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第35話 GWレイドイベント

 GWの5連休に突入し、World Creation Onlineではレイドイベントが開催されていた。今回はイベントエリアで魔王軍の幹部が守護する要塞をプレイヤーが総出で攻略するというもの。要塞を守っている城門から出てきた幹部の一人が名乗りを上げる。


「拙僧の名は蘆屋道満。今は魔王様にお仕えする身。魔王領に入るのであれば、私を倒すことです」


 そして東西南北に闇落ちした四神のようなモンスターが配置されると同時に要塞にバリアが張られる。闇朱雀、闇玄武、闇白虎、闇青龍の4体のモンスターを倒さないと、蘆屋道満に攻撃することができないようだ。その説明を受けたプレイヤーたちは斥候部隊を出して、情報収集を図りながら、作戦を立てていった。


「今回出てきたレイドボスは闇属性の他に朱雀が火属性、玄武が水属性、白虎が光属性、青龍が木属性となっている。そして、【漆黒の翼】は最新素材が取れる白虎、すなわち西門の突破を狙うそうだ」


「そこで私たちは朱雀を狙う。連合を組んでいる【リベルテ】、【修羅】のメンバーにも通達済みだ。質問ある奴はいるか?」


「俺、このゲームやり始めたばかりなんだけど、この間のレイドみたいに雑魚を倒すんじゃないのか?」


「レイドにもいくつか種類があって、雑魚狩りタイプは倒せば倒すほど報酬が貰える。今回みたいなレイドボスしかでないタイプは討伐したレイドボスが多いほど参加者全員にもらえる報酬が多くなる。1ダメージでも与えていたら、レベル1のプレイヤーでもレベル100のプレイヤーでももらえる報酬は同じという意味では平等だ」


「だったら、全員で一か所ずつ攻略したほうが効率よくねえか?」


「レイドボスがいる場合は、それぞれのボスで最大累計ダメージを与えたギルドにはさらに報酬が上乗せされる。青龍なら木属性の素材とかな。だから、大手ギルドに全部奪われないように他のボスにダメージを与えるのがセオリーってわけだ」


「だが、それでは小人数しかいないギルドでは大手にはかなわない。そこで、こういったイベントでは合計3ギルドまで連合を組むことができる。今回は私とダイチのリアフレを通じて【リベルテ】、【修羅】と組むことにした」


「ただし、3ギルドの合計人数が1ギルドの上限である200人を超えてはいけないという縛りはある。今回はたまたま人数があったから良いが、次も同じように組めるとは限らないから注意な。他に分からないところはあるか?」


「ああ、わかったぜ」


「他に質問ある者は……いないようだな。では、朱雀討伐に向かう!」


 ハクエンの号令と共に【星の守護者】は南門で待ち構えている黒い朱雀へと向かっていく。その道中、【ENJOY!】が西門へと向かっていくのを見かける。ミクたちは知らないが【厄災PANDORA】は反対側の玄武討伐に向かっていた。大手ギルドがきれいに分断していく中、【星の守護者】は闇朱雀と対峙する。


「ニンゲンに与する愚か者共よ、我が炎で焼き尽くしてくれようぞ」


「まずは聖域を展開する。ホーリーサンクチュアリ!」


 地面が白く光り輝き、聖域内に居る【星の守護者】並びに連合を組んでいるギルド全員に魔法防御アップのバフ、状態異常耐性の向上効果がつく。それに負けじとSPICAも魔法攻撃アップのバフをかける。そして、闇朱雀が上空から黒い炎をまき散らしてあたりにいるプレイヤーを一掃し居ようとしかけてくる。


「タンクの後ろに!」


 ミクたちは近くにいたダイチの陰に隠れて攻撃をやり過ごしていく。火炎弾を受けきったダイチのHPが2、3割ほど減っていることから、並のアタッカーでは即死クラスのダメ―ジであることがうかがい知れる。実際、周りにいた他ギルドの連携が取れていないプレイヤーはHPが全損し、再びイベントエリアへと向かわなければならなくなっていた。


「初手から広範囲攻撃とは厄介だな。今度はこっちから行くぜ、チェーンバインド」


 ダイチが地面から鎖を呼び出し、朱雀に向かわせて拘束しようとする。他のプレイヤーも魔法こそ違うが、拘束系魔法を使って上空で飛び回る闇朱雀の動きを封じようとする魂胆だ。無論、その攻撃を躱しく闇朱雀だったが、タンク職人によって誘導された偽りの安全地帯だ。


「攻撃を叩きこみますわよ。アイススピア!」


「投擲グローブの始球式だ!水属性を付与した攻撃を食らいやがれ!」


 闇朱雀の弱点である水属性の攻撃がぶつかり、大ダメージを与えていく。とはいえ、これはレイド戦。通常ボスよりもHPがはるかに多く、HPゲージは目に見えて減ってはいない。そんな中、轟音を鳴り響変えながら朱雀の頭上から拳を叩きこんでいる胴着を着た狼タイプの獣人の男性がミクの目に映る。


