第41話 大神殿へ
GW最終日。ミクとカエデは久しぶりに2人でのんびりと他のクエストの消費に勤しんでいた。当面の目標はギルド対抗戦の上位入賞。過去に行われたギルド対抗戦は第一回がルールが単純なサバイバルゲーム、第二回が複数のチームに分かれて陣地を取り合う領土戦。今年の対抗戦のルールの発表は例年通りなら6月ごろであり、それまでは個々人の実力を伸ばす期間だ。
「ふう、とりあえずSPは大分たまったな」
「どの魔法を覚えるつもりなの?」
「まずは吸血鬼専用スキルの【血操術】とそれがあること前提で覚えられるブラッディボディ、血で武器を作れるブラッディウェポンの3つ。今日もらえたレイド報酬と合わせて全部覚えられるぜ」
「今回は朱雀戦のMVP報酬でスキルスクロール貰えているから、使っておいた方が良いよ。得られたスキル次第で別の魔法を覚えたほうが良いかもしれないから」
「そうだな。さっそく使ってみるか」
ミクは汎用スキル【残像】(敏捷・移動力が上昇するスキル・魔法を使用した場合に発動。移動中に残像が発生する)を手に入れました
「要は【加速】とか【灼熱の血】を使用した時に発生するってわけか」
「使用した場合だから、【吸血鬼】みたいに夜になったら勝手に上がるタイプだと発動しなさそう。それに、残像があったからって攻撃力が上がるわけでもないのが微妙かも。強かったら話題になるだろうし」
「使ってみたら、案外強いタイプかもしれないぜ」
「うん。次のクエストで使ってみよう」
というわけで、冒険者ギルドに戻って魔法を習得したのち、次のクエストを探すも、2人でクリアできるようなクエストとなると、Dランク以下の低レベルなものに限られており、順調に消化されている。
「できればCランクのほうが報酬は良いんだけどなぁ」
「さすがに二人は無理だよ」
「だよなぁ。う~ん……一度街の探索してクエストが無いか探してみるか」
「どこ探すの? 大体のところは調べられてはいるとは思うけど……」
「そうだな……他の人が行っていないところってなるとフォーゼの城内になるか」
「私、そのクエスト受けてないけど、中に入れるかな?」
「大丈夫だろ。同じパーティーに入っていたら」
方針が決まり、ミクはフォーゼ城へと向かっていく。門番の騎士が相変わらずフォーゼ城を守っているが、この国を救った英雄であるミクは顔パスで、カエデについてはダチだと伝えると快く通してくれた。
「へえ~、城の中ってこうなっているんだ」
「中に入れるのはAランクって言っていたな」
「Aランクの試験条件がレベル120到達だから来年くらいにキャップ解放と同時に実装かなって思っていたんだけど……みっちゃんがやらかしたからね」
「俺以外にも中に入ったやつはいないのかよ」
「ん~、一応はいたよ。火山が実装されたあたりで盗賊系に実装されたインビジ系スキルで不法侵入。だけど不法侵入だからクエストなんて受けられるはずもないし、姫様に会うどころか騎士に見つかった瞬間に逮捕されてフォーゼをリアルタイムで1週間出禁」
「火山実装くらいってことはフォーゼに入れなくなっても痛みは小さいんだろうけど、それでもきついだろ」
「まあね。物を売る人たちは人通りが多いフォーゼで売ることが多いから。それでも、ギルド内で融通してくれたらなんとかなるけど」
「なるほどな。そいつらの二の舞を避けて、他のプレイヤーもここはAランクになってからってなったわけか」
「そういうこと。そのときに【変身】のスキルが見つかっていたら、もしかしてと思うプレイヤーはいたかもしれないけどね」
二人は騎士の指示に従い、アリス姫の部屋まで案内される。城攻めの際、多くの騎士たちを倒したはずだが、城内にいる騎士たちはそれを感じさせないほどいる。
「どうかしましたか?」
「やむを得ないとはいえ、ここにいる人たちを殺したからさ……」
「ミク様を恨んでいると?」
「まあ……」
「それでしたらご心配なく。ここだけの話ですが、蘇生魔法の術師によって、あの晩に殺された仲間は全員蘇りましたから」
「そうなのか。というより、蘇生魔法とかあるんだな」
「ええ、その存在自体は秘匿されているので真かはわかりませんが、木っ端みじんに吹き飛ばされない限り、死後数時間以内であれば、蘇生が可能という噂です。だからと言って慢心してはいけません。死んだ同僚から聞いた話ですが、蘇生治療してもらうと数か月の間は給料から蘇生費を天引きされます。死なないのが一番です」
「死んだ同僚からの話ってすごいパワーワード……」
「なんか大半の人の給料を引かせてしまった気が……」
「ははは、私はその日非番で助かりましたが、少人数で落とされたこともあって、当番だった者たちは地獄の訓練コース行き。恨みつらみを言う気力さえありませんよ」
「良かった……よかったのか?」
「どっちかというと不幸だったよね。その人たち」
「ここ最近はたるんでいましたからね。厄介ごとはギルド任せ。これでは腕も上がらない。此度の襲撃事件はフォーゼの騎士に良い刺激になったと考えております」
アリスの部屋まで案内されたミクたちは部屋の外に、騎士を残して中へと入る。アイリスがミクの姿を見るや否やロケットの如く走り出して、ミクに抱き付いてくる。
「ミクモ様~」
「アリス、元気にしていたか?」
