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第3話 現状把握

「なんで、俺が女の子になっているんだ!」


「知らないよ!」


「だよな!」


 とお互いに怒鳴りあうような声で話していると、二人を心配したのか紅葉のママが部屋に入ってくる。それを見た二人はしばらく硬直する。


(これ下手すれば、俺、不審者じゃねえ?)


(みっちゃんのこと、どう説明すればいいの!?)


「二人とも元気なのはいいけど、もう少し静かにしなさい」


「お、おばさん、俺のことおかしいとか思わないの?」


「おかしいって言われても……いつもと変わらないように見えるけど? せっかく可愛いんだから、俺とか言わないほうが良いと思うわ」


「あ、ありがとうございます」


 おばさんが何の疑問も抱かずに1階へと降りていくのを見た紅葉は音が漏れないように部屋をしっかりと閉める。


「どうなっているんだ? おばさん、俺のこと女の子扱いしたぞ」


「それどころか、前から女の子ってことになっているみたい」


「そうだ、学生証。確か財布の中に入れてきたはず」


「みっちゃんのカバンは……これかな。私、このかばん持っていなかったはずだから」


 紅葉から小さなデフォルメした蝙蝠のぬいぐるみがついている鞄を受け取って、その中をまさぐると財布が出てくる。その中にある学生証には今の自分、ミクが映っていた。


「名前は三雲のまま。住所も変わってないな」


「一度、みっちゃんの家に戻ってみよう。女の子のみっちゃんの部屋どうなっているか気になるし」


「やめろよ……俺、すげー見たくないんだけど。よくこういう状況で楽しんでいられるな」


「だって、こういうのワクワクしない? アニメや漫画みたいでさ」


「それだったら、俺は事件に巻き込まれたヒロインか。主人公が良いんだけど」


「それは(来月からだけど)このスーパー幼馴染、高校生名探偵紅葉に任せなさい」


「迷探偵にならないことだけは頼むぜ。ってアタタタ……」


「どうしたの?」


「なんか下痢って感じじゃない痛みが……」


「……初めてよね、そりゃあ。ついていってあげるから」


 世話のかかる妹ができたような気分で紅葉は三雲の世話をする。やはりというべきか、偶然にも『あの日』だったこともあって一騒動もあって、出かけるのは一時間後となった。



「う~、マジで毎月あの痛みを受けないといけないのかよ」


「でも、アレが来たってことは見た目はゲームのキャラだけど、子供が産める女の子ってことだよね」


「やめてくれよ……」


 トボトボと歩いて玄関に着くと、そこには見慣れない黒い日傘が置いてあった。季節は春。青空が広がっているとはいえ、日差しもそこまで強いわけじゃない。不自然に置かれているそれを見て嫌な予感をしながらも、三雲は日傘を手に取る。

 自宅まで徒歩10分程度。日傘をさすまでもないと思った三雲だが、歩いて2、3分で体中から汗がびっしょりと流れ始める。


「みっちゃん、大丈夫?」


「まるで夏の炎天下で走りこんでいるみたいだ」


「日傘さしたら?」


「そうする」


 日傘をさしてみると、さっきの地獄のような暑さが一転し、まだ肌寒い風が心地よく感じられる。


「直射日光厳禁ってことは……」


「吸血鬼みたいな体質ってことか!?」


「多分だけど。でも、鏡には映っているから日常生活に支障が出ない範囲なのかも」


「いや、出まくっているけど。日傘がなかったら、自宅に着く前に熱中症でダウンしていた自信があるぜ」


「いやな自信だね」


 笑い合いながら歩いて、ようやく自宅へとたどり着く。三雲の母親は父親と一緒に買い物に行っているのか、今は誰もいない。自室のドアノブにゆっくりと手をかけて、息を呑んでドアを開ける。

 そこには、野球道具の代わりに怪しげなぬいぐるみや吸血鬼のフィギュアが置かれているのはまだ普通。だが、窓はベニヤ板で打ち付けられており、水や赤い液体の入った小さな冷蔵庫、部屋の棚には様々な錠剤や粉薬が置かれており、ただの病弱気質では無さそうだ。


