第39話 救助クエスト
うっそうとしたジャングルにぽつりとたたずむ石造りの遺跡がぽかりと口を開けて、冒険者が来るのを待っていた。その中には遺跡の調査隊6人が救助を待っており、エルフの村の村長から貰った専用アイテムを渡すことでダンジョンからワープさせることができる。ミクたちが足を踏み入れた瞬間、カエデからストップと声をかけられる。
「どうした? 忘れ物か」
「違うって。まずは一人目の救助から」
「だから奥に進むんだろ?」
「それが違うんだよね。ここに一人目がいるんだよ」
SORAが飛び上がり、入り口真上の壁に向けてバズーカを放つ。すると、壁の一部が破損してエルフの青年が姿を現す。壁を壊したSORAにおびえている様子であったが、冒険者の証であるカードをみせることで安心する。
「これを使えば村までワープできるよ」
「これは転移の巻物。ありがとうございます」
エルフの青年の姿が消えて一人目の救出に成功する。青年の姿が見えなくなったことを確認してから、ミクは思ったことを口に出す。
「入口まで逃げたんなら、そのまま逃げろよ」
「それはゲームの都合上だから」
「MP切れで森の中の戦闘はできないとか、そんな感じじゃない」
「壁の中にいる可能性も考えて探すとなると結構手間がかかりそうだ」
「言っとくけど、あたり一面ローラー爆撃した人のおかげで見つかったんだよ。スタート地点の一人目」
「ってことは壁に二人はいないってことか。少しは気がらく……楽になるのか?」
「二人目は少し先だから気を付けて進もう」
罠解除できるSORAを先頭に歩いていくと、奥から曲刀をもったリザードマンたちがぞろぞろと湧いてくる。【挑発】でヘイトを稼いだミクが彼らの攻撃を躱していくと、ダンジョンの壁や天井に張り付いて攻撃するアサシンリザードも紛れて攻撃を仕掛けてきた。
「こんな狭いところじゃあ、【飛行】も役に立たねえ!いつまで躱せるか分からねえぞ」
「だから、ここは耐久のある壁タンクが必要なんだよね」
「そういうことなら、AYAKAに任せるのだ☆」
「部長、ちょっと!?」
「私がパーティーの回復役に回るから壁よろしく」
「わかりましたよ。ミクちゃん、少しヘイト奪います。【デコイ】」
「鉄壁要塞ガードソング!」
一部のリザードマンの気を引き付けたAYAKAに防御バフが付き、ガシガシと剣を突き立ててもHPの減り以上の回復を見せていく。そんな彼女に気を奪われているリザードマンに向けて、レイカが魔法を放って着実に数を減らしていく。
そして、相手するリザードマンの数が減ったことで、防戦一方であったミクも若干ではあるが攻撃に転じる余裕ができる。高速戦闘しているミクたちの合間を縫ってSORAの放った弾丸がリザードマンやアサシンリザードを打ち抜いていく。
立っているリザードマンがいなくなったところで、ミクの【見切り】のレベルが1つ上がったことが告げられる。
「前にレベルアップしてから、結構回数こなしているのにようやく1アップか……先が思いやられるぜ」
「レベル8はもっとかかるよ」
「マジか……」
「リザードマンの集団戦は多いし、見切りのレベル上げにはもってこいだよ。 時間かかるけど」
「いや、今は遠慮しておく」
SORAの提案をことわり、先へと進んでいくと罠を解除していたSORAがカエデに話しかける。
「今、解除したのが3つ目だから、次が二人目のところだよね」
「そうそう4つ目の落とし穴は作動させないといけないから罠解除はNG」
「OK。次はわざと作動させるから僕から距離をとってね」
それからしばらく歩いていくと、SORAがストップと言ったのでミクたちが立ち止まり、SORAが一歩足を踏み入れると床にあったスイッチが作動し、落とし穴がパカリと開く。真っ暗な奈落の底にSORAが飛び込むと、その最深部には足をくじいたエルフがいたので転移の巻物を渡して救助する。
「これで1階のエルフは全員だね」
「ってことは下のフロアとかあるのか?」
「ここは3階層のダンジョンで今、見つかっているのは1階に2人、地下1階に2人、地下2階に1人だね」
「地下2階のエルフはボス前扉にいるから見逃さないけどね」
「となると、地下2階にもう一人いるのかしら?」
「そう思わせて別のフロアかもしれない。先入観ほど危険なものはないよ」
「カエデの言うとおりだ。怪しげな場所があったら、必ず伝えること。良いな?」
「任せて☆」
SORAが罠解除をしながら進み、道中のリザードマンを倒しながら進んでいくと下へ続く階段が見つかる。それを下っていくと、宙に浮いたブロックが一直線上に並んでおり、その奥には下へと続く階段が待ち構えていた。
「ここは駆け抜けないと足場が落ちてしまうんだ」
