第40話 vs古の守護者
ミクたちがボス部屋に入ると、ただ広い空間に鎮座してあった鋼鉄製のゴーレムの目が光ると同時に、体に文様が浮かび上がり、天井からわらわらとミサイルを積んだドローンが降り注いでくる。
「おいおい、さっきまでトカゲ人間と戦っていたのに急にメカ感増したぞ!」
「古代人が作ったロボっていう設定だからね」
「それだけの技術があったら、もっと栄えているだろ」
「どこかで技術の継承ができずに滅んだとか。マヤ文明みたいに☆」
「何はともあれ、まずは雑魚を片付けないとね」
ドローンがミサイルを撃ってくるのを見て、AYAKAがプロテクションを張って防ぐ。お返しと言わんばかりにミクが血の雨を降らし、ドローンのHPを減らしたところにSORAの弾丸やレイカの魔法によって打ち落としていく。
すると、ゴーレムの胸部から逃げ場がないほどの極太のビームが発射され、カエデが防ぐ。すると、胸部に赤い宝石が見える。
「みんな、胸のコアを狙って!」
「おう!俺の全力投球を喰らえ!」
「OK、ハイミサイルランチャー」
「アクアスピア!」
ミクたちの攻撃が弱点のコア部に突き刺さり、ゴーレムのHPを減らしていく。そして、露出していた胸部のシャッターが下りると、今まで与えていたダメージが1になる。
「コアに攻撃しないとまともにダメージが通らないってわけか」
「そういうこと。次の攻撃来るよ」
ゴーレムがロケットパンチでミクを押しつぶそうとするも、それをよけられてしまう。すると、今度は手が開いて手のひらから電撃攻撃を浴びさせてくる。
「ガードソング!」
「ぐああ……いってえ~」
「クイックヒール。麻痺はないみたいだね」
「ああ、アリスのペンダントのおかげだな。それにしても、1発で8割持っていかれたぞ」
「みっちゃんはただでさえ防御が低いからね。そりゃあ痛い」
「喋っている暇ないよ。次の攻撃に備えて」
切り離された両腕がゴーレムのもとへと帰ると、今度は口から暴風が吹き荒れ、移動力低下のデバフとわずかなダメージが発生する。デバフをAYAKAがキュアーで解除している隙に、再び天井からドローンがわいてくる。
「これで1サイクル。見ての通り、攻撃チャンスはゴーレムが胸からの攻撃した直後のコア露出時のみ。それまでは耐えるか躱すのに全力!」
「これは長期戦になるぞ」
ブラッディレインのクールタイムは完了している。最初と同じようにドローンを一掃して、最大攻撃を待ち構えていると、今度は胸から巨大なミサイルを発射してくる。
「私の周りに集まって、バリア系魔法ふんだんに。スキル【風の障壁】、ホーリーバリア!」
「アイスウォール」
「ホーリーバリア」
「職業スキル【絶唱】。一定時間、歌の効力をアップ☆」
カエデたちが即座に作ったバリアに触れたミサイルが巨大な爆風を広がって、それらをパリンパリンと破壊していく。SPICAの歌によるバフ効果もあって誰一人かけることもなかったが、ほぼ全員がHPを半分近く削られており、ミクはミリ残しだ。
「ウラガル召喚していてもやられていたかもな」
「ビームは耐えられるけど、ミサイル攻撃が厄介だからあまり来ないことを祈ろう」
「コアが露出している隙に叩くよ!」
「ああ!」
回復はカエデとAYAKAに任せ、ミクたちがバンバンとコアに攻撃してようやく1/3を削ったところだ。あと4回はこの猛攻を潜り抜けないといけないのかと思いながら、ミクが空中を飛び回っていると射出された手先からレーザーがホーミングしながら追いかけてくる。
「ちょっ、ホーミングレーザーとかありかよ」
「プロテクションは残したいから使えないよ」
「わかった、こっちで何とかする。引き付けて……【加速】!」
壁際で加速を発動させたことによる急旋回で、ホーミングレーザーを壁にぶつけさせて消失させることに成功する。そして、両腕が本体とドッキングしたのを見計らってカエデたちのもとに戻ると、口から熱風を噴出させ、味方にやけど状態とダメージを与えていく。キュアーとヒールで立て直したところにドローンが三度現れる。
