちゃう」
「そりゃあそうだ。火力もそこまで高くねえしな。そこは適材適所、他のメンバーにお任せだ」
そういうジークもミイラに短剣を突き立てて着実に倒していく。そして、ミクのクールタイムが終わり、再度のブラッディレインを放ったことで、ミイラ戦はケリがつくのであった。
「で、どうする? 俺のスキルだと敵の種類は分からんが、このあたりにポツンと1つ大きな敵がいる。アリジゴクの可能性もなくはないが、状況から見るにスフィンクスだ。迂回することにはなるが、避ける選択肢もある」
「戦おうぜ」
「私も専用装備の都合上できれば……」
「OK。じゃあ、スフィンクスに挑むか」
ジークの先導に従い、砂丘を超えていくと、そこにはスフィンクスがミイラを操ってあたりを警戒していた。周りにはスフィンクス以外の建物は見当たらず、なぜそこにいるのかは不明だが、ジークは気づかれる前にと遠距離からの攻撃指示を出す。
「まずは雑魚を一掃するよ。シャイニングシャワー!」
「わかった、ブラッディレイン!」
スフィンクスを巻き込みながら、二人の範囲攻撃がミイラをせん滅していく。雑魚がいなくなったところで、ダイチが【挑発】を使い、ヘイトを奪って先頭に立ち、後ろにはアルゴたちがついてくる。スフィンクスが自身の爪をミサイルのように飛ばして、ダイチに襲い掛かる。
「その程度の攻撃ならビッグシールド」
巨大な盾で攻撃を防ぎ、爆風の中からアルゴが躍り出て巨大な斧でスフィンクスに切り付ける。そして、その傷口を狙ってジークが毒を付与したナイフで切り付けてスフィンクスを毒状態にする。
「ハクエン、今だ!」
「ええ、わかっています。セイクリッドジャッジメント!」
聖なる光が不浄、すなわち状態異常を持っている敵を裁く。特攻攻撃によってHPを大きく削ったとはいえ、スフィンクスはまだ健在。すると、スフィンクスの口から巨大なビームが発射されるのをみて、ダイチが大ダメージでヘイトを奪ったハクエンのカバーに移る。
「いてて、バフ解除付きの攻撃はきついな。【不屈】(HPが80%以上の時に致死量のダメージを受けても、1回だけHPを1残す)が無かったら死んでいたぞ」
「俺が【挑発】で引き付けるから、その間に建て直しを!」
「ミク、すまん。ハクエン、回復とヘイストをかけてくれ」
「既にやっている。バフかけなおしたら、再度タゲ取りをしてやってくれ」
ダイチが自身のバフスキルのクールタイムが今か今かと待っている間、ミクがスフィンクスと距離をとりながらトゲ付きの鉄球を投げつけてヘイトを稼いでいく。
(近づいて戦いが、あの図体だと猫パンチだけでも痛そうだ。それにミサイル攻撃されたら、爆風でアルゴのおっちゃんの邪魔になるしな)
うかつに近づけない。しかも、攻撃力重視であるアルゴの稼いでいるダメージと回避重視であるミクの稼いでいるダメージでは雲泥の差がある。次第にアルゴのほうが厄介だと思ったのか、スフィンクスがギロリとアルゴを睨みつける。
「パワー勝負でもするかい?」
アルゴが身構えると、スフィンクスの背中からバサリと羽が生え空へと飛びあがる。そして、今度は腹部から拡散ビームが放たれていく。
「アルゴ、お前はチェーンで引き寄せる。メイガスバリア!」
「俺の扱いは雑か!」
「って、俺は!?」
あちこちを走り回っていたことでダイチたちから離れていたミクに向けられるのは「なんとかやってくれ」という生暖かい眼差しだ。
「ちくしょー、避けられるわけねえだろ!【自己再生】」
一度こっきりの復活スキルを使って耐えきようとするも、ここは日差しの強い砂漠地帯。HP1で復活したところで日差しによるダメージであっという間に倒されて、消滅していく。
「すまん、ミク。せめてもう少し近くで戦っていれば……いや、無理だな。チェーンの対象は1人だ」
「仕方のない犠牲でした。みっちゃんの回復をしなくてもよくなったのでダイチさんの回復に回ります」
「それなら、私は攻撃側に移ろう」
「安心しろ、やばくなったら俺が回避盾を務める。一応、【挑発】は覚えているからな」
「ああ、助かる。相手の残りHPもあとわずかだ。気合入れていくぞ!」
ダイチの怒号と共に、我先にと駆け出していくジーク。その手にはナイフではなくボーガンが握られていた。
「接近戦だけが取り柄じゃないんだぜ。ヴェノムショット」
猛毒の矢がスフィンクスの傷口からsん入試、毒によるHP減少をさらに早めていく。さらにアルゴも斧から鎖のついたトゲ付き鉄球へと武器を変えて、ぶんぶんと大きく回転させている。
「俺のハンマーを食らいやがれ!」
投擲された鉄球がスフィンクスの頭部に突き刺さると、ひびが入って赤い水晶体を露出させる。
「あれが弱点だな。ならば、とどめは私が差す。セイクリッドスピア!」
ハクエンが空を駆り、手にした光の槍でコアを貫く。すると、スフィンクスは地上に墜落し、その衝撃でHPを0にするのであった。
「ふう、スフィンクス1体討伐するのに結構疲れるな」
「途中でやられてすみません」
「謝ることはないよ。俺ももう少し場所取りする位置に気を配っていればよかった」
「それよりも大神殿に行くんだろ。早くしないと日が暮れちまうぜ。現実の方も」
「それはいけねえ。せめて街までたどり着かないと」
ミクたちは当初の目的通り、アハトマ大神殿へと向かって歩いていく。そして、道中の雑魚を倒しながら進んだ先には、夕暮れによって照らしだされた砂漠の中にぽつりとある植生豊かな大オアシスとそれを見張るかのように建てられた大神殿があるのであった。