「しかも、この2階だと飛行系スキルは使用不可になっているから復帰はできない」
「落ちるとどうなるんだ?」
「ダンジョンの外に放り出されて、パーティーの帰還か全滅を待つことになる」
「きついな、それ」
「しかも、ここに3人目と4人目がいるからね」
「どこに?」
「3人目のところに行くには、13個目の足場でみんな止まってね」
「落ちるんじゃなかったのか?」
「そこは大丈夫」
「僕が合図するから止まってね」
「みんな、行くよ!せーの!」
カエデの掛け声とともに走り出していくと、足場ブロックが崩れ落ちていく。そして、SORAの掛け声と共にぴたりと止まると、そこの足場だけ崩れずに上に上昇していく。
「ここの足場だけエレベーターになっているんだよ」
「だれが気づくんだ!」
「これ、最後まで行ってから後ろを振り返るとここの足場だけ宙に浮いているから、そこで気づくんだよね」
「で、しまった!? と思った時は後戻りできないやつ」
「性格悪いな、ここの運営」
「一度リタイアすれば確実に救助できるから、楽な分類だよ。4人目と比べれば」
「あれはひどかったね……」
それほど4人目は見つかりにくい場所なのだろうかと思っていると、足場が宙に浮いている足場にたどり着く。そこの足場は崩れ落ちることはないので、ゆっくりと下に落ちないように歩いていくと、一番奥に3人目のエルフがガタガタと震えて待っていた。
「さてと、次は4人目だね。3人目の真後ろから……とぅ!」
「おい、SORA!そんなところ、飛び降りたら!」
SORAが飛び降りた先を見ると、何もないはずの宙にかっこよく着地ポーズを決めているSORAがいた。なんでも、ここには目には見えない足場があり、4人目に会うにはそこに向けて飛び降りて進む必要があるのだ。
「わかるか、そんなの!!」
「初めて見つけた人は偉大だよね~」
「少しは加減しろよ!」
ミクが文句を言いながら飛び降りていき、その後をレイカたちが続く。そして、SORAが慎重に透明な床を歩いていくと壁のくぼみにエルフがいたので、さっさと転移させる。
地下2階。1階で出てきたリザードマンが今度は盾を持ち始め、防御力がアップし、名前もエリートリザードマンと上級クラスであることを示している。とはいえ、基本的な動きは変わらず、紛れ込んでいるアサシンリザードに注意すれば同様の対処であった。
「やけに分岐路が多いな」
「ここは間違った分岐を選ぶと無限ループするから迷いやすくなっているんだ」
「右手法が通用しないんだよね」
「ああ、よく迷路を突破するのに使う壁に沿って歩いたら必ず出口に着くってやつか」
「では、その間違った分岐に5人目、いえこの場合は6人目がいる可能性があるのでして?」
「それはないと思うよ。間違った分岐先にいるなんて誰もが思っているだろうし」
「それにそういった分岐も含めて調査済みなんだよね」
「これは思った以上に難問ですわね」
「1階と同じで壁とか落とし穴のパターンはすでに調べられているだろうし、どこにいるんだ6人目?」
雑魚敵を倒しながら、あたりをきょろきょろと見渡しても変哲のない壁が続く。そして、ボス部屋の前で5人目のエルフが倒れているのを見て、転移の巻物で村へと送り届ける。
「この先がボス部屋だけど……」
「怪しいところあった?」
「全然なのだ☆」
「私も……」
「人数からしてこの階にいそうな感じはしますが……ミク、貴女は?」
「俺もレイカと同じ意見だ。これまでのパターンに当てはまらない場所があるとしたら、ここにしかないギミック、無限ループの通路に6人目がいるとは思う」
「でも、多くの人が調べているよ」
「だけど、俺たちにしかできないこともあるかもしれない。ここまで性根がねじ曲がった運営だ。何か変わった仕掛けの可能性が高い。今はその無限ループ通路を調べてみよう」
「そうだね。何もなかったら、リタイアすれば良いだけの話だし」
一同は無限ループする通路へと戻っていきまずはフィジカルに自信のあるミクがその場を走ってみることにした。
「確かにこれだけ走っても、周りの風景は変わらない……だったら【加速】で振りきってみるか」
ミクが速度を上げてさらに走りこむも、奥には行けず引き返す羽目となる。【加速】の上位種である【超加速】があれば、振りきることができるかもしれないが、それでできるのであれば足の速いプレイヤーがすでに見つけていてもおかしくはない。やけくそになって、そこら辺の石を投げつける。
「ん? 石は別に戻ってくるわけでもなく、先に進めるんだな」
「攻撃魔法放ってみる?」
「全員で遠距離攻撃してみるか」
カエデの合図とともに一斉に攻撃を仕掛けるも、敵のいない通路。妨害されることもなく、ただ前方を進んでいく。すると道中、とある地点から魔法が消えうせる。それはちょうど石が落ちた地点から少し進んだ場所だ。
