第36話 GW2日目
GW2日目。World Creation Onlineではレイドイベントが開催されているが、四神のHPが4体ともたった1日で半分以上削られるというハイペースにネット上では驚きの声が上がっていた。とはいえ、MVPのギルドが決まった今、リアルを優先プレイヤーも多く、1日目よりかはHPの減少するペースが落ちており、レイドボスたちは明日の朝日が拝めるかどうかといった具合だ。
そういうこともあって、紅葉は着せ替え人形になることを嫌がる三雲を引っ張り出し、ショッピングモールまで買い物をすることにするのであった。
「俺もお袋から小遣い貰っているけど、よくこんな高いものをぽんぽんと買おうとするよな」
「同じ服だと嫌じゃない?」
「別に気にならないけど。なんなら5、6年は着ても良い」
「それ、服が臭くなるからやめてよね。男の人が臭いのって、お風呂に入っていないってより、服のにおいだったりするから」
「へえ~、そうなのか。どうりでお前からは良い匂いがするわけだ」
「み、みっちゃんたら~」
「な~に、赤くなっているんだか。そういや、ここって映画館があるんだよな。久しぶりに映画でも見ようぜ」
(えっ、それって映画館デート?)
「この時期だと未来探偵コロンの映画やっていたよな」
「う、うん」
「あれ? お前、アニメ好きだろ。それともコロン嫌いだったか? 小さい頃は一緒に見に行ったのに」
「そんなことないよ!最後に見に行ったの雪山に言った話でしょう!」
「そうそうコロンが雪崩に巻き込まれるやつ。じゃあ、見るの決定な。席取っておくぜ」
ミクがスマホから予約をして席をとる。さすがに人気アニメの映画で直近のは席が埋まっているため、午後からの部しか取れない。それまでは時間があるということもあり、モール内の店を回ることにした。
「ん? あれ、美香たちじゃね?」
「本当だ。何をしているんだろ」
みゅ~の面々がいるのは電気ショップの一角、パソコンの中古部品が置かれているエリアだ。ギャルっぽい見た目も相まって、周りの客と比べても明らかに浮いている。
「ん~、このパーツを買うか迷う」
「でも、これは掘り出し物。この価格はヤバイ」
「二人とも早く服見に行こうよ~」
「お~い、何しているんだ?」
「ミクミクじゃん。配信機材のパーツ探し。今使っているマイク、少し音ずれがね。更新がてら中古パーツを漁っていたら」
「……掘り出し物が」
「それを使うと何ができるんだ」
「今使っているCPUよりも高性能だから、処理が早くなる。今使っているの中学で作ったやつだから」
「じゃあ買えばいいじゃん」
「そうするとマザーボードも変えないといけないんだよね」
「どっちも買うとお金が……」
「でも、この価格は魅力~う~ん……さらばお洋服代」
「あとで半分払う」
「ちょ、美香!」
吹っ切った美香がCPUと新品のマザーボードをもってレジへと向かっていく。高校生にしては高い買い物ではあったが、ほくほく顔の彼女からすれば納得する買い物であったのだろう。ここで会ったのも何かの縁ということもあり、三雲たちはみゅ~の三人と一緒にモール内を歩くことにした。
「それにしても美香が機械いじりするとは思わなかった。自作PCとかいうのもやるのか?」
「趣味レベルだけどね。おしゃれするのも好きだけど」
「でも、ゲームは下手」
「良いじゃん。その分、配信はしっかりやっているんだから」
「そういや配信で思っていたことがあったんだけど、ゲーム内で進む時間と現実で進む時間の速さって違うだろ。そのあたりどうやっているんだ?」
「生配信のときはゲームにログインしている人に流しているんだけど、現実で見るとコメントの流れる速さが数倍だから、私のコメントを入れようとすると素早く入れないとタイミング逃しちゃう。生配信の動画を編集して現実時間の速さに加工したものを別サイトで配信。ノーカットで見たいならログインして配信を見てねって感じ」
「あのコメントの人たち、ログインプレイヤーなのか……よくクエストの片手間にやれるな」
「周回作業していると飽きるから、息抜きに配信していないか見る人は多いよ。息抜きしすぎて周回さぼる人もたま~にいるけど」
「モミモミってそんなに強かったっけ?」
「カエデはサブだからね。メインはうんと強いよ」
「だれ~」