「はい。今日もお話を聞かせてください」
「ああ、わかった。でも、その前に最近城内でおかしなこととか聞いたことないか」
「いつもと逆の立場ですわね。おかしなこと……そういえば、騎士たちが物資が届かないと困っておりましたわ」
「物資か……どんなものが足りないんだ?」
ミクがそう聞いた瞬間に、クエストが発生する。そこには大神殿からの治療物資と大樹海からの建築材の運搬がミッションとなっていた。それ以外のことは書かれておらず、なぜ遅延しているのかは不明なままだ。
「大神殿か……」
「やっぱきついのか? ダイチさんたちも避けていたみたいだし」
「まあね。でも、ダイチさんたちを呼ばないと私たちだけだとクリアできない」
「わかった。事情を話して、パーティーに入ってもらえないか相談してみるよ」
ダイチに一方を入れてその返答を待っている間、アリスと話すこと数十分。ダイチからの返答はOK。他のメンバーも連れてくるということなので、誰が来るのかとワクワクしながら、アリスと別れを告げるのであった。
フォーゼの時計台の下で待っていると、ダイチ、アルゴのほかに盗賊風の同年代の男性とハクエンの二人も寄ってくる。
「ダイチさん、そちらの方は?」
「自己紹介が遅れたな。俺はジーク。職業は見ての通り盗賊だ。社会人だからあまりログインはできないが、よろしく頼むぜ、ヴァンパイアガール」
「ミクでいいぜ、ジークのおっちゃん」
「おっちゃん……俺はまだ27だぞ」
「えっ、36、7くらいかと……」
「やっぱバンダナはともかく無精ひげはダメだって言っただろ、ジーク」
「盗賊っぽくしただけだ。現実だと毎朝、剃っている!」
「やっぱ見た目を大事にするプレイヤーって多いんだなぁ。ハクエンさんも来てくれるのか?」
「ああ。私の専用装備はあそこでドロップするからな。こちらこそ頼む」
「1位と渡り合ったことのあるプレイヤーがいるなんて心強いぜ。それで大神殿ってのはどうやっていくんだ?」
「それはね……」
カエデたちに連れられて大樹海を抜けた先には、太陽がじりじりと照り付ける大きく広がる砂漠が広がっていた。吸血鬼の天敵である日光ダメージは海のときよりもさらに高く、カエデが前もってリジェネをつけていなかったら、数分も持たなかったかもしれないほどだ。
「大神殿はこの砂漠にあるオアシスに建てられているんだが、吸血鬼は、その、なんだ……無理しない方が良い」
「なあ、このゲームの吸血鬼って思った以上に不遇じゃねえ?」
「1度暴れたせいだよ」
「それにしても、普通の吸血鬼よりもHPの減りが速い気もするが?」
「ああ、カエデと検証したんだけど、俺の【吸血姫】っていうスキルは【吸血鬼】のデメリットも強化されるんだよ。だから日光ダメージが普通の吸血鬼よりも辛い」
「ってことは元々の弱点も倍率が高いってわけか。仮に1.5倍の倍率なら水と光から3倍ダメージ……攻撃面はピカイチだけど紙装甲で許されているタイプだな」
「某ゲームの白いゴキブリや折り紙みたいなやつか」
「このゲームに先制技はないから活躍できそう」
「すまん、私にはよくわからない」
「ところで、大神殿のことなら砂漠フィールド以外にも伝えないといけないことがあるんじゃねえか」
「そうだったな、ジーク。大神殿のダンジョンであるピラミッドは光属性の敵が多いうえに、俺たちみたいな闇系のキャラは能力を1割ほど低下させる。逆にヒーラーとかの聖職の種族・職業を持っている場合は1割アップだ」
「10%か……無視できない数値だし、ギリギリの戦いになるならその差で勝敗が決まりそうだ」
「まったくもってその通り。だが、まずは砂漠での戦いに慣れないとな!」
ゴゴゴと地響きを立てながら地中からサンドワームがその大きな口をダイチに向けて突進を仕掛けてくる。
「その攻撃はビッグシールドではじき返す!」
大楯で突進を防がれたサンドワームは、口から紫色の毒ガスをモクモクと噴出していく。そんな時、ハクエンの張ったサンクチュアリが毒ガスを無力化させる。
「私がいる限り、状態異常は通用しないぞ」
「キシャアアアア!!」
「地中に潜るつもりか、そうはさせねえよ。パラライズナイフ」
ジークが麻痺効果を付与させたナイフを投げつけ、サンドワームをほんの数秒間しびれさせる。そのわずかなスキをついてアルゴが渾身の一撃を決めると、サンドワームの巨体が倒れこむ。
「よくやった、アルゴ。チェーンバインドで拘束する。一気に決めるぞ!」
「クラッシュアックス!」
「パワースラッシュ!」
「ブラッディウェポン、アックス!」
元【漆黒の翼】の連携攻撃に見惚れている場合ではないと、ミクも血を斧に変形させて動きを封じたサンドワームに一撃を与えてHPを0にする。
「これ、ダイチさんたちがいなかったらきついどころじゃねえぞ」
「ちなみにサンドワームはこの砂漠にいるボスクラスの敵でも雑魚側な」
「マジかよ」
「一番強いのは砂漠らしくスフィンクス。まあ、野良の出現率が下手なドラゴンよりも低いから深く考える必要はないけど」
「なあ、俺の悪運知っていて言っているのか?」
「う、う~ん……さすがに運使い切ったよ。多分」
「どうかなぁ……」
嫌な予感をしつつも、ミクはこの広大な砂漠地帯を歩いていくのであった。