「だいたい、このあたりでアイテムの投擲も含めた攻撃が消えたよな」
「うん。ってことはここが無限ループの始まり場所。ワープ地点ってところかな」
ミクが興味本位で左手を伸ばしてみると、ある地点でスパッと刃物で切られたかのように手が消える。ただ、本人の感覚はつながったままなので、左手が失われたわけではなさそうだ。実際、引き抜いてみると、左手は元通りのままである。
そして、ミクの全身が中へと入り本人が中で1分数えてから戻っても、外から見た場合は瞬時に引き返したように見える。
「体の一部や攻撃魔法は消えることが外から認識できるけど、全身入ると時間の流れが異なるせいか、その認識のずれを矯正するために外にいた人の認識が変わる。一応、ギミックは理解したけど、だからって感じだな」
「そうだよね。魔法に詳しい人に聞けば、無限ループを解く方法とかあるかもしれないけど」
「NPCに事前に聞いておかないと完全クリア不可能なクエストというわけですわね」
「魔法に詳しいNPCね……【悪魔召喚術式(魔)】、来い、ウラガル!」
『話は聞かせてもらったぞ。うむ……』
「どうだ、解除できそうか?」
『結界の類は門外ゆえに解除はできぬが……いや、仮に力づくで破壊しても下手すればダンジョンが崩壊する危険性がある。我が手を下すべきではないだろう。だが、おおよその術式は理解した。どうやら特定の条件を満たした者のみ通れるタイプのようだ』
「サンキュー。ってわけで、一人一人通ってみるぞ。何か共通点があるかもしれない」
「ではワタクシから。えい…………通れましたわね」
「なんで? 次は私……ってうそ、できた」
「この流れなら僕でも……やっぱり無理っぽい」
「私もダメ☆」
「私もです……」
「同じ職業のカエデとAYAKAで通れる・通れないが生まれているから、職業で分けているわけではないよな」
「そうですわね。ですが、ワタクシとカエデさんの共通点となると……遠距離主体としかわかりませんわよ」
「う~ん、私とレイカはエルフと人間だから、デフォルトの種族ではあるよね。R以下の種族限定とか?」
「それなら条件満たせるプレイヤーは多そうだろ。なんで今まで見つかってないんだよ」
「R以下はステが低いからね。低レア縛りとかしてないと種族ガチャでSR以上を狙うもん。ここまでくるようなプレイヤーならなおさらSR以上の比率が高くなって、R以下で来る人はほとんどいないと思うよ」
「そういや、今まであった上位プレイヤーの人たち、当然のようにSR以上だったな」
「僕が使う【飛行】とかの便利スキル、SR以上じゃないと覚えられないからね」
「種族格差激しいな、おい」
「そういうゲームだもん」
「一応、ゴブリン一筋のマニアがいたんだけど、【漆黒の翼】崩壊時に辞めちゃったんだよね」
「この先にいるであろう6人目を見つけて、隠しスキルでその差を覆すのも面白そうではありますわね」
ミクたちはお留守番となり、カエデとレイカの二人が無限ループする通路のその先へと進んでいくと行き止まりに杖を立てて怯えているエルフの女性がいた。
「ひぃ……って、私と同じエルフ?」
「ここに結界を張ったのって貴女?」
「はい。この結界はエルフかエルフと友好的な種族しか通さない結界です」
「友好的な種族? 例えば?」
「そうですね。森の中で暮らすホビット、心優しい人間。ドワーフは苦手ですが結界内には入れます。彼らとはそりが合わないだけで、害をなしませんし。あっ、心優しくとも魔物・魔族関連の種族は完全にシャットアウトしまうのが欠点ではありますね」
「ってことはデフォルト3種族+Rホビットだけが通れると思ったほうが良いね」
「それらを使った有名な方はいますの?」
「私が知っている限りだと【ENJOY!】に一人、二人はいたと思うけど、強い・有名かと言われると言葉が詰まるなぁ」
「道理で見つからないわけですわね。これを使えば村へ帰還できますわ」
「ありがとうございます。他のメンバーは?」
「それなら大丈夫。貴女を除いて全員助けたよ」
「それはよかったです。今、MPが尽きかけている私にできることと言えば、このスキルを教えることくらいしかできません」
汎用スキル【エルフの加護(魔)】(特定種族のみ有効。防御と知力が上昇し、魔法の射程距離が延びる)を手に入れました
「村に戻られましたら、私が教えられる範囲で良ければ魔法を教えてあげますよ」
(結界系の魔法習得フラグっぽい? でも、こっちはサブだからこっちで強くなってもなぁ)
できればメインキャラであるダクロで強化できればよかったと思いながら、無限ループしていた通路を戻り、カエデたちはミクたちのもとへと帰るのであった。