「ないしょ。レベル100になって最前線で戦えるようになったら教えてあげる」
「俺はあとレベル10か。必要経験値が多いから中々上がらねえんだよな。レイドイベントで1上がっても残り9。先は長そうだ」
「頑張ってイベントやクエストをこなすしかないね」
「それなら、私たちと一緒にイベントぶっちしてクエストやろうよ」
「そ、それはどうかと思う……」
「良いんじゃね。俺らがいなくてもレイドボス倒せるだろ」
「報酬は貰えるの確定しているけど、せめて蘆屋道満戦のMVPが決まるままでは我慢!」
「「「「は~い」」」」
三雲を含めたみゅ~メンバーが本当に分かっているのかが分からない返事をするのをみて、引率の先生の気持ちが少しわかり紅葉は軽く頭を押さえる。気持ちを変えようと、モール内にある喫茶店で少し早めの昼食をとることにした。
「俺はアイスコーヒーとナポリタン」
「私はアイスカフェオレとサンドイッチ」
「……アイスココアとホットケーキ」
「あたしはカツサンド。美香は?」
「ケーキセットのレモンティー」
それぞれの注文が通って、5人の雑談がまた始まる。ゲーム以外の話題となるとやはり学校での話がメインとなる。
「そういえば、ミクミクは何の部活しているの?」
「そういうお前たちこそ何やっているんだ?」
「適当な文化部に入って幽霊部員」
「同じく」
「同じ~」
「ちゃんと部活しろよ……って俺たちも人のこと言えねえけど」
「私たちはオカルト同好会。今はWCOにUMAとかがログインしている噂の真相解明中だよ」
「UMAってネッシーとか? うけるんだけど」
「ネッシーじゃなくて自称雪女のプレイヤーさんだったけどな」
「他には?」
「自称幽霊のプレイヤーとか自称妖狐のプレイヤーとかかな」
「なにそれ。イベント終わったら一緒にパーティー組んで配信する?」
「面白そうじゃん。絶対、ミクミクみたいな濃ゆいキャラしょ」
「俺、そんなに濃いか?」
「みっちゃん、俺っ子吸血鬼ってだけで十分属性過多だよ。しかも、友達の前だと素になるし……」
「一応、普段は私って言っているんだから良いだろ」
「ゲームのミクを知ってから授業中のミクミクを見るとね……ぷふっ」
「笑っちゃうよね~」
「うん。お、私とか言いなおすこともあった」
「そ、それは言ったらダメだって……ぷぷぷ」
「てめえら、後で覚えてろ……」
わなわなと怒りに震えながらも、出された料理に手をつけ始める。粉チーズとタバスコをたっぷりとかけるのが三雲の好みだ。
「そんなにかけたらナポリタンの味しなくない?」
「良いんだよ、これで。ん~、おいしい」
喫茶店でのひと時を終えて、映画を見る予定の三雲と紅葉はみゅ~の三人と別れ、映画館へと向かう。三雲が購入したパンフレットを眺めて、誰が犯人っぽいか予想していると館内が暗くなり、映画が始まる。離島でバカンスする少年のコロンたちの前で殺人事件が次から次へと起こる。それをわずかな痕跡から手掛かりを求めていく。
「うちのかあさんがね~」
コロンの名セリフが出て推理が始まる。そして、これまでの事件の真相が解き明かされ犯人が捕まって、豪華客船で本土へと戻っていく。
「いつ爆発するんだろうね」
「今回は無しか?」
シリーズ恒例となっているアクションシーンがないままと思いきや、捕まっていた犯人が奥歯に仕込んだスイッチを押して、前もって客船に仕掛けておいた爆弾が爆発していく。その沈没していく様子はさながらタイタニックのようだ。
「そうきたか~」
「いくらなんでも無理あるよね」
そして全員が救命ボードで逃げ出した時、コロンがヒロインの姿ないことに気づく。そう、爆発した際の揺れでヒロインは頭を打って気を失っていたのだ。ほぼ沈みかけの船体に向かって、コロンが船内へと戻ってヒロインを助けに行く。
「コロンといえばこのBGMだよな」
「うん。小さいころから変わらないよね」
彼らの生存を絶望視する中、コロンとヒロインが無事に戻ってきてエンディングが流れ始める。そしてエンディング後にはちょっとした後日談と次回作が決定した。
「久しぶりに見たけど面白かった~」
「うん。また来年、見に来ようね」
「ああ、良いぜ。ここのポップコーン、美味しかったしな」
「もう、みっちゃんたら」
映画を見終えた二人は仲良く手をつないで帰るのであった。