「楽に倒せる方法はないのかよ」
「放熱の際に開くシャッターが閉じなければ、コアが露出したままになるから楽になるんだけどね」
「……とりあえずやってみるか」
ドローンを倒した後、今度は最初と同じビーム攻撃。それを同じように防いだ後、ミクは【灼熱の血】を発動し、露出しているコアへ閃光の剣を投げつける。すると、シャッターが降りてこようとしたとき、つっかえ棒になってコアが露出しっぱなしになる。
「剣が外れないように攻撃する必要はあるし、その隙間もかなり狭いけど、狙えなくはないね。固有スキル【鷹の目】、スキル【狙撃】、狙い撃つよ!」
ロケットパンチからの攻撃をミクがひきつけている中、SORAがスナイパーライフルでゴーレムのコアに狙撃を開始していく。他の行動中でもダメージを与えることが可能になったことで、HPの減り方は今まで以上に速い。あと1サイクル繰り返すころにはゴーレムのHPは尽きかけ、ミサイル攻撃の直前にはゴーレムは力尽きるのであった。
「結構手ごわいボスだったな……」
「うん。でも隠し条件を見たことで、新しい魔法も覚えられるみたいだし、早く村へと帰ろう」
「そうですわね。ワタクシも気になりますわ」
カエデたちが村へと戻ると、無人だった家に救助した調査隊のメンバーが勢ぞろいし、感謝の証としてパーティー全員に30SPを手渡してくれた。それと最後に助けた魔導士のエルフからは、冒険者ギルドでは覚えられない防御系・支援系魔法、スキルを教えてくれるようになっていた。
「こっちは種族別であるんだね」
「あくまでも解放条件が特定の種族を含んだパーティーというわけですわね」
「選択肢を増やすためにも支援系の魔法は覚えておきたいけど、SPの消費も大きいから悩むぜ」
「私は温存☆」
各々がどうしようかと悩みながら、魔法やスキルを習得していく。そして、現実時間でもログアウトするにはちょうどいい時間帯ということもあってミクたちはログアウトするのであった。
現実に戻った紅葉は自分がプレイしている†闇の支配者†とカエデのデータを見比べる。ダクロのほうが装備もスキルも充実しており、何より長年愛用していることもあって愛着もある。とはいえ、カエデもこれから先、低レア専用のスキルを覚えていくのであれば、先行でプレイしているダクロ並とはいかなくても、そこらのSSRには負けないくらいの強いキャラに育てることは可能かもしれない。
「リーク通りの内容でサブが強化されていくなら、スロースターターな†闇の支配者†よりも、カエデのほうがプレイは楽なんだけど、面白みがないんだよね。綾香さんとも被っちゃうし」
Wヒーラーが必須のクエストを除くのであれば、基本的にヒーラーは1人で十分。そうなると役割的には†闇の支配者†を使うのがベストだ。
「闇の支配者であることを告げるかどうか、悩むなぁ……」
カエデがサブ垢であることを知っているのは旧【漆黒の翼】メンバーの中だとギルマスのハクエンだけ。親しいダイチたちにさえ、その正体を打ち明けていないのだ。
「できればギルド対抗戦までにはみっちゃんたちのレベルを強い固有スキルが覚えられる100にはしたいから、効率的な狩場となると……」
攻略サイトに描かれているのは大神殿でのプラチナスライム狩りの方法だ。だが、ここに来るには無視できない大きな問題があり、即座に却下する。
「ここはみっちゃんがきついからパス。となると大樹海だけど、今より効率が格段に高くなることはない……」
悩ましい問題だ。ダイチたちと一緒に行っても油断すれば、倒されてしまう。それほどまでに闇属性のキャラには向かい風なエリアだ。パワーレベリングはきつそうだと思っていると、ドアがノックされる。ドアを開けると、そこには三雲がいた。
「紅葉、飯でも食いにかねえ?」
「うん、今行く。私も久しぶりに熱中したから私もお腹空いてたよ」
パソコンの電源を落として、紅葉は好きな三雲と一緒に食堂へと向かっていくのであった。