「これは……野球してないな!」


「みれば分かるよ!これ、血とかじゃないよね!?」


「知るかよ!俺が知りたいわ!!」


「何かないかな……あったよ、おくすり手帳!」


「でかした!」


 さっそく自身のおくすり手帳を開くと、そこに書かれていたのはビタミン剤やサプリメントの数々がびっしりと書かれていた。


「これから朝晩、こんだけの薬を飲めっていうのかよ……」


「処方されている薬を見るに女のみっちゃんは体が弱かったのかな」


「おいおい、勘弁してくれよ。ただでさえ、慣れないといけないことが多いっていうのに……いったいどうして、こんなことになったんだ? 紅葉、何かわかるか?」


「こういうのは、漫画とかだと平行世界が鉄板かな」


「俺が肩を壊さなかった世界とか、俺が野球をしなかった世界とか、ありえたかもしれないIFが無数にあるってやつか」


「うん。吸血鬼みたいな体質を持つ平行世界のみっちゃんと何かの拍子で入れ替わった的な。何か、思い当たることある?」


「思い当たることって言っても、ゲームにログインするときにゲーム機の調子が悪くて若干ノイズが走ったのと、リアルベースを選んだらこの体だったってところか」


「ログインする瞬間に入れ替わった? でも、それだと今度は私の説明がつかない」


「そうだよな。俺一人なら、それで説明着くけど、紅葉まで平行世界の自分と入れ替わっているのが謎だ」


「う~ん、それは私がウルトラ幼馴染だったとか!」


「さっきと肩書ちげーぞ」


「細かいことは気にしない。でも、ゲームになにかしらのヒントはありそうだよね」


「俺もそう思う。ゲームやっていけば何かわかるかも」


「うん。私もメインで所属しているギルドメンバーに最近、おかしなことなかったか聞いてみるね。大手ギルドだから、情報も集まるのが早いはず」


「それは助かるぜ!俺はゲーム進めて、いろんなところに行けるようにする」


「そうと決まれば、入寮するまで……ところで、みっちゃんってどこの高校に進学するの?」


「S高だけど?」


「それは男のみっちゃんでしょう? 女のみっちゃんでどこに進学するのかなって」


「こういうのは机の引き出しの中に……あった合格通知書。あっ……」


「何が書いてあったの? あっ……」


「「鳳凰女学園高等学校」」


 二人がはもりながら、その高校名を口に出す。そこは紅葉が通う全寮制の学校。今を時めく鈴星コンツェルンが運営している高校で、その進学先は鳳凰大学、そして鈴星コンツェルンの傘下にある企業へと入る者が大半を占める。入学すれば、よほどのことがない限りは卒業から就職先もほぼ決まっているエスカレーター式の学校だ。


「ってことは、春休み中に男に戻らないとやばくね?」


「私としては一緒に通えるから良いんだけど」


「いやいや、中身男が女だらけの高校に通ったらダメだろ」


「今は女の子だし……良いんじゃない?」


「俺がよくねえよ!」


「とにかく、春休み中は私の家で住み込みして女の子の生活に慣れるのとゲーム特訓だよ」


「なんでお前の家なんだよ!別に自分の家でもできるだろ。ゲームなんだから」


「全寮制って言っても見ず知らずの女の子と一緒に暮らすんだよ。それにあの日の処理とかできる? 女の子の体の洗い方わかる? 誰からゲーム以外のことを一から親切に教えてもらえると思う?」


「すみませんでした!」


「分かればよろしい。さてと、みっちゃんの着替えをもっていかないと……黒っぽいのが多いなあ。おっ、勝負下着発見」


「マジで? どんなの?」


「……みっちゃんのだよ? 真っ赤な奴。どんな気持ちで買ったんだろうね」


「知るかよ……そうだ、お袋に電話しておく」


「そうしたほうが良いね。私もママに知らせておかないと」


 互いの両親に電話を掛けると、元の世界と同じように両親間の仲は良く、泊まり込みを許可してくれた。とんだ羽目になったなと思っていると、二人のおなかがグぅ~となる。


「まずは腹ごしらえしようか」


「そうだな。いつものラーメン店で良いか」


「うん!」


 近所にあるラーメン店『らぁ麺 田中』に入り、メニューを広げる二人。やや薄暗い店だが、ここで出される豚骨ラーメンは絶品で知る人ぞ知る名店だ。


「おじさん、豚骨ラーメン大盛。にんにくましましで!」


「あっ……私、醤油で。ニンニク抜きで」


「あいよ!」


「ん? いつもみたいに豚骨頼めばいいじゃねえか」


「今、ものすごく嫌な予感したから……」


「ん?」


 三雲がよくわからないまま、注文したラーメンが来るまで待つ二人。そして、三雲の前には女になっても変わらない大きな器に入っている豚骨ラーメンが置かれる。たっぷりのニンニクを麺と絡めて、すすった瞬間、三雲の顔が青ざめる。慌てて、水で流し込む三雲を見て、やれやれといった様子で紅葉は彼女のラーメンと取り換える。


「吸血鬼はニンニクが弱点なんだから、ニンニク抜きにしないと」


「知らねえよ。日光だけじゃないのか」


「他にもいろいろと弱点あるよ。心臓に木の杭を打たれるとか」


「吸血鬼じゃなくても死ぬわ!」


「だよね~さてと、麺のびないうちに食べないと」


「それもそうだな。じゃあ、改めていただきます!」


(……みっちゃんが食べたから、これって間接キス!?)


 ふと思ったことに紅葉は、顔を赤くして恥ずかしく思いながらも大盛の豚骨ラーメンの処理に取り掛かるのであった。

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