「すげーな、あのおっさん。何者なんだ?」


「あれは【修羅】のギルマス、シュラ。クリティカル込みの単発火力なら龍堂以上だ」


「No.1プレイヤーよりも上とかやべーな」


 周りのプレイヤーたちの強さに感心していると、朱雀が赤い卵を産み、そこから自身よりも小さな朱雀の子供を召喚してプレイヤーたちを襲わせる。


「雑魚まで召喚してくるのか。マイン、とびっきりの範囲攻撃頼む」


「わかったわ、ダイチ。エクスプロージョン!」


【リベルテ】のギルマスのマインが魔法を唱えると、雑魚の中心部付近で巨大な爆発が引き起り、雑魚を半数ほど蹴散らしていく。だが、残り半分の雛が朱雀に攻守アップのバフをかけて、より強固なものにするほか、朱雀の攻撃を耐えていたメインタンクのHPが大きく削られる。


「ハクエンさん、このままだと前線崩壊するっす」


「案ずるな。第二結界を張る。ヒールサンクチュアリ」


 サンクチュアリの効果に持続回復能力と回復力アップ効果が追加され、ヒーラー役の負担を軽減させる。タンクも一歩間違えれば、死につながる状況ではあるが、ビルの屋上を鉄骨1本で渡るのに命綱があるかどうかの差は精神面でも大きい。


「しかしまあ、ステと種族の特性上仕方がないとはいえ攻撃にあまり参加できないのは歯がゆいな」


「役割の遂行とあのスキルの兼ね合い上致し方無し。だが、こうしてバックアップしてくれるからこそ我らが活躍できるというもの」


「ふっ、そう言ってくれると助かるよ、ダクロ。とはいえ、私たちはともかく【修羅】と【リベルテ】の被害は大きいな」


「こう言うのは失礼だが、程よく犠牲が出るこの展開は助かる。我はスロースターターなのでな。この一撃は倒された仲間の無念を晴らすもの……行くぞ、恩讐の太刀!」


 ダクロが放つ禍々しいオーラを纏う黒き一閃はバフで防御が上がっている闇朱雀の上からでも大打撃を与える。倒した敵・倒された仲間が多ければ多いほど火力が上がっていくデュラハンは長期戦・集団戦向きの種族だ。だが、一度でも倒されると上がった火力はリセットされるので、仲間が倒されるほどの激しい戦闘の中でいかに長く生存するかというプレイヤーのスキルに依存しており、その性能を最大限に発揮するのは並のプレイヤーでは難しい。


「ダクロのおっさんもやるじゃん!俺たちも負けられねえぜ」


 雛をせん滅したところで、ミクたちが闇朱雀に取り付こうとしたとき、闇朱雀の周りに炎が集まりだす。それを見たミクはとっさに【灼熱の血】を使った瞬間、灼熱の風がすべてのプレイヤーに襲い掛かる。低レベルプレイヤーは無論、高レベルでも低耐久のプレイヤーを薙ぎ払った闇朱雀は生き残ったプレイヤーに自身のナイフのようにするどい羽を弾丸のように飛ばしてくる。


「俺は耐えれたけど、周りの連中一気に消えたぞ!」


「嬢ちゃん!」


「シュラのおっちゃん!どうしたんだ」


「俺もさっきの攻撃で結構なダメージとやけどを食らった。済まねえが、回復している間、マウントをとってくれねえか」


「良いぜ!俺もやるつもりで来たからな」


 シュラが飛び降りて生き残った【リベルテ】のヒーラーに回復してもらっている間、ミクが闇朱雀に取り付き、水属性を付与した剣を突き刺すと、闇朱雀が悲鳴を上げて振り落とそうと大空を旋回し始める。


「振り落とされてたまるかよ!」


 闇朱雀に噛みついて振り落とされないようにしていく。回復し終えたシュラも空中ジャンプを使って合流し、一緒に殴り始めていく。


「嬢ちゃん、結構いいガッツしているじゃねえか!」


「嬢ちゃんじゃねえ、ミクだ」


「ガハハハハ、ミクか。良い名前だ。そのぎらついた眼、俺のところに来ねえか? 大歓迎するぜ」


「あいにく引き抜きはお断りだ」


「振られちまったな。だが、1週間の体験入部とかをしたいならいつでも大歓迎だ」


「引き抜きとかしないなら、一緒に戦おうぜ」


「おうよ!」


 闇朱雀の全体範囲攻撃を除けば比較的安全に戦える頭上に取り付いた二人は必死になってそのHPを削っていく。そして、ゲーム内の時間が過ぎ、ミク待望の夜に変わる。


「よっしゃあ!【幻影の血】発動」


 二人に分身したミクが水属性付与の剣で刺していく。夜になったことで、上位プレイヤーにも劣らない火力を出せるようになった彼女が二人に増えての攻撃。しかも、分身体も【灼熱の血】状態を付与しており、本来ならば消えるはずの全体範囲攻撃でも消えないおまけつきだ。


「クールタイム回復完了。もう一度【幻影の血】だ」


 3人に増えたミクがさらに追撃していく。分身が増えて加速度的に与えていくダメージが増える光景に闇朱雀討伐に参加していたプレイヤーたちはまじまじとミクを見る。


 ある者は妬みや嫉妬を――


 ある者は期待の新人が現れたことに対する歓喜を――


 ある者は動画が嘘やコラでなかったことに対しての驚きを――


 数多くのプレイヤーにその名が知れ渡った中、ミクたちは昼食や夕食を入れながらもHPを他ギルドに取られない過半数まで削ったところで、各プレイヤーはログアウトしていくのであった。

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